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SSIDを増やした際のチャンネル使用率への影響度

Last updated at Posted at 2025-01-07

本記事の要約

株式会社 ONE COMPATHの並木です。

  • Wi-FiのSSIDを増やした際のチャンネル使用率への影響度を計測してみました
  • SSIDを1個から15個に増やした際、チャンネル使用率が以下の通り増加する事を確認出来ました
    • 2.4GHzの場合、67%~100%
    • 5GHzの場合、11%~21%
  • Wi-Fiをはじめ無線は有限のリソースであるからこそ、無駄なく効率的に設計する必要がある事を再確認しました

はじめに

2.4GHzや5GHzの周波数帯でWi-Fiを運用する際、SSIDの数を必要以上に増やす事は悪手になり兼ねません。Management Frameが増加しチャンネル使用率(Channel Utilization)の上昇に繋がり本来送信したいデータのスループットの低下が発生し得る為です。

本記事では、SSIDを増やした際にチャンネル使用率が実際どの程度増加するのか2.4GHzと5GHzの周波数帯を利用して簡易的では御座いますが計測した結果を記載させて頂きます。

以下、本記事ではPCやスマートフォンといったClient端末をSTA(Station)、アクセスポイントをAP(AccessPoint)と記載させて頂きます。

SSIDとは

SSID(Service Set ID)とはSTAがWi-Fiのネットワークを識別する為に使用する最大32文字の文字列です。ユーザから見るとSSIDはWi-Fiネットワークの名前としての役割を果たします。SSIDの文字列はAPから送信されるBeaconやProbe ResponseといったManagement Frameに含まれます。

Beaconに含まれるSSID

image.png

Probe Responseに含まれるSSID

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SSIDの文字数についてはIEEE Std 802.11-2020の"9.4.2.2 SSID element"をご参照下さい。

SSIDの数を増やすと以下2種類のManagement Frameが増加します。

  • APから発射されるBeacon
  • STAからのProbe Requestの応答としてAPから発射されるProbe Response

image.png

チャンネル使用率(Channel Utilization)とは

チャンネル使用率とはチャンネルのトラフィック混雑度を示す指標です。データ転送の為にチャンネルを占有した時間とチャンネルを使用出来る未使用の時間との割合で計算されます。

例えばチャンネル使用率が30%の場合、当該チャンネルの30%の時間がデータ転送に使われている事を意味します。Wi-Fiはその仕組み上、STAとAPが夫々1対1でしか通信をする事が出来ません。これはSTAやAPがチャンネルを占有している間は他のSTAは当該チャンネルを使用出来るようになるまで通信を待機する必要がある事を意味します(802.11axを除く)。

802.11axであってもOFDMAが適用されマルチユーザーリンク(HE_MU、HE_TRIG)で通信が行われない限り、STAとAPは1対1の通信を実施します。802.11axについてはIEEE Std 802.11ax-2021をご参照下さい。

下図において、STA#2がAPにデータを送信したい場合であっても既にSTA#1とAPとが通信をしている為STA#2はAPにデータを送信する事が出来ません。STA#2はSTA#1とAPとの通信が完了するまで待機しなければならず通信待ち時間が発生します。
image00000000.png

上図はPhysical Carrier Senseについては図示しておりません。Carrier Senseの詳細についてはIEEE Std 802.11-2020の"10.3.2.1 CS mechanism"をご参照下さい。

チャンネル使用率が高くなる(100%に近づく)とSTAとAP間の通信待ち時間が長くなり、データ転送のスループット低下が発生します。
経験則で恐縮ですが、チャンネル使用率はデータ転送等により瞬間的に高くなる事がままあります。チャンネル使用率が常時高くなければそれ程影響はありませんが、オフィス等で運用するWi-Fiにおいてチャンネル使用率は常時30%~40%の状態に抑える事をお勧めいたします。常時60%以上の状態になるとビデオ会議への影響(数秒間音声・影像が止まる、乱れる)が顕著に表れ始め、常時90%以上では(STAの数にもよりますが)スループットが極端に低下します。

