プロジェクトXに『メルカリ』が!
NHKで人気を博したドキュメンタリー番組『プロジェクトX』がリメイクされフリマサービスの『メルカリ』が特集されました。創業秘話などが語られ、ネットでも話題となっています。
メルカリと言うポップな会社とは異なる真面目な山田CEOの素顔など面白かったのですが、ただ正直ちょっと前に見た『BlackBerry』(こちらは映画ですが… 後述)の方がインパクトがあったのと、若い人にはわからないと思いますが私は『プロジェクトX』は学校の社会の授業で無理やり見させられた記憶がよみがえりなんとも言い難い思いとなりました。
そんなことを考えていると、自分はスタートアップIT企業など実話を基にしたドラマ・映画そこそこ見ている気がしてきたので、勝手にうだうだ書きたいと思います。
※一部ネタバレしますので、内容知りたくない方は見出しでタイトルだけ確認して下さい。
おすすめ度が低い順に4作+α紹介します。
ザ・プレイリスト(Netflixのみ)
ザ・プレイリストは音楽サブスクの先駆け『Spotify』が世界的な企業になるまでを描いた全6話のNetflixオリジナルドラマです。
毎回登場人物別に視点が変わるようになっており、1話の主人公は創業者で現CEOのダニエル・エク。エクは生粋のプログラマーで技術はあるものの学歴などがネックで有名企業に入れず鬱屈としていましたが、当時音楽界を騒がせていた パイレート・ベイ問題から着想してSpotifyを立ち上げることにします。
2000年初期はP2Pによるファイル共有ソフトが全盛期で、日本ではWinMXやWinnyが有名になりました。(ちなみに2004年がWinnyの作者である金子氏が逮捕された年です)パイレート・ベイはそのP2Pで流通したファイルを検索しやすくした世界中に利用者を持つ人気のサイトでした。
知らない人は『P2P?』って感じですが、ざっくり言うとソフト利用者がみな共有フォルダを持ち利用者同士ののパソコンが動画なり音楽なりをお互いダウンロードしあうという技術です。
ソフト自体は違法ではないですが、著作物を勝手に配布をしているので結果的に違法ダウンロードサイトに近い使われ方となります。ただここら辺の時期はドラマでもあるように『ネットにデータあるのにわざわざCD使う?』というような、正規の配信サービスがなくもぞかしい状態であり、みな当たり前のようにネットからダウンロードしていました。
そんな中でエクはパイレートのベイの使い勝手の悪さと、アーティストに還元がないことに目を付け、ネット上で優れた音楽配信サービスとなるSpotifyの構築を目指します。
しかし、強固な既得権団体となるレコード会社の壁や還元するはずのアーティストから思わぬ反撃が…といったストーリーとなっています。
創業者がプログラマーなのでザッカーバーグが主人公のFacebookができるまでを描いた「ソーシャル・ネットワーク」とちょっと似ているかもしれません。ストリーミングのスピードなどSpotifyの技術的なこだわりなどが描かれていて、世界を驚かす新しいもの作ろうとする感じがわくわくさせてくれます。
ただ毎回主人公が変わるので「ストーリーの展開を楽しむ」というドラマとして期待するとあんまりかもしれません。アーティストとプラットフォームの関係などを考えさせられる社会的なドラマといった感じです。
おすすめ度 ★★★
スーパーパンプト / Uber(U-NEXTのみ)
スーパーパンプトはアメリカの企業『Uber』、主にその創業者のトラビス・カラニックについて描いた全7話のドラマです。
日本ではUber=Uber Eatsと大きな存在感はないですが、アメリカではUberはライドシェアサービスとしてタクシー業界を脅かすまでに成長。『ユニコーン企業』(評価額が10億ドル以上の急成長を遂げた企業)という言葉もUberが広めたと言えなくもないぐらいです。
ドラマはCEOのトラビス・カラニックがとにかく破天荒。
投資家への嘘やスキャンダルのもみ消しは当たり前。ライバル企業Lyftからドライバーの引き抜き、挙句は企業ごと買収を仕掛けてみたり、さらに配車アプリではポリシーに反したユーザ情報の収集、規制回避のため権限の偽装などをエンジニアに指示しAppleストアから締め出しを食らうなど、Uberの利益のためにもうめちゃくちゃなことを行います。
この傲慢で俺様主義のトラビスはAppleのCEOティム・クックなどの大物たちからはもちろん、次第に周りのメンバーからも呆れられる始末。
トラビスは様々な悪事が祟ってUberを追い出されますが、その追い出されるまでを描いたドラマとなります。
ドラマとしては展開が読めずスリリングでめちゃくちゃ面白い!
