科学的根拠に基づく最高の勉強法 を読んだので要約と感想を書きました。
読んだきっかけ
読みたい技術書がたくさん溜まっているため、その前に勉強法についてアップデートしておきたいと考えて読みました。
目新しいことはないだろうと想定しつつ、今まで自分が身につけてきた勉強法とすり合わせて効率を上げることを期待していました。
以下、要約と感想です。
全体的な感想
科学的根拠を提示しつつ、筆者自身の体験ややり方も紹介している点で非常に好感が持てました。科学的根拠があると示されていることでより確信をもって効率の良い方法に取り組むことができそうです。
もともと知っていることが多かったものの、勉強法がまとまっているため自分の改善の余地が大きいところを俯瞰的に見ることができました。特に CHAPTER4 は僕自身の改善の余地が大きい部分で実践的に取り入れたいです。
勉強法を学ぼうとする多くの方におすすめできる本です。
CHAPTER1 科学的に効果が高くない勉強法
CHAPTER1 概要
多くの人がやってしまっている効果が高くない勉強法
- 繰り返し読む
- 繰り返し読んでも2回目以降はわかった気になってしまい、理解を深めたり覚えるといった深い情報処理が行われにくい
- 効果的な勉強には脳に負荷をかけることが重要
- ノートに書き写す・まとめる
- 文章をそのまま書き写すのはただ読むのと学習効果が変わらない
- 脳への負荷が小さいためだと思われる
- 自分の言葉で言い直したり要約すると学習効果が高くなる
- ただし的確に情報を捉えなければならず、だれでもできるわけではない
- 要約の有用性は低く、要約するのが上手い人だけ効果的な学習法になりうる
- 文章をそのまま書き写すのはただ読むのと学習効果が変わらない
- ハイライトや下線を引く
- 推論を必要とする高度な課題ではかえってパフォーマンスを低下させることもある
- 好みの学習スタイルに合わせる
- 学習スタイルに合わせたほうがよいという情報が出回っているが今のところ科学的根拠はない
- 個人の実感による学習効率は必ずしも実際の学習効率と同じとは限らない
- あんまり覚えられていないと思っても長期的にはうまくいっていることもある
CHAPTER1 感想
だいたい言い尽くされていることであり、実感とも合いました。
あまり他の本に書いてなくて特に良いと思ったのは「好みの学習スタイルに合わせる」ということに科学的根拠がないと書いてくれている点です。
個人の好みに合わせるとよい、というのは学習者からすると甘言でそれらしく聞こえてきますし、自分に都合がいいので信じてしまいます。
しかしこれはセールスマンに実際には効果のない商品を売りつけられているようなものです。
個人の好みに合わせると良いと主張する人は悪意をもって伝えているわけではないのでしょうが、エビデンスに基づかない情報を垂れ流すのがそもそもダメなのではないかと思います。
その点、この本は科学的根拠があることと、科学的根拠はないけど有益かもしれないと著者が判断していることが区別して書かれているため誠実さを感じます。
根拠のない都合の良いことを言って人気を得る、という手法が世の中でまかり通っているのは僕の生きるうえでモヤッとしている部分なのですが、この著者の科学的な態度はスッキリします。非常に好感が持てました。
CHAPTER2 科学的に効果が高い勉強法
CHAPTER2 概要
- アクティブリコール
- アクティブリコールとは勉強したことや覚えたいことを能動的に記憶から引き出すこと
- 想起練習・検索練習・練習テストなどとも言う
- 何かを記憶するにはそれを積極的に思い出す作業が決定的に重要
- 勉強の本当の効果は本人には実感しにくい
- 実験でアクティブリコールをしたグループは読んだだけのグループよりも記憶に自信がなかったが、実際には一番効果があった
- より効果的なアクティブリコールの実践方法として、思い出す手がかりが少ない状態で実践するのがよいと示唆する研究が複数ある
- 声を出しながら書くと黙読するよりも記憶に残る
- これはプロダクション効果と呼ばれる
- だれかに教えているフリをしながらアウトプットするとより効果が高くなると思われる
- これはプロテジェ効果と呼ばれる
- アクティブリコールとは勉強したことや覚えたいことを能動的に記憶から引き出すこと
- 分散学習
- 一度にまとめて勉強するよりも時間をあけて繰り返し学習するとよい
- 精緻的質問と自己説明
- 頭の中で自分と自分が会話しながら学習していく方法
- 具体的には、「なぜそうなっているのか、どのようにそうなっているのか」を自分自身に質問していく勉強法
- この本でたびたび登場するダンロスキーの報告書では中程度の有用性があると評価される
- 頭の中で自分と自分が会話しながら学習していく方法
