はじめに
ここ20年ほど、電機業界での衰退が続いている。それぞれの企業が衰退している部分の共通的なあるのではないかと思っている。若手エンジニアを不幸にしないため、私の考える問題点を述べようと思う。この文章の読者は、自分の判断でこの内容を吟味してほしい。
以下の例には不幸な事例を、個別の具体例とはしないかたちで書いている。
以下の事例の中では、大手電機メーカーに例が偏ってしまっています。別にそこだけが問題なわけではなく、他の分野にも問題がある事例は多数あることでしょう。
日本の電機メーカー各社の半導体部門(とりわけSoCの開発会社)は、部門を切り離して、統合して新会社になっているが、成功していない。
成功していない理由はいくつもあるだろうが、ここでは1点に着目して考察したい。
「ビジネスの進め方が変われば、必要な資質は変わってくる。」 そのことについて述べたいと思います。
疑問: グループ企業内の内需で潤うことを期待する体質が抜け切れなかったのではないか。
推測: グループ企業内の内需で潤っていた時期
- 購入者はグループ内の企業であるため、ざっくばらんと詳しい状況を半導体部門に伝えられた。
- 仕様の作成にあたっても、購入予定部門の人員が大幅に関与してくる。
- 場合によってそのキーとなるアルゴリズムを、購入予定部門の開発者が開発に関わってくれた。
- 購入者は、グループ内企業であり、既にそのチップが完成前から採用予定になっている。
- そのため、よほどの不具合を出さないかぎり、購入がなくなることは考えにくかった。
- グループ内の携帯電話メーカーが国内市場で上位のシェアをもっていたときは、電子部品部門はその恩恵を受けており、そのことで別な分野で利益を上げることに対しての貪欲さを欠いていた。
推測: グループ企業内の内需で潤っていた時期の半導体営業
- 社内の製品で使われていたチップを外販しているのを展示会で見かけたことがある。
- どういう部分ではユーザーにとっての利点があるのか伝わらない展示だった。
- 本気で売ろうとしているか疑問のつく展示だった。
- また、グループ内企業の「半導体商社」は、まったく、なんのために存在しているのか得体のしれないものだった。
- 例:ある会社の半導体を購入しようとしたときに、その会社のメジャーな代理店で購入を進めて行こうとしたときに、まったが入った。グループ内企業の系列の「半導体商社」から購入しなければならなくなったのだ。しかもその「半導体商社」は、技術力がなく、メジャーな代理店との交渉で利用できる半導体であることを確認しなければならないレベルだった。
独立したSoCの半導体会社に求められること(と私が思うこと)
- 求められている製品は何か、それをその製品がない時点で考えなければならない。
- ユーザーの求める水準と、自社の開発能力とをすりあわせて、両者の合意できる未来を作っていかなくてはならない。
- お菓子の営業だったら、去年と今年で製品が変わることも少ないだろう。今年の製品が、来年には無意味(極端な話、ごみになる)こともないだろう。作ってしまった製品の商品寿命は消費期限だが、その製品ラインの商品寿命は長く、ロングセラーも多い。
- しかし、SoCの場合、その仕様のチップの寿命は長くない。対応しなければならない、技術仕様(データ形式、通信形式などは)どんどん多様になっていく。ターゲットを共通とするメーカーの製品の仕様・価格などと比べられ続ける。そして、優位性が失われたときには、簡単に切り捨てられる。
そのようなことを考慮したときに、SoCの半導体営業に求められる資質はこのようになるだろうか。
- どのようなユーザーが、何を目的としてどのようなSoCをどれくらいの数量で求めているのかを理解すること、理解しようとしていること。
- 自社の製品が、他社の製品に比べて不足していることは何か、不足しそうなことは何かをとらえて、自社の企画に反映させること。
(他にもたくさんあるはずだ。)
従来の会社の半導体部門の対内営業の場合だったら求められていなかった責務が、独立したSoCの半導体営業には必要になる。
そのことが、状況が変わって5年以上たってもわかっていないように外部の人間には思えていることを理解してほしい。
その責務を果たせるようになるか、別の責務を果たすか
グループ内でのSoCの半導体部門とSoCを利用する製品部門とをつなぐやりかたをしてきた営業から、顧客を開拓しなければならなくなった状態に変わったときに、責務は完全に変わったはずだ。そしてその状況にふさわしい仕事の進め方を、その会社の経営層は従業員に伝えることができたろうか。それとも、経営層自身が、その責務への自覚をどれだけもっていたのだろうか。
日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ (文春新書 942)
に見る限り、経営層自身に甘えがあったように思えてしまう。
世界の大手の半導体会社の日本法人の営業が、どれほど技術的なサポートに力をかけているのか理解しよう。規模が小さい会社で、トップが営業する場合でも、そのトップが技術的なデモンストレーションを客先で行なっている。そのような状況にくらべ、日本の半導体会社は、営業に対して甘えがないか?
