はじめに
この記事は、2023年Advent Calendarの12月21日の記事です。
私はGoでovというターミナルページャーをまじめに作っています。
ovはtcellを使って構築されていて、tcellを使い倒している方だと思うので、tcellの使い方を解説します。
GoのTUIライブラリ
その前に、GoのTUIライブラリについて説明します。
Goでターミナル上でアプリケーションを作る(いわゆるTUIアプリケーション)には、以下のライブラリが多く使われています。
termbox-goは、現在は開発が止まっていますので、新しく作る場合はbubbleteaかtcellにtviewを組み合わせて使うのが良いと思います。
どちらもウィジットが用意されていて豊富なサンプルもありますので、自分が使いたいアプリケーションに合うものを選ぶと良いでしょう。
そういったウィジットではなく、ターミナル上で自由に描画したい場合は、tcellを直接使うことになります。ライブラリを使用せずに直接という選択肢も無いわけではありませんが、多くのターミナルエミュレーターで動作するようにするのは大変ですので、tcellを使うのが良いと思います。
tcellとは
tcellは、ターミナルエミュレーターの差異を吸収して、描画とイベント処理を行ってくれるライブラリです。描画に関しては、端末上に直接1文字1文字置いていけるので、面倒くさい、自由度の高い描画ができます。
tcellの使い方
tcellの使い方は、まずNewScreen()で画面を開き、Init()で初期化します。
screenに対してSetContent()で文字を置きます。
そしてイベントをPollEvent()で取得して、イベントに応じて処理をおこないShow()で画面を更新します。この繰り返しがメインの処理です。
最後はFini()で終了します。
以下が基本的な例です。
package main
import (
"github.com/gdamore/tcell/v2"
)
func main() {
// 画面を開く
screen, err := tcell.NewScreen()
if err != nil {
panic(err)
}
if err := screen.Init(); err != nil {
panic(err)
}
defer screen.Fini()
// イベントを処理する
eventLoop(screen)
}
// イベントループ
func eventLoop(screen tcell.Screen) {
for {
// イベントを取得する
ev := screen.PollEvent()
switch ev := ev.(type) {
case *tcell.EventKey:
// キーイベントの場合
if ev.Key() == tcell.KeyEscape {
// ESCキーが押されたら終了する
return
} else {
otherEvent(screen)
}
case *tcell.EventResize:
// リサイズイベントの場合
screen.Sync()
}
// 画面を更新する
screen.Show()
}
}
var str []rune = []rune("Hello, world!")
var x = 0
// その他のイベント
func otherEvent(screen tcell.Screen) {
if x >= len(str) {
x = 0
screen.Clear()
}
screen.SetContent(x, 0, str[x], nil, tcell.StyleDefault)
x++
}
このプログラムではESCキー以外のキーが押されると、Hello, world!を1文字ずつ表示します。ESCキーが押されると終了します。
tcellでは、新しい画面が開かれると、ターミナル全体がキャンバスのようになり、終了すると元の画面にもどります(Windowsなど一部のターミナルエミュレーターでは、元の画面に戻らない場合があります)。
画面の描画
画面の描画は、SetContent()で行います。
引数は、x座標、y座標、メインの文字(rune)、結合文字の配列(rune)、スタイルです。
端末より大きい座標に描画しても描画されません。そのため本来はscreen.Size()でサイズを取得して、その範囲内に描画する必要があります。
メインの文字はrune単位で指定します。ターミナルエミュレーターが対応している場合は、日本語などの表示も問題ありません。
ただ、倍の幅を持つ文字(いわゆる全角文字)をセットしたときには、右隣の座標を空けて、x座標を2つ進める必要があります。
この判定はmattnさんのgo-runewidthを使うのが普通です。
そのため、日本語などを表示する場合は、以下のように変更する必要があります。
import (
runewidth "github.com/mattn/go-runewidth" // 追加
)
var str []rune = []rune("こんにちは世界!")
