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ベル研で開発された M9 火器管制システムにおける先駆的オペアンプ ~ 面白い電子回路の歴史 ~

Last updated at Posted at 2022-12-24

2022年8月に開催された、「第119回秋葉原ロボット部勉強会」に開催した、プレゼンバトルのために下調べした内容です。
この勉強会では毎回の恒例イベントとしてプレゼンバトルが開催されます。2022年8月の回は軍用車両がテーマとなり、僕のネタとして SCR-584 レーダーシステムについてお話をしました。
プレゼンバトルはビブリオバトルのルールを使いアドリブで行います。なので下調べでとして作った本資料は発表では使いませでしたが、せっかくなので手直しして公開しておきます。

遅れて25日の朝になりました。
NORAD (北米防空司令部) が現在サンタクロースを追尾しています。
image.png
今回は防空とオペアンプのお話。

オペアンプ

image.png
写真は JRC の NJM741D 。いわゆるオペアンプ741(以下741)と言われるものです。
741のオリジナルは 1968 年に発表された フェアチャイルド社の μA741。741 はその後長きに渡って使い続けられている古典的な標準的オペアンプです。
現在は、741から更に発展して各社から様々なオペアンプが開発されています。
image.png
( 各社のオペアンプ [File:Op-amps.jpg CC 表示-継承 3.0] )

オペアンプの動作原理

オペアンプとは、アナログの電気信号を演算処理できる素子です。記号としてこのように描きます。
image.png
上述の図には +電源と-電源 が記されてます。しかし動作の説明などをするときには省略されて以下のように描かれることが多いです。この記事でも以降そのように描いて説明していきます。
image.png
オペアンプ単体では、V+とV-の電圧差を増幅するだけの動作を行います。
図では、V+とV-が入力で VOUT が出力です。 V+ と V- の電圧の差が VOUTに反映します。 単に 電圧の差をそのまま出すのではなく、電圧の差を増幅した値が出るようになっています。一般的に増幅率は100db程度です(100db=100000倍)。
ただ単にこれだけの機能なのですが、なるべく特性が理想的になるよう設計されています。理想的な特性とは

  • 線形に増幅
  • 入力信号が絶縁されている

などがあります。
実際のオペアンプは完全に理想的なわけではありません。しかしながら例えば入力信号が絶縁という点を見ると、完全絶縁とまではいかないまでもかなり高いインピーダンスとして作られています。ここで仮に理想から大きく離れ、インピーダンスが低いとどうなるでしょうか? インピーダンスが低いとオペアンプに流す電流が多くないといけなくて、そうなるとオペアンプに繋いだだけで測定したい信号の電圧が下がってしまうようなことが起こります。オペアンプはそのような影響が少なく簡単に扱うことができるということになります。

さて、線形に増幅ということは、 V+ と V- の電圧の差が VOUTに反映するというそれだけの機能です。しかしながらその機能だけでも理想に近い特性で使えるとなると、以下のような機能を簡単に実現することができるようになります。

オペアンプで作る基本演算回路

非反転増幅回路

image.png
Vin の電圧を正確に増幅した VOUT を得られることができます。増幅率は R1 と R2 で以下のように指定できます。
$V_{out}=V_{in}\left(1+\dfrac{R_{2}}{R_{1}}\right)$
先に増幅率は 100db 程度と描きましたが、その値によらず R1 と R2 で増幅率を指定することができます。
増幅というと、倍率を指定することで掛け算も割り算もできるということですね。

反転増幅回路

image.png
以下のような出力が得られます。
$V_{out}=V_{in}\left( -\dfrac{R_{f}}{R_{in}}\right)$
非反転増幅回路のほうが直感的なのになぜわざわざ極性を反転するのでしょうか? こちらのほうが速度が早くできるなどのメリットがあるためです。
演算という観点からいうと負数を使った乗除算ということになります。

差動回路

image.png
R1=R2,Rf=Rg として、V1とV2の差を元にした以下の出力が得られます。
$V_{out}=(V_{2}-V_1{})\left(1+\dfrac{R_{f}}{R_{1}}\right)$
ノイズを除去する目的に使ったり、あと計算機としてみたら引き算の動作を行う回路となります。

加算回路

image.png
(加算回路の図 File:Opampsumming.png CC 表示-継承 3.0)
複数の電圧入力の合計が求まります。
$V_{out}=-R_{f}\left(\dfrac{V_{1}}{R_{1}}+\dfrac{V_{2}}{R_{2}}+...+\dfrac{V_{n}}{R_{n}}\right)$

