ここで言う営業とは、人脈形成(良質で信頼のできる案件が集まる仕組み)作りであり、クロージングの話ではない。
自分を売り込む
エンジニアの資本は自分である。
自分を売り込む、というアプローチを商品の売り込みと同じ感覚で捉えてはいけない。
ここで言う「売り込み」は「契約してください」1ではなく、私を知ってくださいという方面である。
少々混乱を招いてしまうが、いわゆる面接(応募)まではしないけど、カジュアル面談(情報交換)はするよ、というスタンスと考えてもらえば良い。
ただし、企業求人だとカジュアル面談が選考(面接や審査)に含まれるケースがあるため、いわゆる勉強会などでのネットワーキングにあたる行動だと考えよう。
SPIN話法
商品を売らずに自分を売る、と言えば多くの営業マンが考えるのがSPIN話法だろう。
本稿はエンジニア向けの内容で、また筆者自身も法人営業経験はとても浅いため「エンジニアが営業の話術を知り、活かせる」という点で言及したい。
当然、SPIN話法以外のアプローチも自主的に学んでみて実践してほしい。
ここではSPIN話法について紹介するが、キーワードさえ分かればあとは検索する以上の情報は筆者から出てこないため、本稿では解説まではしない。
多くの参考文献を読み、自分なりに実践した感覚としては、まず社内の課題を整理して問題提起をするエンジニアの総数が少ないようなので、これだけでインパクトを残せているように思う。
たとえば、募集背景が事業拡大だったり引き継ぎだったり様々あるが、そもそも事業拡大に至った経緯や引き継ぎ前の課題などもキャッチアップしようとする姿勢を作ると、より業務内容について掘り下げられ、自分が解決するならどうするか、という提案を含めての選考に持っていきやすいため、通常の面接を目的とした質疑応答以上に効果を出す事ができるだろう。
自身のスキルとやりたい事
新卒・中途どちらにも使えるテクニックに昇華したい。
SPIN話法をエンジニアの面接(正社員を想定)に取り入れようとすると、「なんでエンジニアをやりたい/やっているのか」とか「今後どういうエンジニアになりたいのか」という話は明確にしておかないと話にならない。
その上で、やりたい事と今やろうとしていること、そして入社してからやる事があっているかどうかは見極めが必要となる。
特に業務委託(フリーランス)として案件を受ける場合は、いわゆる社員ではないのでこの工程について見積もりなど打ち合わせ時には尋ねられる事はほとんどないが、それ故に普段から自分がどういうポジションなのかはしっかりと認識しておかねばならない。
当たり前だが、会社員なら会社員としての評価の上でスキルを判定するし、業務委託ならできて当然という前提で話をするため、土俵が異なる。平たく言うと、フリーランスで未経験の新規事業を任されるなんてことはない。外からあなたの代わりを見つけて参画させれば良いからだ。
特にある程度実力をつけて、そこからさらに高みを目指したい場合は普段から向上心を持って学習することと、加えて実績をつけるために案件を獲得していく営業力も必要である。
会社員のように強制される事もない分、自ら発信して動いていかないと受け身のままでは生活もままならなくなる。
志望動機はしっかり固めよう
当たり前だが、大前提として応募するからには理由があるはず。
エンジニア界隈だと割とざっくばらんにぶっちゃけた方がウケがいいように思う。
もちろん、営業がゴリゴリに強い社風だとこの方法はダメだが、エンジニアの発言力が強い会社を選びたい時はあえて強めの表現をする事で会社の見極めに使えるという方法もある。
特に就活生は、はじめて社会に出るための第一段階でいきなり厳しい就活の場に投げ出されるわけだが、エンジニアとしてやっていきたいという思いがあるなら、むしろ会社選びを妥協してしまうと入社後にギャップが発生して、お互いに良いことにならないケースが考えられるため、不採用に負けずに挑戦してほしい。
その会社に、その職種で入社して、何がやりたいのか
まず前提として、終身雇用制度はもう終わっている。
こういうと「そんな事は知ってるよ」と言うだろうが、終身雇用制度が終わった事で就活・転職現場で何が変わったのかを認識しているか、というところまで掘り下げるとどうもイメージができていないように思われる(方が多い)
そのため、ここで終身雇用が終わった事でどうなったのかを今一度見つめ直したい。
終身雇用の初期からの現在の採用の変化
筆者の体験と考察による
