要件定義にAIを入れて何が変わったか?PdMが実践した“プロンプト駆動”の開発術
AIにコードを書かせるだけが「AI駆動開発」ではありません。
PdMがAIをどう使い、要件定義をどう変えたのか?
実際にプロダクトの企画・要件定義に使ってきた経験から、
プロンプトの考え方と共に、AI導入のリアルな手応えをお伝えします。
そういえば前回、「こんに知財!」という挨拶を社内Slackに投げたところ、リアクションはたったひとつだけでした。
「もしかして投稿したチャンネルが悪かった?」と不安になり、改めてGoogleで調べてみました。
結果……驚愕の事実が判明しました。
この挨拶、特許庁の公式Xアカウントでしか使われていなかったのです。
知財業界の常識どころか、単なる特許庁の一発ネタでした。
赤っ恥です。
cotoboxの長島です。
前回は、PdMとして「AIを導入する前」の要件定義がどこで詰まっていたのか、構造的な課題や属人性の問題を振り返りました。
今回はその続きとして、実際にAIを活用するようになって何がどう変わったのかについて、具体的な体験とプロンプト例を交えてお伝えします。
なぜAIを要件定義に使うことにしたのか?
私たちがAIを使い始めた理由は、技術的な興味からというよりも、純粋な業務上のボトルネックの解消でした。
- 情報を集めて整理するのに時間がかかる
- 要件文書をレビューしてもらうまでのサイクルが長い
- ペルソナやユースケースを言語化しても、認識がすれ違う
こうした課題に対し、「AIで加速できる部分があるのでは」と仮説を立て、実験的に取り入れ始めたのが最初です。
背景には慢性的なリソース不足もありました。特に「壁打ち相手」としてのAIの存在は、大きな助けになりました。
どのAIを使ったか?
- ChatGPT(GPT-4):文章生成、要件整理、ロジックチェックに使用
- v0:視覚化・UIプロトタイピングに使用(次回詳述)
本記事では、主に ChatGPT を中心とした要件定義への活用例をご紹介します。
※Geminiについては、2025/1時点では要件定義用途にはやや向かないと感じました。今は改善されていますが、活用方法については別の機会に詳しく触れたいと思います。
現在はChatGPT、Gemini、自分という“3人体制”で進めています(いわゆるマ*システムです)。特にGeminiのDeep Researchは非常に強力です。
実際にやってみたこと(ステップ別)
1. 仮説出し・問題整理
ある機能の導入を検討していたとき、「この施策はどのようなビジネス課題を解決するのか?」という問いをChatGPTに投げる方法です。
よくあるプロンプト例:
あなたはSaaSプロダクトのプロダクトマネージャーです。
以下の新機能案について、ビジネス上どんな課題を解決する可能性があるか、5つの視点で列挙してください。
いわゆる「役割設定+複数選択肢→深堀り」の流れですね。
ただしこれは、ChatGPT 3.5の初期では有効だったものの、今では効果が薄れてきた印象があります。(悪くは無いですが、不自然なやり取りが発生するという意味で、無駄が多いかなと。)少なくとも要件定義においては、より自然な会話形式のプロンプトの方が有効です。
現在は、深掘りやスコープの明確化を繰り返すことで、定義の拡張と絞り込みを行うスタイルが定着しています。
「問いを立てる→出力を見る→自分で取捨選択する」流れを繰り返すことで、**考えの“棚卸し”と“広がり”**が自然に得られるようになりました。
これはAIに「任せる」というより、要件を考える際の“加速装置”として活用する感覚です。
2. 要件の明確化・粒度の調整
曖昧なまま残っていた要件をコピペし、「論理矛盾や飛躍がないか」 をChatGPTに確認してもらうことで、文書の品質を高めることができました。
以下の要件定義には、論理の飛躍や前提の抜け漏れがないか確認してください。
必要に応じて改善提案も出してください。
このプロセスは、PdM同士の壁打ちに近いものです。
レビューや壁打ちの代替として有効で、「最初の粗い状態から、人に渡せるレベル」までの変換スピードが明らかに上がりました。
もちろん、PdMが複数人いる組織であれば人間同士の壁打ちでも構いません。
ただ、少し前でも触れましたが壁打ちは二人より三人が効果的です。(*ギシステム...)
また実際社会ですと、普段から忙しいPdMの都合を2〜3人揃えて打ち合わせをするのもなかなか手間です。
LLM相手なら、通勤中だろうが食事中だろうが、深夜だろうが週末だろうが(だんだん怪しくなってきましたが時間外労働を推奨するものではありません)、いつでも気軽に壁打ちができます。
3. ペルソナ・ユースケースの拡張
新しい業種や業務フローへの適用を考える際にも、ChatGPTを使って「こんな状況の人はどう困るか?」という仮説を多数引き出すことができました。
このプロダクトのユーザーは法務担当者が多いですが、経営者・営業・人事などが使う場合、どんな使い方や困りごとが想定されますか?
