はじめに
Webアクセシビリティ関連の資格「Trusted Tester認証」をご存知ですか?ざっくり説明すると、Webアクセシビリティに関するアメリカの資格で、どなたでも無料で取得できる認証資格です。今回は、このTrusted Tester認証の紹介をしていきます。
(こちらの記事は、2024/12/10に開催されたアクセシビリティ大忘年会で登壇したLTを、ブログ用に書き直したものです)
Trusted Testerとは
Trusted Testerとは、DHS(米国国土安全保障省)が提供する、ウェブサイトやソフトウェアのアクセシビリティを評価するための標準化されたテスト手法のことです。
アメリカの法律、リハビリテーション法第508条(Section 508)に準拠したガイドラインに基づいて行われ、ウェブコンテンツやアプリケーションがアクセシビリティ基準を満たしているかを確認するテストプロセスのことです。
Trusted Tester認証(Trusted Tester for Web Certification )とは、Trusted Testerのプロセスに基づきちゃんと評価をできることを証明する、認定資格です。DHSが提供する、トレーニングコースを受講し、試験を合格することで取得が可能です。
こちらのサイトから受講、受験ができます。
Section 508とは
ここで、重要なアメリカの法律であるSection 508について紹介します。
アメリカ連邦政府の調達基準に関する法律である。連邦政府が購入するIT機器やソフトウェア、ウェブサイトは、 障害をもつ連邦政府職員や国民にも使えるものでなければならないというものである。
引用 公的機関サイト支援プロジェクト A.A.O.「リハビリテーション法508条」より
つまりざっくり説明すると、連邦政府が調達するIT関連のものはすべて、アクセシブルなものでなければいけない、そういう法律です。
なぜ取得しようとしたのか
フリーランスとして「Reactができます」だけだと、他のフロントエンジニアと差別化しにくいのではと考えました。「アクセシビリティに配慮した開発を行える」ということを証明できるものが欲しいと思い、ググったらこの資格で出てきました。アクセシビリティ界隈で著名な方達も取得や認識されている資格ということなので、自分もとってみたいと思いました。
この資格の3つの利点として
- 無料
- いつでも受講できていつでも受験できる
- 政府組織が運営しているので、資格アピールとしても強い
という点です。
英語のサイトではあるのですが、ChromeのGoogle翻訳だけで意味はちゃんと伝わってくるので、英語ができなくても全然理解できます。もちろん、英語ができたほうが翻訳を挟まないのでとても楽ですが。
講座の内容
こちらが、Trusted Testerを受講するためのページです。どこを選択したら受講ができるのか、最初は戸惑いましたが、「Trusted Tester for Web Certification Program」を選択すると上から一つずつ順に受講することができます。
講座内容に関しては、Section 508について、テストツールの使い方、トレーニング、模擬試験、本試験の5構成になります。最後の本試験を合格すると、無事にTrusted Testerの認定証を取得できます。
トレーニングが一番のメインになってきます。以下の20項目を勉強していきます。
- コンテンツの自動再生と自動更新
- 点滅
- キーボードアクセスとフォーカス
- フォーム
- リンク
- 画像
- 調整可能な時間制限
- 繰り返しコンテンツ
- コンテンツの構造
- 言語
- ページタイトル、フレーム、iFrame
- 感覚特性とコントラスト
- 表
- CSS ポジショニング
- 事前に録音された音声のみ、ビデオのみ、およびアニメーション
- 同期メディア
- テキストのサイズ変更
- 複数の方法
- 解析
- 適合代替バージョンと非干渉
基本的にはWCAG2.0に沿ったような内容になります。この20個の大分類の中で、さらに細かく、テストプロセスについて勉強していきます。
それぞれの項目を勉強し終わると、知識チェック、実技チェックになります。満点をとると、次の項目を学習できます。
実技チェックは、実際のWebページをもとに、提示されたテスト条件に対して「合格、不合格、適用されない(DNA)、テストされていない」を判定します
具体例 フォーム
以下のサイトをテストしていきます。
Trusted Testerプロセスより、以下のテスト条件でテストを行います
テストID 5.C テスト名 1.3.1- プログラムラベル
テスト条件 アクセシブルな名前、アクセシブルな説明、およびその他のプログラムによる関連付け (表の列や行の関連付けなど) の組み合わせにより、各入力フィールドが説明され、関連するすべての指示とヒント (テキストとグラフィック) が含まれます。
続いてどういった条件をクリアすれば合格なのか、Trusted Testerプロセスにはこう書かれています
コンテンツの評価方法
次のいずれかが TRUEの場合、コンテンツは合格となります。
- ANDI出力には、フィールドが必須である場合など、フォーム要素に関するすべての関連指示とヒントが含まれます。
- 説明ラベルとヒントは、他のプログラムによる関連付け(たとえば、表の列と行の関連付け)によって提供されるか、または
- ANDI出力 と他のプログラムによる関連付けの組み合わせには、関連するすべての指示とキューが含まれます。
- プログラムによって決定されたフォーム要素のコンテキストとANDI 出力の組み合わせにより、その目的が適切に説明されます。
Trusted Tester Training for Web Topic 5 フォームの講座内容より、Google翻訳で日本語に翻訳したものを引用させていただきました。
ANDIとは、手動のアクセシビリティチェックツールです。こちらよりインストールが行えます。
実際の操作の仕方に関しては、受講しているとちゃんと習得できるので、今はこんなツールがあるんだ程度で認識しておいてください。
では、実際のサイトを見ていきます。(なお、スクリーンショット自体の説明は、全ての状況を説明しきれていないので実際のサイトを見ていただいたほうがわかりやすいかもしれないです。)
名前のフォームを調べていきます。ANDIでフォーカスを当てると、ANDI Outputには、「名前*」と出力されており、そしてページ上には「*は必須」というヒントも出ています。よって名前のフォームに関しては合格です。
メールアドレスのフォームも同様に合格です。
認証コードは、必須であるというヒントはあるが、何を入力するものなのか、何文字なのか等ヒントが何もありません。このページ上からはわからないので、これは先ほど紹介したTrusted TesterプロセスがどれもTRUEにならないためこのページはテストID 5.C テスト名 1.3.1- プログラムラベルに対して不合格と判定します。このページのテストが合格になるには、すべての該当要素が合格になる必要があります。
このような感じで、一つのページ(たまに複数ページ)につき、それぞれのTrusted Testerプロセスを使って判定していきます
ちなみに、模擬試験、本試験ともにかなりの問題数があり、一定の点数以上を取得しないといけないので、嫌でも体に染み付きます。何度でも同じようなページをやらされます。
受講した感想
試験勉強というプロセスを通じて、体系的にWebアクセシビリティを学ぶことができました。資格って飾りだとは思ってましたが、やはり試験勉強ってちゃんと道が整っているので一番身に付けやすいと思いました。
フォームなど、元々知っている知識はありましたが、同期メディアなど、アクセシビリティ基準に関して知っていなかったものが結構ありました。
axeなどの自動チェックツールを頼らずとも、判断できるようになりました。
デジタル庁が日本版のTrusted Testerも作って欲しいと思いました。
終わりに
これからWebアクセシビリティに関して勉強したいという方は非常におすすめです。Webアクセシビリティに関して知識を整理する上でも非常にいいです。アクセシビリティ関連で何か資格を取りたい方にもおすすめです。何せ無料でいつでも受けられるので。
皆さんもぜひ取得してみてください。
Trusted Tester
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