はじめに
Let's Encrypt の証明書を入手・更新するためのcertbot
コマンドには以下のモードがあります。
- webroot
- standalone
- apache
- nginx
- manual
Getting certificates (and chosing plugins)
証明書を入手・更新するときにはいずれかのモードを指定します。
webroot
はそのドメインで稼働しているサイトのwebroot(サーバのパス)を指定します。例えば example.com
が /var/www/html
以下のHTMLファイルを配信しているとしたらwebroot
は /var/www/html
になります。
standalone
はWebサーバを停止した状態で実行します。webrootを指定する必要はありませんが、サーバを一時的に停止させなければいけません。
apache
はWebサーバとしてApacheを使用している場合に使用できます。webrootを指定したりWebサーバを止めたりする必要がありません。
nginx
はapache
のNginx版です。apache
同様にwebrootの指定やWebサーバの停止が不要です。
上記の中で、standalone
はなるべく避けたいです。なぜなら Let's Encrypt の証明書の有効期限は90日で、更新処理を行うたびにWebサーバを止めるのは可用性に問題があるからです。
そのためwebroot
を使用するほうがいいですが、RailsやExpressなどのWebアプリケーションを稼働させていてリバースプロキシを使用している場合はこのモードは使用できません。webrootはあくまで静的ファイルを配信するときのサーバのパスなので、リバースプロキシを使用している場合はそのパスが存在しません。
そこでリバースプロキシを使用している場合でもWebサーバを止めずに更新処理を行う方法として apache
, nginx
モードがあります。WebサーバにApacheを使用している場合はこのモードを使用するのがベストでしょう。ところがNginxを使用している場合は少しだけ問題があります。
apache
は元々あったモードですが、nginx
モードはCertbotのバージョンが0.9.0
から導入されたもので、0.9.0
がリリースされたのは2016年10月5日なのでつい1ヶ月前のことです。(Release v0.9.0 · certbot/certbot)
ソースはGitHubに公開されているので、ソースからビルドすればおそらくは使用できますが、OSのパッケージマネージャーからインストールした場合(正規のインストール方法の場合)はまだリポジトリに登録されておらず0.9.0
以降のバージョンが使用できない場合があります。この記事を書いている時点でyum
リポジトリはまだ更新されていませんでした。
なので今回は、Nginxを使用していて、リバースプロキシを使用している環境でもWebサーバを停止させずに更新処理を行う方法を紹介します。
Certbotのインストール
Certbotをインストールしていない場合(はじめて Let's Encrypt で証明書を発行してもらう場合)はCertbotをインストールしてください。
公式サイトにアクセスして、使用しているWebサーバとOSを選択してください。WebサーバとOSを選択するとページが切り替わります。表示されたページの一番はじめにInstall
という項目があるので、その項目中に書かれているコマンドを実行します。
Webサーバ、OSごとにインストールコマンドが異なるのでここではすべては列挙できませんが、例として、CentOS 7
と Ubuntu 16.10 (yakkety)
では以下の通りです。
$ sudo yum -y install certbot
$ sudo apt-get -y install certbot
それ以外のOSを使用している場合は各自で調べてください。また今回はNginxについての記事ですが、Apacheを使用する場合はまた違うコマンドになるので注意してください。
設定方法
今回行う方法は、リバースプロキシを使用している場合でも仮想的にwebrootを作り出して、webroot
モードで更新処理を行う、という方法です。
この設定方法に関しては、以下のサイトを大いに参考にさせていただきました
Let's Encrypt Auto-Renewal for Nginx Reverse Proxies
webrootの生成
まずは仮想webrootとなるディレクトリ(パス)を生成します。
$ sudo mkdir -p /var/www/ssl-proof/rancher/.well-known
次に確認用のHTMLを生成します。
$ sudo touch /var/www/ssl-proof/rancher/.well-known/test.html
生成されたtest.html
にtest
と書いて保存します。test
ではなくてもいいです。書いた内容があとで確認できればOKです。
webrootの設定
Nginxに先ほど作成した仮想webrootの設定をします。Nginxの設定ファイルを開いて以下の内容を追加します。Nginxの設定ファイルのパスは適宜読み替えてください。
http {
server {
# listenやserver_name
location /.well-known {
root /var/www/ssl-proof/rancher/;
}
