#あらすじ
海外でタイトルをリリースする場合は、翻訳、そしてその翻訳のQAを実施する必要があります。翻訳QA自体については業界内では馴染みのある方が大勢いると思います。昔のゲームだと、国内発売からある程度時期が経ってから海外版をリリースすることが多いです。そのためある程度安定した状態から翻訳およびそのQAの対応を開始できます。しかし、ここ数年間は、国内と海外で同時発売するタイトルが急増しています。コンシューマタイトルの世界ではすでに当たり前の話になりつつあり、スマホタイトルはまだ比較的にワールドワイド(WW)同時発売のタイトルが少ないですが、それでも少しずつ増えているという傾向が業界内で見られています。
国内との同時発売となると、翻訳QAのハードルが急激に上がります。まだ国内版がカオスだったタイミングから着手する必要があるからです。本日のグリー品質管理 Advent Calendarでは、WW同時発売タイトルの翻訳QAにおける注意点をいくつか紹介したいと思います。
#WW同発翻訳QAの注意点
##①各ステークホルダーの存在・役割を把握すること
翻訳対応の部門が関わることになるので、国内版に比べてさらにステークホルダーの数が増えます。さらに言うと、同じタイトルの翻訳でも、箇所によって翻訳担当が異なる場合があります。例えばシナリオ部分はUI部分と違う会社が翻訳するケースが多く見られます。また、協業タイトルの場合は、翻訳QAの一部は協業先が担当することもあります。ステークホルダーが多くなりやすいので、全体像を掴むために、各ステークホルダーの存在・役割の把握を常に意識しましょう。
各ステークホルダーの存在・役割を把握することの利点は下記です。
-
実装状況など把握すべき情報を確実に入手できる
- 翻訳QAにとって必要な情報はどのステークホルダーが握っているか、またどのステークホルダーから発信された情報が翻訳QAと関連性が高いかを把握できるようになる。
- 必要な情報を確実に入手・把握することで、仮に開発スケジュールがタイトで終盤でも修正が頻発する場合においても、検証しなければならない箇所を全てカバーできるよう必要に応じた調整ができる
-
意図していない同タスクの多重対応による非効率を回避できる
- 例えば他のステークホルダーの対応範囲を把握できず、他社翻訳QAが検証した翻訳テキストに対し、自社翻訳QAも検証を行ったとする。重要性が高いテキストなら二重検証を行う価値があるが、そうではないテキストだと二重検証の費用対効果が見合わないと考える。
- 不必要な多重対応を回避することで費用削減に貢献できる。
逆に言うと、各ステークホルダーの存在・役割を把握できないことは、非効率によるコスト増大のみならず、把握すべき情報を把握できないせいで検証漏れが発生し、最終的に障害につながる可能性があるので、大変危険です。故にプロジェクトの序盤から把握できるよう心がけましょう。
各ステークホルダーの役割を意識しながら関係者とのミーティングに臨むことや、可能限り各連絡窓口(一見翻訳QAと関係がない窓口にも)追加してもらうことで、少しずつ把握していくと良いでしょう。
##②費用コントロールは慎重に
どこの会社にも通用する話だと思いますが、終盤になると仕様調整やバランス調整が毎日と言ってもいいほど頻発します。また、ミニゲームのようなゲームサイクルに大きな影響がないがゲームの完成度を高められるコンテンツが実装される時期でもあります。故に終盤に翻訳QAを行う必要がある箇所が計画より多くなりがちです。終盤対応のために費用を残すことを意識しましょう。
費用をコントロールするために意識すべき点が主に二つがあります。①各テキストの変更が入る可能性の見極め、そして②ローカルテスター(外国語がわからないテスター)の活用です。
まず「①各テキストの変更が入る可能性の見極め」ですが、一つのタイトルの中に、仕様変更・バランス調整により後日に変更が発生する可能性が高いテキストと一度FIXされた後に変更する可能性が低いテキストがあります。前者はキャラクターのスキル文言・ヘルプ文言などで、そして後者がシナリオ文言が例として挙げられます。同じ箇所に対しての確認回数が増えるほど当然費用も膨らむので、前者のような変更する可能性が高い文言に関しては、検証を行うタイミングを終盤に近い時期に行って良いと思います。
