プロローグ:森への招待
7月、私はエンジニアからCREに転向しました。それは、新しい挑戦の始まりであると同時に、未知の「顧客の森」に足を踏み入れることを意味していました。
この森では、CS(カスタマーサポート)という案内人が日々顧客とのやり取りを続け、顧客は個性豊かな住人としてその奥深くに暮らしています。私は、この森で彼らとどう関わればいいのか、全く分からない状態で迷子になってしまいました。
最初は混乱ばかり――。
「CSの主語がわからない!」
「顧客が何をしたのか全然わからない!」
「開発チームにどんな要望を伝えればいいんだろう!」
こうして私は、顧客の森で生き抜くための3つのミッションに挑むことになったのです。
ミッション1:CSを解読せよ!
「会話の主語が顧客名すぎてワカラナイ」
顧客の森を歩き始めた私は、CSチームという頼れる案内人と共に行動を始めました。彼らは顧客を熟知し、日々その声を聞き届けているスペシャリストです。とはいえ、案内人の話を理解するのは簡単ではありませんでした。
CS:「XX商事さんで、設定の解除が必要みたい!」
私:「(ステータスなんだろう…)(システムのバグとかじゃないよな…?)」
「えっと、そもそもなぜ解除が必要なんですか?」
CS:「運用が複数走っていて、対象者の入れ替えとか変更が発生しやすいの!」
私:「なるほど…運用上の問題なんですね」
解決方法1:伝えてもらう情報をロックする
プロダクト対応をするためには、調査の対象が誰なのか、理想状態はなんなのかを知る必要がありました。
そこで、以下の情報をこまめに確認するようにしました。
-
対象
どの企業、あるいはどの対象者が問題に直面しているのかを具体の情報で提示してもらう
例)企業ID、対象者のメールアドレス -
現状
問題の内容や背景を明確にする。
例) 「設定解除が必要」「データが見られない」など。 -
原因・背景(なぜ問題が発生する/したのか)
問題のきっかけや、顧客特有の運用状況を確認。
例) 「複数運用が並行しており、対象者の変更が多発している」。
解決方法2:顧客を知りに行く
また、CSの話を解読するためには、単に質問を投げるだけでは不十分でした。
そこで、自分自身で顧客の運用や納品状況を理解するために、顧客運用のマニュアルや情報を確認するようにしました。
CSの話の主語は常に「顧客」であり、その背景にある運用や個別事情を前提に会話を進められていました。
一方で、私の主語は「プロダクト」や「ログ」であり、システム的に想定された挙動を基準に物事を考えています。
この違いが、情報の齟齬(そご)や疑問を生む原因になっていると気づきました。
この違いを意識するようになってから、CSとのやり取りは徐々にスムーズになりました。
顧客の森では、まず案内人であるCSの言葉を解読すること――これが旅を進める最初のカギだったのです。
ミッション2:顧客を解読せよ!
「何をしたのかワカラナイ」
次に私は、森の奥深くに住む顧客という未知の存在と向き合うことになりました。
顧客「ログインしたらエラーが出た!」
「(アクセスログにエラー通知は来てないぞ…?一体何をしたんだ?)」と内心思いながら調査を始めます。
顧客の言葉を解読するカギは、「事実情報を元に、何をやりたかったのかを想像すること」でした。
解決方法:顧客のやりたかったことを想像する
兎にも角にも、再現しないと何もできません。
- とにかく事実情報を集める
- データベース、ログなどから何がいつ変更されているのか、何をしたのかを調べる
- CSを通じて具体的な情報を聞き出す
- 事実情報と並行して、顧客からも追加情報を聞き出す
- 「その画面で入力した内容は何ですか?」
- 「エラー画面のスクリーンショットを送ってもらえますか?」
- 事実情報と並行して、顧客からも追加情報を聞き出す
- 二つの情報を合わせて考察する
- CSに運用面の背景も確認しながら、「何をしようとしたのか?」を考察する
その結果、「ログインしたらエラーが出た」という顧客の言葉は、「権限のがないはずの画面にアクセスしようとして、エラーが起きた」ことを意味していると判明しました。
ミッション3:双方を翻訳せよ!
「CSや顧客の要望や問い合わせを開発組織に伝えよ」
ミッションはこれで終わりかと思いきや、最終試練が待ち受けていました。
顧客の問題を解決するため、CSと開発チームをつなぐ「翻訳者」として動く必要があったのです。
例)改善要望の場合
- CSの視点:「ちょっと文言を追加で出すだけで問い合わせを減らせるんです!」
- 開発の視点:「文言の妥当性を考えなきゃ…この時には出しわけが必要だし、検討すること多いな。これ優先度高いの?」
ここで、CSと開発のどちらの視点も尊重しながら、顧客が求める結果を届ける翻訳スキルが求められました。
解決方法:双方の言葉をすり合わせる!
- CSに開発組織・システムの話を伝え続ける
- 開発組織は何を気にしているのか?などの思考フローを話す
- (問い合わせなどがあるたびに)技術的な話を咀嚼して伝える
- 開発に顧客視点を伝える
- ミッション1で得た情報を使って、顧客特有の情報も含めて問い合わせを伝える
- 「XX商事さんはこんな運用をしているので、こういう問題が起きています」
- CSと顧客のアポの録画をみんなで見ながら、何をやっているのかを解説
- ミッション1で得た情報を使って、顧客特有の情報も含めて問い合わせを伝える
さらに、顧客の納品状況を直接CSから開発組織に共有してもらうようにしていくことになりました。
エピローグ:共存の道を選ぶ
3つのミッションを進めるうちに気づきました。
この「顧客の森」は、抜け出すべき場所ではなく、共に生きていく場所なのだと。
森の中でCSは顧客に寄り添い、CREは技術的な知識を持ってその橋渡しをします。
そして、森の住人である顧客たちは、時に戸惑いながらもサービスを育てていく重要な存在です。
この森での日々は、常に「新たな挑戦」の連続です。
もし、あなたが「顧客の森」に迷い込むことがあれば、一緒にこの森を楽しむ方法を探していきましょう。