前回も触れましたが、私はペルソナ作りがやや苦手です。そのため、プロンプト設計の段階でメタ視点を入れます。
バイアスの入らないペルソナを作るプロンプトを考えて
このような「プロンプトをつくるためのプロンプト」のようなメタな視点も、質を上げるうえで有効です。
さらに、最近ではマーケットリサーチにも活用しています。GeminiによるDeep Researchの効果は非常に高く、多角的な視点を補完するのに役立ちました。
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ちなみに先日、プロンプトで「中小企業の経営者:田中さん」というペルソナを生成したところ、趣味が「自社サービス名の商標登録チェック」という奇妙な設定が出てきました。
さすがにそんな職業病じみた人はいないだろうと思いつつ、
……冷静に考えると意外にいそうで、笑うに笑えませんでした。
変わったこと:スピード、精度、共有のしやすさ
- 考える時間の圧縮:思考の素材がすぐ出せる
- 言語化”の質の向上:矛盾や曖昧さを拾える
- 共有の容易さ:出力をそのままドキュメントに転用できる
「頭の中のことを、最初から整理して人に伝える」のではなく、
「まずAIに出してみて、自分で調整する」ことで、アウトプットまでの道のりが短縮されました。
思考を生成AIに“食わせる”。その上で整理整頓や矛盾の発見といった作業を任せるのが、現時点での最適解のひとつかもしれません。
うまくいかなかったこと・注意点
- 曖昧な指示だと、曖昧な出力が返ってくる
- ドメイン知識が薄いと、説得力に欠ける回答が出る
- 表面的な提案ばかりになりがち(特に日本語)
つまり、AIの出力=答えではなく、あくまで「仮説素材」 として扱う視点が重要です。
ただ、自分の曖昧さというのは、案外気づきにくいものです。プロンプトを投げたあとの結果に対してしか評価できない、という非同期的な性質ゆえに、「曖昧さに気づく機会」が限られます。
でも、AIの返答がなんだか曖昧だな…と感じたときこそチャンスです。それは自分の問いが曖昧だったのです。
プロンプトの言語の違いについて(日本語 vs 英語)
プロンプトの日本語・英語の使い分けは議論が尽きません。
AIは進化が激しく、どちらがより効果的かはタイミングやツールによって大きく異なります。実際に試してみないと判断が難しいというのが現実です。
ただし、画像生成AIなど一部領域では、いまだに英語の方が優位と感じます。
これは単なる翻訳の問題というより、日本語の言語そのものが持つ曖昧性(=曖昧であってもコンテキストで通じてしまう)が影響しているのではないかと考えています。
私は英語が苦手なまま学生時代をだましだまし乗り切り、何を血迷ったか外資系企業に入ってしまい、社会人になってから苦労したタイプです。
苦労した分、日本語と英語のこうした違い、敏感になったような気はします。
(今は得意分野であれば海外主張も苦にならなくなりましたが。ところで近々コロナ後久々の海外出張になりますのでそこはまた。)
あと、単純に画像生成AIは、画像のテキスト部分は苦手ですね。ここは日本語になると顕著です。
この記事でも、画像生成AIを使ったアウトプットを載せていますが、文字の部分はうまくいった試しがありません。
どうしても日本語を使いたいときのコツとしては、できるだけ少なく、表示するのは一単語に絞る、くらいでしょうか。
これも来週あたりにはどうなっているかわからないのが、昨今の生成AIの進化の速度ではあります。
まとめ:PdMにとってのAIは「加速装置」
AIを使ってみて思うのは、「思考を代行する」のではなく、「考える過程を速く・広くする補助ツール」 として捉えるべきだということです。
PdMにとって、要件定義や仮説設計は「まず考えて・言語化して・共有する」反復のプロセス。
そこにAIを組み込むことで、質とスピードの両方を伸ばせる余地があると、実感を持って言えます。
次回予告
次回は、v0を活用して要件を視覚化し、チームで合意形成を進めた実例をお伝えします。
「とりあえずFigma」や「手書きモック」ではなく、AIを使って作る“動くワイヤーフレーム によって、どこまで意思決定が変わったのか。
そのプロセスを振り返ります。
ちなみに、そろそろ「こんに知財!」の社内リアクションが2つ以上つくことを本気で願っています。
もし今回の記事でAI活用のイメージが広がり、「知財×AI」の世界がもっと身近に感じられれば嬉しい限りです。
それでは、また次の記事でお会いしましょう。