初めに
わたしは圏論勉強中のエンジニアです。専門家ではないので間違ったことを書いてしまうかもしれません。意図的に間違った概念を発信し、混乱させようという意図はありません。
現在『ベーシック圏論』で圏論を勉強していますが、難しいので入門向け資料を探していました。わかりやすい資料を見つけたので紹介します。これらの資料の内容の引用と自分なりの解釈を含めて書きます。
間違えている部分がありましたら教えていただければ幸いです。
紹介したい資料
『哲学者のための圏論入門』です。こちらの資料の位置づけとして、以下のように記載されています。
本稿は応用哲学会サマースクール 2013「哲学者のための圏論入門」の参加者に向けて作成された講義用配布資料です。講義は板書中心に進めるため、当初は1-2ページの簡単な講義概要だけ作成しようと考えていたのが、勢い余って 40 ページを超えてしまいました。
哲学で圏論が使われるのは意外でした。数学やプログラミングの世界だけだと思っていました。
圏論の成り立ち
まず圏論の成り立ちです。
- 1945 年、Samuel Eilenberg と Saunders Mac Lane による論文『General Theory of Natural Equivalences』が発表され、圏(category)という言葉が初登場した
- この論文は、自然変換(natural transformation)の概念の一般理論を構築することを目的に書かれた
- 自然変換の概念を厳密に定式化するために、その背景にある関手(functor)の概念が導入された
- さらに関手を定義するために、圏の概念が要請された
このような背景を知ることはとても大事だと思います。それに純粋に概念が生まれた理由も気になるので、こういった記載があったのは本当に助かりました。
internal な視点
集合という単位でものを見るとき、本質的に internal なものになると述べています。
その「内部に立ち入って」見る視点のことを internal な視点と呼ぶことにしましょう。すると、集合論的な数学観は、本質的に internal なものになります。
たしかに写像 $f:A\to B$ は、$a\in A$ に対して $f(a)\in B$ を対応させる仕組みにより、写像を考えるとき $A$ や $B$ の「内部に立ち入って」いる気がします。
external な視点
集合やその要素には注目せず、定義域や値域、写像の合成や恒等写像に注目することが external な視点ということです。
より一般的な function の理論をつくるためには、internal な視点を排除して、external な視点、すなわち、対象の内部に一切立ち入らない視点で進んでいく必要がありそうです。
・・・(中略)・・・
とことん external な視点で数学をする、というのが圏論の基本的な思想であり、醍醐味でもあります。いままでだったら安易に対象 A の内部に立ち入って ($a\in A$) いたところを、ぐっと踏みとどまってみるのです。
写像を external な視点で考える
『哲学者のための圏論入門』の「2.1 写像再考」という章が大変参考になります。
写像
写像
$$f:A\to B,\ a\to f(a)$$
について external な視点に立つと、定義域 $A$ から値域 $B$ への矢印と捉えることができます。これが圏の定義における射です。ただし圏論においては $A$ や $B$ は集合である必要はありません。
写像の合成
次に写像の合成はそのまま射の合成となっています。ここでも注意が必要なのは、2 つの写像
$$f:A\to B,\ a\to f(a),\ g:B\to C,\ b\to g(b)$$
の合成
$$g\circ f: A\to C,\ a\to g(f(a))$$
は、要素の対応も考えていますが、射の合成では $A$ から $B$ への射と $B$ から $C$ への射から $A$ から $C$ への射ができることのみに着目します。
恒等写像
恒等写像も同様です。写像で恒等写像 $\text{id}_A$ といえば、要素の行き先を変えない写像です。
$$\text{id}_A:A\to A,\ a\to a$$
恒等射 $1_A$ は要素の対応を考えません。ただ定義域と地域が一致していることのみ要請します。
$$1_A:A\to A$$
写像の結合法則
写像の結合法則は、写像の定義と合成の定義から成り立ちます。しかし、圏の定義における射は結合法則を満たすことが要請されます。
$$(h\circ g)\circ f = h\circ (g\circ f)$$
写像の単位法則
写像の単位法則は、恒等写像の定義から成り立ちます。しかし、圏の定義における射は単位法則を満たすことが要請されます。
$$f\circ 1_A = 1_B \circ f = f$$
圏の定義
数学では考えたい集合の構造を調べます。internal な視点ではその集合が主役です。例えば、デデキントの切断で登場する実数直線 $\mathbb{R}$ や線形空間 $V$、群 $G$ や代数学の基本定理の主役となる複素数体 $\mathbb{C}$ です。しかし圏論では矢印が主役です。
『哲学者のための圏論入門』では次のように述べられています。
ところが、これから学んでいく圏論はいわば、あらゆる具体的な文脈から解放された「矢印」たちそのものについての一般理論です。数学に現れる具体的な $A → B$ たちの振る舞いに共通する普遍的な性質を抽象することによって、圏論における「矢印(arrow)」の概念が得られます。そして圏論の世界では、この矢印たちが主役になるのです。
定義(圏)
圏 $\mathscr{A}$ とは次の構成要素からなります。
- 対象の集まり $\text{ob}(\mathscr{A})$
- 射 $A\to B$ と呼ばれる $\mathscr{A}$ の対象 $A,\ B$ の間の矢印の集まり $\mathscr{A}(A,\ B)$
- 射 $f:A\to B,\ g:B\to C$ に対して、合成 $g\circ f:A\to C$ という射
- $\mathscr{A}$ の任意の対象 $A$ に対して、恒等射 $1_A:A\to A$ と呼ばれる射
これらが次を満たします。
- 結合法則 $$g\circ f: A\to C,\ a\to g(f(a))$$
- 単位法則 $$f\circ 1_A = 1_B \circ f = f$$
圏の例
『ベーシック圏論』に出てくる圏の例を紹介します。次で図示される圏は、1 つの対象と恒等射ではない射をただ一つ持つような圏です。
\begin{CD}
\bullet @>>> \bullet
\end{CD}
恒等射は圏の定義から存在が保証されているため、図示するときは通常省略します。
先に述べたように、圏論の主役は対象や集合の要素ではなく矢印です。external な視点が大切です。
最後に
本当は圏論の勉強をしたり、ましてや記事なんて書いている場合ではないです。明日の仕事の準備をしないといけないです。
参考資料