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量子力学的世界像

Last updated at Posted at 2024-05-20

1 はじめに

江沢洋選集Ⅲ「量子力学的世界像」を図書館で借りて読み始めた。このところずっとハイゼンベルクの著書や朝永振一郎の著書を読んでいたが、あまりに古いので、少し新しいものでも読もうかと思い、この本を選んだ。本を開くといきなり横書きで数式が目に飛び込んだので、「選集」というからには縦書きで文字ばかりと思っていたので驚いた。まるで物理の教科書のようだ。しかし、パラパラとめくってみると、第1章には著者が高校生のときに読んだ朝永振一郎の量子力学Ⅰの思い出のようなエッセイもあり、読みやすく、親しみやすく、とてもよい本だという印象をもったので、備忘録を書くことにした。

2 運動方程式と保存量

第2章「ボーアの原子模型」は原子核をまわる電子の運動についての話から始まる。ここでは、電子の運動方程式から2つの保存量、「エネルギー」と「角運動量」、を導いている。高校生でも理解できるように $x,y$ 成分表示で書かれている。成分表示で書いた数式展開を一つひとつたどれば難なく理解できるのだが、全体としてどうして運動方程式から保存量を導くことができるのかわかった気がしない。

そこで、全体像を俯瞰して掴むためにあえてベクトル表示で式展開を書き改めてみた。また、なぜ角運動量が保存されるのかを明確にするため、あえて外力がない質点系から考えてみることにした。

2.1 外力のない質点系

外力がない場合、位置 $\boldsymbol{r}=(x,y)$ にある、質量 $m$ の質点の運動方程式は

m \ddot{\boldsymbol{r}} = \boldsymbol{0} \tag{2.1.1}

となる。

2.1.1 エネルギー保存則

(2.1.1)式の両辺と速度 $\dot{\boldsymbol{r}}$ の内積をとると

\dot{\boldsymbol{r}} \cdot m \ddot{\boldsymbol{r}} = \boldsymbol{0} \tag{2.1.2}

となり、これは

\frac{d}{dt} \left( \frac{1}{2} m {\dot{\boldsymbol{r}}}^2 \right) = \boldsymbol{0} \tag{2.1.3}

と変形できるが、これは

\frac{1}{2} m {\dot{\boldsymbol{r}}}^2 = const. \tag{2.1.4}

を意味する。この一定値を $E$ とおき、速度を $\dot{\boldsymbol{r}} = \boldsymbol{v} $ と書けば、

\frac{1}{2} m {\dot{\boldsymbol{r}}}^2 = \frac{1}{2} m \boldsymbol{v}^2 = E \tag{2.1.5}

となるが、これがエネルギーの保存則である。

このように、エネルギー保存則は運動方程式と速度 $\dot{\boldsymbol{r}}$ の内積をとることによって得られる。

2.1.2 運動量保存則

運動方程式(2.1.1)は

\frac{d}{dt} \left( m \dot{\boldsymbol{r}} \right) = \boldsymbol{0} \tag{2.1.6}

と書き換えることができ、これは

m \dot{\boldsymbol{r}} = const. \tag{2.1.7}

を意味する。
この式の左辺 $ m \dot{\boldsymbol{r}} = m \boldsymbol{v} = \boldsymbol{p} $ は運動量であるから、(2.1.7)式は運動量保存則

\boldsymbol{p} = const. \tag{2.1.8}

を意味する。

つまり、外力が加わらない運動方程式(2.1.1)からは運動量保存則が導かれる。

2.1.3 角運動量保存則

(2.1.1)式の両辺と位置 $\boldsymbol{r}$ の外積をとると

\boldsymbol{r} \times m \ddot{\boldsymbol{r}} = \boldsymbol{0} \tag{2.1.9}

となる。
一方

\begin{equation}\begin{split}
\frac{d}{dt} \left( \boldsymbol{r} \times m \boldsymbol{v} \right)
&= \frac{d}{dt} \left( \boldsymbol{r} \times m \dot{\boldsymbol{r}} \right) \\
&= \dot{\boldsymbol{r}} \times m \dot{\boldsymbol{r}} + \boldsymbol{r} \times m \ddot{\boldsymbol{r}} \\
&= \boldsymbol{r} \times m \ddot{\boldsymbol{r}} 
\end{split}\end{equation}
\tag{2.1.10}

と変形できる。ここで2行目から3行目への式展開で $\dot{\boldsymbol{r}} \times m \dot{\boldsymbol{r}} = 0$ を使った(同じベクトルどうしの外積は $0$)。

