はじめに
バーゼル問題(Basel Problem)とは、平方数の逆数の総和を求める問題である。1735年、オイラーが具体的な値を求めたことにより解決された。
\begin{align}
\displaystyle \sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n^2}
& = \frac{1}{1}+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{3^2}+\cdots \\
& = \frac{\pi^2}{6} \ \Bigr( \fallingdotseq 1.64493... \Bigl )
\end{align}
現在では高校範囲でもこれを解決できて、解説も簡単に見つけられるが(バーゼル問題 | 高校数学の美しい物語など)、個人的に納得がいくまで多少の時間を要したため、ここに備忘録として書き残しておくことにする。方針としては、以下の2式が成り立つことを示す。
\begin{align}
\displaystyle \lim_{x\to0}\frac{\frac{1}{x}-\bigr(\ln ( \sin(\pi x))\bigl)'}{2x} & =\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n^2} & (1) \\
\lim_{x\to0}\frac{\frac{1}{x}-\bigr(\ln ( \sin(\pi x))\bigl)'}{2x} & = \displaystyle \frac{\pi ^ 2}{6} & (2)
\end{align}
注意点として、厳密には成立しない操作がきっとあるはず。なので、そういうものにアレルギーがある人は読むべきではない。
式(1)を示す
関数$ f(x) $は以下の性質を満たすとする。
\begin{align}
x \in \mathbb{Z} & \Rightarrow f(x) = 0 \land f'(x) \neq 0 \\
f(x) \neq 0 & \Rightarrow x \notin \mathbb{Z}
\end{align}
つまり、整数すべての集合$\mathbb{Z}$と$ f(x)=0 $の解は一致する。重解は存在しない。
関数$ g(x) = 0$ に重解がなく、かつその解が $
{ \alpha_1, \alpha_2, ... , \alpha_n}$のとき、$\displaystyle g(x) = \prod_{k = 1}^n\frac{x - \alpha_k}{\beta_{\alpha_k}}$と表せる。というわけで、$f(x)$も単項式の積で表せるはず。
\begin{align}
f(x) & = \prod_{z \in \mathbb{Z}}\frac{x - z}{\beta_z} \\
& = \frac{\cdots (x + 2)(x + 1)x(x - 1)(x - 2) \cdots}
{\cdots \beta_{-2}\beta_{-1}\beta_0\beta_1\beta_2 \cdots} \\
& = \frac{x(x^2 - 1^2)(x^2 - 2^2) \cdots}
{\cdots \beta_{-2}\beta_{-1}\beta_0\beta_1\beta_2 \cdots}
\end{align}
無限積になってしまったが続行する。
ところで、前記の性質を満たす関数として$ \sin (\pi x) $があげられる。なので、$ f(x) = \sin (\pi x) $としてしまう。
\begin{align}
\sin(\pi x) &= \frac{x(x^2 - 1^2)(x^2 - 2^2) \cdots}
{\cdots \beta_{-2}\beta_{-1}\beta_0\beta_1\beta_2 \cdots} \\
\ln(\sin(\pi x)) &= \ln(x)+\ln(x^2 - 1^2)+\ln(x^2 - 2^2)+\cdots
\\ &\qquad- \ln\bigr( \cdots \beta_{-2}\beta_{-1}\beta_0\beta_1\beta_2 \cdots \bigl)
\end{align}
$\ln\bigr( \cdots \beta_{-2}\beta_{-1}\beta_0\beta_1\beta_2 \cdots \bigl)$が定数であることに注意して、両辺を微分する。
\bigr(\ln ( \sin(\pi x))\bigl)' = \frac{1}{x}+\frac{2x}{x^2 - 1^2}+\frac{2x}{x^2 - 2^2}+\cdots
式変形して
\frac{1}{2x}\biggr(
\frac{1}{x} - \bigr(\ln ( \sin(\pi x))\bigl)'\biggl) = \frac{1}{1^2 - x^2}+\frac{1}{2^2-x^2}+\cdots
両辺の極限$ ( x \to 0) $をとると式$(1)$が得られる。
式(2)を示す
ある関数$h(x)$が存在して、$h(0)=h'(0)=h''(0)=h'''(0)=0 $を満たすとき、$ h \mathtt{\ is\ }O(x^4)$と書くことにする。テイラー展開により、以下のことがわかる。
\begin{align}
\exists f\mathtt{\ is\ }O(x^4),\sin(x)&=x-\frac{x^3}{6}+f(\pi ^{-1}x)\\
\exists g\mathtt{\ is\ }O(x^4),\cos(x)&=1-\frac{x^2}{2}+g(\pi^{-1}x)
\end{align}
求める極限の中身を式変形する
\begin{align}
\frac{1}{2x}\biggr(
\frac{1}{x} - \bigr(\ln ( \sin(\pi x))\bigl)'\biggl) & =
\frac{1}{2x}\biggr(
\frac{1}{x} - \frac{\pi\cos (\pi x)}{\sin(\pi x)}\biggl) \\
& = \frac{\sin(\pi x) - \pi x \cos(\pi x)}{2x^2\sin(\pi x)} \\
& = \frac{\bigr(\pi x-\frac{\pi^3 x^3}{6} + f(x)\bigl) - \pi x \bigr(1 - \frac{\pi ^2x^2}{2}+g(x)\bigl)}
{2x^2\bigr(\pi x-\frac{\pi^3 x^3}{6} + f(x)\bigl)} \\
& = \frac{\frac{\pi^3 x^3}{3} + f(x) - \pi x g(x)}
{2\pi x^3-\frac{\pi^4 x^4}{3} + 2xf(x)}
\end{align}
極限をとる
\displaystyle \lim_{x\to0}\frac{\frac{1}{x}-\bigr(\ln ( \sin(\pi x))\bigl)'}{2x} =
\lim_{x\to0}
\frac{\frac{\pi^3 x^3}{3} + f(x) - \pi x g(x)}
{2\pi x^3-\frac{\pi^4 x^4}{3} + 2xf(x)}
右辺にロピタルの定理を繰り返し適用すると式$(2)$が得られる