var x, i = 0, 0
// その他のイベント
func otherEvent(screen tcell.Screen) {
if i >= len(str) {
x = 0
i = 0
screen.Clear()
}
screen.SetContent(x, 0, str[i], nil, tcell.StyleDefault)
i++
x += runewidth.RuneWidth(str[i])
}
文字(rune)のカウントとx座標のカウントを別に行っています。
あいまい幅
上記で、多くの文字は対応できていますが、注意すべき点があります。
Unicodeで、一つのコードで幅が1でも2でも良い文字があります。これをあいまい幅と言います。
ターミナルエミュレーターによって、あいまい幅の幅が決定されますが、アプリケーション側から、その幅を得る統一的な方法がありません。
ターミナルエミュレーターによっては、設定できる場合があります。
曖昧幅の文字(w): 半角 or 全角
この幅とrunewidth.RuneWidthが返す幅が異なる場合があります。そうすると文字が重なって表示されなくなったり、空白ができたりします。
例えば、"┌───────こんにちは世界!───────┐"のような文字列を表示したい場合があります。この場合、罫線があいまい幅であるため、ターミナルエミュレーターによって表示が変わってしまいます。
そのため、RUNEWIDTH_EASTASIAN
という環境変数を設定して、あいまい幅の幅を指定することが必要な場合があります。
var str []rune = []rune("┌───────こんにちは世界!───────┐")
var x, i = 0, 0
// その他のイベント
func otherEvent(screen tcell.Screen) {
if i >= len(str) {
x = 0
i = 0
screen.Clear()
}
screen.SetContent(x, 0, str[i], nil, tcell.StyleDefault)
w := fmt.Sprintf("%d", runewidth.RuneWidth(str[i]))
screen.SetContent(x, 1, []rune(w)[0], nil, tcell.StyleDefault)
x += runewidth.RuneWidth(str[i])
i++
}
- 曖昧幅が半角、
RUNEWIDTH_EASTASIAN=0
の場合(A)
- 曖昧幅が全角、
RUNEWIDTH_EASTASIAN=1
の場合(B)
- 曖昧幅が全角、
RUNEWIDTH_EASTASIAN=0
の場合(C)
- 曖昧幅が半角、
RUNEWIDTH_EASTASIAN=1
の場合(D)
A,Bはあっていますが、C,Dはあっていないため、表示に問題がでています。
ターミナルエミュレーターに合わせて環境変数を設定してもらえば良いですが、あいまい幅を仮定してアプレケーションを構築してしまうと、ターミナルエミュレーターでは設定できなかったり、設定してもらうのが難しい場合があるので注意が必要です。
結合文字
Goのruneは、厳密には1文でではなく、2つ以上のruneを組み合わせて1つの文字を表現することができます。これを結合文字と言います。tcellでは、結合文字をサポートしています。
例えば、「か」に「゜」をつけると「か゚」になります。これは、U+304B(か)とU+309A(゜)を組み合わせています。これはruneを2つ使用していますので、SetContentのメインの文字では表現できません。結合文字を配列として渡す必要があります。
var str []rune = []rune("かきくけこ")
var x, i = 0, 0
// その他のイベント
func otherEvent(screen tcell.Screen) {
if i >= len(str) {
x = 0
i = 0
screen.Clear()
}
screen.SetContent(x, 0, str[i], []rune{'\u309A'}, tcell.StyleDefault)
x += runewidth.RuneWidth(str[i])
i++
}
結合文字により、絵文字の結合文字等も表現できますが、実際に結合されて表示されるかは、ターミナルエミュレーターと使用するフォントに依存します。Unicodeの新しいバージョンでサポートされた文字は、まだターミナルエミュレーターに対応していない場合があります。
注意 その場合は右側にはみ出して別の文がが表示される場合があり、tcellの管理外になります。
スタイル
スタイルは、文字の色、背景色、文字の装飾を指定できます。
文字の装飾には、太字、斜体、下線、反転、点滅、消去線等があります。
スタイルは、StyleDefaultを基準にして、Foreground()、Background()、Reverse()、Bold()、Blink()、Underline()、Dim()、Italic()、StrikeThrough()、Reverse()で指定します。メソッドチェーンで指定できます。
style := tcell.DefaultStyle
style = style.Foreground(tcell.ColorRed).Reverse(true)
style = style.Underline(true)
screen.SetContent(0, 0, 'A', nil, style)
色名の他にRGB値で指定することもできます。ただし、ターミナルエミュレーターによっては、RGB値がサポートされていない場合があります。
style := tcell.StyleDefault.Background(tcell.ColorRGB(0, 0, 0))
style = style.Foreground(tcell.ColorRGB(255, 255, 255))
イベント処理
イベント処理は、PollEvent()でイベントを取得して、イベントに応じて処理をおこないます。
イベントは、キーイベント、マウスイベント、リサイズイベントなどがあります。さらにユーザーが定義したイベントを作成することができます。
イベント処理は、イベントを取得して、それに基づいてSetContent()で画面を更新し、Show()で画面を表示します。このループは一つのgoroutineで行います。
そのため、イベント処理中に時間がかかる処理を行うと、その間に他のイベントは処理されないことになって終了キーを押しても終了しないなどの問題が発生します。
イベント処理に時間がかかる場合は、別のgoroutineを使用して、画面の更新は別のイベントを呼び出すようにします。イベントの呼び出し自体は、非同期に呼び出せます。
キーイベント
キーイベントは、*tcell.EventKey型です。PollEvent()のイベントを型アサーションによって取得できます。
キーイベントは、押したときではなく、押して離れたときに発生します。キーリピートが設定されているときは、リピートのタイミングで発生します。
ev := screen.PollEvent()
switch ev := ev.(type) {
case *tcell.EventKey:
...
