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Maxwell方程式の因果論

Last updated at Posted at 2023-12-07

⚠記事の内容は学生個人の見解であり、所属する学科組織を代表するものではありません。

はじめに

Advent Calendar8日目です!!
僕は前回3日目を担当しました. 皆さん見ていただけたでしょうか?AtCoderのコンテストが明日と明後日の9時からあるのでぜひ参加してみて下さい!!(明日はARC, 明後日はABCが開催されます).

さて, 今回は皆さんお待ちかね物理の内容です!Maxwell方程式をいじるのに慣れている人は読みやすい内容かなと思います.
かなり急ぎで書いたので間違いや誤植があるかもしれませんがご了承ください.

Maxwell方程式の意味

Maxwell方程式は電磁場を決定する方程式系であり, 以下の形で与えられます.

\begin{align}
 &\nabla \cdot \boldsymbol{E} = \frac{\rho}{\varepsilon_0}\hspace{10pt}(\text{Gauss}の法則)\\
  &\nabla \cdot \boldsymbol{B} = 0 \hspace{10pt}(磁場に関する\text{Gauss}の法則)\\
  &\nabla\times\boldsymbol{E} = - \frac{\partial \boldsymbol{B}}{\partial t} \hspace{10pt}(\text{Faraday}の法則)\\
  &\nabla\times\boldsymbol{B} = \mu_0\left(\boldsymbol{j} +\varepsilon_0\frac{\partial \boldsymbol{E}}{\partial t}\right) \hspace{10pt}(\text{Maxwell -  Ampère}の法則)
 \end{align}

それぞれについてよく説明される意味について考えてみましょう. まずはもっとも簡単な発散に関する上二つについてみてみます.

  • Gaussの法則:電荷から電場が湧き出す.
  • 磁場に関するGaussの法則:磁場が湧き出すことがない. つまり, 磁場は渦を巻くようにしか存在しない (単磁極がないことも意味する).

次に下二つの式に着目しましょう. ここが解釈に困るところであり, この記事の本題となります.
式の形をそのまま解釈すると次のようになります.

  • Faradayの法則:磁場の時間変化が電場の回転を生じさせる.
  • Maxwell - Ampèreの法則:電流と電場の時間変化が磁場の回転を生じさせる.

Maxwell方程式の意味を解説するとき大体の文献には上記のように書いてあるはずです. しかし, 磁場や電場の時間変化が電場や磁場の回転を生じさせる, というのは, 実は因果ではなく相関なんだということがこの記事で言いたいことです. これは, 電磁場を生じさせる源は$(\rho, \boldsymbol{j})$である1ということを考えれば納得するのではないでしょうか.

本記事の目標がわかってきたことでしょう. 本記事では, Maxwell方程式を書き換えることにより, 因果関係をあらわにすることが目標となります.

これを解決する方法として二種類あります.
一つは電磁ポテンシャルを用いる方法です. 電磁ポテンシャル$(\phi,\ \boldsymbol A)$は$(\rho,\ \boldsymbol j)$のみを用いて書くことができ, 電磁場は電磁ポテンシャルから求まるので$(\rho,\ \boldsymbol j)\to(\boldsymbol E,\ \boldsymbol B)$の因果関係を見出すことができます. この話はたいていの電磁気学の教科書に書いているはずです.
二つ目はHelmholtzの定理を用いて電磁ポテンシャルを経由せずに因果関係を見出す方法です. 本記事はこの方法について解説していきます.

Helmholtzの定理

3次元のベクトル場$\boldsymbol{F}$があります. $\boldsymbol{F}$が無限遠方で十分早くゼロに近づくと仮定すると, 以下の定理が成り立つことが知られています.

  • $\nabla\cdot\boldsymbol{F}$と$\nabla\times\boldsymbol{F}$が与えられれば, $\boldsymbol{F}$は一意に定まる.
  • $\boldsymbol{F} = \boldsymbol{F}^* + \boldsymbol{F}^\circ\hspace{5pt}(\nabla\times\boldsymbol{F}^* = 0, \nabla\cdot\boldsymbol{F}^\circ = 0) $のように一意に分解できる.