チャンネル使用率の目安は以下の投稿記事も合わせてご参考下さい。

計測

SSIDを増やす事でチャンネル使用率は実際どの程度変化するかを計測しました。

簡易的な計測方法の為、結果は目安程度とお捉え下さい。

計測環境と方法

計測は以下の環境と計測方法を用いました。

  • 環境
    • 計測する周波数帯は2.4GHzと5GHz
    • 計測するチャンネルは可能な限りData Frameが流れていないチャンネル
    • Basic rateはデフォルト値(2.4GHz:1Mbps、5GHz:6Mbps)
  • 計測方法
    • inSSIDerに表示されるChannel Utilizationの値
    • Beaconに含まれる"QBSS Load Element"のChannel Utilizationの値

inSSIDerでの確認

inSSIDerにはBSSID毎、チャンネル毎にチャンネル使用率を表示する機能があります。今回の計測では当該機能を利用します。
image.png

BSSIDはSSIDと似た名前で混同しがちですがBSS(Basic Service Set:互いに通信する機器(APやSTA)のグループの事。特にAPを使用するBSSはインフラストラクチャBSSと呼ばれる)を識別する文字列がBSSIDです。APのNICのMACアドレスが使用されます。複数のBSSで構成されるグループをESS(Extended Service Set)と呼びESS内の全APには同じSSIDを割り当てます。

QBSS Load Elementでの確認

BeaconやProbe ResponseといったManagement FrameにはQBSS Load Elementが含まれており、Channel UtilizationやBSSにAssociateされているSTAの数も確認する事が可能です。

image.png

Channel Utilizationの計算式はIEEE Std 802.11-2020に記載されています。下図の計算式からも分かる通りChannel Utilizationは255の値をチャンネル使用率100%とし、APがBeaconを一定回数送信した期間にチャンネルがビジーな状態であった割合を算出しています。

Channel Utilization = \frac{Channel busy time}{dot11ChannelUtilizationBeaconIntervals \times dot11BeaconPeriod \times 1024} \times 255
  • channel busy time
    チャンネルがビジーな状態であると判断した時間の割合を示す指標です。APがチャンネル上で通信を検出した時間の合計をAPの測定期間で割ったものがchannel busy timeになります。
  • dot11ChannelUtilizationBeaconIntervals
    チャネルのビジー時間を測定する連続ビーコン間隔の数を表します。IEEE Std 802.11-2020のAnnex CのP.3894によるとデフォルト値は50です。
  • dot11BeaconPeriod
    APから送信するBeaconの間隔で単位はTime Unit(TU)、1TU=1024μsです。Beaconの間隔はAPの設定や実装により変わりますが通常は100TUが設定されます。

QBSSの詳細についてはIEEE Std 802.11-2020の"9.4.2.27 BSS Load element"をご参照下さい。

計測結果

測定結果のみご覧になられたい方はこちらまでスキップして下さい。

2.4GHzの場合

2.4GHzでSSIDが1個と15個の場合

SSIDが1個

APにSSIDを1個設定した場合のチャンネル使用率の結果です。1個だけ設定されたSSIDは12chで送信されています。
2G_001.png

スペクトラムアナライザで確認するとほぼ12chを中心に若干のトラフィックが確認出来ます。
2G_003.png

inSSIDerで12chのChannel Utilizationを見ると6.2%である事が分かります。
2G_002.png

Beaconに含まれる"QBSS Load Element"のChannel Utilizationの値を見ると7%である事が分かります。

image.png

SSIDが1個だけの場合、チャンネル使用率は6.2%~7%という結果になりました。

SSIDが15個

APにSSIDを15個設定した場合のチャンネル使用率の結果です。15個設定されたSSIDは12chで送信されています。
2G2_001.png

スペクトラムアナライザで確認するとBeaconのトラフィックが目立ち始めている事が分かります。
2G2_003.png

inSSIDerで12chのChannel Utilizationを見ると197%・・・である事が分かります。数値的に少しおかしいですが100%として捉えようと思います。
2G2_002.png

Beaconに含まれる"QBSS Load Element"のChannel Utilizationの値を見ると67%である事が分かります。

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SSIDが15個の場合、チャンネル使用率は67%~100%という結果になりました。

5GHzの場合

5GHzでSSIDが1個と15個の場合

SSIDが1個

APにSSIDを1個設定した場合のチャンネル使用率の結果です。1個だけ設定されたSSIDは64chで送信されています。
image.png

スペクトラムアナライザで確認するとほぼトラフィックは無い状態です。
5G_003.png

inSSIDerで64chのChannel Utilizationを見ると1.0%である事が分かります。
5G2_002.png

Beaconに含まれる"QBSS Load Element"のChannel Utilizationの値を見ると0%である事が分かります。

image.png

SSIDが1個だけの場合、チャンネル使用率はほぼ0%~1%という結果になりました。

SSIDが15個

APにSSIDを15個設定した場合のチャンネル使用率の結果です。15個設定されたSSIDは64chで送信されています。
image.png

スペクトラムアナライザで確認するとBeaconのトラフィックが目立ち始めている事が分かります。

5G22_003.png

inSSIDerで64chのChannel Utilizationを見ると21.0%である事が分かります。
5G2_003.png

Beaconに含まれる"QBSS Load Element"のChannel Utilizationの値を見ると11%である事が分かります。

image.png

SSIDが15個の場合、チャンネル使用率は11%~21%という結果になりました。

inSSIDerのChannel UtilizationとQBSS Load ElementのChannel Utilizationとで大きく値に差が出ています。これはinSSIDerの実装による物と推測しています。inSSIDerがどのようにチャンネル使用率を算出しているのか調査しましたが残念ながら算出方法に関する具体的な実装を確認する事は出来ませんでした。