まず、終身雇用制度とは何かを改めて考える。
終身雇用=正社員(無期契約社員)と考えると、昔は転職が特殊なものと考えられていたため、新人社員を40年間会社が使える権利と考える事ができた。
そのため、どこかに入社すれば企業も従業員も双方に「安定」を対価にする事ができた。
ここだけ抜き出すとWin-Winの関係になる、はずだった。
が、実際蓋を開けてみれば、転職が活発になるほど従業員にとって不利またはメリットを感じにくいと思わせていた使い方がされていた。
たとえば待遇。ブラック企業が〜、という話をされてしまったのも従業員をどんな使い方をしても良かった時代の名残ではないかと考えている。
つまり、企業と個人(社員)の信頼関係は成立していなかったのだ。
「終身雇用制度」という社会制度も時代と共に成長し「働きやすさ」や「定着率=低い離職率」というパラメーターが生まれた。
転職が容易になった事で従来の終身雇用制度の運用は良くないものとされ、従業員個人のキャリアが見直されていくことになった。
筆者のような古い時代のおじさんは「今の正社員の待遇は考えられないぐらい良くなった」と思うのだが、それでもフリーランスに慣れた・生活していけるようになってしまうと、正社員で働きたいかと言えば、答えはNoという方もいるのが現状である。
もちろん、フリーランスから正社員になる方もいるので、全てのフリーランスが正社員を考えていないとは思わないし、筆者も機会や条件が合えばフリーランスにこだわる必要がないと考えている。
単純に「時間型労働」より「成果型労働」に魅力を感じている=時間に拘束される働き方を良しとしないだけかもしれない。
終身雇用制度がもたらしていたもの
まず前提として、新卒カードが未だに強い理由を考えたい。
先述の終身雇用制度の「安定」を企業も求めている事に他ならない。
リクルート社を貶めるつもりは全くないが、内定辞退率や離職予測は全ての企業が関心を持っている話だと考えている。筆者もいち経営者として声に出さないだけで、採用に関わる全員が「この人は長く働いてくれるのか」を常に気にしているだけだと推測する。
さて、この話をすると鶏が先か、卵が先かといった話をしなければならない。
つまり「長く働いてほしいなら待遇を見直してほしい」という従業員サイドの視点と「待遇を上げてほしいなら実績を出してほしい」という経営サイドの視点である。
この場合、待遇とは報酬(給与)を指す事が多いが、昨今では給与以外にも様々な努力で待遇を上げるというアプローチがなされてきた。
分かりやすいもので言えば福利厚生である。
ただし、福利厚生は享受できる従業員が限定的であるため、使わない人にとっては全くメリットにならないという点が考慮されないのは難しい課題ではある。
見方を変えると「長く働きたい」と考えている従業員と「長く働いてほしい」と考えている企業のそれぞれの数自体は決して少なくないはずだ。
しかし、「長く働きたい企業」を求める従業員と「長く働いてほしい人材」を求める企業の軋轢はまだまだ埋まらないのだろうと思う。
前者はわかりやすいが、後者は率直に言えば若い働き手だったり、業界の著名人やベテランである。
良くも悪くも「終身雇用制度の恩恵」を享受し続けてしまったため、当時の良さを求めてしまっているのが現状の終身雇用制度=無期社員契約なのだろうと考えている。
企業は時代に合わせた新規事業を求められるのに、従業員は企業のレールの上を求められる
もう一つのギャップについても言及しよう。
「安定」を「変化しないこと」と捉えた場合の課題である。
まず前提として、エンジニア業界は日進月歩なのでほぼ毎年新しい技術やサービスに触れる事になる。
そのため、変化に柔軟に対応し、キャッチアップする能力がなければ続かない。
つまり、職業柄「安定」とは程遠い存在である。
そのため「安定」している職種の反発を受けやすいのも事実だ。
たとえば飲食業界などはどんなにシステム化したところで、現場のオペレーションありきの業務形態である事自体はどう頑張っても変えられない。
システムを変えるよりは営業方針を変えない限り(たとえば、店内飲食をなくしてデリバリーに切り替えるなど)は改革にならない。
また、デリバリー一本でやっていくとしても「料理人」を「調理オペレーター」とは言わないだろう。
ここをシステム化する事で得られるものと失われるものが大きかったり、常連客が遠のいてしまう事を良しとしないという考え方もある。
このように、変わらない事を求める層が存在する事も忘れてはならない。
