はじめに
こちらの記事を書いた際にコメントでもらった、アクセシビリティオーバーレイに関して調査してみました。
Qiitaで調べてもアクセシビリティオーバーレイに関して言及している記事は1件も見当たりませんでした。教えてくださった方にとても感謝です。
アクセシビリティオーバーレイとは
しっかりとした定義はないですが、WCAGに準拠したWebのアクセシビリティを提供するSaaSのことです。JavaScriptを使ってサイトをを上書きしてアクセシビリティを提供するツールみたいです。大体サイトの右下にボタンがあり、それをクリックするとWCAG準拠のあらゆるボタンが用意されて、例えばスクリーンリーダーをクリックするとサイトを読み上げてくれたり、
例えばこちらのサイトなどが例です。
ほとんどがこのように、ブラウザ上でスクリーンリーダーが実行できたり、文字サイズを大きくしたりコントラストを変えてくれたり、ブラウザのボタンひとつで実行してくれます。
海外のサイトではこのアクセシビリティオーバーレイに関して話題になっているみたいです。日本にもここ最近このアクセシビリティオーバーレイのSaaSが見受けられるようになってきました。
JavaScriptを読み込むコードを置くだけでアクセシビリティに対応できるサービスで、一見簡単で便利そうです。では何が問題なのか、どういうふうに議論が飛び交っているのか書き連ねていきます。
とりあえずアクセシビリティになっている
SaaSを導入するってことは、つまりはサービスにお金をかけていることになります。本来、アクセシビリティに対応することはデザイナーやエンジニアが対応することなので、特別なサービスが必要なわけではありません。もちろんアクセシビリティのチェックなどはほんとに高度なものであればお金がかかるものもありますが、対応することに関してはお金はかかりません。
なのにわざわざ導入するということは、「とりあえず何かアクセシビリティ導入しておくか」みたいな気持ちで対応することになります。そういう場合って、なぜアクセシビリティが必要なのかとか、アクセシビリティってそもそも何なのかという理解が足りていないのではないでしょうか?
WCAGは確かにアクセシビリティ対応する上でこうした方がいいというベストプラクティスを提案してくれています。しかしWCAGに全対応しているからアクセシビリティというわけでもありません。そもそもアクセシビリティというのはどこでも誰でも使えるということがアクセシビリティです。
現実問題、どこでも誰でもというのはかなり難しいです。事情は人それぞれですし、10万人に1人レベルで発生する障害を抱えている方もいるかもしれません。全員が全員満足できるようなサービスを提供するのは難しいかもしれません。
それでもなるべく多くの方達にサービスを使ってもらえるようにしようと努めることがアクセシビリティ対応です。
アクセシビリティオーバーレイツールを導入する前に、なぜアクセシビリティが必要なのかをまず理解して、どのあたりまで対応するか、対応するにはどうすればいいかを考えることが大事です。
本当にあなたのサービスのユーザーはそのツールが必要ですか?HTML、CSSで対応できそうではないですか?
まずアクセシビリティ支援ツールはどのOSにも備わっている
スクリーンリーダーなどのアクセシビリティ支援ツールはどのOSにも備わっています。ページの拡大縮小もどのブラウザにも備わっています。文字サイズの拡大縮小もできます。わざわざ提供をする必要はありません。アクセシビリティオーバーツールからスクリーンリーダーのツールを導入されても、元々スクリーンリーダーを使うユーザーはほとんど使わないと思います。文字を大きくしているユーザーは普段から文字を大きくしています。サイズを大きくしています。あなたのサイトだけ特別に何か設定する必要はないです。
スクリーンリーダーだけに特化して話すと、スクリーンリーダーを使うにはある程度の操作方法の習得が必要です。MacのVoiceOverにはチュートリアルも用意されています。マウスを使えない方、マウスがどこを指しているかわからない方は、キーボードで操作したりします。そのキーボードの操作を習得したにも関わらず、勝手にアクセシビリティオーバーレイ上のスクリーンリーダーを利用したら余計に使いにくくならないでしょうか?