- インターリービング
- 似ているけれども異なった複数のスキルや勉強のトピックを交互に学習すること
- 運動にも応用が効く
- インターリービングもまた学習の効果を実感しにくい
- 注意点
- 全く異なる分野を混ぜてもあまり効果がない
- 知識レベルが低いうちはある程度理解を深めてからインターリービングを導入したほうがよいかもしれない
- 中程度の有用性がある
- 似ているけれども異なった複数のスキルや勉強のトピックを交互に学習すること
CHAPTER2 感想
どれも心当たりのある勉強法でした。
学習者の実感と実際の学習効果が乖離しているところは興味深いです。
インターリービングについては僕自身がピアノの練習をするときの実感があります。同じフレーズでもリズムを変えたり強弱を変えた練習も組み合わせたほうがよく弾けるようになります。勉強以外にも応用が効くところがいいですね。
インターリービングという名前がついていることは初めて知りました。
これらの内容はすべて知っていたものの、常に実践できているわけではないため、いかに実践していくかが僕自身の課題かなと思いました。
CHAPTER3 覚えにくいものを覚える古代からの記憶術
以下の記憶術を挙げるが、ある程度の訓練が必要で、長期的な記憶の定着に効果があるかどうかは現時点ではわからない。
- イメージ変換法
- 文字をイメージに変換することで覚えやすくなる
- 語呂合わせとは異なり、自分が思い浮かべることのできる人やモノに変換すると良い
- ストーリー法
- 覚えたいものをイメージに変換して、ストーリーとしてつなげていく記憶術
- イメージは感情に訴えかけるものにするとより覚えやすくなる
- 場所法
- 覚えたいものをイメージに変換し、自分がよく知っている場所に記憶の置き場所を決めて配置する
- 人間の脳は場所について覚えやすく、場所法はこれを利用している
CHAPTER3 感想
資格試験を受ける人や受験勉強をする人向けの章です。
イメージ変換やストーリー法は知っていたし実践してみたこともありますが、あんまりしっくりきませんでした。訓練が必要とのことなので活用できるまでには至らなかったようです。
自分の今後の人生では試験勉強すること自体あまりなさそうですし、とくに特別な意味のない記号などを覚えることはほとんどないと思うのでこれらの記憶術を使うことはなさそうです。
CHAPTER4 勉強にまつわる心・体・環境の整え方
CHAPTER4 概要
勉強のモチベーション
- 勉強法を知っていても学ぶモチベーションがなければ意味がない
- 自分との関連をがあるほうが覚えやすい
- 自己関連付け効果と呼ばれる
- 自分との関連を考えて学ぶことの価値を認知させることを利用価値介入と呼ぶ
- アカデミックセルフコンセプトが学習のモチベーションに影響を与える
- アカデミックセルフコンセプトとは自分自身の学業に対する認識のこと
- 例えば算数が得意だという認識があれば算数を学ぶモチベーションになる
- 自己効力感を高める
- ある目的を達成するために自分がどの程度うまく行うことができるかという個人の確信の程度のこと
- 自己効力感があるとモチベーションが高くなり、学習の粘り強さや高い学業成果につながる
- またある分野への自己効力感が高まるとその分野への興味が強まり、興味が強いと自己効力感が増す
- 自己効力感に影響を及ぼすものには次のようなものがある
- 成功体験することで高くなる
- 代理体験
- 他人がなにかの課題を成功させることを観察することで高くなる
- 言語的・社会的説得
- 「君ならできる」のような励ましを他人から得ることで高くなる
- 生理的・感情的状態
- 不安や緊張などの感情や生理的反応によって自己効力感が低くなることがある
- セルフモニタリング
- 自分の勉強の進捗を記録すると高くなる
- また小さい目標にして記録したほうがよりよい
- 自己決定理論を知ることでモチベーションについてより理解できる
- モチベーションは2つに分けられる
- 内発的動機づけ
- 自分が何かをする理由が、その行動自体に楽しさや興味を見出している状態
- 外発的動機づけ
- 外部からの報酬や罰に反応して生じる動機づけ
- 内発的動機づけ
- 内発的モチベーションは次の心理的欲求が満たされることで推進される
- 自律性
- 自分の行動を自分で決定すること
- 有能感
- 自分が何かを上手にできるという実感や成功させる能力
- 関係性
- 他人とのつながりや帰属意識を持つこと
- 自律性
- 「内発的な目標」が学習効果を高める
- 自己決定理論では外発的な目標と内発的な目標の2種類があるとしている
- 外発的な目標
- お金、社会的地位、評判など、他人からの評価や物資的な物を得ること
- 内発的な目標