(2.1.9)式と(2.1.10)式から

\frac{d}{dt} \left( \boldsymbol{r} \times m \boldsymbol{v} \right) = \boldsymbol{0} \tag{2.1.11}

が得られ、これは

\boldsymbol{r} \times m \boldsymbol{v} = \boldsymbol{r} \times \boldsymbol{p} = const. \tag{2.1.12}

を意味する。この一定ベクトルを $\boldsymbol{L}$ とおけば、

\boldsymbol{r} \times \boldsymbol{p} = \boldsymbol{L} \tag{2.1.13}

となるが、これが角運動量保存則である。

このように、角運動量保存則は運動方程式と位置 $\boldsymbol{r}$ の外積をとることによって得られる。

2.1.4 この節のまとめ

これまで見てきたように、エネルギー保存則は速度 $\dot{\boldsymbol{r}}$ と運動方程式の内積をとることにより、角運動量保存則は位置 $\boldsymbol{r}$ と運動方程式の外積をとることにより導かれ、運動量保存則は運動方程式から導かれることがわかる。

2.2 外力のある質点系

次に、外力のある場合を考える。外力として、中心からの距離に反比例するポテンシャルをもつ中心力を考える。その場合、位置 $\boldsymbol{r}=(x,y)$ にある、質量 $m$ の質点の運動方程式は

m \ddot{\boldsymbol{r}} =  \mathrm{grad}_{\boldsymbol{r}} \left(\frac{A}{r}\right) 
= - \frac{A}{r^2} \cdot \mathrm{grad}_{\boldsymbol{r}} r 
= - \frac{A}{r^2} \cdot \frac{\boldsymbol{r}}{r} \tag{2.2.1}

と表すことができる。ここで、$A$ は中心力の大きさを決める正のパラメータである(中心力が水素原子核からのクーロン力の場合 $A\equiv\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0}$)。なお、上式の第2項から第3項への式展開は

\begin{equation}\begin{split}
\mathrm{grad}_{\boldsymbol{r}} r
&= \left( \frac{\partial}{\partial x} \boldsymbol{i} + \frac{\partial}{\partial y} \boldsymbol{j} + \frac{\partial}{\partial z} \boldsymbol{k} \right) \sqrt{x^2 + y^2 + z^2} \\
&= \frac{1}{2} \left( x^2 + y^2 + z^2 \right)^{-\frac{1}{2}} (2x \boldsymbol{i} + 2y \boldsymbol{j} + 2z \boldsymbol{k}) \\
&= \frac{x \boldsymbol{i} + y \boldsymbol{j} + z \boldsymbol{k}}{\sqrt{x^2 + y^2 + z^2}} \\
&= \frac{\boldsymbol{r}}{r}
\end{split}\end{equation} 

を用いた(ここで、$\boldsymbol{i}, \boldsymbol{j}, \boldsymbol{k}$ はそれぞれ $x, y, z$-方向の単位ベクトルである)。

2.2.1 エネルギー保存則

(2.2.1)式の両辺と速度 $\dot{\boldsymbol{r}}$ の内積をとると

\dot{\boldsymbol{r}} \cdot m \ddot{\boldsymbol{r}} = \dot{\boldsymbol{r}} \cdot \mathrm{grad}_{\boldsymbol{r}} \left(\frac{A}{r}\right)
\tag{2.2.2}

となるが、これは

\frac{d}{dt} \left( \frac{1}{2} m {\dot{\boldsymbol{r}}}^2 \right) = \frac{d}{dt} \left(\frac{A}{r}\right)
\tag{2.2.3}

と変形できる。ここで、

\frac{d}{dt} \left(\frac{A}{r}\right) = \frac{d \boldsymbol{r}}{dt} \cdot \frac{\partial}{\partial \boldsymbol{r}} \left(\frac{A}{r}\right) = \dot{\boldsymbol{r}} \cdot \mathrm{grad}_{\boldsymbol{r}} \left(\frac{A}{r}\right)

を用いた。

もっと正確を期すと合成関数の微分公式 $$\frac{d}{dt}\left(\frac{A}{r}\right) = \frac{\partial}{\partial x} \left(\frac{A}{r}\right) \frac{dx}{dt} + \frac{\partial}{\partial y} \left(\frac{A}{r}\right) \frac{dy}{dt} + \frac{\partial}{\partial z} \left(\frac{A}{r}\right) \frac{dz}{dt}$$ を用いると、右辺は2つのベクトル $\mathrm{grad}_{\boldsymbol{r}} \left(\frac{A}{r}\right) = \left( \frac{\partial}{\partial x} \left(\frac{A}{r}\right), \frac{\partial}{\partial y} \left(\frac{A}{r}\right), \frac{\partial}{\partial z} \left(\frac{A}{r}\right)\right)$ と $\dot{\boldsymbol{r}} = (\frac{dx}{dt},\frac{dy}{dt},\frac{dz}{dt})$ の内積になっている。

