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「ファイナンス機械学習」翻訳者による解説【第1章】

はじめに

2019年12月に刊行された「ファイナンス機械学習―金融市場分析を変える機械学習アルゴリズムの理論と実践」について、翻訳者が勝手に解説します。本記事は第1章「ファイナンス機械学習という新分野」について。序論ですし解説が必要な中身は特にありませんので、訳者から見た感想、この本の位置づけ、などについて雑感を述べたいと思います。

原著者 マルコス・ロペス・デ・プラド氏について

Marcos López de Prado氏はGuggenheim Partners, AQR Capital等のヘッジファンドを経て、現在はTrue Positive Technologies社を立ち上げ、投資運用における機械学習の活用のコンサルティング・啓蒙活動を行っています。その傍らコーネル大学で教鞭もとっています。
こういう人(↓)です。Twitterでも積極的に発信しているのでフォローしておきましょう。

ちなみにマルコスはスペイン人です。第1章の文章にもそれが垣間見える部分もあり、

Mining gold or silver was a relatively straightforward endeavor during the 16th and 17th centuries. In less than a hundred years, the Spanish treasure fleet quadrupled the amount of precious metals in circulation throughout Europe.(中略) Visible gold is an infinitestimal portion of the overall amount of gold on Earth. El Dorado was always there ... if only Pizarro could have exchanged the sword for a microscope.
金や銀の採掘は、16世紀や17世紀には比較的単純な作業であった。100年足らずの間に、スペイン財宝艦隊がヨーロッパ内の貴金属の流通量を4倍にした。(中略)目に見える金は、地球上の金の埋蔵量のなかでは無限小に近い割合なのである。エル・ドラド(黄金郷)は常にそこにあったのだ...探検家ピサロが剣と引き換えに顕微鏡を持ってさえいれば。

てな感じの、スペイン人でないとピンとこない(?)記述もあったりします。
現在はニューヨークを拠点に活動するマルコスですが、日本にはまだ来たことがないそうです。本書が反響を呼んでカンファレンスなど開催することができれば、招待して初来日が実現できるかもしれませんね!

計量経済学 vs 機械学習

ファイナンス・資産運用における機械学習のエバンジェリストであるマルコス。
こちらのインタビュー記事に詳しいですが、マルコスは機械学習などのテクノロジーを積極的に取り入れるクオンツ運用者を"math quants"、ファイナンス理論に基づいたクオンツ運用者を"econ quants"と称しています。そしてもちろん、前者を称賛し後者をディスっています。
上記記事においてマルコスは"math quants"の例として、"Renaissance Technologies, Two Sigma, DE Shaw, Capital Fund Management, TGS, PDT, Citadel" といった会社を挙げています。一方の"econ quants"については名指しを避けています。

第1章ではこのマルコス節が随所に炸裂しており、訳していてもヒヤヒヤし、そしてとても面白い章でした。

計量経済学をディスった部分はこちら。

The essential tool of econometrics is multivariate linear regression an 18th-century technology that was already mastered by Gauss before 1794. (中略) It is hard to believe that something as complex as 21st-century finance could be grasped by something as simple as inverting a covariance matrix.
計量経済学の主要なツールは重回帰分析であり、これはガウスが1794年時点ですでに活用していた、18世紀の手法である。(中略)21世紀のファイナンスのような複雑な事象を、共分散行列の逆行列を求めるというシンプルな手法によって把握できるとは思えない。

このように、多変量線形回帰(マルチファクターモデル)を主要なツールとする従来のクオンツ運用("econ quants")を思い切りディスっています。

対してファイナンス学派は、なるべくシンプルなモデルで経済事象を表現することにこだわってきました。こうしたファイナンス派"econ quants"の側から、データドリブン・機械学習派の"math quants"に反論すると以下のようになるでしょう。
「金融データはS/N比が低く、常に構造変化にさらされている。このため機械学習の複雑な(パラメータの多い)モデルを用いると、ノイズを拾う(オーバーフィットする)だけで予測には役に立たない。なるべくシンプルなモデル(=線形回帰)で、かつ経済理論と整合性のあるモデルが最も説明力があるのだ」

econ quantsとmath quants。最適なバランスは、この両者の間のどこかにあるのでしょう。そして、そのバランスはecon quantsから、急速にではなく徐々に、math quantsサイドへシフトしているのかもしれません。

一方、マルコスは次のように機械学習万能論にもクギをさしています。

Many investment managers believe that the secret to riches is to implement an extremely complex ML algorithm. They are setting themselves up for a disappointment. If it was as easy as coding a state-of-the-art classifier, most people in Silicon Valley would be billinaires.
多くの運用マネージャーが、富の秘訣は非常に複雑な機械学習アルゴリズムを構築することだと信じている。彼らは失望することになるだろう。それが単に最先端の分類器をコーディングするだけのように簡単なことであれば、シリコンバレーにいる多くの人たちが億万長者になっていることだろう。

また、訳者も出版社も予想していなかったことに、本書が仮想通貨botter界隈で話題になっているのもこの議論と無関係ではないでしょう。仮想通貨には、株式や債券など他の金融商品と異なり、その価値の裏付けとなるファンダメンタルが存在しません。したがって予測には機械学習の手法が比較的有効である(というかこういったパターン認識手法でしか予測できない)のかもしれません。

本書を読む上で前提とする知識について

本章の訳者から一つ補足しておきたい点があります。本書を読む上で前提とする知識(requisites)として、1.5節でマルコスは以下のように書いています。

投資運用は最も学際的な研究分野の1つであり、本書もそれを反映している。本書の隅々まで理解するためには、機械学習、マーケットマイクロストラクチャー、ポートフォリオ管理、数理ファイナンス、統計学、計量経済学、線形代数、最適化、離散数学、信号処理、情報理論、オブジェクト指向プログラミング、並列処理、スーパーコンピューティングにおける実践的な知識が必要となる。

はいそこの貴方、本を閉じないでください^^; 個人的意見ですがこの部分は大いに誇張した表現なので、安心して読み進めていただければと思います。そもそも、上記の各分野にすべて精通している人はまずいないでしょう。確かに本書の守備範囲は広くて多様なトピックをカバーしていますが、議論の深さには濃淡もあり情報理論とか量子コンピューティングとかの部分は極めてさらっとしたものです。前提知識のない部分を読む際も安心してお読みください。
また1.3節に「本書の各章は、読者が以前の章を読んでいることを前提としている」という記述もありますが、これも必ずしもそうでもなく、各章十分独立していて興味のある章だけつまみ食いすることも可能だと思います。

おわりに

翻訳についてですが、最初の章なので読みやすくなるよう、できる限り表現は工夫しました。第1章でお気に入りの文章は、ここですかね。

The Luddite rebellion ended with brutal suppression through military force. Let us hope that the black box movement does not come to that.
ラッダイト運動は、最終的には武力により鎮圧された。ブラックボックス運動が同じ結末をたどらないことを祈ろう。

お読みいただきありがとうございました。

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