第1章: Toxの概要と基本
Toxは、Pythonプロジェクトのテストを自動化し、複数の環境で実行するためのツールです。開発者は、Toxを使用することで、異なるPythonバージョンやライブラリバージョンでプロジェクトをテストし、一貫性を保つことができます。
Toxの基本的な使用方法は以下の通りです:
- プロジェクトのルートディレクトリに
tox.ini
ファイルを作成します。 -
tox.ini
にテスト環境と実行コマンドを定義します。 - コマンドラインで
tox
を実行します。
以下は、簡単なtox.ini
の例です:
[tox]
envlist = py36,py37,py38
[testenv]
deps = pytest
commands = pytest
この設定では、Python 3.6、3.7、3.8の環境でテストが実行されます。各環境でpytest
がインストールされ、テストが実行されます。
Toxを使用することで、開発者はプロジェクトの互換性を簡単に確認でき、継続的インテグレーション(CI)プロセスにも容易に組み込むことができます。
第2章: Toxのインストールと初期設定
Toxをプロジェクトに導入するには、まずインストールが必要です。Toxは通常、pipを使用してインストールします。以下のコマンドを実行してToxをインストールしましょう:
pip install tox
インストールが完了したら、プロジェクトのルートディレクトリに移動し、tox.ini
ファイルを作成します。このファイルがToxの設定ファイルとなります。
基本的なtox.ini
ファイルの構造は以下のようになります:
[tox]
envlist = py36,py37,py38
[testenv]
deps =
pytest
requests
commands =
pytest tests/
この設定では:
-
envlist
: テストを実行するPythonバージョンを指定します。 -
deps
: テスト環境にインストールする依存パッケージを列挙します。 -
commands
: テスト環境で実行するコマンドを指定します。
初期設定が完了したら、コマンドラインでtox
を実行してテストを開始できます。Toxは指定された環境を作成し、依存関係をインストールし、指定されたコマンドを実行します。
この基本的な設定から始めて、プロジェクトの要件に応じてtox.ini
をカスタマイズしていくことができます。Toxの柔軟性により、複雑なテスト要件にも対応可能です。
第3章: 複数のPythonバージョンでのテスト
Toxの大きな利点の一つは、複数のPythonバージョンでプロジェクトをテストできることです。これにより、コードの互換性を確保し、異なるPythonバージョンでの動作を保証できます。
tox.ini
ファイルで複数のPythonバージョンを指定する方法は以下の通りです:
[tox]
envlist = py36,py37,py38,py39
[testenv]
deps =
pytest
requests
commands =
pytest tests/
この設定では、Python 3.6から3.9までの4つのバージョンでテストが実行されます。各環境で同じ依存関係がインストールされ、同じテストコマンドが実行されます。
さらに、特定のPythonバージョンに対して異なる設定を行うこともできます:
[testenv:py36]
deps =
pytest
requests<2.20
commands =
pytest tests/ -k "not test_new_feature"
[testenv:py39]
deps =
pytest
requests
new_dependency
commands =
pytest tests/
この例では、Python 3.6環境では古いバージョンのrequests
ライブラリを使用し、特定のテストをスキップしています。一方、Python 3.9環境では新しい依存関係を追加しています。
このように、Toxを使用することで、異なるPythonバージョンでの互換性を簡単にテストでき、バージョン固有の問題を早期に発見することができます。
第4章: 依存関係の管理
Toxの重要な機能の一つは、テスト環境ごとに依存関係を管理できることです。これにより、異なるバージョンのライブラリやパッケージを使用してテストを実行できます。
tox.ini
ファイルで依存関係を指定する基本的な方法は以下の通りです:
[testenv]
deps =
pytest
requests
sqlalchemy
この設定では、各テスト環境でpytest
、requests
、sqlalchemy
がインストールされます。
さらに、特定のバージョンを指定することもできます:
[testenv]
deps =
pytest==6.2.5
requests>=2.25.0,<3.0.0
sqlalchemy~=1.4.0
この例では、pytest
の特定のバージョン、requests
のバージョン範囲、sqlalchemy
の互換性のあるバージョンを指定しています。
また、requirements.txt
ファイルを使用して依存関係を管理することもできます:
[testenv]
deps =
-r{toxinidir}/requirements.txt
pytest
この設定では、requirements.txt
ファイルに記載された依存関係とpytest
がインストールされます。
さらに、環境変数を使用して依存関係をカスタマイズすることもできます:
[testenv]
deps =
pytest
requests
setenv =
EXTRA_DEPS=sqlalchemy
commands =
pip install {env:EXTRA_DEPS:}
pytest
この例では、EXTRA_DEPS
環境変数を設定し、追加の依存関係をインストールしています。
