#はじめに
博士課程の学生の就活の方法について、自分の経験談を元に、なるべく専門分野は限定せず、一般的な形で解説したいと思います。また、博士ならではの就活方法やアピールなども記載していきます。
これから就職活動をしようとしている学生や、博士の採用を検討している企業の方の参考なれば幸いです。
#就職活動を始める前に
博士課程の学生が就職活動を始める前にやっておきたいことが2つあります。それは以下の通りです。
##まずは自分の研究を優先させること
博士課程に進学する理由の1つとして、博士号の取得が挙げられると思います。もちろん、単位取得退学や中退なども博士課程の学生のメジャーな選択肢の一つだと思いますが、もし博士号の取得を目指すのであれば、進路のことよりもまず研究を優先すべきだと思います。
その理由として、まず卒業見込み取得の予測が難しいことが挙げられます。卒業要件は多くの場合、学術誌や国際学会などで論文が採択されることだと思いますが、採択されるかどうかの判断は難しく、修了の時期がなかなか読めないと思います。そんな中で進路のことを考えるのはとても難しいです。
また、博士新卒は良くも悪くも「新卒」として扱われないケースも多いというのも理由に挙がります。逆手にとれば「新卒ブランド」を失うことに対してそこまで焦らなくてもいいということです。私が応募した多くの企業は中途採用でしたし、新卒として扱ってもらえる企業でも、就活時期が遅かったことに対して博士における就活の事情を説明したらどの企業でも納得してもらえました。
私の場合ですが、博士論文を一通り書き終えて、修了4ヶ月前から本格的に就活しても十分間に合ったので、焦る必要はあまりないと思います。
##アカデミアに残るか就職するか
これは博士課程の学生に立ち塞がる大きな問題で、研究は続けたくてもポストが少なく、優秀な人でもなかなか安定した役職につけないなどの現状がある中で、自分がアカデミアで生き残ることができるかどうかを考えないといけません。
個人的には、アカデミアに残るか就職するかを決める一つの指標として、今まで研究の続きがやりたいかどうか、新たな研究を始めたいと思えるかを挙げます。もし新たな研究を始めたいと思えるのなら、就職活動するのはアリです。今までの研究で培った自分の知識を直接生かすというのはなかなか難しいと思いますが、経験に関しては企業でも十分生かせるものだと思います。それは、博士における研究は「0を1にする」ことよりも難しい「0を発見する」ところから始まるものであり、企業における新規事業開発につながるからです。
また、就職したら研究ができなくなるのではないかという懸念に対して、私は「ビジネス」そのものが新たな研究課題になるのではと考えています。ビジネスに関してはアカデミアの中だけで研究するのは難しく、社会に出て勉強してこそ答えが得られるものだと思います。特に私は、もし自分の博士課程での研究テーマをビジネスにするとしたらどうすればいいかなどを考えています。仮に自分の研究をビジネスにできたら世界で第一人者になれる可能性が高く、社会に与える影響力は大きいと思います。
#博士の就活
博士課程における就活は主に2種類あって、そのうち1つはいわゆるコネ採用です。これは研究室自体にコネがある場合と、学会や研究集会で企業の方に気に入られるパターンがあります。研究室自体のコネに関してはこちらからどうこうすることはできませんが、学会や研究集会でのアピールに関しては運が良ければ声をかけてもらえるかもしれません。学会などは参加できる回数が限られていると思いますが、社会人の集まる勉強会に参加するのもオススメします。勉強会はconnpassなどのサイトで募集しており、博士自体が珍しいこともあって、声をかけていただくチャンスはあるかもしれません。(ただし、学会や勉強会はあくまで学術研究を発表したり勉強する場であって、就活する場ではないことを念頭に置くこと。禁止されている場合もあるので注意。) 社会人勉強会については、コネとまではいかなくても会社の様子や仕事内容などを働いている当事者から聴けるというのも大きな参加するメリットであり、博士が就活する上で大いに活用できると思います。(社会人勉強会に関しては後述します。)
コネ採用はあくまで特殊例なので、ここから先は一般的な就活方法、企業に自由応募する方に関して説明します。
##博士の置かれている状況
博士の就活は、学部生や修士の学生のものとは以下のような違いがあります。
###就職活動できる時期が不安定
博士課程の学生は、研究成果である投稿論文の規定数の採用がなければ卒業することができません。これは研究成果に依存し、卒業見込みがいつ出るかが分からないため、学部生や修士課程の学生と同様に卒業1年前などの早めの就職活動ということが難しいです。
さらに研究発表の準備や論文執筆などの時間がかかる作業も多く、博士論文の準備など、卒業するための準備も必要であるため、就職活動を行うためのまとまった時間がなかなか取れない状況でもあります。