自分達の商材について、技術的な説明をできないのであれば、なんのための営業だろうか?
その責務を果たせていない人員に対して、組織はその人員に対してサポートしていって、責務を果たせるようにしていこう。
すべきだった判断の例: その事業に適した資質の人だけ残すようにすべきだった。
SoCをビジネスにする会社であれば、その営業においてもSoCのチップの使われる事業を理解しなくてはならない。そのような気概をもった人員であることを要求すべきであって、それに応じることが辛いと感じる人には、やむなく去ってもらうなどの判断が必要だったのではあるまいか。グループ内SoC開発部門とグループ内のSoCを利用する部門とのつなぎ役程度の意識で、独立系の専業のSoCメーカーになってもいるのであったとすれば、事業の成功はのぞめないだろう。
しかも、これから外販するSoCのチップは、まだ製品になっていないカメラ、自動車、ロボットなどの製品について、顧客がどのようなものを欲しがっているのかについて想像する能力を要求する。強豪のSoCのチップのメーカーはどのようなチップを外販しており、自分達の扱う商材のチップがどのような優位性をもっているのかを顧客に説明できなくてはならない。
事業戦略の中では、自分達が生き残る可能性を高めるために、何ができるのかを本気で考えぬくことだ。
仕様も価格も、顧客任せのやり方(グループ企業間での取引の場合)をしたら、いずれ捨てられるのがオチである。
開発しようとする内容は、本当に市場で求められているものなのか
SoCは購入さえ難しい。
- 必要な計算の処理能力があるか
- 各種IOが、利用したい分野にそったものが完備されているか
- CPUやメモリの帯域などが十分であるか
- 画像処理の場合だったら、適切なハードウェアのエンコーダー・デコーダーを持っているか
- 組み込み機器の場合、バッテリーの持ちを良くするために、電力の消費を抑えることができるようになっているか
- 特定の用途に向けた機能が充実しているか
- 例:深層学習を利用した画像認識技術が利用できるようになっているか
- 開発環境、SDKはどれくらいそろっているか
- その価格は、それを組み込む製品の部品の価格として受け入れることができる価格であるか
ユーザー企業でさえそういったことを考えて、複数の候補の中から考えて行動する。ユーザー企業の中で、SoCの選択をする技術者は、次のことを恐れている。「自分の選択が、その開発している製品の性能を達成できなくしてしまうことはないか。」 性能が不十分であれば、製品が世の中で受け入れられるのに不十分な結果になってしまう。そうすると、最悪、その開発・製造・販売の事業に関わっている人の将来の生活を台無しにしてしまう。
SoCの選択は、ソフトウェアの選択と違う。SoCの選択は、ボードの設計、デバイスドライバ、そのSoCを使うソフトウェアモジュールなどを多くのものに影響して、簡単に切り替えることのできないものなのだ。だからこそ、ユーザー企業の技術者は真剣にSoCの選択をしているんだ。
SoCの購入に向けて技術者は、営業担当者にたくさんの質問を投げるでしょう。そしてそれに対する対応のしかたを見ることで、将来の技術サポートの様子を推測するしかないのです。ですから、SoCの営業活動は、グループ内企業間の調整というレベルとはまったく違ったものになるのです。
御社のSoCの売り方は、そういったユーザー企業の状況にあったものになっていますか
自社の製品が、どういう市場を、どのような製品で奪い合っているのかを理解しましょう。
そういったことを地道に積み重ねることなしに「自社の製品は優れている」などと思ってはいけません。
事業を進めていく中では、それぞれの人がそれぞれの責務を果たせるように協力しあっていくことが大事です。
その事業分野にふさわしい資質の人をそろえることが、その事業分野での成功の確率を上げる。
責務を果たせ
- 仕事で利益をあげて、従業員の生活を安定なものにしていくのは、高い給料を得ているものの責務である。
- 今までに30年も働いているんだから当然だと考えてはいけない。
- その分野のプロフェッショナルを自称するなら、その分野でビジネスがうまくいくように知恵を使え。