前編では、QGISとGRASS GISを使って可視領域分析を実行しました。
後編では得られた可視領域について、実際に塔を見ることができるかを検証します。
4. 結果
得られた結果を確認してみます。
この図では、QGISのViewshedの結果(薄い白黒の部分)と、GRASS GISのr.viewshedの結果(薄い黄色の部分)を重ね合わせています。
両者で多少の違いはありますが、ほぼ一致しています。簡単に可視領域分析を行う上では、QGISのViewshedを使い、詳細にパラメタを調整しながら可視領域分析を行うには、GRASS GISのr.viewshedを使うという使い分けをすると良いかも知れません。
結果の確認方法ですが、可視領域分析の結果をもとに、実際に塔が見える、見えないを確認してみます。
図の中で、赤い▼は塔の位置、青い▼は検証地点です。なお、検証地点は、可視領域分析で塔が見えないと判定された地点(①)、見えると判定された地点(②)としました。
まず、塔が見えない地点①からの視界を確認してみます。
残念ながら現地での確認が出来なかったため、ここでは模擬的にWeb上のツールを使います。
使ったのは国土交通省の提供するPLATEAU VIEWです。
PLATEAU VIEWに北海道札幌市の建物モデルを追加し、検証地点から塔の方向の視界を確認します。
塔が見えないと判定された地点①からの視界を以下に示します。
確かに、塔のある方向には前方に小高い丘があり、塔の姿は確認できません。
次に塔が見えると判定された地点②からの視界を確認してみます。
確かにここでは正面に塔の姿が見えました。
最後に、塔からの可視領域の距離を15kmに拡大して、いくつかの地点からの視界を確認してみます。
観光地として有名な羊ヶ丘展望台からの視界では、遠くに塔の姿を確認できます。
塔までの直線距離は10.4kmで、空気の乾いた晴れた日なら肉眼でも見れるかも知れません。
次に、藻岩山山頂からの視界を確認してみます。
これも何とか確認できます。塔までの直線距離は14.7kmで、目の良い方なら(頑張れば)肉眼で見れるかも知れません。
双眼鏡や望遠鏡があれば、もう少し楽に見ることができるかもしれません。
札幌市の中心部ではどうでしょう?
可視領域分析の結果では、札幌市の中心部でも塔が見える場所があるという結果が出ています。
可視領域がモザイク状になっているのは、使用した数値標高モデルの解像度が5mのものを使用したことによると思います。
なお、ここで使用した数値標高データは地表の標高を表すデータ(DEM; Digital Elevation Model)であり、建物や樹木などの高さを表す数値表層データ(DSM; Digital Surface Model)ではないため、モザイクの原因が建物の高さによるものではないと思います。DEMとDSMの違いについては国土地理院のページをご参照ください。
試しに、道庁の前庭からの視界を確認してみます。
上の図の左側はPLATEAU VIEWで歩行者モードにした時の視界で、右側は同じ場所で上空に移動した場合の視界です。
歩行者モードでは、周辺のビルに視界を阻まれて、まったく塔を確認できません。
一方、同じ場所で上空から眺めた場合、ビルの間に塔の姿を確認できました。
札幌市中心部では、地上では塔を確認できないものの、高いビルなどからは、塔の姿を確認できるようです。
5. 考察~やってみてどうだったか?~
今回、QGISとGRASS GISで可視領域分析を行いました。その結果をPLATEAU VIEWを使い、模擬的に検証しました。
この模擬検証の結果ですが、塔が見えない場所と見える場所について、今の所、計算結果に間違いはなさそうです。
ただし、道庁の前庭のように、周囲に高いビルがある場合には、この計算結果をそのまま利用することはできませんでした。
高いビルなどの地物を考慮した可視領域分析は、別の方法を考える必要がありそうです。
また、今回、現地での確認が出来なかったため、PLATEAU VIEWを使って模擬的に視界を確認しました。
この模擬的な結果と実際とで、食い違いがある可能性があります。
現地での確認はいつかできればと考えています。
6. まとめ
QGISとGRASS GISを使った可視領域分析の方法と結果をまとめました。
今回の結果は現地での確認を行っていないため、計算結果との食い違いがある可能性があります。
模擬検証の範囲では、自然の地形による影響を考慮した可視領域では、計算結果が正しいことを確認しました。
また、都市中心部では高いビルにより視界が阻まれ、可視領域分析の結果と食い違いがあることが分かりました。
今回、数値標高モデルを使用して可視領域分析を行いました。
一方、心の中にある北海道百年記念塔は今回の方法では確認出来ませんでした。
心の中に、百年記念塔は見えるでしょうか?
謝辞
- 本記事を作成するに当たり参照させて頂いたWeb上の記事の執筆者様に御礼を申し上げます。
- 数値標高データの作成と維持を行っている国土地理院関係者の方々に感謝を申し上げます。
- QGISおよびGRASS GISの開発者コミュニティに御礼を申し上げます。
- PLATEAUデータの整備と公開、利用を許可して下さっている国土交通省をはじめ、関係者の皆様に感謝を申し上げます。
参考文献
免責事項
- 筆者は可能な限り本記事内容の正確性の確保に努めますが、筆者は本記事内容の正確性を保証しません。
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