はじめに
このアップデートメモでは、以下の状況を想定しています。
- Docker を使用している場合
-
docker-compose.yml
を編集している場合 -
master
の最新版ではなく最新バージョン(タグ付き最新版)にアップデートする場合
Docker を使用する場合はデータの永続化を行うために docker-compose.yml
を編集している人も多いかと思います。未コミットのコードがある状態では最新バージョンのコードをマージすることができないので、未コミット状態のコードを退避する必要があります。
また、git pull
コマンドを使用して origin / master の最新版にアップデートすることもできますが、マストドンは頻繁にコミットされているので、git pull
するタイミングによっては思わぬバグを踏んでしまう可能性があります。そのため、公式でも、最新のタグ付きバージョンに更新することを推奨しています。
これらの点を考慮して、実際にアップデートした手順をメモとしてまとめたいと思います。
TL;DR
$ cd path/to/mastodon
$ git fetch
$ git stash
$ git tag
$ git checkout [バージョン番号]
$ git stash pop
$ sudo docker-compose pull
$ sudo docker-compose build
$ sudo docker-compose run --rm web rails db:migrate
$ sudo docker-compose run --rm web rails assets:precompile
$ sudo docker-compose stop && sudo docker-compose up -d
ファイルの退避と更新
未コミット状態のファイルの退避とマストドンのコードの更新を行います。
作業ディレクトリへの移動
まずはマストドンのコードがあるディレクトリに移動します。以降はこのディレクトリで作業します。
$ cd path/to/mastodon
ローカルリポジトリに反映
リモートにある Git リポジトリをローカルに反映させるためにフェッチします。
$ git fetch
ファイルの退避
docker-compose.yml
等のファイルに変更を加えている場合は退避します。
$ git stash
未コミット状態のファイルが退避されました。git status
や git diff
を実行したときにリポジトリがクリーンな状態になっていることが確認できると思います。
この状態で以下のコマンドを実行すると、現在退避中のコードが確認できます。
$ git stash list
stash@{0}: WIP on (no branch): 01e011bc Bump version to 1.3.2 (#2623)
stash@{0}
の箇所が各スタッシュを識別するための番号のようなものです。01e011bc Bump version to 1.3.2 (#2623)
は、このスタッシュを退避したときの一番新しいコミット番号とコミットメッセージです。
はじめて退避した場合は stash@{0}
しかないので特に問題はないと思います。以前に退避を行ってそのまま放置していた場合はスタッシュのリストが複数表示されると思いますが、スタッシュは最新版が上(stash@{0}
)に来るように積まれていくので、いずれにしても stash@{0}
が今回退避したコードになります。
docker-compose.yml
を編集する理由
デフォルトの docker-compose.yml
(GitHub の公式リポジトリからクローンしてきて変更を加えていない docker-compose.yml
)だと、PostgreSQL と Redis のデータが永続化されていません。
データが永続化されていない状態でも使用することはできますが、設定を変更して Docker コンテナを再構築するときや、コマンドをうっかり間違えてコンテナを削除してしまったときに、データベースごと消えてしまいます。
そうならないように、docker-compose.yml
を編集してデータの永続化を行うようにすることを推奨します。そのために、ここでは git stash
コマンドで未コミットのファイルを退避する方法を説明しています。
データの永続化に関する詳細や、設定方法に関しては「Docker を使ってデータの永続化をせずにマストドンをデプロイしてしまったときの対処法」を参考にしてください。
タグ付き最新版へのアップデート
退避ができてリポジトリがクリーンな状態になったらタグ付き最新版にアップデートします。
$ git tag # 最新版のバージョン番号を調べる
$ git checkout [バージョン番号]
git checkout [バージョン番号]
で指定したタグ付きバージョンにアップデートできます。手動でタグ付き最新版のバージョンを調べるなら Releases · tootsuite/mastodon にアクセスして確認することもできますが、git tag
を上手く利用することでわざわざ手動で確認しなくても済みます。
$ git tag
v0.1.0
v0.1.1
v0.1.2
v0.6
v0.7
v0.8
v0.9
v0.9.9
v1.0
v1.1
v1.1.1
v1.1.2
v1.2
v1.2.1
v1.2.2
v1.3
v1.3.1
v1.3.2
v1.3.3
v1.4.1
v1.4rc1