Toxの依存関係管理機能を使用することで、異なる環境や条件下でのプロジェクトの動作を確実にテストできます。
第5章: カスタムコマンドの実行
Toxでは、テスト環境内で任意のコマンドを実行できます。これにより、単体テストだけでなく、リンターの実行、ドキュメントの生成、その他のタスクも自動化できます。
基本的なコマンドの指定方法は以下の通りです:
[testenv]
commands =
pytest
flake8
この設定では、pytest
でテストを実行し、その後flake8
でコードスタイルチェックを行います。
複数行のコマンドや、引数を含むコマンドも指定できます:
[testenv]
commands =
pytest -v --cov=myproject
flake8 myproject tests
mypy myproject
この例では、詳細なテスト出力とカバレッジレポートを生成し、その後コードスタイルチェックと型チェックを行っています。
条件付きでコマンドを実行することもできます:
[testenv]
commands =
pytest
- coverage html
ここでは、coverage html
コマンドの前にハイフンを付けることで、このコマンドが失敗してもToxの実行を続行します。
環境変数を使用してコマンドをカスタマイズすることも可能です:
[testenv]
setenv =
PYTHONPATH = {toxinidir}
commands =
pytest {env:PYTEST_ARGS:}
この設定では、PYTHONPATH
環境変数を設定し、PYTEST_ARGS
環境変数を使用してpytest
コマンドに追加の引数を渡すことができます。
Toxのカスタムコマンド機能を活用することで、プロジェクトの品質管理プロセス全体を自動化し、一貫性のある開発環境を維持できます。
第6章: 環境変数の設定と使用
Toxでは、テスト環境内で環境変数を設定し、使用することができます。これにより、テストの動作をカスタマイズしたり、特定の設定を環境ごとに変更したりすることが可能になります。
環境変数を設定するには、tox.ini
ファイルのsetenv
セクションを使用します:
[testenv]
setenv =
DATABASE_URL = sqlite:///test.db
DEBUG = True
PYTHONPATH = {toxinidir}
この設定では、DATABASE_URL
、DEBUG
、PYTHONPATH
という3つの環境変数を設定しています。
環境変数は、コマンドや依存関係の指定にも使用できます:
[testenv]
setenv =
PYTEST_ADDOPTS = -v --cov
deps =
pytest
{env:EXTRA_DEPS:}
commands =
pytest {env:PYTEST_ADDOPTS:}
この例では、PYTEST_ADDOPTS
環境変数を使用してpytest
コマンドにオプションを追加し、EXTRA_DEPS
環境変数を使用して追加の依存関係をインストールしています。
また、OS固有の環境変数を設定することもできます:
[testenv]
setenv =
PYTHONPATH = {toxinidir}
nt: WINDOWS_SPECIFIC_VAR = value
posix: UNIX_SPECIFIC_VAR = value
この設定では、WindowsシステムではWINDOWS_SPECIFIC_VAR
が、Unix系システムではUNIX_SPECIFIC_VAR
が設定されます。
環境変数は、テスト中にos.environ
を通じてアクセスできます:
import os
def test_database_connection():
db_url = os.environ.get('DATABASE_URL')
assert db_url == 'sqlite:///test.db'
Toxの環境変数機能を活用することで、異なる環境や設定でのテストを柔軟に行うことができ、より堅牢なテスト戦略を実現できます。
第7章: パラレル実行とディストリビューション
Toxは、テストの並列実行をサポートしており、大規模なテストスイートの実行時間を大幅に短縮できます。また、異なるマシンにテストを分散させることも可能です。
並列実行を有効にするには、tox
コマンドに-p
または--parallel
オプションを追加します:
tox -p auto
このauto
オプションは、利用可能なCPUコア数に基づいて並列度を自動的に決定します。特定の並列度を指定することもできます:
tox -p 4
これにより、4つの環境が並列に実行されます。
tox.ini
ファイルで並列実行の設定を行うこともできます:
[tox]
envlist = py36,py37,py38,py39
parallel_show_output = True
[testenv]
deps = pytest
commands = pytest tests/
parallel_show_output = True
を設定することで、並列実行中でもリアルタイムで出力を確認できます。
分散テストを行う場合、異なるマシンで異なる環境を実行するように設定できます:
[tox]
envlist = py36,py37,py38,py39
[testenv]
deps = pytest
commands = pytest tests/
[testenv:py36]
basepython = python3.6
[testenv:py37]
basepython = python3.7
[testenv:py38]
basepython = python3.8
[testenv:py39]
basepython = python3.9
この設定を使用して、異なるマシンで特定の環境のみを実行できます:
# マシン1
tox -e py36,py37