標準で備わっているにも関わらずお金を払ってまで二重に機能を導入する必要はあるのでしょうか?その機能が元々あるツールの邪魔をしていないでしょうか?
アクセシビリティオーバーレイに関する記事たち
ここで、Googleで「アクセシビリティオーバーレイ」と検索してヒットした記事をいくつか並べてみます。
アクセシビリティオーバーレイ (accessibility overlay)
アクセシビリティオーバーレイ に関しての詳細、なぜでてきたのか、ツールのぜひに関して言及されています。
アクセシビリティオーバーレイのとりとめもない話
ミツエーリンクスのアクセシビリティにとても詳しい、中村さんという方が書かれた記事です。こちらの記事では逆になぜ使われているのかについて言及されています。否定するわけでなく、どうして需要があるのかを分析するというのはなかなか面白い視点だと思いました。
アクセシビリティ オーバーレイに対する見解
同じミツエーリンクスさんの取締役の方の記事です。アクセシビリティオーバーレイに関して批判的な意見が述べられています。
公的機関のWebサイトにアクセシビリティオーバーレイは不要
公的機関が使っている、アクセシビリティオーバーレイツールに関して批判的な意見が書いてあります。確かに昔ながらのサイトの作りされてる公的機関のサイトでは、いまだにアクセシビリティオーバーレイツールがありますね。
例えば総務省のページにはアクセシビリティオーバーレイツールが見受けられます
そこに対して、デジタル庁のウェブアクセシビリティガイドブックには、
アクセシビリティ・オーバーレイなどのプラグインの利用は非推奨
とあります。個人的な意見ではありますが、デジタル庁と総務省では作成された年がちがうのでしょうがないですが、行政機関のサイトも統一してもらいたいなとは思いました。
アクセシビリティ対応?アクセシビリティオーバーレイ導入はちょっと待って
アクセシビリティオーバーレイに関して技術面から否定しています。
ウェブ・アクセシビリティはプロセスであり、すぐに解決できるものではない
アクセシビリティオーバーレイに関しては批判的な意見を書いてあります。アクセシビリティは一朝一夕では対応できるものではないということが書いてあり、とても共感しました。
Overlay Fact Sheet
こちらは英語のサイトになりますが、アクセシビリティオーバーレイに関して言及している記事で多く引用されていました。有効性や問題点、実際の当事者のツイートも拝見できます。
終わりに
アクセシビリティオーバーレイは絶対悪でもないとは思います。SaaSを導入してでもアクセシビリティ対応したいというその考えはとても立派なものだと思います。しかし導入する前に本当に必要なのか、アクセシビリティとは何なのかをちゃんと考え知る必要があると思います。そうしないと下手したらみんなにとって使いにくいサイトになり変わってしまうかもれません。
それと、アクセシビリティオーバーレイSaaSが多く登場しているのも事実です。それだけ需要があるわけですから。これはちゃんとアクセシビリティというものが社会全体のなかで知れ渡っていないことも一つの原因だと思います。導入をただ批判するだけでなく、アクセシビリティってこういうものだよってもっと社会全体に知れ渡らせることも必要だと思います。
先日自分が参加してアクセシビリティの勉強会の懇親会で、普段広報をしていらっしゃる非エンジニアの方が
「アクセシビリティを勧めてくる人ってみんな威圧的なんだよね」
と愚痴っていました。これって非常にいけないことだと思います。こういうことも、アクセシビリティがあまり知れ渡らない原因のひとつだと思います。アクセシビリティはmustと考えてもいいかもしれませんが、他の人に教えたり勧めたりするときはbetterだといったほうがとっつきやすいかもしれません。
アクセシビリティに関しては誰に、どんな人に向けてWebサービスを提供するか、まずは考えましょう。みんなが使いやすいWebを目指すために。その考え始めがアクセシビリティへの第一歩です。