(2.2.3)式は

\frac{d}{dt} \left[ \frac{1}{2} m {\dot{\boldsymbol{r}}}^2 - \frac{A}{r} \right] = 0

と変形でき、これは

\frac{1}{2} m {\dot{\boldsymbol{r}}}^2 - \frac{A}{r} = const. \tag{2.2.4}

を意味する。この一定値を $E$ とおき、速度を $\dot{\boldsymbol{r}} = \boldsymbol{v} $ と書けば、

\frac{1}{2} m \boldsymbol{v}^2 - \frac{A}{r} = E \tag{2.2.5}

となるが、これがエネルギーの保存則である。

外力がない場合の(2.1.5)式と違って、左辺は運動エネルギーの項 $\frac{1}{2} m \boldsymbol{v}^2$ に加えてポテンシャルエネルギーの項 $- \frac{A}{r}$ があり、トータルエネルギー(運動エネルギー $+$ ポテンシャルエネルギー)が保存される形となっている。

このように、エネルギー保存則は、外力のない場合と同様に、運動方程式と速度 $\dot{\boldsymbol{r}}$ の内積をとることによって得られる。

2.2.2 運動量は保存されない

運動方程式(2.2.1)は

\frac{d}{dt} \left( m \dot{\boldsymbol{r}} \right) = \mathrm{grad}_{\boldsymbol{r}} \left(\frac{A}{r}\right) \tag{2.2.6}

と書き換えることができ、これは

m \dot{\boldsymbol{r}} = \int_0^t \mathrm{grad}_{\boldsymbol{r}} \left(\frac{A}{r}\right) dt \ne const. \tag{2.2.7}

を意味する。
この式の左辺 $ m \dot{\boldsymbol{r}} = m \boldsymbol{v} = \boldsymbol{p} $ は運動量であるから、(2.2.7)式は、外力がない場合と違って、運動量は保存されていないことを意味する。

つまり、外力がある場合、運動方程式(2.2.1)から運動量は保存されないことが導かれる。

2.2.3 角運動量保存則

(2.2.1)式の両辺と位置 $\boldsymbol{r}$ の外積をとると

\boldsymbol{r} \times m \ddot{\boldsymbol{r}} 
= \boldsymbol{r} \times \left( - \frac{A}{r^2} \cdot \frac{\boldsymbol{r}}{r} \right) 
= - \frac{A}{r^3} \boldsymbol{r} \times \boldsymbol{r} = 0
\tag{2.2.8}

となる。ここで $\boldsymbol{r} \times \boldsymbol{r} = 0$ を用いた。
これは(2.1.10)式を使うと、外力のない場合と同様に

\frac{d}{dt} \left( \boldsymbol{r} \times m \boldsymbol{v} \right) = 0 \tag{2.2.9}

が得られ、これは

\boldsymbol{r} \times m \boldsymbol{v} = \boldsymbol{r} \times \boldsymbol{p} = const. \tag{2.2.10}

を意味する。この一定値を $L$ とおけば、

\boldsymbol{r} \times \boldsymbol{p} = \boldsymbol{L} \tag{2.2.11}

となり、外力のない場合と同様に角運動量の保存則が導かれた。

2.2.4 この節のまとめ

外力(ただし、中心力)がある場合も運動方程式からエネルギー保存則と角運動量保存則が導かれた。一方、運動量は外力がある場合は保存されないことが示された。こうして中心力がある場合の質点の運動ではエネルギー保存則に加えて、運動量ではなく角運動量の保存則が重要になることがわかった。

量子力学では角運動量が量子化される(事実プランク定数 $h$ は角運動量の次元をもっている)ことと関係があるのだろうか?

2.3 この章のまとめ

外力の有無にかかわらず運動方程式からエネルギー保存則と角運動量保存則が導かれた。ただし、この場合、外力といってもクーロン力や万有引力のような(中心からの距離に逆比例するポテンシャルをもつ)中心力を考えた。これに加えて外力がない場合は運動量も保存されるが、外力がある場合は一般に運動量は保存されないため、角運動量の保存則がエネルギー保存則に加えて本質的な役割を担っているものと考えられた。

また、エネルギー保存則は運動方程式と速度ベクトルの内積を計算して、また、角運動量保存則は位置ベクトルと運動方程式の外積を計算して得られることがわかった。しかし、これは何故だろう?