}
*tcell.EventKey は、Key()でキーの種類を取得できます。キーの種類は、Key型です。
Key()の返り値とtcell.KeyEscapeの値を比較することで、ESCキーが押されたかどうかを判定できます。
また印字可能なキー(英数字等)は、Rune()で取得できます。
Runeだったら、画面に表示するように書き換えると以下のようになります。
if ev.Key() == tcell.KeyEscape {
...
} else {
if r : ev.Rune(); r != 0 {
otherEvent(screen, r)
}
}
〜省略〜
var i = 0
// その他のイベント
func otherEvent(screen tcell.Screen, r rune) {
if i >= 10 {
i = 0
screen.Clear()
}
screen.SetContent(i, 0, r, nil, tcell.StyleDefault)
i += runewidth.RuneWidth(r)
}
一応日本語も表示されます。結合文字は対応していません。runeが結合文字の場合は、その前の文字の位置の結合文字の配列に追加する必要があります(その前の文字が全角幅なら-1ではなく-2の位置と…複雑になります)。
さらに Modifiers()で修飾キーの情報を取得できます。修飾キーは、KeyMod型です。
注意が必要なのは、キーイベントでは、修飾キーが押されたキーと既存のキーが同じに扱われる場合があるということです。
例えば Ctrl+HはBackspaceと同じに扱われます。Ctrl+Hを押すと、Backspaceのキーイベントが発生します。
またShift
+アルファベットは、大文字のアルファベット(rune)でイベントが発生してShift
が修飾キーにならない場合と、なる場合があったりします。OSやターミナルエミュレーターによって異なるため、割り当てるとまずいキーが多く存在します。
キーイベントとイベントハンドラの割り当ては、多くなってくると管理が大変になり、設定による変更も難しくなります。
自前で書くこともできますが、cbindを使うと楽にできます。
マウスイベント
マウスイベントは、*tcell.EventMouse型です。
PollEvent()のイベントを型アサーションによって取得できます。
マウスイベントは(ターミナルエミュレーターがサポートしていれば)マウスカーソルが移動したときにも発生させることができます。
そうするとイベントが頻繁に発生するため、処理が重くなるので、マウスイベントを有効にするときに選択できます。
- MouseButtonEvents = MouseFlags(1) // クリックのみ
- MouseDragEvents = MouseFlags(2) // クリックとドラッグ
- MouseMotionEvents = MouseFlags(4) // すべてのマウスイベント
スクリーンを初期化した後に、EnableMouse()で有効にします。
screen.EnableMouse(tcell.MouseButtonEvents)
これでインベントループのときに、マウスイベントを取得できます。
ev := screen.PollEvent()
switch ev := ev.(type) {
case *tcell.EventKey:
...
case *tcell.EventMouse:
// マウスイベントの場合
otherEvent(screen)
}
ev.Buttons()でマウスのボタンの種類を取得できます。ButtonMask型です。
以下のようにすれば、左クリックのみの場合に処理を行うことができます。
case *tcell.EventMouse:
if ev.Buttons()&tcell.Button1 != 0 {
otherEvent(screen)
}
まとめ
tcellを使って、アプリケーションを作る基本的な方法を説明しました。
まだ紹介しきれていない機能もありますので、_demosなどのサンプルを参考にしてください。