ただし、そうは言っても時代は常に変わっているため、変化に対応できないのは問題である事も認識されたい。
要はバランスの問題だが、各従業員の思想や希望には添えるようにしよう。
補足:変化したくない企業と、時代の変化を求められてしまうギャップ
こう言った層に「便利になる」「効率化できる」といっても理解が得られる事はない。
いわば「彼らの面倒臭い業務はなくさず、こだわりの少ないポイントに絞った業務改善を求められている」と言う状態とも言える。
また、敢えてこのような業態を維持しようとしている事もある事を留意しなければならない。
決してクライアントの言いなりになるという事ではないが、クライアントにもこだわりのポイントがあるという事を理解した上で、クライアントのカスタマイズシステムを設計する必要があるだろう。
これがアメリカナイズできるなら「自社で使っているシステムを使いたかったら提供するよ」というスタンスで販売する方法もあるが、残念ながら日本では通用してこなかったので今後も難しいだろう…。
日本製システムはサブスク時代なのに相変わらず買うものではなく売るものである、という流れが変わらない以上はどうにも出来ないのかも知れない。
ファイルストレージサービスほど分かりやすい仕組みになっていない事も課題か。
終身雇用がなくなったからこその「志望動機」の重要性
終身雇用時代は社員の意思に関係なく、会社がレールを敷いてその上から外れないように進むという前提条件のもとに「相互安定」が図られていた。
しかし、転職の選択肢ができた事で従業員のQOLが向上し、結果として会社のレールから外れても生活ができるようになったので、従業員目線では良い時代になったと感じるかも知れない。
ただし、安定を望む層として見ると、雇用の流動性は企業の従業員への信頼を落としてしまい、終身雇用が欠陥のある制度と映ってしまうようになった。
が、終身雇用の本質とは従業員が企業に対し安定を提供する対価として、企業もまた安定を要求するという関係こそにある。
反面、会社の倒産または事業縮小というリスクはあるが、同じように従業員の退職・転職のリスクを受け入れているという事も理解しなければならない。
この前提において、企業は分かりやすく企業理念や経営方針(IR情報でもあるが、分かりやすい指標である)を出しているので、従業員にも同じように勤務理念やキャリア方針を聞き出しているに過ぎない。
これを分かりやすく一言で「志望動機」と言っているので「会社に合わせます」という言葉がなんの志望動機(理念・方針)にもなっていない事が明白であろう。
裏を返せば、会社に合わせられなくなったらどうする?という問題を解消しない限りは信頼関係は成立し得ないと言える。
その点、志望動機を明確にした上で、志望動機に沿う会社であれば採用後長く稼働できる事が期待できる(される)ので、特に就活生は不採用となった事を落ち込むのではなく、自分に合う会社ではないと採用人事のプロが判断したので不幸にならなかった、と前向きに捉えてほしい。
決してあなたが他の候補者と比較して劣っていたから、という理由だけで落としたわけではないのだ。
自分を売り込む事の重要性
まとめ、というか本稿で言いたい事は「フリーランスだからこそ、自分の強みをアピールしないと案件獲得に至らない」という事で、長期稼働も見据えるなら打ち合わせでこそ聞かれないものの志望動機は転職組と同じぐらい自分の中で明確にしないとキャリアパスをうまく描けなくなってしまう可能性が高い事を留意しておこう。
たとえば、高単価の案件を獲得したいと思った時に短絡的に単価の高い案件に応募するだけでは当然ダメで、単価の高い案件の必要スキル要件を確認して、要件を満たせていないならどうやってスキルを獲得するかを考えなければならない。
また、現時点で単価が高い案件も来年、再来年にどうなっているかは分からないので、特化したスキルも大事だが当該スキルや案件は長く続くものなのか、一過性でないのかはしっかりと市場を見極めるなど調査も当然必要になってくる。
また、筆者の経験談から多方面にスキルを伸ばすのではなく、一点集中型で実績を積み上げた後に幅を広げる(新しい技術を学ぶ)ようにすると、将来的にも対応できる範囲を広げやすいのでおすすめする。
注釈
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【売り込み≠契約】筆者は「僕と契約して、◯◯になってよ!」とかいうどこかの白い悪魔を想起する ↩