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最近のインフレ動向

図:消費者物価指数(CPI)とガソリン除くCPI(コア)の前年同月比推移。2025年7月のカナダCPI上昇率は前年同月比+1.7%で、6月(+1.9%)から低下した。特にガソリン価格の大幅下落(前年同月比-16.1%)が全体CPIの伸びを抑制しており、ガソリン除くコアCPIは+2.5%(5~6月と同率)にとどまっている。一方、家賃・食品などの上昇率は依然として高く、モーゲージ金利コスト上昇の反動も続いている。BOCはコアインフレの動向に注目しており、Macklem総裁は「トリム平均など基調インフレ率は約3%で上昇している」と指摘する一方、カナダドル高や賃金上昇鈍化、経済の余剰供給がこれらの上昇要因を緩和すると見ている。こうした状況から、インフレ率全体は目標の2%近傍にとどまると予想され、BOCは直近では追加利上げよりも据え置きを支持する根拠と判断できる。

経済活動の現状

カナダ経済は2025年第2四半期に実質GDPの鈍化・縮小が見られた。統計局によると第2四半期GDP(前期比)は-0.4%(年率約-1.6%)と、前期の+0.5%(年率+2.0%)から低下した。米国との貿易摩擦の影響で、特に輸出が大幅に落ち込み(同四半期輸出額-7.5%)、民間投資も縮小した。一方、国内需要は比較的持ち直しつつあり、小売売上高は6月に前月比+1.5%と回復した。

図:カナダの小売売上高推移(モノライン)。小売統計では全9部門で売上増加がみられ、コア(自動車部品・ガソリン除く)では+1.9%の上昇。住宅着工や中古住宅取引も堅調に回復しており(7月は住宅販売+3.8%)、住宅市場は下支え要因となっている。 しかし景況感は依然やや弱い。S&Pグローバルの7月PMIによれば、サービス業PMIは49.3(前月44.3)と8か月ぶり高水準に上昇したものの50を下回り縮小圏内にある。製造業PMIも46.1(前月45.6)で6か月連続の縮小を示している。総じて、内需は一定の底堅さを示すが、貿易・投資の落ち込みがGDP成長に下押し圧力をかけている状況だ。これらから、BOCは経済が「弱含み」または「横ばい」で推移しており、さらなる利上げは景気悪化リスクを高めると判断しやすい。

労働市場の状況

2025年7月の雇用統計では、就業者数は前月比-4.1万人(-0.2%)減少し、失業率は6.9%で横ばいとなった。年初からほぼ横ばいで推移しているものの、若年層を中心に雇用環境は悪化している。15~24歳の失業率は14.6%(7月)と約15年ぶり高水準に上昇し、長期失業者の増加も目立つ。平均賃金上昇率は3.3%(前年同月比)で前月比横ばい程度だ。カナダ銀行はこの労働市場の「余剰」をインフレ抑制要因と見ており、Macklem総裁も「経済には余剰供給があり」賃金・雇用のひっ迫感は後退していると指摘している。すなわち、人手余剰を背景に、賃金圧力や消費増加ペースの鈍化を通じてインフレ率をさらに引き下げる余地があると判断している。こうした労働市場の緩やかな悪化も、BOCが利上げではなく据え置きを選ぶ根拠となる。

BOC関係者の最近の発言とスタンス

BOCは7月末会合以降も慎重姿勢を維持している。Macklem総裁は会見で「状況は前回と大きく変わっておらず、我々の今後の判断は未来の情報次第で一つ一つ検討する」と述べ、会合ごとに慎重に判断を下す方針を強調した。また基調インフレ率(トリム平均など)が約3%で上昇していることは認めつつも、それを引き下げる要因(カナダドル高、賃金上昇鈍化、経済の余剰)が働いていると指摘している。他の理事会メンバーからも、「今はデータを見極める時期」との慎重論が示されており、直近の発言からは追加利上げよりもしばらく据え置きが有力との見方が強まっている。

カナダドル為替と貿易動向

最近のカナダドルは堅調に推移している。BOC報告によれば、「カナダ経済の回復に伴い、カナダドルが対米ドルで上昇」しており、輸入物価の押し下げ要因となっている。一方、貿易面では米国との関税摩擦が依然影響を残している。6月の国際商品貿易では輸入額が前月比+1.4%、輸出額も+0.9%(5月に-11.3%急落の反動)となり、貿易赤字はやや拡大した。ただし、輸出入ともにエネルギー価格の下落で前年同月比では低下し、輸出数量は減少傾向にある。総じて、強い資源価格や高まる貿易コストがインフレと需要に相反する影響を与えており、BOCは為替・貿易面でも追加利上げより現状維持を選びやすい。

国際的金融環境とBOCへの影響

米国では景気減速と雇用悪化を背景にFRBが金融緩和へ転換しつつある。Fedのウォラー理事は「9月会合で0.25%利下げを支持する」と表明し、その後数四半期にわたって段階的緩和を見込んでいる。これを受けて米国金利が低下すれば、カナダも追随する圧力は強まる可能性がある。また欧州中央銀行(ECB)は7月に政策金利を2.00%で据え置き、インフレ率は目標の2%近傍で推移していると発表した。ECBもデータ依存の姿勢を示しており、当面は追加緩和を急がない構えだ。日米欧など主要中銀が緩和方向へ動くなか、BOCも外部要因を見極めつつ対応を決定する見込みである。

結論: 以上の通り、カナダのインフレ率は既に目標付近で低下基調にあり、経済成長も輸出の落ち込みで弱含み、労働市場には緩みが出始めている。BOC自身が「慎重に一会合ずつ判断する」姿勢を示していることから、9月の会合でも政策金利を現行の2.75%に据え置く可能性が高いと言える。

参考資料: カナダ銀行プレスリリース・記者会見資料、統計カナダ「消費者物価指数」や「GDP」など各種統計資料、各種経済ニュースなど。

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