1. はじめに
2024年にかけての円安の進行は、日本国内でクラウドを利用する企業にとって、直接的なコスト増加を引き起こしています。
ただし、適切な為替リスク管理やコスト最適化の取り組みを行うことで、この影響を最小限に抑え、クラウドのメリットを引き続き享受することが可能です。
特に、コスト管理を強化し、AWSが提供するコスト管理ツール(Cost Explorer、AWS Budgetsなど)や契約オプション(Savings Plans、Reserved Instancesなど)を活用することが重要です。
このような状況下では、単に目先のコスト削減だけを優先した意思決定をしがちですが、クラウド利用で得られる柔軟性とスケーラビリティを捨て、さらにビジネスの敏捷性を捨ててまでコストメリットだけを追求することは、賢い判断とは言えません。
企業では、コスト削減とリソースの有効活用を両立するために、コスト管理の方針を見直し、戦略的に考える動きが活発になっています。
近年、AWSは Cloud Financial Management(CFM) と呼ばれる、コスト管理と最適化を効率的に行うためのフレームワークとソリューションを打ち出し、クラウドのコスト管理の考え方を再定義しています。
CFMの目的は、単なるコスト削減に留まらず、クラウド環境でのコスト効率とビジネス成果の両立を実現することにあります。
このフレームワークは、コストの透明性を高め、ガバナンスを強化し、効果的な計画と予算編成をサポートします。
その結果、技術チームはより良いリソース選択を行い、財務チームはクラウド投資の価値を明確に把握できるようになります。
本記事では、CFMフレームワークの 4つの柱(See, Save, Plan, Run) を中心に、コスト管理と最適化の実践方法を詳しく解説します。
また、AWSが提供する関連ツールやリソースを活用して、どのようにコスト効率を高めつつ、ビジネスの敏捷性を向上させられるかについても触れていきます。
2. CFMの基礎
CFMは、クラウド投資を効率的かつ効果的に管理し、望ましいビジネス成果を達成するために定義されているフレームワークです。
CFMの基礎となる考え方と、そのビジネスへのインパクトについて詳しく解説します。
AWSの消費モデルの再理解
AWSをはじめとしたクラウドは、従来のITインフラストラクチャとは異なり、従量課金制に基づいています。
使用したリソースに対してのみ支払いを行うため、不要なコストを排除しやすくなります。
ただし、従量課金モデルは従来のオンプレミスとは異なる考え方であり、新しいコスト管理プロセスを構築する必要があります。
AWSの消費モデルの特徴
大きく3つの特徴があります。
(1) 弾力性(Elasticity)
必要に応じてリソースをスケールアップまたはスケールダウン可能。
(2) 即時性(On-Demand)
短期間でリソースをプロビジョニング可能。
(3) 料金体系の透明性
サービス使用状況に基づく詳細な料金情報を確認可能。
コスト最適化の設計原則
CFMは単なるランニングコストの削減ではなく、クラウドの効率的な活用を目指すものです。
この原則を理解し実践することで、クラウドの特性を最大限に活用しながら、無駄を最小限に抑えることが可能になります。
(1) 消費ベースのマインドセットを受け入れる
リソースを必要な分だけ使用することと、不必要な支出を避けることを良しとする文化を醸成します。
(2) 差別化されない作業を排除する
自社の差別化に繋がらない活動(例: ハードウェア管理)をAWSに任せることで、リソースをより戦略的な活動に集中させます。
(3) コストを可視化して責任分担する
チーム間でコストを分配し、使用状況に応じた責任を明確化することで、効率的なガバナンスを実現します。
CFMがもたらす価値
CFMを導入することで、以下のような多くの価値をもたらすことができます。
(1) 財務チームと技術チームの連携強化
コストの透明性を高める活動により、財務チームはコストドライバーを理解することができ、技術チームは最適なリソース選択を行えるようになります。
(2) 迅速な意思決定
コストデータを動的に更新して表示するソリューションを活用して、リアルタイムでビジネスニーズに応える意思決定を可能にします。
(3) 持続可能な成長
リソースを効率的に活用することにより、ビジネス価値を最大化し、長期的な成功を支えます。
3. CFMフレームワークの詳細
AWS Cloud Financial Management(CFM)フレームワークは、クラウド環境でのコスト管理と最適化を支援するために設計されており、4つの柱(See, Save, Plan, Run)で構成されています。
