テクノロジー検証 Advent Calendar 2022 17日目の記事です。
本記事では日本語入力ソフトSKK(Simple Kana to Kanji conversion program)を紹介します。
1. 概要
SKKは1987年に生まれた日本語入力ソフトです。テキストエディタ emacs 上で動作します。
一般的なMS-IMEなどと同じく、主にローマ字入力されたひらがなを漢字に変換します。
変換方法がなかなかクセのある仕組みで、万人向けではありませんが、こんな方式もあるんだなと知るのも面白いかと思います。
2. 特徴
(私の思う)SKKの特徴は以下の2点です。
単語分解を行わない
日本語は英語と違い、単語がスペースで区切られていません。
そのため、辞書を用いて漢字変換を行うには、文を単語単位に分解する必要があります。
多くの日本語入力ソフトはソフトウェアが単語分解を行い、分解した単語を漢字変換します。
いっぽうでSKKでは、単語分解を人間(入力者)が行う必要があります。
文脈を読まない
例えば「はかる」という言葉は文脈によって使用する漢字が異なります。(図る、測る、計るなど)
Google 日本語入力などのソフトウェアでは、文脈から適切な言葉を選択してくれます。
いっぽうでSKKは、そのような類推は行ってくれません。
2. 例文による一般的な日本語入力ソフトとの比較
ここでは「今日は医者までの距離を測ろう」という例文をGoogle日本語入力とSKKとで入力してみます。
1. Google 日本語入力の場合
Google日本語入力では、とくに深く考えずに先頭から最後までローマ字で入力しスペースキーで変換します。
以下では△はスペースキー入力を表しています。
kyouhahaisyamadenokyoriwohakarou△ → 今日はい者までの距離を測ろう
ソフトウェアによる単語分解の結果、単語の切る場所が意図通りになりませんでした。
カーソルキーなどで意図通りに変える必要があります。
しかし「はかる」は文脈を読んで正しく変換してくれました。
2. SKKの場合
SKKでも基本はローマ字で入力します。
ローマ字の最初の文字を大文字で入力すると、その後に入力する文字が変換対象となります。
スペースキーで変換を開始します。意図通りの結果がでなければ、スペースキーをまた押して次の候補を表示させます。
ここで注意が必要なのは、SKKは基本的に変換候補は単語でなければならない点です。
単語の区切りは入力者が指定する必要があるわけです。
Kyouha△では「今日は」は出せません。Kyou△haと入力する必要があります。
逆に考えれば、入力者が指定しますので、ソフトウェアによる単語区切りの失敗が発生しません。
Kyou△ha → 今日は
Isya△madenoKyori△wo → 医者までの距離を
続いて送り仮名についてです。
SKKでは送り仮名の一部が含まれて辞書に登録されています。
例えばSKKの代表的な辞書であるSKK-JISYO.Lでは「測ろう」を変換する場合に使用されるエントリは以下のように登録されています。
はかr /図;和解を図る/測;距離を測る/計;時間を計る,見計らう/量;体重を量る/諮;委員会に諮る/謀;暗殺を謀る/企/圖;「図」の旧字/
(;以降はアノテーション用です。SKKでは変換候補ごとにアノテーションをつけることができます。詳細は省略します。)
例文に戻ると
HakaRo → 図ろ
Hakaで「はか」までが変換対象になります。そして送り仮名のRを大文字で入力することで
SKKに対して「はか」までが変換候補で送り仮名にrが使われることが伝わります。
結果、oまで入力することで上記のように「図ろ」と変換されます。
上記特徴のように、SKKでは文脈をよみません。辞書の先頭もしくは前回使用した候補を最初に表示します。
初めて「はかr」を変換するときには辞書の先頭の「図r」が用いられます。
次の変換からは最後に確定した候補が最初に表示されます。
つまり、人が必要に応じてスペースキーを押して、正しい漢字を選ぶ必要があるわけです。
HakaRo△u → 測ろう
3. どんな人におすすめか?
「パソコンの漢字変換は頭が悪い」と不満に思っている人におすすめです。
あまりソフトウェアを信用しておらず、自分の入力する漢字は細かく自分で指定したい、という人にも向いています。
送り仮名の入力がスムーズにいくと気持ちが良いので、まるで文房具で文を書いているような感覚も味わえます。
しかしながら、送り仮名や漢字の知識がないと、かえってストレスが溜まるかもしれません。
私も以前はSKKを常用していましたが、実は最近はSKKを使い始めてもすぐMS-IME等に戻ってしまっています。
なかなか使う人を選ぶ方式であると言えるでしょう。
4. どうやって試す?
冒頭で書いたように、SKKはemacsというテキストエディタで動作するソフトウェアです。
しかしながら、emacsに依存せずOSネイティブな環境にもSKKライクなソフトウェアが実装されています。
Windows環境であれば、CorvusSKKがいちばん手っ取り早いでしょう。
Microsoft Storeからインストールすることができます。
macOS環境であればAquaSKKをどうぞ。
まとめ
日本語入力ソフトSKKを紹介しました。
説明を読むとややこしいと感じるかもしれませんが、使ってみるとその名の通りシンプルです。(使いやすいという意味ではありません)
興味を持った方は試してみてはいかがでしょうか