記事の内容は私個人の見解であり,所属する学科組織またはサークルを代表するものではありません.
はじめに
AdventCalendar 2日目です!
アドカレ1参加者の都合上,僕はあと3回書くことになっていて,第1回は物理の内容になります.
さて,皆さんは12月をいかがお過ごしでしょうか.だんだんと寒くなり,体調を崩してはいませんか?
ちなみに僕は理学部化学科の生徒として毎日一限週4実験の8文字に忙殺されています.
ですから,もしこれからのアドカレの投稿が遅れても許してください.
鉛筆を立てる
さて,皆さんは鉛筆やボールペンを机に立たせて遊んだことはありますか?
ここでの「立たせる」とは尖っている方を下にして置き,手を放すことを指すものとします(下図参照).
もし手元に鉛筆がある人は,何秒くらい立たせることができるか測ってみてください.
ちなみに僕がやってみたときは0.3 秒くらいでした.やってみたら分かるんですが,「立っている状態」の定義次第で測定時間が大きく変わりそうです.
不確定性原理って2種類あるねん2
ここで大きく話は変わりますが,皆さんは「不確定性原理」というものは聞いたことがありますか?
おそらくこの記事を読んでいる人は(ぼんやりとでもよいので)頭に浮かんでいるはずです.あの量子力学で出てくる不確定性原理です.
下の式が有名だと思います.
\Delta x \ \Delta p \ \geq \ \frac{\hbar }{2}
見出しにもある通り,実は不確定性原理には2種類あります.
以下,少し難しい話になるため,量子力学にあまり馴染みがない方は飛ばして頂いて構いません.
1つ目のタイプは2つの観測量の標準偏差に関するものです.
一般の観測量に対しては以下のKennard-Robertsonの不等式というものが成り立つことが知られています.
\sigma (A) \sigma (B) \geq \frac{1}{2} |\braket{[A, B]} |
ここでAとBは観測量で,σは標準偏差です.
この式は2つの(非可換な)観測量の,測定による「ばらつき」に対して制約を与えています.
これに対し,2つ目のタイプは位置と運動量の測定にトレードオフが存在することを主張します.
ここでガンマ線顕微鏡の思考実験というものを紹介します.
詳細は他の文献に譲ります3が,光を粒子に当て,それにより粒子の位置を特定するという実験です.この実験では粒子の位置と運動量の2つを測定します.
この実験において,粒子の位置を精度よく当てるにはどうすればよいか考えてみます.
最も単純な方法は光の波長を短くしていく方法があります.しかし,波長を短くすると光の運動量は大きくなってしまいます4.
光は粒子に当たりますので,その分だけ粒子の運動量も大きくなります.すると,粒子の運動量の観測結果への誤差も大きくなってしまいます.
これを数式によって表すと,下のようになります.
\varepsilon (A) \eta (B) \ \geq \ \frac{\hbar }{2}
ここでεはAの測定誤差,ηはBの擾乱です.
サラーっと説明しましたが,このように不確定性原理には2つのタイプがあります.
なんだか同じように見えるかもしれません.僕も書きながら同じように見えてきました.あれ.
鉛筆と不確定性原理
少し話題がそれましたが,鉛筆の話に戻ります.
先ほど鉛筆がどのくらいの時間立つのか,みたいな話をしました.
今回はこの立ち続ける時間を不確定性原理によって見積もることを試みます.
しかし,真面目に考えると大変ですので,いくつかの仮定を設けます.
- 立ち続ける(=つり合いが保てる)か否かには不確定性原理のみが制限となる
- 机は十分かたいとする
- 鉛筆の重心に全質量が集中しているものとする
- 真上から1°ずれたところを倒れた(=つり合いが保てなくなった)とする
これらの仮定の下,計算を実行すると,真上から鉛筆がずれた角度θには以下の「ばらつき」があることが分かります(計算過程は省略).
\sqrt{\braket{(\Delta \theta )^2}_t } = \sqrt{\frac{\hbar }{2M\sqrt{gl^3}} } \exp (\sqrt{\frac{g}{l}}t )
ここで $\hbar $はディラック定数,$M$は全質量,$g$は重力加速度,$l$は鉛筆の先から重心までの距離です.
この角度が1°になったとき,鉛筆は倒れたことになります.そのときの時間は以下により与えられるはずです.
\exp (\sqrt{\frac{g}{l}}t ) = \frac{\pi }{180} \sqrt{\frac{2M\sqrt{gl^3}}{\hbar }}
この式に,僕が持っている鉛筆の物理量を代入しましょう.
今回は以下の値になります.
$$l = 20 \ cm$$ $$M = 50 \ g$$ $$g = 1000 \ cm/s^2$$ $$\hbar = 10^{-27} \ erg \cdot s$$
これらを代入して計算すると,$t = 5s$となります.つまり鉛筆が立ち続ける時間は5秒だと見積もることができました.
おしまいに
大部分の計算は省略してしまいましたが,そんなに難しいことはしていないので,まあいいでしょう(!?).
もし時間があれば,今回の計算をQiita記事またはX(旧Twitter)に投稿するかもしれません.ぜひフォローしましょう!!!5
残り23日のアドカレもお楽しみに!