はじめに
AIを活用したプログラミングは、従来の「人間が一行ずつコードを書く」時代から大きく変化しています。特に、最近注目を集めている「Vibe Coding(バイブコーディング)」は、AIに自然言語で指示を出すだけで、プログラムの大部分を自動生成できる新しい開発スタイルです。本記事では、CursorなどのAIコーディングツールを使ったVibe Codingの実践ノウハウを体系的にまとめ、より効率的かつ創造的な開発を実現するための具体的なTipsを紹介します。
Vibe Codingとは何か
Vibe Codingは、AIに「何を作りたいか」「どんな雰囲気にしたいか」といった“感覚”や“ニュアンス”を自然言語で伝え、AIがその意図を解釈してコードを生成する手法です。従来の厳密なコーディングではなく、開発者は技術的な詳細よりもアイデアや全体像に集中し、AIが実装を担うというスタイルが特徴です。
「完全にvibeに身を任せ、指数関数的な可能性を受け入れ、コードの存在すら忘れる」
— Andrej Karpathy(Vibe Coding提唱者)
AIに身を任せて、バイブス、つまり感覚でコードを書くという意味が込められているようです。
Vibe Codingの特徴
Vibe Codingには以下のような特徴があります:
1. 自然言語での指示:「サイドバーのパディングを半分にしてください」といった簡単な指示をAIに与える
2. キーボードをほとんど使わない:音声認識ツールを用いてAIと対話し、手動でのコード入力は最小限に
3. 変更の即時受け入れ:AIが提案したコードの差分を確認せずに「すべて受け入れる」を選択
4. エラー処理の簡略化:エラーメッセージをそのままAIにコピー&ペーストして修正を依頼
5. コードの理解を後回し:生成されたコードが複雑でも、「動けばOK」とする姿勢
Vibe Codingのメリット
このアプローチには次のような利点があります:
1. アクセシビリティの向上:プログラミングの専門知識がなくても、アイデアさえあれば誰でもソフトウェアを作れる
2. 生産性の爆発的増加:従来数日かかっていたプロトタイプ開発が数時間で可能に
3. 創造性の解放:技術的制約から解放され、開発者がアイデアやデザインに集中できる
4. 教育の変化:コードの書き方を学ぶよりも、AIとの効果的なコミュニケーションが重要になる
Vibe Codingの難しさ
この記事は、ThoughtworksによるAIを活用した「バイブコーディング」の実験結果について、AIが本番環境で使えるレベルのソフトウェアを生成できるかを検証した内容をまとめたものです。記事では3つの異なる実験アプローチを通じて、AIによるコード生成の可能性と限界が詳細に分析されています。
実験1:AIに主導権を与える
最初の実験では、高レベルの機能説明だけを提供し、AIに自律的にアプリケーションを構築させました。これは純粋なバイブコーディングに近いアプローチです。
結果:
• 1回のパスでほぼ動作するJavaScriptアプリケーションを生成
• しかし、UI調整、対話型メニュー追加、データベース移行ツール統合、テスト追加などの変更は困難だった
• 進化するシステムを扱う際のAIの限界が明らかになった
実験2:規律を持たせてAIを形作る
2番目の実験では、機能要件に加えて実装ルールも指定しました:
• テスト駆動開発(TDD)の実践
• 小さな漸進的な変更
• 定期的なコミット
• モジュール性の維持
• 型安全性(TypeScriptとPrismaを選択)
結果:
• ドメインモデルの作成、ユニットテストの足場作り、トランクベースのワークフローへのコミットなど、初期結果は有望だった
• 変異テスト(mutation testing)で100%近いカバレッジを達成
• しかし、AIは繰り返し指導したにもかかわらず、テストよりもプロダクションコードを先に書く傾向があった
• 小さな変更がカスケード的に壊れる編集やテスト回帰などの問題も発生
実験3:会話型コラボレーション
3番目の実験では、MCPサーバーを無効にし、Google Gemini 2.5 Proだけを使用:
• より豊かなアーキテクチャ会話でAIと関わり、人間の協力者として扱った
• AIに設計の選択肢について議論させ、トレードオフを検討させた
結果:
• Python/FastAPIで書かれたコードは、より整然としてモジュール化され、RESTfulデザイン原則に沿っていた
• AIが自発的に設計に関する質問を提起し、アーキテクチャ上の洞察を示した
• 他の実験と比較して最も優れた品質のコードが生成された