v1.4rc2
v1.4rc3
v1.4rc4
v1.4rc5
v1.4rc6
※ 2017/05/30 の出力結果です
この出力結果だと 1.4.1
が最新版ですが、Release Candidate 版が下に来てしまっているので、本来の最新版が一番下に来るようにソートします。
$ git tag | sort -V
v0.1.0
v0.1.1
v0.1.2
v0.6
v0.7
v0.8
v0.9
v0.9.9
v1.0
v1.1
v1.1.1
v1.1.2
v1.2
v1.2.1
v1.2.2
v1.3
v1.3.1
v1.3.2
v1.3.3
v1.4rc1
v1.4rc2
v1.4rc3
v1.4rc4
v1.4rc5
v1.4rc6
v1.4.1
sort コマンドの -V
オプションは macOS では残念ながら使えない(コマンドのバージョンが古い)ので、新しい sort コマンドをインストールするか、git tag
で最新版を確認した後に git checkout [バージョン番号]
で更新してください。
そしてこの出力結果に対して tail
で一番下の一行を抽出すればそれがタグ付き最新版のバージョンになります。
$ git tag | sort -V | tail -n 1
v1.4.1
【追記】1.4.x
までのバージョンでは Release Candidate 版は 1.4rc1
のように表記されていたため正しくソートできていましたが、1.5.x
では 1.5.0rc1
のような表記に変わったため正しくソートできなくなってしまいました。
$ git tag | sort -V
v0.1.0
v0.1.1
v0.1.2
v0.6
v0.7
v0.8
v0.9
v0.9.9
v1.0
v1.1
v1.1.1
v1.1.2
v1.2
v1.2.1
v1.2.2
v1.3
v1.3.1
v1.3.2
v1.3.3
v1.4rc1
v1.4rc2
v1.4rc3
v1.4rc4
v1.4rc5
v1.4rc6
v1.4.1
v1.4.2
v1.4.3
v1.4.4
v1.4.5
v1.4.6
v1.4.7
v1.5.0
v1.5.0rc1
v1.5.0rc2
v1.5.0rc3
上記の例では 1.5.0
が最新版ですが、一番下にあるのは 1.5.0rc3
なので、正しくソートされていません。そのため、1.5.x
以降において
$ git tag | sort -V | tail -n 1
では必ずしも最新版が表示されるとは限らないことにご注意ください。正しい最新版を確認したい場合は、やはり git tag
して自分で最新版がどれかを手動で確認する必要があります。
$ git tag
$ git checkout [バージョン番号]
ファイルの復帰
チェックアウトしてタグ付きの最新版に更新できたら、先ほど退避したコードをリストアします。
$ git stash pop
退避したコードを復帰するコマンドには git stash pop
と git stash apply
があります。pop
は、復帰したあと、スタッシュリストから削除するのに対して、apply
は復帰するだけでスタッシュリストからの削除を行いません。復帰はしたがスタッシュリストに残ってしまったものを削除するには git stash drop
を使います。つまり、pop
は apply
と drop
を一緒に行うものだと考えてください。
復帰済みのコードがスタッシュリストに残り続けていると、退避をするたびにリストが増えてしまい、どのスタッシュがどの内容を退避したのかがわからなくなってきてしまうので、復帰済みのスタッシュは削除することをおすすめします。退避が完了したらスタッシュは不要なので、リストからの削除も一緒に行う pop
を使用するのが良いかと思います。
Docker コンテナの更新
Docker のコンテナを更新します。
$ sudo docker-compose pull
Docker のビルドと再起動
ここまできたらあとは Docker を使用した通常の作業と同様です。まずは最新バージョンの状態になったものをビルドします。
$ sudo docker-compose build
ビルドには時間がかかりますが、多くの場合は問題なくビルドが完了するはずです。
ビルドが完了したらマイグレーションを実行します。
$ sudo docker-compose run --rm web rails db:migrate
次にプリコンパイルを実行します。
$ sudo docker-compose run --rm web rails assets:precompile
最後に Docker を再起動します。
$ sudo docker-compose stop && sudo docker-compose up -d
問題なく再起動できればアップデート作業は終了です。お疲れさまでした。
再起動はすぐに完了しますが、再起動中と再起動直後をあわせて数秒のダウンタイムが発生するので、本番環境で実行する場合はあらかじめユーザにアナウンスをしておくとよいかと思います。
アップデートの確認
正しいバージョンは把握できていませんが、少なくとも v1.2.2
以降からは /about/more
のページにマストドンのバージョンが表示されるようになっています。(バージョン情報が表示されるようになった正しいバージョンを知っている方はコメントで教えていただけるとうれしいです)
このバージョンがタグ付き最新版のバージョンと一致していれば、正しくアップデートできたことが確認できます。