微分回路

image.png
$V_{out}=-RC\dfrac{dV_{in}}{dt}$

積分回路

image.png
$V_{out}=-\dfrac{1}{RC}\int_{0}^{1}V_{in}dt $

このようなことから、加減乗除微分積分が一通りできることがわかります。アナログ的な計算が、オペアンプを使うと実現できるということになるのですね。

741 の中身

さて、先に紹介したオペアンプ741 は IC のパッケージになっています。以下の写真は缶型のICです。先の黒いパッケージとは違い、 TO99と呼ばれるメタルCANパッケージになります。
image.png
Original File:Ua741 opamp.jpg
Creative Commons Attribution 3.0 Unported
先の 黒い四角い IC のパッケージは 8ピンの DIP でしたが、こちらの メタル CAN パッケージは 軍用 MIL 規格のICなどによく使われています。
さてこれらの IC チップの中身はこのようになっています。
image.png
Original File:Fairchild uA741 opamp 6920.jpg
reative Commons Attribution-Share Alike 4.0 International

このシリコンに作り込まれた回路はトランジスタを用いて このような回路になっています。
image.png
Oiginal File:OpAmpTransistorLevel Colored Labeled.svg
Attribution 2.5 Generic (CC BY 2.5)

ICより前の時代のオペアンプ

741 は ICとしてつくられたものですが、ICの時代の前にはこのようなオペアンプがありました。
image.png
File:Modular opamp.png Creative Commons Attribution-Share Alike 3.0 Unported license.
GAP/R 社のモデル PP65 です。この中身は単体のトランジスタを使って構成されていました。
image.png
File:Discrete opamp.png CC BY-SA 3.0
これは同じ GAP/R 社の別のモデル P45 でカードエッジタイプ。 P55 と同様に単体のトランジスタを使って構成されていました。

更に遡るとトランジスタが普及する前には真空管を使ってオペアンプが作られていました。

image.png
File:K2-W.jpg This file is licensed under the Creative Commons Attribution-Share Alike 3.0 Unported license.
これは最初の市販オペアンプ、 K2-W です。1952 年に開発され,1953 年の 1 月に発売されました

このように、理想回路として使えるオペアンプをモジュールとして用意するというアイデアは魅力的で、かなり昔から実現に向けた試みがなされていました。

オペアンプとフィードバック制御

さて、先の非反転増幅回路について。
image.png
Vin の電圧を正確に増幅した VOUT を得られることができます。増幅率は R1 と R2 で以下のように指定できます。
$V_{out}=V_{in}\left(1+\dfrac{R_{2}}{R_{1}}\right)$
オペアンプ自体の増幅率は 100db 程度ですが、どうして R1 と R2 で増幅率を指定することができるのでしょうか?
例えばR1もR2も1kΩ、電源のプラスとマイナスに 5Vと -5V を加えていたとします。最初は VinもVoutも 0Vだとします。Vinに1Vがかかったら、Voutは100dbで10万倍ですが電源電圧より外にはできないので Vout は5V近くで上昇は止まります。741 だと 1ボルトぐらい低くて4V程度です。ちなみに、電源電圧の範囲ぎりぎりまで使いたい場合はどうすればいいでしょうか? この点でも、理想に近づけたオペアンプとしてレールツーレールというタイプのオペアンプがあり、例えば アナログデバイセズの OP777 だと電源が 0V と 5V の場合 0.14V〜4.88V までの範囲で使えることになります。
image.png
さて 741 の動作に戻って、Vin に 1Vをかけていると本来はVoutは4V程度まで上昇しますが、 抵抗がついているためもし Voutが4Vになると - が 2Vになることになります。そうすると オペアンプの動作として +と - の電位差に応じたVoutになるため、電位差-1 V に応じて Voutは10万倍ですが電源電圧より外にはできないので Vout は -5V 近く、具体的には 1ボルトぐらい高くて -4V ぐらいになります。
実際には安定するところに落ち着いて、

  • Vin 1V
  • Vout 2V
  • 入力 - 端子 1V

となり、 入力の + 端子 と - 端子は 1Vで一緒の電圧になるようにVOUTが2Vで安定することになります。
この動きは増幅しすぎ・増幅不足を自動で修正する仕組みになっていて、例えばノイズなどで期待する値から一時的にかけ離れたとしてもあるべき値に戻っていくようになり、修正がない回路よりもより正確な動きが期待できます。この働きがフィードバックと呼ばれるものです。