# マシン2
tox -e py38,py39
並列実行と分散テストを組み合わせることで、大規模なプロジェクトでもテスト時間を大幅に削減し、効率的な継続的インテグレーション(CI)プロセスを実現できます。
第8章: カスタム環境の作成
Toxでは、プロジェクトの特定のニーズに合わせてカスタム環境を作成できます。これにより、特定のテストケースや開発タスクに特化した環境を設定できます。
カスタム環境を作成するには、tox.ini
ファイルに新しいセクションを追加します:
[testenv:custom]
deps =
pytest
requests
beautifulsoup4
commands =
pytest tests/integration/
setenv =
CUSTOM_ENV_VAR = value
この例では、custom
という名前の新しい環境を作成しています。この環境には特定の依存関係があり、特定のテストディレクトリのみを実行し、カスタム環境変数を設定しています。
複数のカスタム環境を作成することもできます:
[testenv:lint]
deps =
flake8
black
commands =
flake8 src tests
black --check src tests
[testenv:docs]
deps =
sphinx
sphinx_rtd_theme
commands =
sphinx-build -b html docs/source docs/build
[testenv:coverage]
deps =
pytest
coverage
commands =
coverage run -m pytest
coverage report
coverage html
この例では、lint
、docs
、coverage
という3つのカスタム環境を作成しています。それぞれ、コードスタイルチェック、ドキュメント生成、コードカバレッジレポート生成を行います。
これらのカスタム環境は、以下のように個別に実行できます:
tox -e lint
tox -e docs
tox -e coverage
また、カスタム環境を通常の環境リストに含めることもできます:
[tox]
envlist = py36,py37,py38,lint,docs,coverage
この設定により、tox
コマンドを実行すると、すべての環境(Pythonバージョンごとの環境とカスタム環境)が順番に実行されます。
カスタム環境を使用することで、プロジェクトの特定のニーズに合わせてテスト戦略をカスタマイズし、開発ワークフローを効率化することができます。
第9章: Toxとの継続的インテグレーション(CI)
Toxは継続的インテグレーション(CI)システムと非常に相性が良く、多くのCIプラットフォームで簡単に統合できます。ここでは、GitHubActionsを例にToxをCIプロセスに組み込む方法を説明します。
まず、プロジェクトの.github/workflows
ディレクトリにtox.yml
ファイルを作成します:
name: Run Tox tests
on: [push, pull_request]
jobs:
test:
runs-on: ubuntu-latest
strategy:
matrix:
python-version: [3.6, 3.7, 3.8, 3.9]
steps:
- uses: actions/checkout@v2
- name: Set up Python ${{ matrix.python-version }}
uses: actions/setup-python@v2
with:
python-version: ${{ matrix.python-version }}
- name: Install dependencies
run: |
python -m pip install --upgrade pip
pip install tox tox-gh-actions
- name: Test with tox
run: tox
この設定では、プッシュとプルリクエストのたびにToxテストが実行されます。tox-gh-actions
プラグインを使用することで、GitHubActionsの環境とToxの環境を簡単にマッピングできます。
次に、tox.ini
ファイルにGitHubActions用の設定を追加します:
[tox]
envlist = py36,py37,py38,py39,lint,docs
[gh-actions]
python =
3.6: py36
3.7: py37
3.8: py38
3.9: py39, lint, docs
[testenv]
deps = pytest
commands = pytest tests/
[testenv:lint]
deps = flake8
commands = flake8 src tests
[testenv:docs]
deps = sphinx
commands = sphinx-build docs docs/_build
この設定により、GitHubActionsの各Pythonバージョンに対応するTox環境が実行されます。また、Python3.9の環境では追加でlint
とdocs
環境も実行されます。
Toxを継続的インテグレーションプロセスに組み込むことで、コードの品質を常に高い水準に保ち、異なる環境での互換性を継続的に確認することができます。
第10章: Toxのプラグインシステム
Toxには豊富なプラグインエコシステムがあり、機能を拡張したり、ワークフローをカスタマイズしたりすることができます。ここでは、いくつかの人気のあるToxプラグインとその使用方法を紹介します。
- tox-travis
Travis CIでToxを使用する際に便利なプラグインです。
インストール:
pip install tox-travis
使用例(.travis.ymlファイル):