それぞれの柱について、具体的に解説します。
See: コストと使用状況の可視化
Seeは、クラウドコストの透明性を確保し、チーム間での責任を明確化するためのステップです。
コストの可視化は、最適化への第一歩であり、正確なデータに基づく意思決定を支える重要な要素です。
特に、アカウントやリソースにタグを付けることで、部門別やプロジェクト別のコスト分析が容易になります。
また、定期的なコストレビューを行うことで、コストの変化に迅速に対応することができます。
主に以下のような活動を行います。
- リソースとアカウント構造の整理
- コストと使用状況データの追跡と報告
- チーム間のコスト責任を明確化
また、以下のようなツールを活用します。
-
AWS Cost Explorer
- コストと使用状況の可視化と分析を可能にするツール
-
AWS Budgets
- コスト予算の設定と監視を可能にするツール
Save: コスト最適化の戦略
Saveは、クラウドの運用コストを最適化するためのアプローチを示しています。
これは、コストの削減だけでなく、最適なリソース利用を追求するものです。
クラウドを利用する前提として、コストは日々最適化するものであるという文化を初期段階で醸成することが重要です。
また、定期的にコスト最適化の施策を見直し、新しい推奨事項を適用することも重要です。
主に以下のような活動を行います。
- ワークロードに適した購入モデルの選択(例: Reserved Instances、Savings Plans、Spot Instances)
- リソースの自動スケーリングや非稼働時の停止
- 使用されていないリソースの特定と削除
また、以下のようなツールを活用します。
-
AWS Trusted Advisor
- コスト削減のための推奨事項を提供するツール
-
Compute Optimizer
- 最適なインスタンスタイプを提案するツール
Plan: 予算編成と将来の計画
Planは、クラウドコストの予測と予算編成を通じて、長期的な計画をサポートする柱です。
変化するビジネスニーズに応えて、柔軟に対応する計画を構築します。
また、実際の支出データを元に予算計画を更新し、精度を向上させることが大事です。
主に以下のような活動を行います。
- プロジェクトやチームごとの柔軟な予算計画
- ワークロードの成長や予期せぬイベントに対応したコスト予測モデルの作成
- コスト予測モデルに基づいた意思決定支援
また、以下のようなツールを活用します。
-
AWS Cost Explorer
- 将来のコストをするために使用するツール
-
AWS Pricing Calculator
- 新しいプロジェクトの費用を見積もるためのツール
Run: 日々の運用とガバナンス
Runは、AWS環境での運用プロセスを管理し、コストガバナンスを確立することを目的としています。
第一に、運用の効率性とコスト管理を両立する仕組みを整備します。
また、チーム間で責任と権限を適切に分担することで、ガバナンスの透明性を確保することも重要です。
主に以下のような活動を行います。
- ガードレールとガバナンスポリシーの設定
- 日々の支出を監視し、異常を検知
- 課金プロセスの自動化と効率化
また、以下のようなツールを活用します。
-
AWS Organizations
- マルチアカウントの環境全体のコスト管理の前提となるツール
-
AWS Control Tower
- マルチアカウントの環境全体をベストプラクティスに準拠させるためのツール
フレームワークを活用することによる期待効果
CFMの4つの柱を統合的に活用することで、コスト管理の文化を組織全体に浸透させ、ビジネス価値を最大化できます。
Seeで透明性を確保し、Saveで最適化を行い、Planで計画を立て、Runで実行するというサイクルを回すことで、持続的な成果が得られます。
4. クラウド最適状況の評価
コストを最適化しながらも、クラウド環境で得られている効果を評価することが、継続的な改善活動に繋がります。
AWSが提唱しているクラウド移行の評価方法と、それによって得られるビジネス価値について詳しく解説します。
AWS Cloud Value Framework
AWSはクラウド移行の価値を評価するための Cloud Value Framework を提供しています。
このフレームワークは、クラウドの利点を5つの主要な価値軸で測定し、移行によるビジネス成果を定量化することに役立ちます。