測定結果について

計測結果は下表の通りとなりました。

周波数帯 SSIDの数 inSSIDerの値 QBSS Load Elementの値
2.4GHz 1個 6.2% 7%
2.4GHz 15個 100% 67%
5GHz 1個 1.0% 0%
5GHz 15個 21.0% 11%
  • 2.4GHzの場合
    • SSIDを15個に増やすとチャンネル使用率は67%~100%に増えた
    • SSIDを1個増やす毎に4.5~6ポイント増加した
  • 5GHzの場合
    • SSIDを15個に増やすとチャンネル使用率は11%~21%に増えた
    • SSIDを1個増やす毎にチャンネル使用率が1.3ポイント増加した

オフィスで使用するWi-Fiは地理的条件により1つのチャンネル上に複数のSSIDが混在してしまうかもしれません。SSIDの数が15個以上となる環境は多くないかもしれませんが、本来送信したいデータのスループットを維持する為にも可能な限りBeaconのようなManagement Frameは少なくしてチャンネル使用率を抑えるべきであると考えます。

又、今回はBeaconだけに焦点を絞って計測していますがSSIDが増えるという事はBeaconの他Probe Responseも増加します。APに接続するSTAが増えるとProbe Responseの数も増えチャンネル使用率は更に切迫した状況になる可能性があります。

どうしてもSSIDを増やしたい場合

重複となりますが2.4GHzや5GHzの周波数帯でSSIDの数を必要以上に増やす事は望ましくありません。とはいうものの、どうしてもSSIDを増やさなければならないという状況になった際の対応策について3つ記載いたします。

  • Basic rateを変更する
    APから送信されるBeaconやProbe ResponseといったManagement FrameはBasic rateの転送レートが使用されます。このBasic rateをデフォルト値(2.4GHzの場合は1Mbps、5GHzの場合は6Mbps)から12Mbps、24Mbpsに変更します。
    Basic rateを高く設定する事でBeaconやProbe ResponseといったManagement Frameによるチャンネル占有時間を短くしチャンネル使用率の圧迫を防ぎます。
    一方でBasic rateを上げるとレガシーな802.11bデバイスが接続出来なくなったりAPから離れるとSTAが接続し辛くなる可能性も発生します。

  • Beaconの送信間隔を変更する
    APの実装によってはBeaconの送信間隔を変更出来る場合があります。100TUを300TUに変更する事でAPからのBeacon送信間隔を長くしチャンネル使用率がBeaconで埋まってしまう事を抑制します。
    一方でSTAがPassive scanを行う際に時間を要しAPとSTAが接続し辛くなる可能性も発生する為、設定を変更する前に事前検証する事をお勧めいたします。

  • 使用する周波数を6GHzに変更する
    6GHzを利用可能なWi-Fi6E、Wi-Fi7では単一のBeaconで複数のSSIDをアドバタイズする事が可能です(Multiple BSSID)。SSIDを増やしてもBeacon並びにProbe Responseが増える事は無く、チャンネル使用率の抑制が期待出来ます。

Multiple BSSIDについては以下の投稿記事も合わせてご参考下さい。

Beaconのべストプラクティスに関しては以下のURLをご参考下さい。

その他

Wi-Fiの仕組みを学習する上でIEEE Std 802.11は有益な情報です。「どの様にしてIEEE Std 802.11を入手、閲覧出来るのか」詳細に纏まっている大変素晴らしい投稿記事がありますので、是非ご確認下さい。

おわりに

この記事では実際にSSIDを増やしてチャンネル使用率にどの程度の影響があるかを計測しその結果について記載しました。
APの機種によってはSSIDを簡単に増やす事が出来たり混雑している環境でもマルチチャネルを無秩序に設定する物が存在します。Wi-Fiをはじめ無線は他の人と共有する有限のリソースです。であるからこそ、発射している電波がどのくらいの影響を与えるのか考慮し、無駄なく効率的に設計する必要を強く感じます。

参考

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