私の場合、3月卒業ですが卒業見込みが出たのが卒業年度の6月であり、そこから執筆中の論文の仕上げと学会準備などでようやく8月に少し就活準備ができました。しかし、9月からは博士論文と学会準備で、本格的に就活に集中できたのは一通り博士論文の執筆が終わった12月に入ってからでした。12月となると、新卒向けの就活サイトは登録こそできてもほとんど稼働していない状態で、博士向けを謳った新卒サイトですらその現状だったので、どうやって仕事を探すかというところから始めざるを得ませんでした。しかしそれでも卒業まで4ヶ月もあり、就活するには十分な時間だったと思います。
###そもそも博士の就活の方法が確立されていない
Webで「博士 就職」などと探しても、就活サイトや体験談は出てきますが、その方法論まではなかなかヒットしません。それは上記の理由で就活できる時期が不安定であり、一般的に述べることが難しいからかもしれません。体験談は特定分野に特化した話であることが多く、自分の分野には当てはまらないことも多いです。
私はまず大学の就職支援課に就職活動について相談に行きましたが、「博士の就活については資料もなく分からない」と言われました。また、先輩の知り合いが少なく、就職ではなくアカデミアに残る人しかいかなったため、参考にできるものがなかなか見つからない状況でした。その状況で私がとった就活方法に関しては後述します。
###企業側も博士の採用方法が分からない
博士を新卒として採用している企業も増えてきているようですが、それでも博士課程の学生の就活事情についてあまり理解されてないことも多く、こちらも確立されていない方法で就活を行なっていることもあり、企業側との意思疎通が難しく感じることもありました。
まず、企業による博士の新卒採用にあたって、学歴によって募集要件を区別しない場合、すなわち募集時期が学部生や修士課程の学生と同様である場合があります。しかし、この時期から就職活動できる博士課程の学生は一部だけであり、「アカデミアに残るか就職するか問題」で悩む時期でもあるので、気付いたら募集は終わっていることも多く、なかなかこのような企業に応募するのは難しいです。博士に特化した新卒サイトが使いづらいのもこの点が関係しています。
また、通年採用をしている企業でも博士の採用経験がなく、博士をどのように扱えばいいのか分からないケースが多いように感じました。
##その状況の中でとった就活の方法
上記のように博士の就活は学部生や修士課程の学生と比べると企業側、学生側双方にとって未知であることが多く、難しいように見えます。私の場合も、就職支援課にサジを投げられてしまったところから始まったので、就活始めたての頃は右も左も分からない状態でした。
しかし、うまくやれば博士は学部生、修士課程の学生よりも柔軟に就活することができます。特に「博士」というブランドがあり「新卒」というブランドにそこまで拘らなくてもいいため、就活を始めた時期が遅くてもそんなに焦る必要はないというメリットがあります。
博士の就職活動の始め方として、以下のような方法をオススメします。
###まずは社会人勉強会に参加
就職支援課で唯一もらったアドバイスがこれでした。とりあえず自分の興味のある業界の人がいそうなイベントに参加し、そこで実際に働いている人にお会いして、実際に話を聞いてみるのがいいと思います。勉強会は自発的に行われているものが多いため、意識の高い人が集まっていることが多く、その業界に精通している人が集まるため、非常に参考になります。勉強会がない場合は、ブログなどの投稿者に直接連絡して聞いてみてもいいと思います。
実際に私はブログ記事の投稿者に連絡をし、その方に業界の様子であったり、キャリアについてや就活の仕方(どちらかというと新卒向けというよりは転職活動の方が参考になると思います)について色々教わりました。また、オススメの企業やオススメの勉強会などもいくつか教えていただきました。
ちなみに勉強会などではスーツを着ていく必要は全くなく、むしろラフな格好がいいです。それ自体は採用活動でもなんでもないため、逆にスーツだと浮いてしまうと思います。
###企業への応募
就職サイトは数多くあり、自分もいくつかサービスに登録しました。就職サイトは求人を探すのには便利です。しかし、求人に応募するときはなるべく企業の公式サイトから直接応募することを心がけました。それには2つ理由があって
- 就職サイトから応募して採用された場合、採用側は就職サイトに紹介料を払わなくてはならなくなり、結果的に就職先を損させることになる。直接応募すればその必要はなくなり、採用側にとって助かる。
- 選考プロセスについて、柔軟に対応してもらいやすい。就職サイトを通した場合、就職サイトのオペレータを仲介するため、採用側もある程度決められたプロセス通りの選考を求められる(と思われる)が、直接応募すればその必要がなくなり、例えばエンジニアとの座談会を開いてもらえたりなど、選考プロセスにないことも対応してもらえたりします。
このあたりは就職エージェントが語ることはないでしょうから、特に参考にしていただければと思います。(就職エージェントを使うのは、これらのデメリットを超えるメリットがある場合がいいと思います。)
また、応募する企業数ですが、一度に受けるのは1〜2社程度に絞り、1つダメだったら新たに1つ探すくらいでいいと思います。大手新卒サイトは大量エントリーを推奨しているようですが、これは自分たちが儲けるためであり、大量エントリーは学生側も企業側も時間を浪費し、ただただ疲弊するだけのシステムなので、鵜呑みにしない方がいいです。