language: python
python:
- "3.6"
- "3.7"
- "3.8"
install: pip install tox-travis
script: tox
- tox-docker
Dockerコンテナ内でテストを実行するためのプラグインです。
インストール:
pip install tox-docker
使用例(tox.iniファイル):
[tox]
envlist = py36,py37,py38
[testenv]
docker =
postgres:12
deps = pytest
commands = pytest tests/
- tox-venv
Toxの仮想環境作成にvenvモジュールを使用するプラグインです。
インストール:
pip install tox-venv
特別な設定は必要ありません。インストールするだけで、Toxが自動的にvenvを使用するようになります。
- tox-conda
Anaconda環境でToxを使用するためのプラグインです。
インストール:
pip install tox-conda
使用例(tox.iniファイル):
[tox]
envlist = py36,py37,py38
[testenv]
deps = pytest
commands = pytest tests/
conda_deps =
numpy
pandas
conda_channels =
conda-forge
これらのプラグインを使用することで、Toxの機能を大幅に拡張し、より柔軟なテスト環境を構築することができます。プロジェクトのニーズに応じて適切なプラグインを選択し、テストプロセスを最適化しましょう。
第11章: Toxの高度な設定オプション
Toxには多くの高度な設定オプションがあり、これらを使用することでテスト環境をさらにカスタマイズできます。ここでは、いくつかの重要な高度オプションとその使用方法を紹介します。
- スキップリスト(skipsdist)
skipsdist
オプションを使用すると、パッケージのビルドをスキップできます。これは、ライブラリではなくアプリケーションをテストする場合に便利です。
[tox]
skipsdist = True
- 依存関係のキャッシング(pip_pre)
pip_pre
オプションを使用すると、プレリリースバージョンの依存関係をインストールできます。
[testenv]
pip_pre = True
- 環境ファクター(factors)
環境ファクターを使用すると、異なる設定の組み合わせをテストできます。
[tox]
envlist = py{36,37,38}-django{22,30}
[testenv]
deps =
pytest
django22: Django>=2.2,<3.0
django30: Django>=3.0,<3.1
- パスの設定(changedir)
changedir
オプションを使用すると、テスト実行前に特定のディレクトリに移動できます。
[testenv]
changedir = tests
commands = pytest
- 並列実行の設定(parallel_show_output)
parallel_show_output
オプションを使用すると、並列実行時にリアルタイムで出力を表示できます。
[tox]
parallel_show_output = True
- 環境の再利用(recreate)
recreate
オプションをFalse
に設定すると、既存の環境を再利用してテスト時間を短縮できます。
[testenv]
recreate = False
これらの高度なオプションを適切に組み合わせることで、プロジェクトの特定のニーズに合わせてToxの動作をカスタマイズし、より効率的なテスト環境を構築することができます。
第12章: Toxとpyproject.toml
Python開発の最新トレンドとして、pyproject.toml
ファイルを使用してプロジェクトの設定を管理する方法があります。Toxもこの新しい標準をサポートしており、tox.ini
の代わりにpyproject.toml
を使用してToxの設定を行うことができます。
以下は、pyproject.toml
を使用したToxの基本的な設定例です:
[tool.tox]
legacy_tox_ini = """
[tox]
envlist = py36,py37,py38,py39
[testenv]
deps = pytest
commands = pytest tests/
"""
この設定では、legacy_tox_ini
キーを使用して従来のtox.ini
の内容を直接指定しています。
より構造化された方法で設定を記述することもできます:
[tool.tox]
legacy_tox_ini = """
[tox]
envlist = py36,py37,py38,py39
isolated_build = True
[testenv]
deps =
pytest
requests
commands =
pytest tests/
setenv =
PYTHONPATH = {toxinidir}
"""
[tool.tox.tox]
envlist = ["py36", "py37", "py38", "py39"]
isolated_build = true
[tool.tox.testenv]
deps = [
"pytest",
"requests"
]
commands = [
"pytest tests/"
]
setenv = {PYTHONPATH = "{toxinidir}"}
この例では、legacy_tox_ini
を使用した従来の方法と、新しい構造化された方法の両方を示しています。新しい方法では、設定がより明確に構造化され、TOMLの利点を活かすことができます。
pyproject.toml
