論文紹介
論文:Evaluating cross-sensory perception of superimposing virtual color onto real drink: toward realization of pseudo-gustatory displays
著者:Takuji Narumi, Munehiko Sato
https://dl.acm.org/doi/10.1145/1785455.1785473
どんなもの
ABDC(Aji Bag and Coloring Device)を用いて、飲み物の化学成分を変えずに仮想的な色を重ねることで、食べ物を楽しむ感覚を向上させる疑似味覚ディスプレイを開発した。実験の結果、視覚的なフィードバックによって人の基本的な味の感じ方を変えることはできないが、人が経験する味の解釈の仕方に影響を与えることができた。実験ではABDCと染料を使って着色方法を比較したが、着色方法が味を解釈するときの交差感覚効果に影響を与えないことがわかった。
先行研究と比較してすごいところ
触覚や嗅覚の情報の入出力の研究は多く行われているが、味覚情報を提示するディスプレイは少ない。この論文では複雑な味覚システムを応用して、クロスモーダル効果を利用した好みの味を提示する疑似味覚ディスプレイの開発を行った。
技術や手法のキモ
飲み物の化学成分を変えずに色を変える方法としてABDC(Aji Bag and Coloring Device)を開発した。ABDCは飲み物を入れたビニール袋をストローに取り付けて、ビニール袋を白っぽい水の中に入れて無線のLEDノードで色を重ねた。(ワイヤレスのLEDノードで構成されている。)
この白っぽい水(白濁水)が光を拡散させる媒体となって、飲み物の外の色を任意に変えることができる。(白っぽい水にはコーヒークリーム入りの水を使った。)
検証方法
色を重ね合わせた飲み物の味をどのように感じるか、ABDCを用いた結果と染料で着色した場合を比較して実験した。
オレンジジュースとリンゴジュースの中間的な甘さと酸味を持つ飲み物を中間飲料と名づけ、蔗糖とクエン酸を原料とし、糖度12%、クエン酸濃度0.43%の中間飲料を作った。中間飲料をベースにして3種類の香り付き飲料と3種類の色付き飲料を用意した。
中間飲料と3種類の色付き飲料を飲んだ後、それぞれの色付き飲料を中間飲料と比較し、色付きジュースの味の体験を作図用紙(甘さとすっぱさの軸を設けた用紙)にプロットしてもらった。比較対象としてリンゴジュースの模造品とオレンジジュースの模造品、見慣れない色の飲み物の3種類を用意した。
色が味の解釈に与える影響を評価するために、中間飲料に色水を加えたものを比較対象とした3種類(オレンジ、黄色、緑)の色付き飲料を用意した。(オレンジジュースとアップルジュースを中間飲料の模倣対象とする場合には、馴染みのあるオレンジと黄色を選択し、一方の飲料には馴染みのない色である緑を選択)
比較対象として,ABCD法による中間飲料を用いた3種類の着色飲料を用意した。染料で着色した水に似た色になるようにLEDの色を調整し,その色を白っぽい水に重ね合わせた。
→オレンジ色の飲み物を飲んだ時、15人がオレンジジュース、8人がレモンジュースを飲んだと回答した。飲み慣れない色の緑色の飲み物を飲んでも、多くの被験者が明確な答えを出せなかった。だけが有名なジュースに似ている飲み物を飲んだ後に,特定の味を感じたと答えた被験者も多くいた。この結果から視覚フィードバックは基本的な味覚の感度を変えることはできなくても、味の疑似体験を誘発できるとわかった。
ABCDを用いて着色した飲料であっても同じような結果が得られた。味の解釈における交差感覚効果の質に,着色方法はあまり影響しないことがわかった。
人が感じる味は飲み物の色を変えることで変化することが示された。色の付け方は味の解釈における交差感覚効果の室に影響しないことがわかった。
議論
染料でオレンジ色に着色した飲料は79%の被験者がオレンジ色の味を感じたのに対して、LEDでオレンジ色に着色した飲料では、42%の被験者しかオレンジ色の味を感じなかった。また、染料で緑色に着色した飲み物はほとんどの被験者が味を認識できず、LEDで着色した場合は63%の被験者がメロン味を感じた。
→この結果は液体の濁りによっておこった。LEDで着色された飲み物は、透明な炭酸飲料を連想させる傾向がある。透明度の低い液体を白濁した水とLEDで再現することは難しい。これはなんとかならないのか。
LEDノードの電池消費が早いので、実験の途中で被験者の前で飲み物の色が変わることがあった。(電池が少なくなるとノードの色が赤くなる)
気になった論文
Towards Experiencing Eating as Play(未来の論文)
Playful Taste Interaction(未来の論文)