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動機
- ITってそもそも何?どういう背景で作られてきたのか
- 日頃仕事で作っているようなシステムはどんな目的で作られているのか
- 社会で使われている、また、今後求められるITとは何か
- 日頃なんとなく勉強している技術が、社会的に役立つのかを知りたい
概要
まえがきより抜粋
「ITの技術的内容ではなく、目的意識や効能、社会に与えたインパクトを伝えたい」と思い、著者より許諾を得て書籍化を行いました。
後述しますが、本書は2002年のメールマガジンがベースになっており、そのあいさつ部分では、以下のように述べられています。
しかしコトバ(nnn注:前段で出てくる「IT革命」のこと)が上滑りに広がってゆくのに、肝心の内容は曖昧でつかみどころのないまま取り残されている気もします。ITって、何? 電子メールとケータイが使えればITなのか。TV会議を外国と開けばそれがビジネスのIT利用といえるのか。そもそもIT化の本質はどういう点にあるのか。IT化に限度や終わりはあるのか?
この疑問について、20個の "扉" という形でITについて多面的に説明されています。本書は、エンジニアの男性と会計士(非エンジニア)の女性による対話形式で進行します。
第01の扉 どうして、誰もITって何かをちゃんと説明してくれないの?
第02の扉 ITを理解している人を見分けるにはどうしたらいいの?
第03の扉 情報技術という言葉はどこからきたの?
第04の扉 定型と非定型はどこがちがうの?
第05の扉 全角と半角は何がちがうの?
第06の扉 バーコードには何のデータが入っているの?
第07の扉 POSレジは何のデータを集めているの?
第08の扉 コンピュータ抜きでもITって可能なの?
第09の扉 IT屋さんは実際の物事をどうデータに翻訳するの?
第10の扉 データの世界に文法ってあるの?
第11の扉 インターネットはなぜタダなの?
第12の扉 ホームページはデータベースの親戚なの?
第13の扉 情報の値段ってどうやって決まるの?
第14の扉 システムの値段は誰が決めるの?
第15の扉 システムの値打ちは何で決まるの?
第16の扉 ITビジネスの成長のパターンってどうなっているの?
第17の扉 IT業界で成功する秘訣はあるの?
第18の扉 日本はIT先進国なの、それとも遅れているの?
第19の扉 私でもネットにお店を開けるかしら?
第20の扉 ITって人と人を結びつけるのに役立つの?
感想など
本書は、著者の佐藤知一氏が2002年1月にメルマガで書いた文章を、串田悠彰氏が書籍用に編集したものです。それゆえに一部古い記載もありますが、現在でも大いに通じるITの考え方を学べたように思います。
「データ」と「情報」について
ITというのはデータを媒介とした情報のロジスティックスの仕組みだと思えばいい。
とありますが、(当時は。今も?)「データ」という言葉は「情報」とほとんど同義で使われているようです。本書では、次のように述べられています。
「情報」とは、人間にとって意味をもたらすものさ。
データとは、数字や文字の規格化・定形化された並びのことなんだ。
数字の羅列から意味をくみ出すのは、人間の側の精神の働きにあるからね。
「意味をもたらすもの」とは、「それが何かの決断・判断につながるもの」、あるいは、そこから何かのアイデアが誘発されるとき、「インスピレーション」と呼ばれるものと考えました。いずれにせよ、本文の通り、データと人間の精神が結びついたときの働きのことだと思います。
定型化について
たとえば請求書一つ例にとってみても、手書きの請求伝票で送るのと、ワープロの手紙で「二百万円お支払いください」と書いて送るのと、どっちがIT化に近いと思う?
手書きの請求伝票の方がずっとコンピュータのデータに持ち込みやすい。
なぜなら請求書は形式が完全に決まっているからね。
手書きであっても、それが定型化されていればデータとして十分に機能するという視点はとても面白く感じました。個人的には手書きを避けてしまいがちですが、単に面倒というだけでなく、情報が散らばって整理できないからです。型があることで手書きでもデータとして意味を持たせられる、という点に気づかされました。
ITにおける日本の立ち位置
1990年以前、日本はアメリカに次ぐIT先進国とされていましたが、90年代後半になるとその座から滑り落ちてしまったとあります。なお、2024年時点のグローバルノート調査では、日本は12位でした。
本書に書かれている「失われた10年」という言葉が、今h「失われた30年」にまで延びてしまっている現状を見ると、かつての勢いは失われてしまったようにも感じます。
その国のITが進んでいるかどうかはツールの普及率よりはむしろ、その背後を見るべきだと本書は言います。日本がIT先進国から陥落した理由として、自分なりに本書から読み取ったのは以下の2点でした。
- 国の制度・構造の問題
- 人材育成・教育の問題
国の制度・構造の問題
日本の住所は面的であり、欧米のような線的な体系とは異なります。これが地図アプリやカーナビの精度に影響し、ITツールが十分に活用されにくい背景になっていたようです。
日本では当時からカーナビやPC、電子メールがかなり普及していますが、いまいちIT先進国と言い切れないのは、あくまでツールが普及しているだけで、それらの裏にある制度設計そのもののシステム化まではできていないためだと思います。
ただ、文化などに起因する根強い課題だと思うので、対応は極めて困難でしょう。
人材育成・教育の問題
ぼくのいうシステム分析の能力というのはね、人間系に対する洞察と、機械系の論理との間をバランスできる思考方法だ。
言い換えれば、人間が必要な情報と、機械の扱えるデータやロジックとの関係をうまく定義できる能力。
本書を読むと、消費者を助ける視点とも言い換えられそうです。詰め込み型とよく言われる日本の教育では、そうした洞察を育てる機会が少なかった。一方でIT産業政策として大規模なシステムに多額の費用が投じられた。その結果、「作る側」を助ける制度設計までで留まり、消費者を助けるものにはならなかった。消費者を助け、育てれば消費者がより良いサービスを選ぶことで競争原理が働き産業が活発化しますが、そこまでは至らなかったのだと思います。
おわりに
動機には答えが出たか?
- ITってそもそも何?どういう背景で作られてきたのか
- 日頃仕事で作っているようなシステムはどんな目的で作られているのか
- 社会で使われている、また、今後求められるITとは何か
- 日頃なんとなく勉強している技術が、社会的に役立つのかを知りたい
これらの問いへの一定のヒントは得られたと思います。特に「定型化されたデータの整理を通じて情報を提供すること」がITの本質という指摘は、興味深かったです。ただ、消費者が求める情報とは何か?という問いにはまだ答えが出ておらず、今後さらに解像度を上げていきたいと感じました。
また、こうした指摘は実業務とはまだ乖離している感覚があるので、これからも知るべき課題になると思います。
今後
抽象的な内容に偏ったため、次回はもっと具体的な話題に触れたいと思います。特に通信やネットワークの仕組みについて理解を深めたいと感じています。次に読もうと考えている本はこちらです:
また、ITの利点や社会的欲求をより深く理解するためには、その歴史的背景を遡ることも重要だと思いました。
補足
書籍の記載に合わせて「IT」は全角で統一しました。