コスト削減(Cost Savings)の観点
コスト最適化はCVFの観点の1つです。
ハードウェアやメンテナンスのコストをクラウドで置き換えることに終わらず、さらにこれを最適に利用することでIT予算の効率化を実現できているかどうかを評価します。
スタッフの生産性向上(Staff Productivity)の観点
チームが戦略的かつ差別化に寄与する業務に集中できる環境を提供できているかどうかを評価します。
日常的な運用負担を軽減し、技術革新に割ける時間が増加しているかどうかがポイントです。
運用の回復力(Operational Resilience)の観点
ハードウェア障害、自然災害、停電からの回復力を向上できているかどうかを評価します。
ビジネスの敏捷性(Business Agility)の観点
必要なリソースを即座にプロビジョニングし、新しいアプリケーションやサービスの開発を迅速化できているかどうかを評価します。
持続可能性(Sustainability)の観点
エネルギー効率の高いAWSのサービスオプションを活用し、環境への影響を最小限に抑えることを意図できているかを評価します。
CVFによるクラウド移行効果の評価例
以下は、CVFを活用したクラウド移行効果の評価する時の報告の例です。
次のように、定量的に移行効果を説明できるようにすることが重要です。
コスト削減
例: インフラコストの平均30%を削減
スタッフの生産性向上
例1: 管理業務の効率化により、管理者の生産性が70%向上
例2: スタッフのイノベーションへの集中時間が25%増加
運用回復力の強化
例1: 障害の発生率を60%削減
例2: セキュリティ関連インシデントを40%低減
ビジネスの俊敏性
例: 新しいアプリケーション機能の市場投入までの時間を30%短縮
AWS Migration Evaluator
あまり知られていませんが、クラウド移行後の評価と、移行後の効果測定を支援するためのツールやリソースは、AWSから標準で提供されています。
ここでは AWS Migration Evaluator を紹介します。
AWS Migration Evaluator(旧称: TSO Logic)は、オンプレミス環境をAWSに移行する際に、そのコストやビジネス価値を評価するための無料ツールです。
このツールにより、移行計画に必要なデータを集めて分析することができ、意思決定を迅速かつ正確に行えるようになります。
オンプレミス環境の評価
AWS Migration Evaluatorは、既存のオンプレミス環境をスキャンし、サーバーやアプリケーションに関するデータを収集することが可能です。
このデータに基づいて、以下のような情報を可視化して分析できます。
- サーバースペック、稼働時間、リソース使用率に関する詳細なインサイト
- オーバープロビジョニングや未使用リソースの特定
移行後のコストをモデリング
AWS移行後のコストを、以下のような複数のシナリオでモデリングできます。
最適な購入モデルやリソースタイプを選択するために役立ちます。
- オンデマンド、Reserved Instances(RI)、Savings Plans、Spot Instancesなどの料金オプションの比較
- ワークロードに応じた最適なインスタンスタイプの提案
コスト削減とROIの予測
AWSに移行した場合のコスト削減効果や投資収益率(ROI)を予測します。
これにより、移行の経済的メリットを具体化し、経営層やステークホルダーへの説得材料として活用できます。
移行計画のカスタマイズ
以下の内容を含む、企業の独自の要件に基づいた移行プランを作成できます。
- アプリケーションやワークロードごとの移行スケジュール
- 必要なリソースと予算の詳細
5. コスト予測と予算管理
AWSの柔軟でスケーラブルなサービスは、ビジネスニーズに応じたリソース提供を可能にする一方で、計画的な予算管理がなければ、コストが予想外に膨らむリスクも伴います。
AWSでの効果的なコスト予測と予算管理の方法を解説します。
コスト予測の基本
コスト予測で大事なのは、そのプロセスの中で過去の利用データや使用パターンを分析して、将来の支出を見積もることであり、予算編成やリソース計画の精度を高めるために重要です。
クラウドコスト予測の目的
- リソースのスケーリング計画
- 予算超過の回避
- 新規プロジェクトの費用見積もり
- 短期的および長期的な財務計画の策定
主な予測手法
-
履歴データの活用
- 過去の使用状況をもとに使用パターンを把握
-
ビジネス成長を考慮