主な教訓
実験から得られた重要な洞察:
1. ツール選択が重要:異なるAIモデルは異なるタスクに優れている
2. 文脈認識は限定的:セッション間でAIは「忘れる」ため、文脈の維持が課題
3. 人間とAIのコラボレーションが成果を向上:AIを単独で使うよりも、人間との協力が優れた結果をもたらす
4. 監視は必須:テスト、静的解析、人間によるレビューは依然として不可欠
5. コストは現実的な問題:「高速」リクエストは短時間でプレミアムクォータを使い切る
チームへの推奨事項
記事では以下のような推奨事項を提示しています:
• 開発者:AIを疲れを知らないジュニア開発者として扱い、パイロットプロジェクトを開始する
• テクリード・アーキテクト:テンプレート、品質ゲート、変異テストしきい値などのガードレールを体系化する
• テスター・セキュリティアナリスト:AIツールでテストシナリオやエッジケースを迅速に探索する
• プロダクトマネージャー:自然言語でのやり取りを通じてビジネスフローやロジックを検証する
• ITリーダー:組織の準備を整え、エンジニアチーム全体でAIの流暢さを構築する
Vibe Codingを実現するツール:Cursorの魅力
Vibe Codingを実践するために最適なツールの一つが「Cursor」です。CursorはVSCodeをベースに開発された次世代のコードエディタで、OpenAIの言語モデルを統合し、強力なAI機能を搭載しています。
Cursorの主な特徴
• OpenAIの言語モデルによる高度なコード補完
• 自然言語でのコード生成機能
• インテリジェントなリファクタリング支援
• リアルタイムのコードレビュー機能
Vibe Codingの実践ノウハウ
1. 要件定義とAIへの指示
• まず「何を作るのか」「誰向けか」「どんな機能が必要か」などの要件をAIとチャット形式で壁打ちする。
• 要件が曖昧でも、「◯◯なアプリ作りたいんだけど要件定義手伝って」とAIに相談すれば、AIがヒアリングしてくれる。
• 参考になるコードや仕様があれば、URLやコードスニペットをAIに渡して「この形にアップデートできますか?」と依頼する。
2. パーツごとに分割開発
• いきなり全体をAIに任せるのではなく、機能ごとに小さく分割して依頼し、うまくいった部分を再利用する。
• 「まずはこの部分だけ作って」「このパーツが動いたら次の工程へ」と段階的に進めるとバグが減り、切り戻しも容易。
3. AIへのフィードバックと修正依頼
• AIが提案したコードの修正点や進め方が不明な場合、「どう修正すればよいか説明して」とまずは手順を聞いた後、許可をとって進めてもらうようにする。
• エラーが出たら、そのままエラーメッセージをAIに貼り付けて修正を依頼する。
エラーが起きた場合は、そのまま貼り付けることで、AIは問題を解決してくれます。
• 自身が仕様を理解していない場合は、正直に伝えておく。
4. プロンプトエンジニアリング
• AIに的確な指示を出す能力(プロンプト設計)は、Vibe Codingの成否を大きく左右する。
• 「〜な機能を追加して」「〜のデザインをもっとポップにして」など、抽象的な表現もAIが解釈してくれる。
• 具体的な参考コードや仕様を渡すと、AIの出力精度が向上する。
5. デバッグとチェックポイント
• 動作確認やデバッグもAIに任せられる。「このバグを直して」「テストコードを書いて」など依頼可能。
• 進捗の節目ごとに「ここまでで一度まとめて」とAIに指示し、チェックポイントを設けると安心。
6. AIに任せる部分・任せない部分の見極め
• 全体の方向性や設計、最終的な品質管理は人間が担い、ロジックや繰り返し作業はAIに任せるのがコツ。
• 重要な意思決定や仕様の最終確認は必ず人間が行う。
• 自分が知らない知識などは補ってもらう
まとめ
Vibe Codingは、AIとプログラマーの関係性を根本から変える可能性を秘めています。従来のプログラミングスキルだけでなく、AIとの効果的なコミュニケーション能力がますます重要になっていくでしょう。
Cursorのような先進的なツールを活用することで、プログラミングの民主化が進み、技術的バックグラウンドを持たない人々も自分のアイデアを形にできる時代がすでに始まっています。今後は、AIと人間の協働による創造性の爆発的な向上が期待されます。
Vibe Codingは、コードを書くという行為そのものよりも、「何を作りたいか」というビジョンと創造性に焦点を当てた新しいプログラミングパラダイムです。AIツールの進化とともに、この新しい開発手法はさらに普及していくことでしょう。