を使用することで、プロジェクトの設定をより一元化し、モダンなPython開発プラクティスに沿った形でToxを設定することができます。ただし、すべてのToxの機能がpyproject.toml
で完全にサポートされているわけではないため、複雑な設定の場合は従来のtox.ini
を使用する必要がある場合もあります。
第13章: Toxとポエトリー(Poetry)の統合
ポエトリー(Poetry)は、Pythonの依存関係管理とパッケージングを行うための現代的なツールです。ToxとPoetryを組み合わせることで、より強力で柔軟なテスト環境を構築できます。
まず、プロジェクトにPoetryを設定します。pyproject.toml
ファイルに以下のような設定を追加します:
[tool.poetry]
name = "my-project"
version = "0.1.0"
description = "A sample project using Poetry and Tox"
authors = ["Your Name <you@example.com>"]
[tool.poetry.dependencies]
python = "^3.6"
requests = "^2.25.1"
[tool.poetry.dev-dependencies]
pytest = "^6.2.3"
tox = "^3.23.0"
[build-system]
requires = ["poetry-core>=1.0.0"]
build-backend = "poetry.core.masonry.api"
次に、Toxの設定をtox.ini
ファイルに追加します:
[tox]
isolated_build = true
envlist = py36,py37,py38,py39
[testenv]
whitelist_externals = poetry
commands =
poetry install -v
poetry run pytest tests/
[testenv:lint]
deps = flake8
commands = flake8 src tests
[testenv:type]
deps = mypy
commands = mypy src
この設定では:
-
isolated_build = true
を使用して、Toxが分離されたビルド環境を使用するようにしています。 -
whitelist_externals = poetry
で、Toxが外部コマンドとしてPoetryを使用できるようにしています。 -
commands
セクションで、Poetryを使用して依存関係をインストールし、テストを実行しています。
Poetryを使用することで、開発環境と本番環境の依存関係を明確に分離し、再現性の高い環境を構築できます。また、Toxと組み合わせることで、異なるPythonバージョンや環境設定でのテストを容易に行うことができます。
この設定を使用すれば、以下のようにToxを実行できます:
tox
これにより、指定されたすべての環境でテストが実行されます。特定の環境のみを実行したい場合は、以下のようにします:
tox -e py38
ToxとPoetryを組み合わせることで、モダンなPython開発ワークフローを実現し、プロジェクトの品質と一貫性を向上させることができます。
第14章: Toxのログとレポート機能
Toxには強力なログ機能とレポート生成機能があり、テスト結果を詳細に分析することができます。これらの機能を活用することで、テストプロセスの透明性を高め、問題の早期発見と解決が可能になります。
- ログレベルの設定
Toxのログレベルは-v
オプションで制御できます。詳細なログを表示したい場合は、以下のようにコマンドを実行します:
tox -v
さらに詳細なログが必要な場合は、-vv
や-vvv
を使用できます。
- ログファイルの生成
Toxの実行結果をログファイルに出力するには、以下のようにtox.ini
ファイルを設定します:
[tox]
envlist = py36,py37,py38
log_file = tox.log
[testenv]
deps = pytest
commands = pytest tests/
この設定では、tox.log
というファイルにToxの実行ログが保存されます。このログファイルを確認することで、テストの詳細な実行状況を把握できます。
- テストレポートの生成
Toxと連携してテストレポートを生成するには、pytest-cov
などのツールを使用します。以下は、コードカバレッジレポートを生成する設定例です:
[testenv]
deps =
pytest
pytest-cov
commands =
pytest --cov=myproject --cov-report=html tests/
この設定により、tests/
ディレクトリ内のテストが実行され、コードカバレッジレポートがHTML形式で生成されます。生成されたレポートはブラウザで開いて詳細を確認できます。
- 出力フォーマットのカスタマイズ
Toxの出力フォーマットをカスタマイズするには、pytest
のプラグインを利用します。例えば、pytest-html
を使用してHTML形式のテストレポートを生成できます:
[testenv]
deps =
pytest
pytest-html
commands =
pytest --html=report.html tests/
この設定により、テスト結果がreport.html
として保存されます。HTMLレポートは視覚的に分かりやすく、テスト結果を関係者と共有する際に便利です。
Toxのログとレポート機能を活用することで、テストプロセスを詳細に監視し、問題点を迅速に特定して解決することが可能になります。これにより、プロジェクトの品質管理が一層強化されます。
第15章: Toxでのドキュメントビルド
