先日、米国出身のエンジニアから、ハッカーは 「more magic」 って単語にピンと来る、という話を聞きました。初耳だったので出典を聞いてみると、[The Jargon File][1] の [A Story About 'Magic'][2] が出典だそう。
[1]: http://catb.org/esr/jargon/html/index.html
[2]: http://catb.org/esr/jargon/html/magic-story.html
内容はまさにエンジニアあるある小話なのですが、自分の学生時代(国内で情報系ですが)もまだ70〜80年代のムードが色濃く残っていた場所だったので、ずいぶんと懐かしい気持になってしまいました。ググっても日本語訳がないようだったので、せっかくなので訳しておきます。
「魔法」のお話
- 原題: [A Story of 'Magic' ][2]
何年か前、私 (GLS) は MIT AI ラボの PDP-10 のキャビネットのあたりを覗き込んでいて、あるキャビネットのフレームに小さなスイッチが接着されているのに気がついた。それは明らかに自家製の代物で、ラボ内のハードウェアハッカー(誰なのかは誰も知らない)が追加したものだった。
コンピューターに付けられたスイッチを、何をするものなのか分からないのに、触ってはいけない。コンピューターをクラッシュさせてしまう。スイッチには非常に不親切な方法でラベルが付いていた。スイッチは2極(オンオフ切り替え式)で、金属製の本体に鉛筆で「魔法」「もっと魔法」1と走り書きされていた。スイッチは「もっと魔法」側に切り替えられていた。
私は、ちょっとこれを見てくれと、他のハッカーを呼び出した。彼もこのスイッチを見たことがなかった。よく調べてみると、スイッチには配線が1本だけしか接続されていないことが明らかになった!配線の反対側の端はコンピューター内の配線の迷路の中に消えていた。しかし、これは電気の基本原理であるが、2本の配線がつながっていなければ、スイッチは何の機能も果たさない。このスイッチは片側だけ配線されていて、反対には何もつながっていなかった。
このスイッチが誰かのばかばかしいジョークであることは明らかであった。我々の推理は、このスイッチは機能していない、という確信に至った。我々はスイッチを切り替えた。コンピューターは即座にクラッシュした。
我々のひどい狼狽ぶりを想像してもらいたい。我々はこれを偶然として片付けたが、それでもコンピューターを復旧させる前に、スイッチを「もっと魔法」側に戻したのだった。
1年後、私はこの話をまた別のハッカーに話した。David Moon だったと思う。彼は明らかに、私の正気を疑ったか、私がスイッチのパワーの超常性を信じていると思ったか、もしかすると私が架空の物語で彼をからかっているかと思ったかもしれない。私は証明のため、彼にまさにそのスイッチ、筐体のフレームに接着されていて、配線が1本しかつながっていなくて、まだ「もっと魔法」側になっているスイッチを、見せたのだった。我々はスイッチを徹底的にしらべ、接続的に孤立していることと、配線の反対の端はコンピューターの配線につながっていて、グランド端子につながっていることを見極めた。これは明らかにスイッチが二重の意味で無効であることを示していた。電気的に無意味なだけではなく、何の影響も与えない場所に接続されている。そこで、我々はスイッチを切り替えた。
コンピューターは瞬時にクラッシュした。
今回、我々は、手近に居た古参の MIT ハッカー、 Rechard Greenblatt の元へと走った。彼もそのスイッチの存在にこれまで気づいていなかった。彼はスイッチを調べると、無用なものだと結論し、ニッパーを持って来て取り外し2た。かくして我々はコンピューターを復旧させ、それからはずっと正常に動作している。
我々は未だにスイッチがどのようにマシンをクラッシュさせたのか知らない。こういう理屈は考えられる。グランド端子近くに何らかの回路がギリギリに近接していたが、スイッチを切り替えたことで、静電容量が変化し、何百万分の1秒かのパルスとして回路を狂わせるのに十分な量に達した。しかし、それが正しいのかは分からない。我々が実際に言えることはそのスイッチが魔法だったということである。
私はまだ自宅の地下室にそのスイッチを持っている。バカだからかもしれないが、いつも「もっと魔法」側を保つようにしている。
1994年: このストーリーに、新しい説明がもたらされた。スイッチの本体が金属だったことに注意したい。スイッチの配線されていなかった側は、スイッチの本体に接続されていたとしよう(通常、本体は別のアース端子に接続されるが、例外はある)。この本体はコンピューターのケース、おそらくグランド、につながっている。ここでマシン内の回路のグランドがケースのグランドと同じ電位である必然性はなく、スイッチを切り替えると、回路のグランドとケースのグランドが接続され、電位の下降/ジャンプがマシンのリセットを引き起こす。これはたぶん、その2点に電位の差があるという地道な気付きを得て、さらにジョークとしてスイッチに配線した当人の発見だろう。
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原文は 'magic' / 'more magic'。 ↩
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原文では diked it out と表現されている。ニッパー (Diagonal Cutter) に由来するジャーゴン → The Jargon File による dike の説明 ↩