フィードバック制御とコンピューター

フィードバック制御は、今では Arduino とか PIC などでも簡単にソフトウェアで実現できます。100円しない値段ですね。

しかしながらデジタルコンピュータでフィードバックができるようになるには、過去真空管の時代には例えば Whirlwind と呼ばれるコンピュータでは開発に四苦八苦の涙の開発が行われるほどでした。そのような時代ではアナログコンピュータが先行していました。本格的な電子式のアナログコンピュータは1940年代に花開きました。その革新をもたらした、M9システムの説明をします。

90mm高射砲の計算

1930年代の世界各国の高射砲は 76.2mm 前後のものが主力でしたが高く速く劇的に進化する当時の航空機の性能にあわせ、1940年代は90mm前後の高射砲が用いられるようになりました。

ドイツ軍はドイツ軍の名高い 8.8cm Flak18/36/37/41 が、イギリスは QF 3.7インチ高射砲、そして米軍はM1/M2 90mm高射砲を使いました。
image.png
90mm M1 AAgun CFB Borden.jpg
https://creativecommons.org/licenses/by/2.5/deed.ja

M1/M2 90mm高射砲 は初速 823 m/s、最大高度1万mを超える性能を持ちます。
しかしながら砲自体が高性能でも当たらないと意味がありません。
image.png
Bundesarchiv_Bild_101I-659-6436-15,_Flugzeuge_Messerschmitt_Me_110.jpg
https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/de/deed.ja

ここで、高度5000m を飛ぶ Bf.110 を撃ち落とすことを考えてみましょう。
仮に真上に初速823 m/s で砲弾を真上に打ち出すと、空気抵抗が無いとしても6秒以上かかります。

運動方程式

$$
\begin{aligned}t=\dfrac{v_{0}}{g}-\sqrt{\dfrac{2\left( \dfrac{v_{0}^{2}}{2a}-5000\right) }{g}}\ =84-78\ =6(sec.)\end{aligned}
$$

Bf.110 が巡航 300km/h で飛行している状態だと、6秒のうちに 500m 進みます。
1秒のうちに角度にして 5.7 度動くのを追随しながら、Bf.110 の全長は 12m なので誤差は ±0.07 度以内であることが必要になります。

実際の戦場では、とてもこんな精度で射撃することができるはずもなく、この時代は数を撃って時限信管の効果空間内に確率的に当てるという考え方でした。

この高射砲は通常は4門が連携して運用され、指揮装置に接続して管制されました。

image.png
「Between Human and Machine (Johns Hopkins Studies in the History of Technology)」
Mindell, David A.. Johns Hopkins University Press.

#レーダーと連動する

さて、この時代はレーダーが普及した頃です。米軍では SCR-268 と連動することができるようになり、1.5m波長であり精度1度でありました。

このシステムでは、射撃方位を決定するには性能が不足でしたが、この方位情報を元にサーチライトを指向し、照らし出された敵影を光学システムで照準するというようになっていました。

距離はある程度効果的で、±約200ヤード(±約180m) のタイミングを得ることができました。この距離照準方法は、オシロスコープ画面に表示されたレーダ反射波の表示に、人間がハンドホイールを使ってフリップをあわせる方法でした。

SCR-584レーダー

イギリスからマグネトロン発振器を開発したことをうけ、Rad Lab のAlfred Lee Loomisは、サーボ機構によって制御される完全に自動化された追跡システムの開発を提唱しました。

image.png

画期的な仕様を持っていました。

  • マグネトロンを使うことで強力なマイクロ波を利用できるようになる
  • 1つのアンテナでレーダー波送信と受信が可能に
  • メートル波レーダに比べて飛躍的に精度が高くなる
  • 追尾モードとしてコニカルスキャン・捜索モードとしてヘリカルスキャン両モードを持つ
  • ヘリカルスキャンモードのために PPI ディスプレイを装備

ヘリカルスキャンはくるくる回るモードです。それに応じて、円いディスプレイにレーダー表示が出るのが PPI ディスプレイです。

この範囲内の精度は、範囲で 25 ヤード、アンテナ方位角で 0.06 度 (1 ミル) でした。これだと、先に計算した高度 5000m の Bf110 を射撃するのに十分な精度ですね!