「②ローカルテスター(外国語がわからないテスター)の活用」については、翻訳QAの検証がネイティブテスター(外国語がわかるテスター、ほとんど外国人)によって行われるのが一般的なイメージだと思いますが、近年の翻訳ツール技術の著しい進歩により、ローカルテスターでも翻訳ツールを活用することで充分に翻訳QAの検証を対応できるようになっています。ネイティブテスターの単価が比較的に高いので、費用をコントロールするためにローカルテスターの積極活用も検討したほうが良いです。
参考として自分が考える使い分け方を記載します。
-
ローカルテスターに依頼する検証
- システム文言など、ゲームの世界観に大きな影響がないテキスト
- 短いテキスト(理由は後述)
- スキル文言、ステータスなど、パラメーター記載の確認がメインの検証
- 検証期間に余裕がない検証
- 理由①:ネイティブテスター自体数が限られている
- 理由②:海外スタジオに依頼する場合柔軟・スピーディーな調整が困難
- 理由③:多くの外国人が労働時間にこだわりがある
-
ネイティブテスターに依頼する検証
- シナリオなど、ゲームの世界観に大きな影響があるテキスト
- ヘルプ文言など、長文テキスト
- 理由:翻訳対象が長い程、翻訳ツールの精度が低下しがち。無理してローカルテスターに依頼すると精度・効率を悪くしかえって費用が膨らんでしまう恐れがある
- 検証期間に余裕がある検証
##③国内QAチームとの連携
国内QAチームはプロダクトと直接やりとりし、作業実施に必要な情報をもらっているのに対し、翻訳QAチームの検証対象が翻訳担当部署の成果物である海外言語のテキストなので、プロダクトではなく翻訳担当部署とやり取りすることが多いです。そのため、特に国内版の実装状況・予定に関し、国内QAチームが把握しているが翻訳QAチームは把握していない情報が存在する可能性が高いです。
国内版と海外版が同時リリース、そして開発スケジュールに余裕がないタイトルだと、国内QAどころか仕様調整さえ終わっていない状態で翻訳QAを行う必要があります。その場合、翻訳QA検証終了後の修正による検証漏れのリスクが高いです。
また、国内QAによる検証が終わった後に、すぐに翻訳QA検証を始めないと時間的に間に合わないような状況が多発するので、国内QAの進捗をリアルタイムに把握する必要があります。国内QAの最新状況・作業進捗を把握できるように十分に連携を取りましょう。
このように、国内QAと翻訳QAが全く連携を取らずに対応を進めると、二重チェックや検証後に発生する修正による検証漏れが発生する恐れがあるので、効率面と品質面からにしても、翻訳QAチームと国内QAチームの間には連携体制を構築する必要があります。
ただし、国内QAの検証作業は基本的に翻訳QAの作業に影響されません。そのため国内QAと翻訳QAの間ではギブアンドテイクの関係性が形成しづらく、国内QAから翻訳QAへの一方的な「ギブ」状態になりがちです。そのため、国内QAとの情報交換体制を構築するときは、なるべく国内QAの負担を増やさないことを意識して良いでしょう。
##④完璧に囚われず
完璧(バグが残らない状態)に近づけていくよう努力するというのはQAの大原則だと思いますが、現実では費用・納期による制約を受けます。通常のQAにも通用する話ですが、翻訳QAの場合は納期による制約がより一層強いです。また、WW同時リリースで、直前まで国内版の修正が行われる場合、翻訳QAの検証が事後になる可能性もあります。そのため、「バグを全て取り除くこと」よりも「絶対間違ってはいけない箇所の問題を全部つぶすこと」に割り切ったほうが現実的だと考えます。
参考として自分が考えた絶対間違ってはいけないような問題を記載します。
- お客様の金銭面の不利益につながる恐れがある問題
- 具体例:ガチャで取得可能なキャラクター・アイテムの性能説明テキストに誤り
- 代表例:優良誤認、有利誤認系問題
- お客様の判断を誤らせるような誤訳問題
- 具体例:ヘルプ文言・イベントの遊び方説明文言の誤訳
#終わりに
最後の「④完璧に囚われず」で話したように、翻訳QAの場合は納期による制約が強いです。他方、翻訳の問題によってユーザー体験が大きく低下するケースが少なく、重大インシデントのバリエーションも比較的に限られています。そのため、お客様が気にしていることをイメージし、納期、費用の制限の中で、お客様の不満を招く可能性のある不具合を効率的につぶしていく方法を常に考えて試行錯誤していくことが翻訳QAのキモとも言えます。
この文章で少しでもWW同時発売タイトルの開発そして翻訳QAに貢献できると幸いです。