進化は、既にあるものの新しい使い方の発見であることがある。
そのことを何かの本で読んだのを思い出したので書いておく。
以下の例は、既にあるものの新しい使い方の発見と解釈できそうな事例を上げてみようと思う。
例:
- 酸素は生命の初期の歴史の中で、有害な廃棄物だった。酸素呼吸をする生命が発生する以前は、光合成生物が作り出した有害な酸素が大気中に蓄積されていくという状況だった。好気呼吸をするミトコンドリアを真核生物が持つようになって、既にある「有害な」酸素を、より効率のよいエネルギー取得方法の材料という新しい使い方を発見したことにある。
しかも、「ミトコンドリアは好気性細菌でリケッチアに近いαプロテオバクテリアが真核細胞に共生することによって獲得されたと考えられている」とあり、全く何もないところから細胞小器官であるミトコンドリアが生じたのではないらしい。このことでも、既にあったものを共生させるという新しい使い方であると言えなくもないだろう。
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目の誕生は、光受容器への新しい使い方の発見であると言えるだろう。明暗だけを知る仕組みから、明暗のパターンを知る使い方を始めたのが目と言える。
- その目を作るという仕組みは、前口動物・後口動物の共通の祖先で生じているらしい。「眼が形成されるのに必須の遺伝子は、マウス、ヒト、ショウジョウバエの遺伝学から発見された」とある。
脚は、ヒレの新しい使い方。
造礁性サンゴは、体内に褐虫藻という藻類を共生させている。既にいた褐虫藻という藻類を体内に共生させるというこれも新しい使い方をしている。海温が上昇すると起きるサンゴの白化現象は、褐虫藻がサンゴの体内から逃げ出したりすることで生じている。
羽毛は飛ぶことを前提として発生したのではない。羽毛恐竜の羽毛は保温の効果をもっていたようだ。羽毛恐竜から、羽毛の生えている前腕部分を滑空に使うという使い方の発見が、変化の方向性を次第に強めていったということが、鳥類への進化を生み出したということなのでしょう。
花(ここでは虫媒花)は、昆虫と植物との共進化のたまもの。昆虫に、花粉を運ばせるというやりかたの発見が、地球環境を大きく変えていった。
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ペンギンの翼は、水中を潜るための力強いオール。
- 飛ぶためではない新しい使い方。(もしくは、水中を飛ぶための翼)
技術の場合
- iPhone はiPodの転用。 iPhoneはiPodの成功があって登場している。
- iPodはUSBハードディスク技術の転用
- ハードディスクレコーダーは、PC用HDD技術の転用
- データCDは音楽CDの技術の転用
- その延長上にDVDやBDが生じた。
- GPUはグラフィックアクセラレータ技術の画像処理から行列計算への転用。
二股ソケットは、電灯線を汎用の電気器具の電源に変えた。最初の電力会社は東京電燈株式会社という名称。電灯線の普及の時点では、将来的な汎用の電源としての価値は想定されていない。
USBケーブルは、小型のACの共通の電源インターフェースへの転用。
パソコンのキーボードは、テレタイプにキーボードの転用。
テレタイプは、タイプライタの転用
パソコンの1バイトの文字コードは、テレタイプの文字コードの転用
初期のコンピュータのパンチカードは、歴史的には織機に由来する。機械の制御ではなく、情報の格納手段として転用している。
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ADSL は電話回線(銅線)の空いていた帯域の利用という新しい使い方
- ADSLのために新たな回線の敷設を必要としなかったことが、普及の大きな力となった。
FAXは電話回線(音響周波数の帯域)で画像を濃淡画像を送付するという新しい使い方
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電子レンジは、マイクロ波技術の転用
- マイクロ波を発生する技術(マグネトロン)、レーダー技術の開発によって既に開発済みであった。
マイクロコンピュータのCPU(i4004)は電卓用に作られたICの転用。
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電気自動車のLiイオン電池技術を、携帯電話用から車載用への転用
- 重量エネルギー密度・体積エネルギー密度が、鉛蓄電池よりも高いことが、大量の電気エネルギーを貯めこむ時に重要になる。
検索結果の情報を提供するのがGoogleならば、検索結果をモノとして提供するのがAmazon。検索結果を物品販売に結びつけるという。「検索技術の新しい使い先を見つけた。」と言えないか?その新しい使い方を、はじめは書籍の通信販売から、圧倒的な強さをもつビジネスに育てあげて、世界の産業構造を大きく変えてしまっている。
天使の翼をもつ生物はなぜいないのか?
しくみと使い方が同時に発生することはない。
腕の他に翼を作るためには、発生のメカニズムにおいて、大きな変革が生じない限り起こりえない。
車輪構造の脚を持つ大きな生物も同様に生じ得ない。
だから、既存の仕組み転用が重要になる。
鳥やこうもりや翼竜などにおいて、既存の腕や手の転用(別な使い方)が重要になる。
新しい使い方と新しい技術とを同時に創りだすのは難しい。
(役に立たない)仮説:
真空管の時代のエレクトロニクスなしに、トランジスタのエレクトロニクスは生じ得なかっただろう。
真空管エレクトロニクス(真空管ラジオなど)エレクトロニクスの利便性・可能性に人々が目覚めることなしに、トランジスタラジオに代表されるエレクトロニクスの可能性が開かれることはなかっただろう。
ADSLは、既存の銅の回線を利用することで、光ファイバー網を新設するよりは少ないコストで普及することができた。もしこれが、WEBや電子メールを利用するには光ファイバー網を必要としたのであれば、普及はどれだけ遅れただろう。
一方、ISDNは、ISDNのネットワークと用途の両方とを開拓する必要があったため、一般家庭に対して普及することはなかった。
新しい使い方と、新しいインフラとを同時に普及させることは簡単なことではない。
もし、だれかが、あなたの工夫を、「使い方を変えただけじゃない」と言ったら、ぜひ自信を持ってほしい。
「使い方を変えただけ」ということは、その技術を使うための道具は既にそろっているということだ。その使い方が役に立つ使い方ならば、とても普及しやすいということだ。
起きている使い方の変化の例
ゲーム開発環境のUnityがVRの環境になっている。
aiboという名の動く体をもったスマートフォン
aiboのCPUはスマートフォンと同じSnapdragon
2台のカメラを使う
加速度センサを使う
通信機能を使う
モバイルの事業部が開発の母体になっている。
もし「使い方とインフラとを同時に普及させるのは難しい」が本当だとすると、次の技術分野は普及させることが難しいことになるのだろうか。
- 水素を用いる燃料電池の自動車
家庭用の電気を電源とする電池自動車と水素を用いる燃料電池とでは、普及の難しさの程度に差がある。家庭用の電気を電源とできる場合には、電池自動車本体の他に必要になる社会インフラが少ない。それに対して、水素を用いる燃料電池の場合には、水素を供給できる水素ステーションという社会インフラが必要になってしまう。水素ステーションは、ガソリンスタンドほどに普及できるものではない。しかも、ガソリンスタンドの数でさえ減少する方向になっているのに。
- 電子書籍と専用端末
スマートフォン以前において、家電メーカーが電子書籍専用端末を販売したことがあった。
現在は、Amazon Kindleなどの少数の専用端末があるばかりで、主力はスマートフォンとPCだといっていいだろう。
電子書籍という使い方と電子書籍の専用端末と電子書籍の発行業者という多くのものを同時に布教させようとする困難さがあった。スマートフォンという既存デバイスを電子書籍のリーダーとして使うということで、電子書籍の普及が大幅にしやすくなったと言えるでしょう。