- 自分の成長、地域・社会への貢献、健康維持など個人の価値観や興味に基づいて設定する目標
- 外発的な目標
- モチベーションや学習成果を高めるには内発的な目標を設定するほうが良いとする報告がある
- 自己決定理論では外発的な目標と内発的な目標の2種類があるとしている
勉強のヒント
- 必ずしも科学的根拠があるわけではない筆者の個人的にやってきたことや大事だと思うことをまとめている
- インプットは場所を変える
- スキマ時間は勉強時間として使える良い時間
- 自然と分散学習に使える
- 電車でも勉強できる
- 勉強しなかったことを後悔している人がけっこういる
- 学びたいなら思い切って始めよう
- 好奇心があるときはただ突き進む
- 好奇心をもつとドーパミンが放出され、集中力を高め、長期記憶にしやすくなる
- 教材は簡単なものから難しいものへ
- 難しすぎると挫折する
- 情報における英語の重要性
- 専門性の高い情報を得るためには英語の能力が必須
- これは自然科学以外の領域の勉強にも当てはまる
- ファインマンテクニックを使う
- スマートフォンはどこかへ・悪い習慣を断ち切る
- スマートフォンはあるだけで集中力を奪う
- 悪い習慣はきっかけをなくすと断ち切りやすい
- 本当に大切なことを忘れない・クリエイティブに勉強する
睡眠の大切さ
- 睡眠は学習や記憶に大切な役割を果たす
- 何かを記憶したあとに比較的速く寝たほうが覚えることを忘れにくいことを示唆する研究が複数ある
- カフェイン・アルコールと睡眠の関係
- カフェインが体からなくなる時間は個人差があるため早い時間に飲んでも睡眠に悪影響を及ぼす可能性がある
- アルコールは睡眠の質に悪影響を及ぼす
運動の大切さ
- 運動することで海馬の細胞の増殖を促し、認知機能を向上させることが期待できる
- 定期的に長期間行わなくても1回でも効果がある
勉強で不安を感じたとき
- 筆者は目の前のことに集中することで不安を軽減した
- 自分の感情や考えを書き出すジャーナリングによってネガティブな感情に対処できる
- 試験直前にジャーナリングをすることでしなかった学生に比べて試験成績がよかったという研究がある
CHAPTER4 感想
勉強の方法そのもの以外でどうやって学習効果を高めるかという章で、読んでて一番参考になる章でした。
特に代理体験によって自己効力感が上がるというのは言われてみればそうなので目からウロコでした。
僕は兄が二人いますが、兄達ができることなら自分にもできるだろうと生意気にも幼少期から思っており、今思えば勉強等のモチベーションにつながっていたように思います。
またこれを読んでこれからの世の中は大谷翔平のように野球に限らず二刀流で活躍していく人が増えていくんだろうなと思いました。よくスポーツで記録が更新されると次々とそれに並ぶ記録が出ることがありますが、これも代理体験が大きく関与しているように思えます。
先駆者として成功することは他人にも影響を及ぼす偉大なことなんですね。
この章には知識としては持っていても実践できていないことがたくさん書いてあり、この本を読みながら実践へと活かしていきたいです。
感想追記
「おわりに」の章で「学び方だけでなく教え方を改善させていく必要がある」とあり、共感しました。
僕自身の体験として教え方が悪く学習効率を下げてしまっている瞬間を目撃したことがあります。
ある勉強会で初学者の方がエラーの原因について質問していたのですが、僕は直接答えを教えずに「このあたりに気をつけてみると良いですよ」とあえて負荷をかける回答をしました。
しかし別の方が手取り足取り教え始め(なんなら原因の特定を間違え)てしまい、初学者の方も手取り足取り教えてくれるほうに耳を傾けてしまい、かえって学習効率が落ちてしまいました。
難しいなと思うのが、手とり足取り教えた方は善意で教えており、学習者は楽なほうに流れてしまいやすいということです。
原因の特定を間違えたのはまあしょうがないとしても、そもそも手取り足取り真似させるようなやり方では負荷が少なく、学習効率が下がってしまうことをご存じないか、知っていても実践して人に適用できるほど定着していないのでしょう。
また人間は楽な方に流れるのが当たり前で、初学者ともなればその分野の勉強のコツもあまり分かっていないことが多いので、学習効率の低い方法に誘導されてしまいやすいのではないかと思います。
手取り足取り教えた方も初学者の方も咎められず、もどかしい思いをしました。
学習環境として見ず知らずの他人が大勢いるところに身を置くのは危険かもしれません。特に初学者こそ信頼できる人から教わったほうが良いのではないでしょうか。
より多くの方がこの本に書かれているようなことを実践することで、このようなことが少なくなっていくと思います。
この本をおすすめします。