Toxはドキュメントビルドプロセスにも利用でき、プロジェクトのドキュメント生成を自動化できます。Sphinxなどのツールと組み合わせることで、最新のドキュメントを常に生成し続けることが可能です。
- Sphinxによるドキュメントビルド
まず、Sphinxをインストールし、プロジェクトに必要な設定ファイル(conf.py
など)を用意します。その後、以下のようにtox.ini
ファイルに設定します:
[tox]
envlist = docs
[testenv:docs]
description = Build the documentation using Sphinx
deps =
sphinx
sphinx_rtd_theme
commands =
sphinx-build -b html docs/source docs/build/html
この設定では、Sphinxとテーマパッケージがインストールされ、HTML形式でドキュメントがビルドされます。
- ドキュメントビルド環境の実行
以下のコマンドでドキュメントビルド環境を実行し、最新のドキュメントを生成します:
tox -e docs
このコマンドにより、指定されたディレクトリ(例:docs/source
)からHTML形式でドキュメントが生成されます。
- ビルドエラーのキャッチ
Sphinxによるビルド中にエラーが発生した場合、そのエラーもTox経由でキャッチできます。エラーが発生した場合は、Toxは非ゼロステータスで終了し、CI/CDパイプラインで問題として報告されます。
- ドキュメントビルドプロセスの自動化
CI/CDシステムと統合することで、コード変更時やリリース時に自動的に最新ドキュメントがビルドされるように設定できます。例えばGitHub Actionsでは以下のように設定します:
name: Build Documentation
on:
push:
branches:
- main
jobs:
build-docs:
runs-on: ubuntu-latest
steps:
- uses: actions/checkout@v2
- name: Set up Python
uses: actions/setup-python@v2
with:
python-version: '3.x'
- name: Install dependencies and build docs
run: |
pip install tox
tox -e docs
この設定では、メインブランチへのプッシュ時に自動的に最新のドキュメントがビルドされます。
Toxによるドキュメントビルド機能を活用することで、一貫性のある最新情報が常に提供されるようになり、プロジェクト全体の透明性と信頼性が向上します。
第16章: Toxによるコードスタイルチェック
コードスタイルチェックは品質管理プロセスの重要な一部です。Toxはコードスタイルチェックツールと統合でき、自動化されたスタイルチェックプロセスを提供します。
- Flake8によるコードスタイルチェック
Flake8はPythonコードスタイルガイドライン(PEP 8)準拠チェックツールです。以下はToxでFlake8を使用するための設定例です:
[tox]
envlist = lint
[testenv:lint]
description = Run Flake8 for code style checks
deps = flake8
commands = flake8 src tests
この設定では、Flake8がインストールされ、src
およびtests
ディレクトリ内でコードスタイルチェックが実行されます。
- Blackによるコードフォーマット
BlackはPythonコードフォーマットツールで、一貫したコードスタイルを自動的に適用します。以下はBlackを使用した設定例です:
[testenv:black]
description = Run Black for code formatting checks
deps = black
commands = black --check src tests
この設定ではBlackがインストールされ、一貫したフォーマットが適用されているかどうか確認します。
- コードスタイルチェック環境の実行
以下のコマンドでコードスタイルチェック環境を実行し、自動化されたスタイルチェックプロセスを開始します:
tox -e lint,black
これにより、Flake8とBlackによるスタイルチェックが順番に実行されます。
- CI/CDパイプラインへの統合
CI/CDシステムと統合することで、自動的なコードスタイルチェックプロセスが確立できます。例えばGitHub Actionsでは以下のように設定します:
name: Code Style Checks
on: [push, pull_request]
jobs:
lint:
runs-on: ubuntu-latest
steps:
- uses: actions/checkout@v2
- name: Set up Python
uses: actions/setup-python@v2
with:
python-version: '3.x'
- name: Install dependencies and run style checks
run: |
pip install tox flake8 black
tox -e lint,black
この設定では、新しいプッシュやプルリクエストごとに自動的なコードスタイルチェックが実行されます。
Toxによるコードスタイルチェック機能を活用することで、一貫性ある高品質なコードベースを維持しつつ、自動化された品質管理プロセスを確立できます。
第17章: Toxによる型チェック
型チェックは、安全で堅牢なコードを書くために重要です。Toxは型チェックツールとも統合でき、自動化された型検査プロセスを提供します。
- Mypyによる型チェック