($ * $は湧き出し, $\circ$は回転をイメージした記号です). この定理をHelmholtzの定理と言います. $\boldsymbol{F}^*$はrotation-freeな(回転がない)場であり, $\boldsymbol{F}^\circ$はdivergence-freeな(発散がない)場です.

ベクトル解析の公式

ここで用いるベクトル解析の公式を書き下しておきます.

\begin{align}
\nabla\cdot(\nabla\times\boldsymbol{F}) &= 0,\\
\nabla\times(\nabla\times\boldsymbol{F}) &= \nabla(\nabla\cdot \boldsymbol F) - \Delta\boldsymbol F.
\end{align}

ここで, $\displaystyle \Delta = \frac{\partial^2}{\partial x^2}+\frac{\partial^2}{\partial y^2}+\frac{\partial^2}{\partial z^2}.$

また, 光速$\displaystyle c= \frac{1}{\sqrt{\varepsilon_0\mu_0}}$を用いて, $\displaystyle \Box = \Delta - \frac{1}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial t^2}$とします. これはダランベルシアンという演算子です.

本題

まずは電荷保存則を導いておきます.
Maxwell - Ampèreの法則の両辺の発散を取ると(簡単のため時間偏微分をドットで書きます),

\begin{align*}
\nabla\cdot(\nabla\times\boldsymbol{B}) = \mu_0\left( \nabla\cdot\boldsymbol{j} + \varepsilon_0\nabla\cdot\dot{\boldsymbol{E}}\right)
\end{align*}

となり, 左辺はベクトル解析の公式よりゼロ, 右辺第2項はGaussの法則より$\dot{\rho}$となります. よって, 電荷保存則

\begin{align}
\nabla\cdot\boldsymbol{j} = -\dot{\rho}
\end{align}

が導けました.

ここからは, Helmholtzの定理を用いてMaxwell方程式を変形していきます.

まずは電荷保存則を変形しましょう. $\boldsymbol{j} = \boldsymbol{j^*} + \boldsymbol{j}^\circ$と変形すると, 電荷保存則は

\begin{align}
\nabla\cdot\boldsymbol{j}^* = -\dot{\rho}
\end{align}

となります. この式の意味するところは, $(\rho,\ \boldsymbol{j})$のうち, 独立に与えられるのは$(\rho,\ \boldsymbol{j}^\circ)$であるということです.

次に, Gaussの法則は

\begin{align}
\nabla\cdot\boldsymbol{E}^* = \frac{\rho}{\varepsilon_0}
\end{align}

となります. また, 磁場に関するGaussの法則は$\nabla\cdot\boldsymbol{B} = 0$であるから, 磁場はdivergence-freeな場しか持たないことがわかります($\boldsymbol{B}^* = 0$).

以上より,

\begin{align}
\left\{
\begin{array}{ll}
\nabla\cdot(-\boldsymbol{j}^*) = \dot{\rho} \\
\nabla\cdot(\varepsilon_0\boldsymbol{\dot E}^*) = \dot{\rho}
\end{array}
\right.
\end{align}

であることが分かります. これらのベクトル場はどちらも回転ゼロなので, 発散と回転どちらも同じベクトル場です. つまりHelmholtzの定理より,

\varepsilon_0\boldsymbol{\dot E}^* = -\boldsymbol{j}^*\ \cdots(\star)

したがって,

\boldsymbol{E}^* = -\frac{1}{\varepsilon_0}\int\boldsymbol{j}^*dt

となります.
すると, ($\star$)よりMaxwell - Ampèreの法則は次のように変形できます.

\begin{align}
\nabla\times\boldsymbol{B} &= \mu_0\left(\boldsymbol{j} + \varepsilon_0\boldsymbol{\dot E}\right) \\
&= \mu_0\left(\boldsymbol{j}^\circ + \varepsilon_0\boldsymbol{\dot E}^\circ\right).
\end{align}