しかしながら、レーダー精度が良くてもそれを元に飛行機の未来位置を算出し、未来位置に砲を指向しないといけません。

未来予測

先に、簡単に運動方程式を解きましたが実際に射撃に必要な計算は以下のものがあります。

  • 接近する航空機の進路速度
  • 砲弾の速度
  • 信管のタイミング
  • 火薬の温度
  • 砲弾のドリフト
  • 空気密度
  • 風速

スペリー社の機械式 M7 指揮管制装置

先に、

距離はある程度効果的で、±約200ヤード(±約180m) のタイミングを得ることができました。この距離照準方法は、オシロスコープ画面に表示されたレーダ反射波の表示に、人間がハンドホイールを使ってフリップをあわせる方法でした。

と書きましたがこれが正に人間によるフィードバックです。これは SCR-268レーダーとM4指揮管制システムの組み合わせで行っていたことですが、それが SCR-584レーダと改良されたM7指揮管制システムでも同様な人間サーボがありました。

表示に指針を合わせるというだけの操作に人間が使われたのです。

M7 において未来位置予測は機械式微分計算機で行われるなど、高精度なカムを駆使し設計されていました。
いうなれば (蒸気機関ではさすがにありませんでしたが) SF のスチームパンク的なメカニカルの極致に至っていたということができます。
しかしながら、高精度な機械要素を生産する技術を持つ会社は少なく、90mm 高射砲の数に決定的に製造が足りませんでした。

また、設計基準に問題があり、重大な欠陥があると評価されました。計算方法などを改良したくても複雑なカム機構などを設計製造し直さないといけなくてアップデートが困難という機械式計算機の本質的な問題も意味していました。

M9 システム

ベル研究所は MIT 放射線研究所と緊密に連携して、アナログ電子式 M9 火器管制装置を開発しました。
1941 年 12 月に 火器管制システムのプロトタイプとして T10 を試作、システム全体は、1942 年 4 月 1 日に完全な形でデモンストレーションされました。

image.png

1943 年にベル研究所で行われたデモンストレーション中の 90 mm 高射砲。写真の中央の背景に M9 火器管制装置が見えます。

T10 は後にM9 として生産されることになります。
電子式のコンピュータ/管制システムは、複雑なシステムを工業的に量産することを可能にし、M7 の供給のネックを解消しました。

全体システムは、SCR-584 レーダー、M3 アナログコンピュータ、M9 管制装置、電源から成り立ちます。

SCR-584レーダーは得られた方位・距離を M3 および M9 に伝達します。

自動追尾に必要な、未来位置を算出するのがM3 アナログコンピュータ、それを元に砲を指向するのが M9 管制装置となります。

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M9 火器管制装置、写真はRadar and System Integration in World War II / David A.Mindel より

未来位置の算出、サーボによる砲の制御により、電子的に高射砲を自動追尾することすら可能になりました。自動モードだと人間は弾丸を装填するだけになります。

M9 の生産は 1944 年からはじまり、1944 年 6 月、M9 は SCR-584 と近接信管と供にイギリスに送られ、 V1 飛行爆弾の迎撃を行います。

image.png

V1 は高性能なフィードバックループで制御され、640km/h の速度で飛来します。

さきに Bf.110 を例に挙げましたが、V1 だと Bf.110 に比べ速度2倍強、全長は2/3であります。
しかしながら導入後練度が向上した 8 月末までには、 V-1 のほぼ 3 分の 2 を撃墜するという成績を収めました。

後に、SCR584 レーダと M9 のシステムは 命中率 90% と評価されることになり、最も成功したシステムとなりました。

image.png

M9システムのオペアンプ

さて、この M3/M9 においてアナログコンピュータ/アナログフィードバックがふんだんに使われ、 オペアンプの概念の実用性が実証されました。

全体的な M9 の技術的な成果という点で,おそらくもっとも決定的といえるものが Artillery Director(砲弾誘導器)とされます(米国特許 2,493,183)。

この重要な文献では,アナログ計算機の設計を無数のサブシステムに分解しています.
OP アンプは特許図面のいたるところに姿を現して,バッファ,加算器,微分器,インバ
ータなどの機能を果たしています.
(文献1)

そして、その特許が参照しているものが、ベル研究所のカール・スワーツェルの Summing Amplifier(加算増幅器)(米国特許 2,401,779)です。
image.png

加算増幅器となってますが、実態は高ゲインの汎用アンプであり、フィードバック回路を付け加えることによて、さまざまな動作を行うことができます。

  • 位相反転した高ゲイン増幅(60000倍/95db)
  • ±350V の正負電源(電池25)で動作
  • 6kΩの R15 が出力負荷。コモンレベル(端子26)に対してスイング
  • R16 が帰還抵抗
  • R1,R2,R3 の、コモン端子26に対しての信号を加算する
  • R18 はオフセット調整

正負電源を使用して,コモンレベルに対して正負両極の入出力を扱うという汎用的回路であることがわかります。

先に出した

加算回路

image.png
(加算回路の図 File:Opampsumming.png CC 表示-継承 3.0)
複数の電圧入力の合計が求まります。
$V_{out}=-R_{f}\left(\dfrac{V_{1}}{R_{1}}+\dfrac{V_{2}}{R_{2}}+...+\dfrac{V_{n}}{R_{n}}\right)$

と比較すると面白いですね!