- 将来的な需要増加を反映して予測
-
イベントの予測
- 販促キャンペーンや新製品発売に伴う需要変動のモデル化
AWS Cost Explorerを活用した予測
AWS Cost Explorerは、コストと使用状況のデータを可視化し、未来の支出を予測するために利用できます。
主な特徴
-
グラフィカルなレポート
- 日次、月次の使用量とコストデータを視覚化して分析可能
-
コスト予測機能
- 過去の利用パターンに基づく将来の支出予測(最長12か月)
-
分析粒度の調整
- アカウント、サービス、リージョンごとにデータを分類
-
エクスポート機能
- レポートをCSV形式で出力して詳細分析が可能
コスト予測の作成ステップ
簡単に以下の手順で、コスト予測を作成して分析することが可能です。
-
AWS Cost Explorerにアクセス
- データ範囲を設定(例: 次の3か月、6か月、12か月)
- 必要に応じてアカウントやサービスごとのフィルタリングを適用
- 予測結果を分析し、意思決定に活用
AWS Budgetsを活用した予算管理
AWS Budgetsで、クラウドコストを監視し、支出が特定の閾値を超えた際にアラートを発行することが可能です。
主な特徴
-
コスト予算
- 指定された金額を超えた場合にアラートを発生
-
使用量予算
- サービス使用量が特定の基準を超えた際にアラートを発生
-
RI利用率予算
- リザーブドインスタンスの利用率が一定水準を下回った場合に通知
-
Savings Plans利用率予算
- Savings Plansの利用率が一定水準を下回った場合に通知
予算作成のステップ
簡単に以下の手順で、予算を作成して監視することが可能です。
-
AWS Budgetsコンソールにアクセス
- テンプレートを選択(例: 毎月のコスト予算、ゼロ支出予算)
- 対象サービスと閾値を設定
- 通知を受け取るためのメールアドレスやSNSトピックを登録
6. コストの可視化と報告
コストと使用状況のデータを正確に追跡し、理解することが、最適化や効率化への第一歩になります。
AWSが標準で提供するコスト可視化に役立つツールを活用すれば、クラウド利用の透明性を高め、報告と意思決定を迅速化できます。
AWSのコスト管理ツール
以下は、AWSのコストと使用状況を分析し、データに基づいた意思決定を行うためのツールです。
AWS Cost Explorer
これまでにも紹介した通り、コストと使用状況データを可視化し、カスタマイズしたレポートを作成できます。
日次または月次でコストと使用量の変動を追跡したり、リソースごとのコストを特定し、最適化ポイントを発見するために役立ちます。
また、過去のデータを基に将来の支出を予測し、予算設定やリソース計画に役立てることもできます。
基本操作は以下の通りです。
- Cost Explorerコンソールにアクセス
- 期間(例: 過去6か月または次の12か月)を選択
- サービス、リージョン、アカウント別にデータをフィルタリング
また、分析結果をCSV形式でエクスポートし、さらに詳細なレポートを作成することも可能です。
AWS Cost and Usage Report(CUR)
詳細なコストと使用状況データが分かります。
CURを活用することで、アカウント、リソース、またはサービス単位での詳細分析が可能となり、コスト推移の変化からオーバープロビジョニングや非効率的なリソース使用を細かく特定することもできます。
CURは定期的にCSV形式でS3バケットに出力することができます、Amazon QuickSightをはじめとした外部BIツールでの分析が可能です。
AWS Billing and Cost Managementコンソール
AWSの黎明期から存在するツールですが、近年は、支出や予算の状況をリアルタイムで確認できるダッシュボードへと進化しています。
また、ニーズに応じて以下のツールも活用できます。
Amazon QuickSightでのカスタムダッシュボード (CUD/CUDOS)
FinOpsやコスト管理のベストプラクティスを反映した、オープンソースプロジェクトの Cloud Intelligence Dashboards (CID) から着想を得たダッシュボードです。
CURなどのデータから視覚的なダッシュボードを作成し、標準ツールでは得られない分析結果をステークホルダーに共有できます。
また、QuickSightのEnterprise Editionでは行レベルのセキュリティ (RLS) を設定してデータセットへのアクセスを制限することができるため、例えばチームごとにデータへのアクセスを制限することができます。