両辺回転をとると,
$$\nabla(\nabla\cdot B) - \Delta B = \mu_0 \nabla\times\boldsymbol j^\circ + \frac{1}{c^2} \nabla\times\boldsymbol{\dot E}^\circ$$
左辺第一項は$\nabla\cdot B = 0$よりゼロ, 右辺第二項はFaradayの法則より$\displaystyle -\frac{1}{c^2}\boldsymbol{\ddot B}$であるから, ダランベルシアンを用いて,
$$\Box \boldsymbol B = -\mu_0\nabla\times \boldsymbol j^\circ$$
となります.
最後に, Faradayの法則より,
$$
\nabla\times\boldsymbol E^\circ = -\boldsymbol{\dot B}
$$
両辺回転をとると,

\begin{align}
-\Delta\boldsymbol E^\circ = -\nabla\times\boldsymbol{\dot B}\\
\therefore \Delta \boldsymbol E^\circ = \mu_0\left(\boldsymbol{\dot j}^\circ + \varepsilon_0\boldsymbol{\ddot E}^\circ\right)\\
\therefore \Box \boldsymbol E^\circ = \mu_0 \boldsymbol{\dot j}^\circ
\end{align}

結果

以上まとめると,

\begin{align}
\left\{
\begin{array}{ll}
 \displaystyle \nabla\cdot\boldsymbol{E}^* = \frac{\rho}{\varepsilon_0}\ \ \left(\boldsymbol{E}^* = -\frac{1}{\varepsilon_0}\int\boldsymbol{j}^*dt\right)\\
 \Box \boldsymbol B = -\mu_0\nabla\times \boldsymbol j^\circ\\
 \Box \boldsymbol E^\circ = \mu_0 \boldsymbol{\dot j}^\circ
\end{array}
\right.
\end{align}

となり, お目当ての電磁場が源$(\rho,\ \boldsymbol j)$により生じるという因果関係があらわになった式が導けました!!

これらの式を解釈してみます.
一つ目の式は電荷が湧き出し電場を作るという意味で, 元の式と同じですね.
二つ目の式はループ電流がどれぐらい渦を巻いてるかによって磁場が決まるという意味です.
三つ目の式はループ電流の時間変化が渦状の電場を作るという意味です. 磁石を動かすことを考えてみてください. すると, 誘導電場が発生します. 我々はこれを磁場が時間変化したから誘導電場が生じると解釈していましたが, 実は磁石は微小なループ電流の集まりだと見ることができます. つまり, ループ電流が動いた(時間変化した)から誘導電場が発生しているんですね.

さいごに

なかなか大変な計算でしたがいかがだったでしょうか. Maxwell方程式は非常にきれいな形をしていますが, 式そのままの意味で解釈してしまうと因果と相関を取り違えてしまうということがこの記事で一番伝えたかったことです. とはいえあくまで解釈ですのでこれが必ず正しいということもありません. そもそも運動方程式にしろMaxwell方程式にしろ, 現象は同時に起こる2ので物理法則に因果関係があるのかどうかすらも怪しくはあります. しかしやはり解釈というのは大事で, 人間が理解しやすい意味を与えるという行為はなかなか尊く, 意味のあるものだと思っています.

これで僕のPhyiKyu Advent Calendarの役目は終わりました. もう書きたくないです. Markdown記法に慣れていないのもあり割と時間を食ってしまいました. こういうちゃんと数式をバンバン用いる内容だと普通に$\LaTeX$を用いた方が楽ですね...... まあでも見る側のアクセシビリティ的にはQiitaの方が良いかなとも思うので一長一短ですね.

Advent Calendarは残り17日もあります. 残りの記事も楽しみですね!!

参考

笠原邦彦『【電磁気学】Maxwell方程式系の因果論
太田浩一『電磁気学の基礎I, II』(東京大学出版会)
砂川重信『理論電磁気学』(紀伊國屋書店)

  1. 本当にそうであるかは不明だが, そうであると解釈したいということです.

  2. 普通の因果関係には原因と結果の間にタイムラグがあります. 運動方程式は$ma = F$という形で, 力$F$を加えると加速度$a$が生じると解釈されますが, 力と加速度は同時に存在しているのでどっちが先かはかなり怪しい問題です. 実際, ケプラーやニュートンが力の存在に気付いたのも加速度があったがためなので, 解釈は人間の都合であると言えます.

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