ただ、トラビスが去ってもアメリカではUberは消えることなく存在し社会の一部を担っているとことに対し「やっぱりこれくらいめちゃくちゃじゃないとビジネスなんてできないのかな…」となんとも複雑な思いになります。
特に冒頭話題に挙げたメルカリがアメリカ進出で苦戦していることも「トラビスが足りない?」と日本の企業は行儀が良すぎるのではと勝手に憂慮してみたりもします。
まぁ日本の企業は日本の企業のよさがあると願いたいです。
エンタメとしてはめちゃくちゃな会社の方が面白いですね笑
おすすめ度 ★★★★
BlackBerry(Netflixなど複数)
BlackBerry(ブラックベリー)はタイトル通りカナダのモバイル企業BlackBerryの栄枯盛衰を描いた映画です。
BlackBerryは2002年からBlackBerryシリーズとして携帯電話を発売しており、覚えている人もいるかと思いますが 「キーボードのついた携帯電話」 というガラケー以上スマホ未満のような感じで日本でも販売されました。
今はスマホでメールなんて当たり前ですが、2010年頃はPCと同じメールを携帯電話から見れるというのは画期的で(キャリアメールではなく)ビジネスマンを中心に大ヒット。アメリカ元大統領オバマ氏も愛好家として知られていました。
それを技術的に可能にしたのがマイク・ラザリディスとダグラス・フレギンの2人のエンジニアです。実話かわかりませんが映画で2人は頭にバンダナなんか巻いたザ・ヲタクとして描かれ、週末は会社のメンバーで「スターウォーズ」を見ることを楽しみとした超意識の低い小さな通信機器の会社(RIM)を営んでいました。
そこに現れたのが鬼の実業家であるジム・バルシリーです。
RIMの技術に目を付け会社を買収しようとし、それが断られると強引にラザリディスとともに共同CEOに就任。
突如現れたCEOにそれまでのサークルのような会社の雰囲気は一転。
超短気のジムはことあるごとに怒鳴り散らし、電話をぶち壊しながら、猛烈に社員にムチを叩き新たな携帯電話Blackberryの売り出しにかかります。
ビジネスマネジメント能力に長けたジムと最先端の技術を持つラザリディスの力でBlackberryは世界にまで名を轟かせピーク時には8,500万人ものユーザをもつ会社まで一気に成長します。
が
2007年に革命が起きてしまいます。それはIPhoneの発売です。 今では当たり前となった液晶のタッチパネルによる操作は当時は魔法のようなものでキーボードのついたBlackberryは徐々に時代遅れのものとなってしまいます。
この時点でBlackberryをタッチパネルに切り替えればよかったのですが、ラザリディスの頑固すぎるスタンスにより中々舵を切ることができません。さらにジムはジムで強引すぎるやり口が祟り(Uberのトラビスと似ていますが)証券取引委員会から目を付けられてしまいます。
そして過去のものとなってしまった「BlackBerry」。熾烈な技術競争の一幕を描いた作品となっています。
上記2つと違って映画なのでサクッと見れるのでおすすめです。
この映画を見た感想は「IPhone登場って恐ろしかったんだな…」につきます。
最近出たIPhone16の巷の声はAIが搭載されていても「物足りない」となってしまいましたが、スマホが出た当初は「物理ボタンがないとなんか嫌…」なんて進化を受け入れきれていなかったのが、もうそれが当たり前になると更なる要求を始める…
技術進化の恐ろしさを認識させてくれる作品です。
おすすめ度 ★★★★
ビリオンダラー・コード(Netflixのみ)
ビリオンダラー・コードはドイツのART+COM社が開発したTerravision (テラビジョン)をめぐるNetflixオリジナルドラマです。
今までの作品と比べサービスの知名度が下がりましたが、Terravisionはどういうものかというと大きな球体とジョグのようなものをコントローラーとし、地球を衛星の視点から現在の我々の視点まで自在に動かして見ることができる地球を仮想的に現わした3Dマッピングソフトです。
何か見たことがあると思われるかもしれません。そうですこれはGoogleEarthです。ドラマはGoogleをART+COM社のメンバーが約10年越しに訴訟する裁判の経緯と並行して、Terravision開発までを振り返る構成となっています。
※実話を基にしていますが登場人物の名前は変わっているようです
Terravisionは美大生のカルステンとハッカーのユーリーによって作られました。2人は偶然ナイトクラブで出会い、「メタバース」という言葉を作ったSF作家のニール・スティーヴンスンの
「ハッカーはアーティストになる」
という作中の一文を通じ意気投合。
