本記事では、『アジャイル開発とスクラム 顧客・技術・経営をつなぐ協調的ソフトウェア開発マネジメント』(翔泳社)の内容と、個人的な所感をまとめました。
私自身、過去に3ヶ月程、アジャイル開発の一種であるスクラムの開発チームとして活動した経験があり、現在アサインされているプロジェクトでもアジャイル開発を取り入れています。本書を読むことによって、アジャイル開発とスクラムの関係性や、アジャイル開発を取り入れることの意義について、改めて勉強することができました。これからアジャイル開発について学びたい人にとって、オススメできる一冊だと思います。
内容
本書は以下の3部で構成されています。
第1部: アジャイル開発とスクラムの解説
第2部: アジャイル開発を導入したプロジェクトの事例と、現場の方々へのインタビュー
第3部: アジャイル開発とスクラムの意味
第1部では、アジャイル開発とスクラムの関係性や、スクラムにおけるメンバーの役割・手法群(プラクティス)について説明しています。第1部を読むことによって、アジャイル開発の全体像やスクラムの利点について大まかに理解することができると思います。もし、他の書籍でアジャイル開発について勉強されたことのある方であれば、読み流していただいても差し支えないでしょう。
第2部では、リクルート、楽天及び富士通のアジャイル開発での実際の取り組みを紹介しています。従来のウォーターフォール型の開発では解決が難しい課題(スピードが求められる開発や、要件が不確実な状況での開発)に対して、アジャイル開発を取り入れることによって解決した事例が書かれており、今後チームにアジャイル開発を導入していきたいという人にとって、興味深い内容であると思います。
第3部では、アジャイル開発とスクラムの持つ意味について考察しています。ソフトウェア開発を行うためのアジャイル開発という視点だけではなく、知的創造活動のためのアジャイル開発という視点を提示していて、アジャイル開発やスクラムに取り入られているテクニックについてより深い知見を得ることができます。
印象深かったこと
- アジャイル開発は『アジャイルソフトウェア開発宣言』で記された価値観を持つ開発方法の総称
- アジャイル開発が浸透した背景には、ビジネスの変化の速さに対応するため
- 市場投入のスピードを上げることと、要求の優先順位に対応する柔軟性が必要となった
- スクラムはアジャイル開発の一つの方法論であり、世界で最も浸透している手法(採用されているアジャイル方法論のうち52%がスクラム)
- アジャイル開発では、ビジネス側(顧客)とIT側(開発)のゴールを共有することが可能
- 従来の手法では、ビジネス側はシステムによる費用対効果を上げること、IT側は契約を満たすことがゴールとなっており、両社間で綱引きが起こってしまう
- アジャイル開発では、ビジネス側とIT側が一つのチームとなって、ビジネス価値の向上・顧客満足・市場創造が共同のゴールとなる
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タイムボックスの重要性
- タスクのマネジメントが容易となり、無理な計画を立てることがなくなる
所感
アジャイル開発を学ぶための入門書としては、とても読みやすい良書であると思います。
内容に関しては、一冊を通して従来のウォーターフォール型の開発とアジャイル開発を対比して書かれているため、取り上げられる課題が想像がしやすくなっていると感じました。さらに、知識としてのアジャイル開発だけでなく、「なぜアジャイル開発で行うのか」といった一歩進んだ知見も得ることができました。
また、文章に関してもアジャイル開発に関する書籍は、英語の書籍を翻訳しているものが多く、初心者にとって読み辛さを感じるものもある中で、本書は日本人が執筆し日本人向けに書かれているので、文章的な読みにくさは全く感じませんでした。
しかし、一方でスクラムの具体的なテクニックに関する記述が乏しいと感じました。そのため、具体的なテクニックについて勉強したい人にとっては少し物足りなく感じるかもしれません。具体的なテクニックを知りたいという方は、『アジャイルサムライ』や『エッセンシャルスクラム』などを読んで、知識を補完する必要があります。
本書の位置付けとしては、アジャイル開発とスクラムについて体系的に学ぶことができる初歩的な入門書であると思います。