はじめに
工学系の実験系研究者のKumaです。
IEEE Xploreによると、共著含めて64本の論文を書いてきたそうです。
ベテランといわれる年次に入ってきて、いろんな人に論文の書き方の指導や添削をすることが増えてきました。
そこで、よく教えているノウハウをまとめておこうと思います。
この記事は「何ではないか」
- 一般論ではありません。工学系以外の分野では文化が違いますし、工学でも他分野では文化が違うかもしれません。
- 実験系の論文を想定して書きます(理論系でも、一部は参考になると期待します)。
- 「いかにしてアクセプトしてもらうか」にやや偏っています。
論文とは何のために書くか
論文とは何をするためのものでしょうか。
成果をアピールするためでも、自分の研究のプロセスを事細かにメモ書きするためのものでもありません。
論文とは、「誰かに読んでもらうためのもの」 だと思います。
そのうえで「読んだ人が内容を最短で理解でき、かつ次につながるようなもの」だと思います。
論文とは、いつ書くか
結果が出たとき、あるいは出そうなときに、執筆を考え始めます。
論文化を意識することで、「あと何をしなければいけないか」が明確になります。
また、結果とプロセスを読みやすい形にまとめておくことで、「自分の研究のセーブポイント」 としての副次的な価値もあります。
わかりやすい論文を書くには?
論文は、「誰かに読んでもらうためのもの」 です。
したがって、まず想定読者を考えます。
論文を読むのは、「(その分野の専門とは限らない)査読者」「(その分野の専門とは限らない)一般の読者」です。
したがって、何をおいても可読性を重視すべきです。
読んでもらうためには?
以下に、(原則)絶対にやってはいけないことを書きます。
なお、言うまでもないこととして、論文のテンプレート(様式)を違反するものは論文とみなされません。
文章の構成に関するNG事項
-
必然性のない文章が存在する。
- 必然性のないものは、即ち要りません。
- タイトルが長い。簡潔でない。
- タイトルで中身が推測できないものは読みません。
- 論理が一本道(A⇒B⇒C⇒D...)ではない。
- 論理が枝分かれしていると、わかりづらく、特に予備知識のない専門外の人に読んでもらえません。
- イントロダクションの一行目が、その分野の専門家でないと理解できない内容になっている。
- 予備知識のない専門外の人に読んでもらえません。
- 引用している先行研究が、本研究と直接的に関係がない。
- 必然性のない先行研究の引用は要りません。
- In this paper や we propose が複数回登場する。
- 本研究の新規性があいまいになります。
- 自身の過去の研究を知っていることを前提とする(In our previous work,...)。
- 読者はあなたのことなど知りません。 その場合でも伝わるよう、丁寧に書きましょう。
- 表記ゆれがある
図表に関するNG事項
-
図表だけを追っても、論文の骨子、論理構造がわからない。
- 図表だけでわかる論文=よい論文 です。
-
図の大きさが小さい。目盛りが小さい。本文を読まないと図の伝えたいことがわからない。
- (原則)論外です。図中の文字サイズの最低ラインは、本文の文字サイズ(8-10 pt)だとよく言われます。
- 数値の読み取れない図は図ではありません。絵です。
- 図に矢印や文字を書き入れて、メッセージを強調する手があります。
- 色がわかりにくい、マーカーがわかりにくい。
- 色とマーカーにまでこだわるのが一流です。
参考文献に関するNG事項
- 必然性のない参考文献を挙げる。
- 自身に有利な参考文献に限定する。
- 成果アピール系の論文に多いですが、論文の目的を見誤っています。
- 古い参考文献ばかり挙げる。
- ない場合は仕方ないですが、自身に有利な引用をしていると取られることがあります。
- 参考文献が極端に少ない。
- この場合、ほとんどはリサーチ不足です。
- すでに報告されている論理、帰結、考察なのに、参考文献がない。
- 参考文献がない=オリジナルを主張する というのが原則なので、避けるべきです。
逆に、推奨される(と思う)事項
-
わかりやすくするために、あらゆる手段・労力をいとわない。
- コンセプトをイラスト(図)にしたり、図に文字や矢印を入れるなど。
- 箇条書きにする、表にするなど。
- 実験条件やシミュレーション条件を細かく記載する。Metricの定義を細かく記載する。
- 再現性の観点や、結果の読み取りの誤解を防ぐ観点で、推奨されます。
まとめ
論文とは、人に読んでもらうために書きます。
そして、読む人はとても忙しいかもしれません。
最低限、常にこれさえ心がけておけば、読みやすい論文になり、結果として査読に通ることが増えます。
確かにすさまじい成果であれば、それが読みにくい論文でも世に評価されますが、そのような大論文を目指すのは非効率的だと思います。
Kumaでした。