オペアンプの命名

第二次世界大戦後半、NDRC Division 7 契約 でニューヨークのコロンビア大学は M9 システムの改善に取り組んでいました。
そのコロンビア大学の研究責任者のジョン・ラガツィーニ(John Ragazzini)教授により 1947 年にオペアンプが一般に公表されました。
それによると、

「The reason for developing the electronic analogue technique was the assignment to our group by Section 7.2 of the NDRC to assess and evaluate bombing and fire control equations to be implemented in proposed airborne systems. 」

というところから開発したアナログコンピュータ

「The term "operational amplifier" was suggested by me and accepted by my colleagues one afternoon in 1944. 」

とあり、数学的な演算および計算に相当する動作をするものと記されています。

しかしながら教授は

「 I do not now think it is a really good name for the device but cannot suggest a suitable alternative.」

ということで、この言葉を気に入ってなかったようですw

その後のオペアンプ

1947 年にラガツィーニ教授が公表したオペアンプは、どういうわけか M9 で使えたとはとうてい思えないと評されますが、そこで簡単に触れられているレーベ・ジュリーの設計した OP アンプが2つの入力を持ち作動入力が可能になっています。
更にその後1950年代は、チョッパによるドリフトの低減、GAP/R 社の K2-W など多くの回量が精力的になされ、それから1960年代にトランジスタ化、1970年代にIC化などの道を歩むことになります。

「ご冗談でしょう、ファインマンさん」

ここで話題にしていた1940年代前半頃、後の物理学者のリチャード・ファインマンはプリンストン大学の大学院生で、夏のアルバイトにベル研究所にアルバイトを申し込んでいたそうです。しかしながらそのとき陸軍からトリッケル大将がやってきて、プリンストン大学で

「・・・物理学者は陸軍にとって非常に重要な人材である。物理学者が三人、どうしても必要だ」と一席ぶったのだ。
(文献6)

これに感化されたファインマンはベル研究所のアルバイトをやめて、陸軍の仕事をすることになった。

ベル研究所に、その夏は陸軍で働くことを許してほしいと願い出たところ、そんなに軍の仕事がやりたいのなら、こっちにも戦争のための仕事がいくらでもあるから、それをやればいいではないかと言ってくれた。しかし すっかり愛国心にかられていたおかげで、僕はこのときほんとうに惜しい機会を逸することになってしまった。
(文献6)

そのあと、ファインマンはフィラデルフィアで機械設計をする話が書いてあるが、その機械とはやっぱり高射砲の未来位置計算機の開発だったそうです。
平面座標ではなく極座標で観測地点と大砲が同じ地点にない場合の計算を指摘され冷や汗を流すシーンとかあり、楽しい!

もしここでベル研究所に行っていたらどうなったでしょうか。時期からみて M9 の開発に携わったことは想像に難くないです。真に独創的な革新に触れて電子制御理論に夢中になったかも知れません。

史実ではこのあと、ファインマンはマンハッタン計画に参加し、キラ星の物理学者の中で物理学の流れに乗ることになるのだが、もしかしたらここでファインマンが物理に貢献せず、電子工学での巨人となったかも知れない歴史の if もあったかも。

参考資料

(文献1)
「OPアンプの歴史と回路技術の基礎知識」
アナログ・デバイセズ
https://www.analog.com/jp/education/landing-pages/003/opamp-application-handbook.html

(文献2)
「Sperry社の指揮装置」
https://www17.big.or.jp/~father/aab/english/sperry.html

(文献3)
「Anti-Aircraft Fire Control and the Development of Integrated Svstems at Sperry, 1925-1940」
Writed by: David A. Mindell」IEEE Control Systems Magazine
Volume: 15 Issue: 2
https://web.mit.edu/STS.035/www/PDFs/sperry.pdf

(文献4)
「Automation's Finest Hour: Radar and System Integration in World War II」 David A. Mindell
http://mitp-content-server.mit.edu:18180/books/content/sectbyfn?collid=books_pres_0&id=6607&fn=9780262082853_sch_0001.pdf

(文献5)
「Between Human and Machine (Johns Hopkins Studies in the History of Technology)」
Mindell, David A.. Johns Hopkins University Press.

(文献6)
「ご冗談でしょう,ファインマンさん」
R.P.ファインマン; 大貫 昌子. 上 (岩波現代文庫)

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