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「経験が豊富であれば判断を間違えない」という幻想

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はじめに

「経験が豊富であれば判断を間違えない」というのが、日本の大企業の個々の事業戦略や組織運営の基本にあると思う。(webサービス系の会社で社長自らも若い場合には、そのようなことはないでしょう。ここではそうでない企業の場合を例に述べる。あるいは、数十年にわたって世界の第一線であり続けているような方々については述べていない。企業の中のサラリーマン開発者、またその上司についてこの記事の中では述べる。)
その幻想を捨てされることが必要な時代になっていることを、ソフトウェア開発の現場を例に述べたいと思う。

仮説:「経験が豊富であれば判断を間違えない」

その仮説のうえに、様々な制度が構築されている。
そのため「経験が豊富であるはず」の入社後の職務経歴の多い人が判断すれば、適切に判断できるはずだ。

仮説から引き出された制度1:どんなに優秀な人であっても若い人には、事業の進め方の決定に加えない。

前提条件:若い人よりも経験が豊富な人のほうが常に適切な判断ができる。

この前提条件は、外部の環境が変わらないときに有効にはたらく。状況の変化がしないときには、過去の成功と失敗をそのまま用いて適切な判断ができる。10年前に成功した条件が今も成功につながる条件であれば、その条件で判断すればよい。
 技術のフレームワークが質的な変動をしていないときで量的な変化だけしか生じていないときには、量的な延長で議論をすればよいときには、この前提を満たしやすい。
 例:CPUのクロック速度が指数的に増大していた時代。CPUのクロック速度の向上は、アルゴリズムの改良なしでも、処理速度の改善というタダ飯の時代だった。(「タダ飯の時代は終わった」(The free lunch is over.) そのような時代においては、将来が約束されていた。

前提条件:広い経験がある人は深い経験のある人よりも適切に判断できる。

 日本の組織運営では、技術内容を理解する以前に、大学の一般教養レベルの理科系の知識のない人をも、技術的な会社の経営のトップになることがある。技術的な内容を知っている人は、「専門バカ」とラベリングされることがある(その人が実際には、歴史や文学に詳しかったとしても)。
「事務官優位の原則」

毎日新聞は、毎週月曜日掲載の「理系白書」において、霞が関における文系優位・技官冷遇を取り上げた(2002年3月25日)。

政治における文系と理系

毎日新聞社が2002年3月に行ったアンケートでは、現職官僚70人(文系出身者54人、理系出身者16人)のうち35人(うち理系出身者10人)が「昇進に関して文理格差がある」と答え、そのうちのほとんどは「文系有利」と回答した

前提条件:判断の権限を持つ人が短期的な自分の損得ではなく、事業の本来的なありかたについて誠実に判断する。

  • この前提条件は、近年の企業犯罪、粉飾(=「不適切な会計」)、改ざんも含めた不正融資の状況では成立していないことを示している。
  • 「働かないオジサン」のような状況にはなっていないことを前提としている。

前提条件:経験年数という指標と、個人による才能のばらつきという要因とがあるなかで、経験年数という指標の寄与率が圧倒的に大きいと仮定する。

  • 経験年数という指標と、個々人の使いこなせるライブラリの状況、新しいアルゴリズムを創りだせる能力の状況、

別のアプローチ:

  • 若手であっても詳しい人物であれば意思決定の場に加える。
  • フラットな組織運営をする。

事例:社員350人でフラットな組織って本当ですか?
事例:働きがいのある会社ランキング3位!  (会社名)のフラットな組織とは

仮説から引き出された制度2:組織の下の人間には説明責任があるが、組織の上層部には説明責任がない。

前提条件:組織の上層部は、経験が豊富であるので判断を間違えないので、説明をする責任がない。

反例:権限をもって判断した人が、不正や結果的に間違った決断を後になって追求されることを防ぐために、証拠となりうるものを残すことを毛嫌いする。そのために、「組織の上層部には説明責任がない」という組織運営を行なっているとみられる場合がある。

前提条件への異論

 国や地方公共団体の場合、税金を使って仕事をしているのであり、その内容について納税者に対する適切な説明責任が発生する。
 株式会社の場合、株主という出資者に対する経営の説明責任がある。
 そのため、組織の上層部には説明責任がないと主張できるのは、自分の金で組織を運営している場合に限られる。

前提条件:「組織の運営は次の世代に引き継がれるべきものであって、次の世代が適切に判断するための情報は引き継がれなければならない。」という必要性は不要である。

仮説から引き出された制度3:今の課題を解決するのに最適な人選をすることよりも、社内での過去の恩賞の人事を行う。

前提条件:今の事業戦略を推進するよりも、過去の恩賞をすることでも大丈夫な会社の余力がある。

前提条件:

技術要因

  • 対象技術の範囲において、技術的な大変革が起きていないこと。

 技術的な大変革が起きていなければ、従来の考え方でも、

未知の要素があり、周辺の技術の状況が日に日に変化している状況においては、
「経験が豊富であれば判断を間違えない」という仮説を手放しで黙認していい状況にはないと思う。

「経験が豊富であれば判断を間違えない」という幻想を捨てるべき理由

理由1:未知の要素があるときには、その未知の要素を含めて適切に判断できるとは限らない。

未知の要素があれば、いつだって判断を間違える可能性はある。
未知の要素が、どのように影響するか、経験に基づく勘がどの程度うまくいくかはわからない。判断の間違いが命取りにならないようにどれだけチームとして取り組めるかが肝だ。

機械学習のアルゴリズムの進展はあるにしても、入力となる大元のデータの品質がどうであるかによっては、できることとできないこととがある。劣化した入力でできることは限られる。

短期の降雨予測の精度があがっていることは、降雨に関係する量の測定の量と品質があがっていることと無関係でない。そのことを無視したうえで、AI(人工知能、深層学習など)が進歩しているといってもしかたがない。

理由2:技術のフレームワークが激しく入れ替わっている状況では、昔の経験だけに頼って判断すると間違った判断をする。

近年の機械学習の進展は、いろんな部分におよんでいて、精度や処理速度の点で使うべきアルゴリズムが、従来と大幅に違ってきている。

最新の技術動向に注意をはらって、今使うべき技術は何なのかを判断し続けよう。

最新の技術動向に注意を払わなければ、「経験豊富」とは言えなくなってしまう。そうでなければ、ただの傲慢になってしまう。

理由3:優秀な人は年齢に関係なく優秀である。

最後に

「経験が豊富であれば判断を間違えない」という幻想を捨て去って、最適な判断をできる組織が増えることを期待する。

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