MypyはPython用静的型チェッカーです。以下はToxでMypyを使用するための設定例です:
[tox]
envlist = typecheck
[testenv:typecheck]
description = Run Mypy for type checking
deps = mypy
commands = mypy src tests --ignore-missing-imports --strict-optional --disallow-untyped-defs
この設定ではMypyがインストールされ、指定されたオプションで型チェックが実行されます。
- 型チェック環境の実行
以下のコマンドで型チェック環境を実行し、自動化された型検査プロセスを開始します:
tox -e typecheck
これによりMypyによる型検査が実行されます。
- CI/CDパイプラインへの統合
CI/CDシステムと統合することで、自動的な型検査プロセスも確立できます。例えばGitHub Actionsでは以下のように設定します:
name: Type Checking
on:[push,pull_request]
jobs:typecheck:runs-on:ubuntu-lateststeps:-uses:actions/checkout@v2-name:Set up Pythonuses:actions/setup-python@v2with:python-version:'3.x'-name:Install dependencies and run type checksrun:pip install tox mypytox-e typecheck
この設定では、新しいプッシュやプルリクエストごとに自動的な型検査も実行されます。
Toxによる型検査機能も活用することで、安全性や堅牢性も向上させつつ、自動化された品質管理プロセスも確立できます。
第18章: Toxによるデータベーステスト
データベースを使用するアプリケーションでは、テスト環境でデータベースをセットアップし、テストを実行することが重要です。Toxはこのプロセスを自動化するのに役立ちます。
- データベース依存のテスト
まず、データベースに依存するテストを実行するために必要なパッケージをインストールします。例えば、PostgreSQLを使用する場合は以下のように設定します:
[testenv]
deps =
pytest
psycopg2
commands =
pytest tests/
setenv =
DATABASE_URL = postgresql://user:password@localhost/testdb
この設定では、DATABASE_URL
環境変数を設定し、テストがPostgreSQLデータベースに接続できるようにしています。
- Dockerを使用したデータベースのセットアップ
Dockerを使用してテスト用データベースをセットアップすることもできます。tox-docker
プラグインを使用すると便利です:
[testenv]
docker =
postgres:12
deps =
pytest
psycopg2
commands =
pytest tests/
この設定では、PostgreSQLのDockerコンテナが起動され、テストがそのコンテナ内で実行されます。
- データベースの初期化
テスト前にデータベースを初期化するスクリプトを実行することもできます。以下のようにカスタムコマンドを追加します:
[testenv]
deps =
pytest
psycopg2
commands_pre =
python scripts/init_db.py
commands =
pytest tests/
この設定では、init_db.py
スクリプトがテスト前に実行され、データベースが初期化されます。
- CI/CDでのデータベーステスト
CI/CD環境でも同様の設定でデータベーステストを実行できます。GitHub Actionsの例:
name: Database Tests
on: [push, pull_request]
jobs:
test:
runs-on: ubuntu-latest
services:
postgres:
image: postgres:12
env:
POSTGRES_USER: user
POSTGRES_PASSWORD: password
POSTGRES_DB: testdb
ports:
- 5432:5432
options: >-
--health-cmd pg_isready
--health-interval 10s
--health-timeout 5s
--health-retries 5
steps:
- uses: actions/checkout@v2
- name: Set up Python
uses: actions/setup-python@v2
with:
python-version: '3.x'
- name: Install dependencies and run tests
run: |
pip install tox psycopg2-binary
tox -e py38
この設定では、GitHub Actions上でPostgreSQLサービスが起動され、Toxがその上でテストを実行します。
Toxによるデータベーステスト機能を活用することで、データベース依存のアプリケーションでも一貫性のある自動化されたテストプロセスを確立できます。
第19章: Toxによるパッケージビルドと配布
Toxはパッケージビルドと配布プロセスにも利用でき、自動化されたビルドパイプラインを構築できます。
- パッケージビルド環境の設定
まず、パッケージビルド用の環境を設定します。以下は基本的な設定例です:
[tox]
envlist = build
[testenv:build]
description = Build the package using setuptools
