「64bit VBAでJScriptを使用したい」という場合であればこの記事よりシンプルかつ堅牢な方法があります。
はじめに
VBAでJScriptの機能を使用したりするのに使われるMicrosoft Script Control 1.0
だが、64bit版の環境では通常生成することが出来ない。
しかし、強引な方法を取ることによって64bit版VBAでもScriptControlを使用することが出来る。
この記事では使用するための基本的な考え方と、簡単なサンプルを紹介する。
考え方
32bitの環境でScriptControlを生成し、64bitの環境へ持ってくる
見出しの通り32bitの実行環境ならオブジェクトを生成可能なので、その生成したオブジェクトをVBAに持ってくれば良い。
32bit-64bit間でオブジェクトの受け渡しをしても問題無いのかは、COMに関する知識が無いためなんとも言えないが、問題無くメンバーが参照でき、VBAのTypfOf演算子でも同一の型と判定されるためそこまで影響は無いと思われる。
サンプル
使用した手段
オブジェクトの生成(32bit環境)
32bit版PowerShellを実行してNew-Object
コマンドレットで生成する。
VBAへの受け渡し
MS OfficeのApplication.Run
メソッドの引数に生成したオブジェクトを指定して受け渡す。
検証環境
Windows10 64bit
MSOffice Excel 2016 64bit
Windows PowerShell v5 32bit
コード
内部でPowerShellを使って自分をコールバックし、静的変数を介してオブジェクトを取得している。
- VBAからプロシージャが呼ばれる。
- 1.の中でPowerShellが自身を呼び出す(オブジェクトの生成・受け渡し)
- 1.は2.の処理でオブジェクトが受け渡されるまで待機する。
- 受け渡しが終わったらそのオブジェクトを返す。
'MSScriptControl.ScriptControlを取得する関数。
'Excel専用。
'引数
'ioScrCtrl:省略可
'原則ユーザーは使用しない。
'PowerShellから ScriptControl を受け取るためのもの
'返り値
'MSScriptControl.ScriptControl
'原則同じインスタンスを返す。
'Private にしてもOK(Application.Runはスコープ無視で実行出来るため)
Function GetScriptCtrl(Optional ByVal ioScrCtrl As Object) As Object 'As MSScriptControl.ScriptControl
'32bit版PowerShellへのパス ※環境依存
Dim ps32Path$: ps32Path = VBA.Environ$("windir") & "\SysWOW64\WindowsPowerShell\v1.0\powershell.exe"
'このプロシージャの名前とモジュール名 ※環境依存
Const MODULE_PROC$ = "Module1.GetScriptCtrl"
'ProgID
Const PROG_ID$ = "MSScriptControl.ScriptControl"
'取得したいオブジェクトの型名(TypeNameでの判定用)
Const TYPE_NAME$ = "ScriptControl"
'PowerShell保持用
Static psExec As Object 'As IWshRuntimeLibrary.WshExec
'取得したScriptControl
Static scrCtrl As Object 'As MSScriptControl.ScriptControl
'PowerShellからコールバックされた時はここで抜ける
If Not ioScrCtrl Is Nothing _
And VBA.TypeName(ioScrCtrl) = TYPE_NAME Then
Set scrCtrl = ioScrCtrl
Set GetScriptCtrl = ioScrCtrl
Exit Function
End If
'オブジェクト生存確認。未初期化ならNothing、PowerShellが終了している場合はObject
'取得済みならここで抜ける
If VBA.TypeName(scrCtrl) = TYPE_NAME Then
Set GetScriptCtrl = scrCtrl
Exit Function
Else
Set scrCtrl = Nothing '一応明示的に初期化
End If
'PowerShellのコマンド文字列生成
'生成されるPowerShellのコマンド例
'[Runtime.InteropServices.Marshal]::BindToMoniker("Book1"
' ).Application.Run("'Book1'!Module1.GetScriptCtrl",New-Object -ComObject ScriptControl)
Dim cmdTxt As String
'スイッチの設定:ウィンドウ非表示、実行後終了しない
cmdTxt = ps32Path & " -WindowStyle Hidden -NoExit -Command "
'このブックを取得 ≒ GetObject(Excel.ThisWorkbook.FullName) と同じような動作
cmdTxt = cmdTxt & "[System.Runtime.InteropServices.Marshal]::BindToMoniker('"
cmdTxt = cmdTxt & Excel.ThisWorkbook.FullName
'Excel.Application.Run
'ブック名のエスケープに「'」を使うので[Convert]::ToChar(39)で生成
' .Run("'ブック名'!モジュール名.プロシージャ名" の形式
cmdTxt = cmdTxt & "').Application.Run([Convert]::ToChar(39) + '"
cmdTxt = cmdTxt & Excel.ThisWorkbook.Name
cmdTxt = cmdTxt & "' + [Convert]::ToChar(39) + '!"
cmdTxt = cmdTxt & MODULE_PROC
'コールバックで渡すオブジェクトの生成
'New-Object -ComObject ~
cmdTxt = cmdTxt & "',(New-Object -ComObject "
cmdTxt = cmdTxt & PROG_ID
cmdTxt = cmdTxt & "))"""
'PowerShell実行
Set psExec = VBA.CreateObject("WScript.Shell").Exec(cmdTxt)
'PowerShellがコールバックするまで待機
Dim i As Long
Do While scrCtrl Is Nothing
DoEvents: i = i + 1
'無限ループ防止用。作者環境では5000弱はループする。
If i > 100000 Then Err.Raise 429
'429 = ActiveXコンポーネントはオブジェクトを生成できません。
Loop
'Debug.Print i 'ループ回数確認用
'必要に応じて
'scrCtrl.SitehWnd = Excel.Application.Hwnd
Set GetScriptCtrl = scrCtrl
End Function
動作確認用コード
上記コードを任意のExcelのブックのModule1という名前のモジュールにコピペし、以下のプロシージャを実行する。
Sub ScrCtrlfor64bitTest()
Dim myScrCtrl As Object 'As MSScriptControl.ScriptControl
Set myScrCtrl = GetScriptCtrl
With myScrCtrl
.Language = "VBS"
.ExecuteStatement "MsgBox ""てすと"", vbOKCancel"
End With
'参照設定をしているのなら
'Debug.Print TypeOf myScrCtrl Is MSScriptControl.ScriptControl
'->True
End Sub
実行すると一瞬PowerShellの画面が開いたあと、メッセージボックスが表示される。
注意事項
PowerShell起動のオーバーヘッド
初回実行時はPowerShellを起動するため、起動完了までの時間がかかる。
2回目以降は取得したオブジェクトを使い回すため通常通り。
オブジェクトの寿命
生成したオブジェクトはPowerShellが終了すると使用できなくなる。
そのため、-NoExit
を指定してPowerShellが閉じないようにしている。
同じインスタンスを使い回す
前記の点を踏まえて、一度オブジェクトを取得したあとは使い回している。
複数のインスタンスが欲しい場合は改造が必要となる。
ローカル環境依存の設定
32bit版PowerShellへのパスや現在のモジュールなど、コードに直接埋め込まれている設定が多いため、適宜修正が必要。
補足
PowerShellは自動で閉じる
WshExecオブジェクトの参照が解放された段階でPowerShellも自動で閉じられるため、裏で増殖することはない。
参考
JScriptの一部処理を使いたい、という場合なら
の方がシンプルになります。