はじめに
こんにちは、Graatでアジャイルコーチをしている斎藤です。
この記事はグロースエクスパートナーズAdvent Calendar 2024の17日目の記事です。
アジャイルソフトウェア開発宣言には、次のような一節があります:
「技術的卓越性と優れた設計に対する不断の注意が機敏さを高めます。」
「技術的卓越性」という言葉を目にしたとき、多くの人がまず思い浮かべるのは、ソースコードの可読性の向上やテスト駆動開発の導入、DevOpsなどといった、いわゆるIT技術ではないでしょうか。私もかつてはそのように解釈していました。しかし、様々なお客様に関わらせていただいた現在、この一節にある「機敏さ」は単にソフトウェア開発におけるスピードや効率性だけに留まらないと思うようになりました。
ソフトウェア開発を超えて、ビジネス全体で得られるフィードバックを活用し、事業としての変化への対応力や適応力を高めることが、真に求められる「機敏さ」ではないでしょうか。そして、この機敏さを高めるための「卓越した技術」は、IT技術やプログラミングスキルに留まりません。
「技術」の定義を広げる
さて、多くのスクラムチームでは、プログラマー、アーキテクト、QAエンジニアといったITエンジニアが自分たちを「技術者」と認識する一方で、プロダクトオーナーやビジネス部門、スクラムマスターを「非技術者」とみなす傾向が見受けられます。
しかし、プロダクトマネジメントもまた、れっきとした「技術」です。市場調査や戦略立案、予算の確保といった活動から、仮説検証やステークホルダーのマネジメントまで、これらはすべて長い歴史を持つ技術の集積と言えます。
さらに、一見、ふんわりとした印象を持たれがちなスクラムマスターの活動も同様です。チームビルディング、ファシリテーション、ティーチング、ワークショップデザインといったスクラムマスターの活動も、それぞれ一つ一つが一生掛かってもマスターできないほど高度に体系化された技術領域なのです。
チーム外に目を向けても
たとえば、カスタマーリレーション。はじめは怒っていたユーザーを笑顔にさせ、その背後にあるニーズを掴み、いつの間にかプロダクトのファンにさせる.....魔法のような素晴らしい技術だと思います。ここに詳しくは挙げられませんが、マネジメント、営業、経営、人事....などなど、すべてソフトウェア事業全体の機敏さを高めることには欠かせない「技術」です。
まとめ
最近、IT技術者が自分たちだけを「技術者」とみなし、他の職種を少し下に見るような場面にいくつか遭遇することがありました。確かに、ITはその厳格さや論理性ゆえに「技術」として認識されやすい一方で、他の分野の技術のいくつかは一見ファジーに見えるため「技術」に見えづらいことがあります。さらに、「技術」には希少性や市場価値、習得の難易度の差があるかもしれません。(2024年現在、IT技術者は依然として希少性が高く、市場価値も高い状態にあります。)
しかし、「技術的卓越性」とは、単にIT技術における優秀さを指すのではなく、プロダクトマネジメントやチームビルディング、ファシリテーション、カスタマーサポート、マネジメント、営業、経営、人事など、幅広い領域において高度なスキルを追求することを意味します。そして、これらの技術を磨くことこそが、真の「機敏さ」を生み出す原動力となるのです。
ソフトウェアビジネスに関わるすべての人が、自分の専門性を「技術」として認識し、そしてその卓越性を追求し続け、そのようなお互いを「尊敬」し合える文化を築くことが、GxPグループを含めたこれからのソフトウェア企業の成功に繋がるのではないでしょうか。