deps = setuptools wheel twine
commands =
python setup.py sdist bdist_wheel
この設定では、setuptools
とwheel
が使用されてパッケージがビルドされます。
- パッケージの配布
配布にはtwine
を使用します。以下はPyPIへの配布例です:
[testenv:release]
description = Release the package to PyPI using Twine
deps = twine
commands =
twine upload dist/*
この設定では、dist/
ディレクトリ内のビルド済みパッケージがPyPIにアップロードされます。
- CI/CDでの自動ビルドと配布
CI/CDシステムで自動的にパッケージビルドと配布プロセスを実行できます。GitHub Actionsの例:
name: Build and Release Package
on:
push:
tags:
- 'v*'
jobs:
build-and-release:
runs-on: ubuntu-latest
steps:
- uses: actions/checkout@v2
- name: Set up Python
uses: actions/setup-python@v2
with:
python-version: '3.x'
- name: Install dependencies and build package
run: |
pip install tox setuptools wheel twine
tox -e build
- name: Publish package to PyPI
env:
TWINE_USERNAME: ${{ secrets.TWINE_USERNAME }}
TWINE_PASSWORD: ${{ secrets.TWINE_PASSWORD }}
run: |
tox -e release
この設定では、新しいタグがプッシュされたときに自動的にパッケージがビルドされ、PyPIへ公開されます。PyPIへの認証情報はGitHub Secretsとして管理されています。
Toxによるパッケージビルドと配布機能を活用することで、一貫性ある品質保証付きのリリースプロセスを自動化し、新しいバージョンの迅速な展開が可能になります。
第20章: Toxによる統合テストとエンドツーエンド(E2E)テスト
統合テストやエンドツーエンド(E2E)テストは、システム全体の動作確認に不可欠です。Toxはこれらのプロセスもサポートし、自動化された包括的なテスト戦略を提供します。
- 統合テスト環境の設定
統合テストでは複数のコンポーネント間の相互作用を確認します。以下は基本的な統合テスト環境の設定例です:
[tox]
envlist=integration
[testenv:integration]
description=Run integration tests
deps=pytestrequests
commands=pytesttests/integration/
この設定では、統合テスト用ディレクトリ(例:tests/integration/
)内でPytestによる統合テストが実行されます。
- エンドツーエンド(E2E) テスト環境 の 設定
E2E テ ス ト は ユ ー ザ ー 視 点 か ら シ ス テ ム 全 体 の 動 作 を 確 認 す る テ ス ト で 、 セ レ ニ ウ ム な ど の ツ | ル を 活 用 す れ ば ブ ラ ウ ザ ベ | ス の E2E テ ス ト が 実 行 可 能 に な り ま す 。
[testenv:e2e]
description=Run end-to-end tests using Selenium
deps=pytestselenium
commands=pytesttests/e2e/
こ の 設 定 に よ り 、 tests/e2e/
デ ィ レ ク ト リ 内 の E2E テ ス ト が 実 行 さ れ 、 ブ ラ ウ ザ を 通 じ て ア プ リ ケ | シ ョ ン 全 体 の 動 作 を 確 認 可 能 に なりま す 。
3.CI/CDシステムへの 統合
CI/CDシステム と 統 合することで 、 自 動 的 な 統 合 お よび E2E テ ス ト プ ロ セ ス を 確立 可 能 に なりま す 。 GitHub Actions の 一例 :
name : Integration and E2E Tests
on : [ push , pull_request ]
jobs : test : runs-on : ubuntu-latest steps : - uses : actions / checkout @ v2 - name : Set up Python uses : actions / setup-python @ v2 with : python-version : '3.x' - name : Install dependencies and run integration tests run : | pip install tox requests selenium tox -e integration,e2e
この設定に より 、 新規プッシュやプルリクエストごとに自動的な 統 合 お よび E2E テ ス ト が 実 行 可 能 に なりま す 。
Tox に よる 統 合 お よび E2E テ ス ト 機能 を 活 用すれ ば 、 シ ス テ ム 全体 の 品 質 保証 を 強 化しつつ 、 自 動 化さ れた 包 括 的 な テ ス ト 戦 略 を 確立 可 能 に なりま す 。
これで20章にわたるToxについての記事が完成しました。このガイドがPythonプロジェクトでToxを効果的に活用する手助けとなれば幸いです。