# リバースプロキシの設定
# SSLの設定 (まだ証明書の発行をしていない場合はあとで記述してください。詳細は省略)
# エラーページの設定
}
}
webrootに関係ない設定は省略していますが、location
に先ほどのパスを設定します。
設定が終わったら、Nginxを再起動します。
$ sudo systemctl restart nginx
# または
$ sudo nginx -s reload
設定の確認
正しくwebrootが設定されたことを確認します。http://example.com/.well-known/test.html
にアクセスしてtest
と表示されていればOKです。example.com
は自分のドメインを入力してください。
確認が完了したらtest.html
は削除してください。削除するファイルを間違えないように注意してください。
$ sudo rm /var/www/ssl-proof/rancher/.well-known/test.html
証明書の発行
Let's Encrypt から証明書の発行をしてもらいます。すでに発行済みの場合でも、前回に違うモードで入手・更新した場合は同様です。
$ sudo certbot certonly --webroot -w /var/www/ssl-proof/rancher/ -d example.com
example.com
には証明書を発行してもらいたい自分のドメインを入力してください。
証明書の発行に成功すると以下のように表示されます。
IMPORTANT NOTES:
- Congratulations! Your certificate and chain have been saved at
/etc/letsencrypt/live/example.com/fullchain.pem. Your cert
will expire on 2016-11-05. To obtain a new version of the
certificate in the future, simply run Certbot again.
- If you lose your account credentials, you can recover through
e-mails sent to admin@example.com.
- Your account credentials have been saved in your Certbot
configuration directory at /etc/letsencrypt. You should make a
secure backup of this folder now. This configuration directory will
also contain certificates and private keys obtained by Certbot so
making regular backups of this folder is ideal.
- If you like Certbot, please consider supporting our work by:
Donating to ISRG / Let's Encrypt: https://letsencrypt.org/donate
Donating to EFF: https://eff.org/donate-le
証明書が発行されたらNginxを再起動する必要があります。
$ sudo systemctl restart nginx
# または
$ sudo nginx -s reload
これで、リバースプロキシを使用しているNginxでもwebroot
モードで証明書の更新を行うことができました!
次回以降の証明書の更新
一度、上記のモードで更新した場合は、次回以降はrenew
コマンドで前回の設定と全く同じ条件で証明書の更新を行うことができます。
$ sudo certbot renew
あとはcronなどを使用して定期的に実行するように設定すればOKです。
ただし、証明書の更新は、現在有効の証明書の有効期限が30日を切らないと更新できないようになっています。30日を切っていないときでも強制的に更新処理を行いたい場合はオプションをつけます。
$ sudo certbot renew --force-renew
上記コマンドの実行は一つ注意しなければいけません。Let's Encrypt では証明書を更新できる回数に制限を設けています。公式サイトを確認すると、1ドメインにつき、1週間に20回まで、と記述されています。
ふつうに使っている分にはこの制限に引っかかることはまずないですが、制限があることは覚えておいてください。
ちなみに更新できるかどうかを確かめたいだけなら以下のオプションをつければOKです。
$ sudo certbot renew --dry-run
--dry-run
オプションは現在の設定でrenew
コマンドを実行したときにちゃんと更新できるかどうかを確認できます。確認するだけなので実際の更新処理は行いません。つまり更新制限に引っかかる心配もありません。なので、強制的に更新しなければいけないとき以外は--force-renew
はつけないことをおすすめします。
繰り返しになりますが、証明書の取得、更新後はNginxの再起動を忘れずに行ってください。
結論だけを完結にまとめると、2回目以降に行わなければいけないコマンドは
$ sudo certbot renew
$ sudo nginx -s reload
の2つだけです。