はじめに
こんにちは、実験系研究者のKuma(a.k.a. Quma)です。
今回はポエムです。
2024年も、新方式の量子コンピュータの実機が公開されたり1、量子誤り訂正にも継続した進展がみられたり、GPTアシスト量子機械学習が出たり2、面白い一年でした。
相変わらずHypeは飛び交っていますが。
どんどん量子コンピュータの実装が進むわけですが、
今の量子コンピュータは本当に"コンピューター"らしい機能や見た目をしているんでしょうか?
今の量子コンピュータは、実験装置群である
実のところ、今の量子コンピュータは、一般にイメージされるようなコンピューターではないといえます。
例えば構成一つとっても、「量子コンピュータ」は箱にすら入っておらず、むき出しの実験装置やデバイス達が、ただケーブルで繋がれているものの総体です。
「量子コンピュータ」として、シャンデリアのような冷凍機を目にすることもあるかと思いますが、あの中に入っているのは量子計算を行うCPUならぬQPUと、そこへ繋がる電気ケーブルや電気増幅器だけです。
それらのケーブルや電気増幅器が、未来永劫壊れない保証もなければ、特性差があれば計算結果としてそのまま反映される状況です。
制御を行う実態は冷凍機の外にあり、それも「箱」には入っていますが、ただの電気波形発生器であり、言われた波形を出すだけの機能しか持ちません。
波形を設計したり渡したりする作業をする便利な(即日使える)「ソフトウェア」や「サーバー」なんて無く、各実験機関でオリジナルで(オレオレ仕様で)実装している状態だと思います。
当然ながら、そのような”ソフトウェア”、”サーバー”、”制御装置”、”QPU"に、実装方式互換性はおろかベンダー企業互換性なぞ期待できるわけもありません。
さらに当然ながら、OSなんかないし、メモリもない。何ならプロトコルも決まってない。
このような状況なので、量子コンピュータの実態は、
「みんなが頑張って実験自動化しようとしている、ただの実験系」
と言ってしまいたいと思います。
言われたことをやるだけの、巨大なアナログ装置なんです。
(面白いことに、複数の人から同じ意見を聞くのですが!)
ただし量子コンピュータは極めて繊細なので、実験自動化の技術進歩による効率化や高速フィードバックが、これを成り立たせるために不可欠なパーツであることは強調しておきます。
もはや手動では成立しえない系が、高度な自動化の力で成立しつつあるのです。
実験自動化は、ただ早く退勤するための技術ではないんです。
つまり量子コンピュータは
「世界で初めて、クラウド公開されている、かつ複数人で運用されている、実験自動化システム」
といえると思います。
これはすごいことでして、私なら自分の自動化の系を外部公開したいとは思いません。
保守が地獄だからです。
絶対いやだよ。
量子コンピュータはほとんど量子でもない
量子コンピュータのうち、量子力学の技術(知識)が必要なのは、心臓部であるQPUと、QPUにごく近い領域のエレクトロニクスだけです。
その制御装置もただのIF 5GHzの電気波形発生器ですし、読み取りもただのIQ復調です(IQといえば、まぁ無線の技術ですね)。
それより上はソフトウェアなので(もちろんアルゴリズムは量子情報の知識が必要ですが)実装は従来のプログラミング言語やツールです。
量子コンピュータにかかわる研究者やエンジニアの中には、もともと量子の出身の人もいますが、実際使っている知識を聞くと、量子関係ないものが主軸ということは多いです。
(量子に詳しいと、勘が効くということはあります。)
考えてみると、量子コンピュータはただの実験自動化系なので、実験系の中身そのものに詳しくなくても、自動化に必要な技術をもっていれば貢献できるというのは、当然のように思います。
私も自動化を進める仲間には、ソフトウェアのプロもいたりしますし、なくてはならない存在でもあります。
まとめ
今の量子コンピュータは、構成部品のほとんどが量子ではないし、コンピューターでもない と言ってしまいたいと思います。
いちおう言っておきますが、だから良いとか悪いとかいう話ではありません。
これが嘘偽りのない今の姿だ、という事実です。
そして、量子と付くからといって怖がる意味もないということです。気合と根性だよ。