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なぜなぜ分析
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システム障害など重大事故が発生したとき、特に製造業系の文化的色彩が濃い現場では、事後の振り返り、再発防止策の立案として「なぜなぜ分析」というのを実施しているケースがあるかと思います。いわゆる、なぜを5回繰り返すというアレです。

やっているよ、という方にお尋ねします。ぶっちゃけ、形骸化した様式美でなく実質的な意味のあるものとしてなぜなぜ分析を実施できていますか?

私が個人的に見聞きした限りでは、トヨタを起源とすると言われる一連のなぜなぜ分析の系譜は、全部とは言わないまでも、形骸化していることが多いようです。役に立ちません。しかしそれでは困るのであって、なぜなぜ分析にも背景となる理論があって実践があって、そこを踏まえることで価値あるものとなるはずです。というわけで、本稿のお題はなぜなぜ分析の理論!

スイスチーズ理論

大事故が発生しないように、二重三重の予防策を施す。それは誰しも考えることで、始まったばかりの手探りスタートアップベンチャーでもない限り、少なくとも何かやっているはずです。しかし、いかなる予防策も完璧ではないのであって、どこかに穴があるのです。

穴のある、不完全な壁を複数並べた予防策。障害要因が1枚目の壁の穴をすり抜けたとしても、2枚目なり3枚目なりの壁で止まれば、大事故にはなりません。しかし運悪く、全部の壁の穴をすり抜けてしまったら、その時は大事故です。そうなってしまう確率は低いし、また低くなるように努力すべきですが、ゼロではありません。

この構図を、J.リーズンの著書「組織事故」(日本語訳は絶版です。英語版はあります)ではスイスチーズ・モデルと呼んでいます。スイスチーズとは、要は穴があるということです。

つまり、なぜなぜ分析で出てきた一つ一つの原因項目こそ壁の穴一つ一つであって、項目と項目を結ぶ矢印を通って(穴をすり抜けて)大事故が起きてしまった、というのが、なぜなぜ分析の正しい理解です。今後なぜなぜ分析の報告書が回ってきたら、そんなふうに読んで下さい。

分析から対策を導き出す

分析の結果現れてきた原因項目からいくつか選んで、対策を立案していくわけですが。

ありとあらゆる穴を全部ふさいで、完璧な予防策を実現できれば結構ですが、そんなことはもちろん不可能ですから、どの穴を塞ぐか、新しい壁を立てるならどこに立てるか。最小限のコストと手間で最大限の効果を得られる方策を考えます。

要するに今後現れるであろう事故要因が、既存の壁か、新設する壁の、どこかで引っかかって止まってくれればいいのです。特性要因図を目を皿にして見回していけば、この穴なら現実的なコストで塞げるし効果的だ!と思えるような箇所がどこかにあるはずです。そこを対策します。

また、実際に発生した事故そのものと直接の因果関係はなくても、これはよろしくない、という箇所が見つかった場合は、そこも対策していきます。

欲張って大掛かりな改革に手を出すのは、必要な場合もありますがリスクもあって、別な場所に穴を掘ってしまう副作用が出る可能性があります。なるべく、広く知られているセオリーに沿ったものを選ぶのがよいでしょう。

新しい壁を作る(共通手順や内部規則の新設)のも、安易に流れると危険です。全体が複雑化すると、形骸化が一気に進みます。KISS (Keep it simple, stupid) という原則が、ここでも有効です。

Q&A

なぜなぜ分析の目的は「真の原因」を見つけることか?

真の原因があるなら真でない原因もあることになりますが、真でない原因って何でしょうか。嘘の原因?いやいや、嘘の原因が項目に載るようなら、そのなぜなぜ分析自体が嘘ということになってしまいます。

なぜなぜ分析の目的は、対策につなげることです。ですから対策可能な原因を見つければいいのです。

そんな都合のいい原因があるのかといえば、ない場合もあります。その場合にはお手上げです。しかし、頑張って探せば何か一つぐらいは見つかるというのが普通でしょう。

「5回」という回数は妥当か?

5回という回数は、絶対的なものではありません。慣れないうちは、5回程度を目安とすればいいんじゃないでしょうか、という程度に理解すればよいでしょう。例えば以下の図は、国交省の運輸安全委員会が出したJR西日本福知山線事故調査に関わる不祥事問題の検証と事故調査システムの改革に関する提言からの抜粋です。

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なんと!25回も回しています。

私の個人的な感触では、なぜなぜ分析を何度もやっていくとだんだんマンネリ化して同じような結論が出がちなので、そのときは回数を増やしてみるといいんじゃないかという気がします。

経営層のコミットは必要か?

率直にお聞きします。なぜなぜ分析から導出される原因が経営層にあり、唯一の有効な対策が経営方針の変更(場合によっては経営者の変更)だった場合、貴方はそれを正直に報告書に書きますか?「書かない」というのが回答なら、御社の経営層はコミットしていません。

経営層のコミットというのは一種のバズワードになっていて、内部統制でも情報セキュリティでもダイバーシティでも、必ずといっていいほど出てきますよね。なぜなぜ分析はリスクマネジメントの一環ですから、経営層のコミットはもちろん必要です。

しかし、口先で綺麗事を言うのは簡単でも、現実の生きた人間である経営者に、さあコミットを実行して下さいと迫るのは容易なことではありません。

一つの方法は、経営から独立した第三者委員会になぜなぜ分析を委託すること。非常に社会的影響の大きい重大事故が発生した場合は、これをやることになります。

以上!上で紹介した以外にも運輸安全委員会のページに掲載されている資料は示唆の宝庫で、参考になることが多々あります。幸運を祈る。

リファレンス

福知山線列車脱線事故調査報告書に関わる検証メンバー・チーム (2011)
JR西日本福知山線事故調査に関わる不祥事問題の検証と事故調査システムの改革に関する提言
http://www.mlit.go.jp/jtsb/fukuchiyama/kensyou/fu04-finalreport.html

James Reason 著、塩見弘、佐相邦英、高野 研一 訳
組織事故―起こるべくして起こる事故からの脱出
日科技連出版社(絶版)
https://calil.jp/book/481719099X