結論
一言に集約すると「評価ではなく推薦」をする。
対象者
- 研修講師
- 研修企業にて研修の現場に関わるマネージャーの方
- 講師の評価を司る部門の方
今回は想定読者としていなかったが、研修の受講経験者も見るだけは見ておいてほしい。
実務から見る、受講生評価業務の実態
毎週の講師業務のうち、講義準備の他に大きなタスクがある。
それが「週報による受講生評価」である。
目的としては
- それぞれの受講者ごとに研修効果が出ているか
- 効果が上がっていない受講者に対してどのようにフォローしているか
- 社内で対応すべきか
- どんなフォロー施策をすべきか
これらの判断として行うようにしている。
が、実態として何の意味もないと明言しておきたい。
なぜなら、問題があるなら評価システムで通知するより、直接ご担当者まで連絡・相談をするためだ。
が、実際のところは週ごとに書類を作成して相談・提案をするため現場の負荷が高まる一方である事も認識したい。
週別評価運用の懸念:受講者の評価をChatGPTに丸投げされる
評価業務を週報単位にしてしまうと、これが実情になってしまう。
果たして、この運用が健全な評価業務になるだろうか?
去年の段階でChatGPTを取り入れて評価システムを運用したという話は今のところ聞かないが、実際のところ使っている講師は多いのではないかと思う。
1講師につき数人程度であるとか、週別ではなく月別だと品質を上げる努力もするが、週別だと正直書く事はないのだ。
とはいえ、先週同様という表現をされると発注サイドとしては「本当にやってる?」と不安になるだろう。
そこで、受託側は先週の内容をそのままChatGPTに食わせて今週分の内容をそれっぽくコピーライティングさせるという手法を使う事も考えられる。
こういった観点から、評価業務自体の品質を上げるという点に目を向け、評価をする事自体を目的にしてはならない。
期間別:講師自体への評価
多くの場合は研修後に講師評価を用いるケースが多いと思う。
が、講師評価については教材の良し悪しや受講者との相性といった項目は一切考慮されていないため、正しい評価がされていない可能性が高い事に留意されたい。
つまり、講師から受講生への評価はフォローアップのために使われる事が多いので非常に細かく、また定例などでより掘り下げて実施される事が多いが、来年度以降の研修品質についてはなぜかおざなりになってしまっているように感じられて仕方ない。
特に教材評価と講師評価が同一になっているため、教材のブラッシュアップにしても研修現場からキャッチアップされたエラッタの修正にとどまるため、内容自体の品質向上にはつながらない。
筆者はどのように対処しているか?
おそらく、一番聞きたいのはこれだろう。
まず前提として、評価をする事で被評価者の待遇を決めてしまうため、非常に重い行為であるという事を認識したい。
となると、ChatGPTに丸投げして業務負荷を軽減する、というアプローチは本当はしたくない。
そこで、一週間の受講態度や理解度を踏まえてKPTを書いていくようにしている。
- カリキュラムで想定している内容に対し、どのレベルまでは出来るようになった
- 先週からの課題に対して何をしたか。また、新たにどのような問題が生じたか
- 来週の対応方針や受講者へ期待する事
という書き方をしている。
このやり方だと少なくともKの部分は毎回内容は変わるため、同じ文面にはならない。
しかし、この方法でも問題はある。
同じレベル・課題を持つ人は同じグループでも別のグループに分けても似たような理解度・課題になる傾向がある。
基本的にオンラインでもオフラインでも同じ場所(グループ)にして研修を受講し、また課題に対しても議論しながら試行錯誤をしてもらうようにしている。
が、それゆえに同じ質問になる傾向がある。
これが目立ってきた場合は、別グループに分けて解決策を模索してもらったり、また新たな環境にてコミュニケーションをする事で「あの人に聞きにくかったけど、この人には聞きやすい」という状態を発生させていく。
無論、逆に言えば聞きやすい環境から聞きにくい環境に移動してしまうリスクもあるため、注意深く探る必要がある事は言うまでもない。
コミュニケーション促進の程度問題
筆者の所感としては、オンラインでは会話をしながら課題を解いてもらい、オフラインは自分で考える時間を一定時間設けた後に会話を解禁する時間を設定すると、比較的期待するコミュニケーションの結果が生まれるように感じている。
特にオンラインでは会話に対してラグ(両方が同時に話し出す、あるいはグループ内で2つの話題を同時進行できないなど)がある事と、会話ができるとしても話しながら作業をするという事がなかなか難しいため、オンラインだからこそ積極的にコミュニケーションをしていくという場にするためとした。
また、音声だけでなくチャットやリアクションによる方法なども推奨している。彼らはシンプルに、同期的コミュニケーション=発言はしにくいが、非同期的な方法に慣れているからだ。
評価のため、という観点ではないが、受講者間での障壁を如何に取り除いてあげられるか、が講師の手腕の見せ所だろう。
彼らにとって居心地のよい研修環境を作る事は講師目線でも重要であり、また受講者も研修の場を作っているのだと認識してもらう事が相互に良い効果を生みだす事はいうまでもない。
研修終了後:総合評価
受講生にこそ聞いてほしいので、この場で明記しておく。
総合評価における講師の思いを知ってほしい。
研修中の成績によらず、配属先でどのように接すれば良いか、研修期間中最も長く接してきた人間として、現場に引き継ぐためのコメントやオンボーディングのアドバイスを書いている。
本項の名称こそ評価となっているが、実際は評価より推薦状の側面が大きい。
以下、解説していく。
総合評価まで来るとネガティブな事を書く講師は少ないだろう。
ネガティブな面をポジティブに切り替え、今後の研修や配属の提案とする事も決して珍しくないように思う。
自身で指導した受講者を悪く言いたくないのもあるし、いくら適正を感じなかったとは言っても、少しでもエンジニア職に関心を持って業界に入ってきてくれたのだから、何とか継続していってほしいという思いもある。
特に新卒だと入社一社目という事もあり、他の業界や会社と比較する事ができない。そのため、置かれた環境が実は魅力的(少なくとも、入社後研修を実施している会社の数は決して多くない)である事を認識してもらうようにしている。
言い換えると、実案件にこれから入ろうとしている人に対して、悲観的な意見をしたくない=業界全体として、高度なエンジニア人材を育てる必要性を認識しているので、頑張って戦力化し、将来的には講師が参画するプロジェクトなど関連で彼らの手で助けられる可能性もあるのだ。
筆者の推測であり体験でもあるが、一緒に活躍できることを夢見る講師は存在しているはず。
こういった思いもあり、たとえテストの成績が振るわなくても、開発演習で力を発揮できなかったとしても、研修でうまく行かなかった部分をどうこうするのではなく、現在のスキルから現場スキルまでの伸び代を見据えて提案や推薦をしているという事を認識してほしい。
本稿が講師または講師を目指す全ての方、また元受講者に伝われば幸いである。