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スクラムと文化人類学

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スクラムガイドの「スクラムの理論」の章には次のような記述があります。

スクラムは「経験主義」と「リーン思考」に基づいている。経験主義では知識は経験から生まれ、意思決定は観察に基づく。リーン思考では、ムダを省き、本質に集中する。1

経験主義2とは、empiricism のことなので、超経験的なものに依拠するのではなく、唯物論・実証主義のような考え方で、客観的に観察できた事象をもとに行動しようとするアプローチと言い換えることができます。

文化人類学との類似

こうしたスクラムのアプローチについて、文化人類学と類似する点があるように思います。どちらも人間に対して、質的な方法で理解を深めようとする活動だと言えるからです。
この記事では、スクラムでの開発活動と文化人類学のアプローチについて類似する点を考えてみます。

研究の目的

文化人類学3は、人間の理解をその文化的側面から行うことを目的としています。
ITエンジニアが行うシステム開発でも、人間自身が暗黙的に行っている文化的な情報処理を、明文化された形で記述し、実行可能にすることが目的とされます。
両者とも人間の文化的な理解という意味で、半ばまでは同じ目的を共有していることになります。

理解のための方法

フィールドワーク

ある調査対象について、その対象に関する客観的な事実を、調査対象自体が存在する場所に赴いて収集することが、フィールドワーク4です。観察者がいて。一方に理解を深めるべき対象があり、その対象について客観的な事実の収集が必要であるという点において、システム開発でも同じようなアプローチが必要になります。
フィールドワークの中で実施する活動として文献調査、アンケート調査、聞き取り調査などがある点も同じです。

エスノグラフィー(民族誌)

ある調査対象についての研究の結果を記述したものとして、エスノグラフィー5があります。調査された事象は質的説明として記述されます。

スクラムでは何を理解の対象にするのか

プロダクトマネジメントの視点

スクラムのメンバーのうちプロダクトオーナーは、プロダクトを利用する人々を理解するために、このようなメソッドを利用することができます。6
機能要件やユーザビリティは、質的な記述によって根拠を観察するべきものです。
(もちろん、一方で計量できるようなパフォーマンス要件は、量的な記述で価値を明示できます。)

スクラムチームを運営する視点

スクラムマスターや開発者は、このようなメソッドをスクラムチーム自身に対して利用できます。
開発の活動の中で除去すべき障害について、客観的な観察から問題を特定し、解決が進んでいるかを見極める必要があります。
スクラムの理論が経験主義に基づいているということは、先に解決法があって、状況をそれに合わせるのではなく、スクラムチーム自身を先に観察する必要があるということです。
プロダクトオーナーやスクラムマスター自身や開発者について理解を深めるために、イテレーションについてのメトリクスを収集したり、聞き取りを行ったりする必要があります。

違い

スクラムチームが目指していることは、最終的に成果物を作り上げ、ユーザーに価値を届けることです。
この意味ではスクラムチームは、文化人類学的なアプローチを取りながらも、そのようにして自分たちのゴールを達成することができます。
一方で、スクラムチームは自分たちについて質的な理解を深めることが最終目的ではないため、それを通じてユーザーへの価値を最大化することを忘れないようにする必要があるでしょう。

  1. https://scrumguides.org/docs/scrumguide/v2020/2020-Scrum-Guide-Japanese.pdf

  2. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B5%8C%E9%A8%93%E8%AB%96

  3. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%87%E5%8C%96%E4%BA%BA%E9%A1%9E%E5%AD%A6

  4. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%89%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%AF

  5. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%91%E6%97%8F%E8%AA%8C

  6. https://www.epicpeople.org/about-epic/

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