まだ未完成ながら大見得を切ってテレコム社(ドイツのNTTのような会社)から支援をしてもらい、京都で開かれたITU会議に間に合わせTerravisionをお披露目。世界中の人たちから驚かれ、その後「デジタル時代の発明トップ50」に選ばれるなど大成功を収めます。
そして2人はART+COM設立。Terravisionを業務用のコンピューターではなく家庭用のパソコンで誰でも動かせるように開発を進めます。ドイツのメディアにも先鋭的技術の企業として取り上げられ順風満帆…
のはずでしたが、先にGoogleがパソコンで動かせるGoogleEarthを発表します。
なぜそんなことが…というと2人はシリコンバレーを訪れた際に"コンピュータの神"と呼ばれていたブライアン・アンダーソンという人物に出会っていました。
ユーリーはブライアンを崇拝しており、さらに当時のシリコンバレーはヒッピー文化をベースに"自由と平等の理想はデジタル技術により実現できる"といったような理想主義で満ちていて、幼い頃からコンピューターと共に生きてきたユーリーにとってはまさに夢のような世界。ここの空気に完全に酔いしれてしまいます。
そしてその桃源郷の住人のブライアンに認められたいがためか、うっかりユーリーはTerravisionのコアな技術を話してしまいます。その後、自由人 -ヒッピー- のはずのブライアンはGoogleにスカウトされGoogleEarthの開発に参加し…ということでした。
そして時が経ちTerravisionは埋もれてしまい、ART+COMから離れたカルステンとユーリー。当時はなすすべが無かった2人ですが、Apple VS サムスンも担当した敏腕弁護士により、アルゴリズムの特許を盾にGoogleを訴訟することを決めます。はたしてその結果は…
Terravision開発当時は「インターネット?せいぜい学者が文献検索のための使うだけでしょ?」という時代のときから、2人が既にネット上で買い物を始めあらゆる活動ができるようになるとメタバースのようなイメージを語っていたのには驚きました。(ドラマ内の脚色かもしれませんが…)
ただプログラマーにとって夢の国のはずのシリコンバレーに関わったことが仇となるとは何とも皮肉なストーリーです。。
Googleもシリコンバレー出身のヒッピーの一員のはずが(違うかもしれませんが)いつの間にか特許の振りかざすいわいる"体制側"のようになってしまうのは会社が大きくなるにつれ仕方がないのですかね。
最初の方に見たからなのか自分でも理由はよくわからないですが、4つの中でこれが一番おすすめです。
おすすめ度 ★★★★★
おわりに
もちろんこの4つが全てではないですが、大まかな作品は挙げられているか思います…
これらの作品はほぼ"当時は誰も想像していなかった"が面白いところになります。
これがITの魅力なのでしょうね(適当)。
興味あるものありましたらこれから年末にかけて見てみて下さい!
おまけ WeWork/470億ドル企業を崩落させた男
WeWorkはIT企業ではないので除外しましたが、面白かったのでおまけで書きます。(しかも映画でなくドキュメンタリーでした…)
WeWorkは2010年に設立したオフィススペースの貸し出しを行う企業で、丁度 "ノマドワーカー" なんて言葉ができた頃に従来の『毎日同じ会社の席に座って仕事』という観念を脱却、色んな会社の人がオフィスを共有するという新たな働き方を提唱し広めようとしました。「コワーキングスペース」なんて言葉もこの頃にできたのかと思います。
I(私)ではなくWe(私達)
を合言葉にアダムのカリスマ性というか教祖性により、この新たな働き方に共鳴する人が続出。投資家もアダムの言葉に魅力を感じお金をとにかく集めます。
有名なのがソフトバンクでWeWorkに100億ドル越えの投資を行いました。
(ドラマ中にのアダムが孫さんに直談判するシーンがあります。)
が
結局はただのレンタルオフィスであり、コロナ明けでリモートから出社回帰が起こるように、人の働き方に革命は起きず業績は期待ほど伸びませんでした。
(ちなみにホリエモン氏はWeWorkのことをボロカス言っていたようです。)
にもかかわらずアダムは無理な投資を継続。結果、不正会計などがばれてアダムはWeWorkを追われることになります。(WeWorkは2023年に倒産申請、2024年に日本でもソフトバンク子会社に清算されることとなりました)
先述のUberは生き残りましたが、本当に幻となってしまったユニコーン企業のドキュメンタリー映画です。
事実に基づいているかどうかわかりませんが、アダムが孫さんに投資をお願いするシーンがあるのではそれは移動中の車の中で行われ、しかも孫さんは事業内容をほとんど聞かずに出資を決めています。
「いやー1流の経営者はやっぱりやることが違うなー」
と思っちゃいましたが、これでソフトバンクはWeWork関連で1兆くらい損失を出したらしいです。。
やっぱり人の話は聞いた方がよさそうですね。