7. コストガバナンス
ユーザーが容易にリソースを作成できる一方で、不適切なリソースの利用や予想外の支出が発生するリスクもあります。
コスト管理のための予防的アプローチと検知的アプローチを考え、組織が効果的にクラウド支出をコントロールできる仕組みを整えていく必要があります。
予防的アプローチと検知的アプローチ
予防的アプローチと検知的アプローチは、クラウド環境でのコスト管理を支える2つの主要な戦略です。
どちらのアプローチも重要であり、多くの組織はこれらを組み合わせたハイブリッド戦略を採用しています。
予防的アプローチ
問題が発生する前にコストの過剰支出を防ぐ仕組みを構築します。
具体例として、以下の方法があります。
- リソースの作成や変更に対するポリシー設定(例: Service Control Policies)
- リソースの自動スケール設定や非稼働リソースの削除
- IAMポリシーによるアクセス制限
検知的アプローチ
使用状況や支出を継続的に監視し、異常が検出された際にアラートを発する仕組みを整えます。
- コスト異常検知ツール (AWS Cost Anomaly Detection) を利用して、異常なスパイクを迅速に発見
- AWS BudgetsやAWS Configによるコストやリソース変更の監視
IAMポリシーやService Control Policiesの活用
ユーザーとリソースへのアクセス権限を制御するためのツールを活用することは、間接的にコスト管理を強化し、無駄な支出を防止することに繋がります。
IAMポリシー
特定のリソースやアクションへのアクセスを制限することは、不要なリソースの作成を防止することに繋がります。
例: 特定のインスタンスタイプの使用を制限するポリシー
Service Control Policies(SCPs)
AWS Organizationsで、マルチアカウント環境全体にまたがるガバナンスを設定すれば、不要なリソースの作成を環境全体で防止できます。
例1: 特定のリージョンでのリソース作成を禁止
例2: タグの欠如を理由にリソース作成を拒否
例3: 高コストなインスタンスタイプの利用を制限
タグポリシーとコスト異常検知ツール
AWSのタグ機能や異常検知ツールを活用すると、リソースの追跡とコストの監視をより効率的に行えます。
タグポリシーの活用
一貫したタグ付けルールを設定することで、リソースの可視性を向上できます。
AWS Organizationsで、リソースのタグポリシーを適用した管理を実施すれば、厳格に管理することが可能です。
例: 各リソースに「環境(Environment)」「プロジェクト名(Project)」「責任者(Owner)」などのタグを必須化
コスト異常検知ツールの活用
-
AWS Cost Anomaly Detection
- 機械学習を利用して異常な支出パターンをリアルタイムで検出
- リンクされたアカウントやサービスごとに最大500件のカスタムモニタリングを設定可能
-
AWS Budgets
- 特定の閾値を設定し、実支出または予測支出が閾値を超えた場合に通知
- アラートをAmazon SNSを通じて配信
8. まとめ
AWS Cloud Financial Management(CFM)は、単なるコスト削減ツールではなく、クラウド活用を通じてビジネスの価値を最大化するための包括的なフレームワークです。
本記事では、CFMの基本理念から具体的な実践方法までを解説しましたが、ここではそのメリットと成功のためのヒント、そして今後の展望についてまとめます。
CFM導入のメリットと成功のためのヒント
CFMを導入することで、以下のようなメリットを享受できます。
コストの透明性向上
使用状況と支出データを分析するための環境を整備することで、チーム間の責任分担を促進し、効率的なガバナンスを実現できます。
AWSの標準ツールを活用することで、外部のソフトウェアを調達することなく分析を開始できます。
コスト効率の向上
コストを分析できるようになれば、オーバープロビジョニングの削減やリソースの最適化が進み、コスト削減とリソースの利用効率の向上を同時に達成できます。
迅速な意思決定のサポート
リアルタイムのデータと予測を基に、ビジネスニーズに迅速に対応可能となります。
持続可能なクラウド運用
AWSのエネルギー効率の高いインフラを活用すれば、持続可能性を高めつつコストを削減できます。
CFM導入のためのヒント
以下のポイントを押さえることが重要です。
