Zynqberryという、Raspberry Pi形状のZYNQボードがあります。
このボードは5Vの電源をUSBから給電するのですが、USBバスパワーのラインから基板全体の5Vのラインに向けて、下の図のような保護回路が入っています。
一見するとカレントミラーのように見えますが、そうではなさそうです。
この回路はどういう動作をするのでしょうか?
PMOS FETの基本
PチャネルMOS FETは、PNPトランジスタと似たような動作をします。
G(ゲート)→B(ベース)、S(ソース)→E(エミッタ)、D(ドレイン)→C(コレクタ)と読み替えれば動作の雰囲気はわかります。
トランジスタとの大きな違いは、ドレインからソースに向けて寄生ダイオード(ボディダイオード)が入っていることで、この点は留意しておく必要があります。
掲題の回路はMOS FETの3番ピンのゲートがLレベル(4番のソースよりも十分低い電圧)になったときにONするのだろうと考えられますが、2つのトランジスタは何をしているのでしょう。
より簡単な回路で考えてみる
より簡単な回路で考えてみましょう。P-MOS FETが一つで、このような接続をしている回路です。
この回路はVinが、
目的としては電源の逆刺しを防止するためのダイオードで、マイナスの電圧が供給された場合に保護するものです。
普通のダイオードだと常にVFの電圧降下を生じてしまいますが、MOS FETによるダイオードではVinが閾値を超えるとMOS FETがONするので、電圧降下が(ON抵抗×消費電流)となります。
ON抵抗が0.1Ω、電流が500mAとすると、50mVのロスで済むわけです。
逆流防止はできるか?
USBバスパワーの保護で大事なのは、システムの5VのラインからUSB側へ電流が逆流してしまうことを防ぐことです。
FPGA評価ボードなどではUSBバスパワーと、安定化電源からの電源をうまく切り替える必要がでてきますが、ダイオードでやると電圧降下が出てしまいます。
この回路は、Voutに5Vを供給した場合、ゲートはソースよりも十分に低電圧になるのでFETはONしてしまい、ソースからドレインに電流が流れます。つまり、逆流します。
次のグラフはVoutに電圧をかけていったときにVinにどう出るかを調べたものです。
閾値より大きい場合は、Vin≒Voutとなり、逆流することがわかります。
P-MOS FETによる負電圧防止ダイオードは、電圧降下が少ないのですが、逆流は防げないという欠点があることがわかります。
※なお、負の電圧がFPGA評価ボードに加わった場合は、USBにも負の電圧が出てきてしまいまうが、おそらくすでに壊滅的なダメージが生じているのであきらめるのでしょう。
最初の回路
それでは、最初の回路に戻ります。
ゲートの部分をVG、ベースの部分をVGとします。
Vinからの入力電圧を増やしていった場合のシミュレーション結果を示します。
これだけ見てもわかりませんので、式で考えます。
入力側のトランジスタQ1がダイオード接続なので、
- VB = Vin - 0.65 ・・・(1)
は決まりですね。
右側のトランジスタQ2がONするかどうかは、VBとVoutの関係で決まり、
- もし、VB > Vout - 0.65ならば、トランジスタQ2はOFF
となります。
ここに(1)式を代入すると、
- Vin - 0.65 > Vout - 0.65ならば、トランジスタQ2はOFF
- ↓
- Vin > Vout ならば、トランジスタQ2はOFF
となります。
また、Q2がOFFするとVGは抵抗で0Vに引っ張られるので、MOS FETはONします。Q2がONするとVGはVoutとなるのでMOS FETはOFFします。
まとめると、
- Vin > Vout → MOS FETはON → Vout≒Vin 理想ダイオード
- Vin < Vout → MOS FETはOFF → 逆流防止
となります。
結論としては、USB給電用の **P-MOS FETによる理想ダイオード(電圧ロスのないマイナス電圧印加防止)**に、システム側からUSB側への逆流防止機能を組み込んだ回路だと考えられます。