###面接
面接に関しては学部生や修士の学生とあまり変わらないです。ただ1つ、面接とはあくまで企業側と学生側がお互いにマッチングするかを確認する場であり、内定を得るために気に入られるような受け答えをする場ではないことを意識しておくといいと思います。内定を得ることよりも、自分が馴染める職場を探すことの方が大事です。
博士課程の学生に対し、必ずと言っていいほど聞かれるのが「アカデミアには進まず、就職しようと思ったのはなぜか。」という質問です。この質問に対する回答、特にポジティブなものは用意しておいた方がいいと思います。私は「自分の研究がビジネスにできるとしたら、どうすればいいのかを研究したい。この答えは社会に出てこそ得られるものであると考えているため。」と答えるようにしていました。
また、研究内容についても聞かれますので、専門外の人にも伝わるような説明を考えておくといいと思います。
###給与額の交渉
ここが博士の就活における学部生や修士の学生の就活との大きな違いです。博士限定の募集がある企業は給与額があらかじめ決められていることが多く、交渉することはないかもしれませんが、そうでない多くの企業の場合、給与額は要相談になります。
職歴がある場合には自分の前の給与と比較しながら決めればいいのですが、博士新卒だと自身の相場がわからないので、給与額の交渉が難しいと思います。私も給与額相談の面談で困っていたら「そんなんじゃ買い叩かれるで」と喝を入れられました。
そもそも博士新卒の給与額の相場はどれくらいなのでしょう?
実際に、博士限定の募集がある企業が掲示している給与相場は月25~30万円くらいです。しかし同じ年齢の平均年収や「博士」という日本人の0.02%に満たない12貴重な人材であることを考慮すると少し疑問が残る金額でもあります。この給与額は、入社競争率の高い有名企業の研究職だからこそ成り立つ額であり、有名企業や研究職にこだわらなければ交渉次第で月40万円以上にできる場合もあります。そのためには自分の特異性、優位性、特に博士を採用することのメリットを十分にアピールしなければなりません。
#博士を雇用するメリット
そもそも博士であることのメリットとはなんでしょう?研究で培った専門知識が豊富であることも重要ですが、一般に博士を雇用するメリットとして以下のようなものが考えられます。
##「0を発見する力」
ここでいう「0を発見する力」とは、イノベーションの種を見つける力を指します。よく「0を1にする力」というフレーズを見かけますが、これは、イノベーションの種を製品にする力があるということで、新たな価値を生み出すことができる力として考えられています。しかしながら、新たな価値を生み出すためには、そのイノベーションの種、すなわち0が存在しているという前提が必要です。それを見つけることができる人材こそ「博士」なのではないでしょうか。
博士号を取得するためには、研究を進めて論文を執筆し、その論文を学術誌や学会で発表する必要があります。研究を進めて論文を執筆する過程はまさに「0を1にする力」ですが、その裏にはまず研究テーマを探す段階があります。この研究テーマを探す作業が研究においてとても重要かつ大変な要素であり、研究の進める上での壁になりうる訳ですが、それを探す能力こそがまさに「0を発見する力」と言えます。つまり、博士は「0を発見し、さらに1に変えることができる」能力を持っていると考えられます。
まとめると、博士を雇用する最大のメリットは、イノベーションの種を自ら発見し、それを製品まで昇華することが期待できることです。海外で博士の需要が大きいのはこのことが期待されているからだと考えられます。
##英語力
博士号の取得にあたり、英論文の読み書きを行うことがほとんどなので、英語力はアピールできると思います。ただ、面接では「英語はどれくらいできますか」という直接な質問はあまりされない気がします。(私は「英語はできますよね」くらいしか言われませんでした。)ですので、TOIECのスコアなどはあればもちろんいいですが、無理に取得する必要はないと思います。
私は英会話にはあまり自信がないのですが、英語全般ができる人材に思われていたことが多かった気がします。
##その他
論理的思考力や物事を論理的に説明する能力など、考えつくものはいろいろありますが、これらの要素は直接アピールするというよりは、自分がどんな研究をしているかを説明する中で、間接的にアピールすればいいと思います。全く分野に詳しくない人に自分の研究を説明できる準備をしておけば大丈夫です。
#まとめ
博士課程の学生の就職活動について、就職活動をするのかアカデミアに残るのかという選択から、実際の就活方法などを私の経験談を交えながら考察しました。
この記事がこれから就職活動をしようとしている学生や、博士の採用を検討している企業の方の助けになればと思います。
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この数字は新規取得者数の人口比でした、失礼しました。 ↩