ガバナンスの確立
IAMポリシーやService Control Policies(SCP)、タグポリシーを活用して、リソース使用のルールを明確に定めましょう。
予算管理と異常検知の自動化
AWS BudgetsやCost Anomaly Detectionを利用して、予算超過や異常な支出を迅速に特定できる体制を整えます。
継続的なレビューと改善
定期的なコストレビューを行い、使用状況に応じた最適化を継続的に実施します。
ステークホルダー間の連携
技術チームと財務チームが密接に連携し、コストデータを共有して戦略的な意思決定を支援します。
今後の展望と次のステップ
AWSの戦略的活用を支える基盤として
CFMは、コスト管理のためのツールとしてだけでなく、クラウドの戦略的活用を支える基盤として機能しています。
AWSは新しいサービスや機能を次々とリリースしており、これを活用することで次のような展望が期待されます。
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AIによる自動化の促進
- Amazon Qと統合したコスト予測や異常検知を活用して、より高度な自動化が可能
-
FinOpsプラクティスの確立
- クラウドファイナンスと運用を統合させた、新しいベストプラクティスの確立
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持続可能性へのさらなる貢献
- 社会の要請に応えたオプション選択により、環境負荷を一層軽減
CFM導入のステップ
CFMの導入を進めるにあたり、以下のステップを検討する必要があります。
まずは考え方を押さえて、取り組みを開始しましょう。
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CFMフレームワークの全体設計
- See(可視化)、Save(最適化)、Plan(計画)、Run(運用)の各要素を組織に適した形で設計
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ツールの導入とトレーニング
- AWS Cost ExplorerやBudgets、CURなどのツールを活用し、チーム全体での運用を推進
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継続的な改善プロセスの構築
- 定期的なワークロードレビューを実施し、使用状況やビジネスニーズに応じた最適化を継続
-
文化としてのコスト意識の醸成
- コスト最適化を単なるプロセスではなく、組織文化として根付かせる取り組みを推進
終わりに
CFMは、クラウド運用を成功させるためのフレームワークで、コスト管理を単なるコスト削減でなく、戦略的なコストの配置に繋げる作業へと進化させることができます。
AWSの提供する標準ツールを活用すれば実現できるため、早い話、誰でもすぐに開始できます。
ビジネス価値の向上や持続可能な成長を実現する基盤を築くために、早速取り入れていきましょう。
参考文献
公式ガイドとホワイトペーパー
- AWS Cloud Financial Management Guide (2023)
- The Keys to AWS Optimization (YouTube Channel)
- Business Value of AWS - IDC Whitepaper
- Business Value of Cloud Modernization
- AWS Well-Architected Framework - Cost Optimization Pillar
ブログと学習リソース
- Starting your Cloud Financial Management journey: Cost Planning
- Understanding your AWS Cost Datasets: A Cheat Sheet
- New Cost and Usage Dashboard powered by Amazon QuickSight
- Managing Costs during large-scale migrations
ツールとプレイブック
- AWS Pricing Calculator
- AWS Cost Explorer User Guide
- AWS Cost and Usage Report (CUR)
- Cloud Intelligence Dashboards
- AWS Config Playbook