エネルギーはスカラーで内積もスカラー。角運動量はベクトルで、外積もベクトル。2つのベクトルを $\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}$ とし、そのなす角を $\theta$ とすれば、内積は

\boldsymbol{a} \cdot \boldsymbol{b} = |\boldsymbol{a}||\boldsymbol{b}|\cos\theta

で、外積の大きさは

|\boldsymbol{a} \times \boldsymbol{b}| = |\boldsymbol{a}||\boldsymbol{b}|\sin\theta

で、その方向はベクトル $\boldsymbol{a}$ から ベクトル $\boldsymbol{b}$ に向けて右ねじを回すと、それが進む方向である。

3. 電子の軌道

原子核に束縛された電子の軌道を電子の運動方程式から求める。その際、運動方程式を極座標表示し、なおかつ独立変数を時刻 $t$ から角度 $\theta$ に変えて、$r$ を $\theta$ の関数として求めるのだが、その数式変換がとてもトリッキーに思えたので式展開をフォローした。

3.1 極座標表示

電子の軌道を求めるにあたり Fig.1 に示す極座標を採用する。
すなわち

\begin{equation}\begin{split}
x &= r\cos\theta \\
y &= r\sin\theta
\end{split}\end{equation}
\tag{3.1.1}

とする。

Fig1.jpg
Fig.1 電子の軌道(極座標表示)

(3.1.1)式を時間 $t$ で微分すると

\begin{equation}\begin{split}
\frac{dx}{dt} &= \frac{dr}{dt}\cos\theta - r\sin\theta\frac{d\theta}{dt}\\
\frac{dy}{dt} &= \frac{dr}{dt}\sin\theta + r\cos\theta\frac{d\theta}{dt}\\
\end{split}\end{equation}
\tag{3.1.2}

を得るが、これを用いて

\begin{equation}\begin{split}
\frac{1}{2}m{\ddot{\boldsymbol{r}}}^2 
&=\frac{m}{2}\left\lbrace \left(\frac{dx}{dt}\right)^2 + \left(\frac{dy}{dt}\right)^2 \right\rbrace \\
&=\frac{m}{2}\left\lbrace \left(\frac{dr}{dt}\right)^2 + r^2\left(\frac{d\theta}{dt}\right)^2 \right\rbrace \\
\end{split}\end{equation}
\tag{3.1.3}

と計算できる。

(3.1.3)式をエネルギー保存則(2.2.5)式に代入すると

\frac{m}{2}\left\lbrace \left(\frac{dr}{dt}\right)^2 + r^2\left(\frac{d\theta}{dt}\right)^2 \right\rbrace - \frac{A}{r} = E
\tag{3.1.4}

が得られる。

一方、角運動量保存則(2.2.11)式は $r$ と $\theta$ を用いて

\begin{equation}\begin{split}
\boldsymbol{r}\times\boldsymbol{p}
&= m\left( x\frac{dy}{dt} - y\frac{dx}{dt} \right) \\
&= m\left\lbrace r\cos\theta\left(\frac{dr}{dt}\sin\theta + r\cos\theta\frac{d\theta}{dt}\right) - r\sin\theta\left(\frac{dr}{dt}\cos\theta - r\sin\theta\frac{d\theta}{dt}\right) \right\rbrace \\
&= m r^2 \frac{d\theta}{dt} = L
\end{split}\end{equation}

のように表されるので、これを $\frac{d\theta}{dt}$ について解いて得られる

\frac{d\theta}{dt} = \frac{L}{m r^2}
\tag{3.1.5}

を(3.1.4)式に代入することにより

\frac{m}{2}\left(\frac{dr}{dt}\right)^2 + \frac{L^2}{2mr^2} - \frac{A}{r} = E
\tag{3.1.6}

が得られる。

3.2 楕円軌道の方程式

ここまでは電子軌道を表す方程式(3.1.5)式を極座標 $(r,\theta)$ で表現してきたわけであるが、次に(3.1.5)式を介して(3.1.6)式の独立変数を $t$ から $\theta$ に変えた運動方程式

\left(\frac{d}{d\theta}\frac{1}{r}\right)^2 + \left(\frac{1}{r} - \frac{mA}{L^2}\right)^2 - \frac{2m}{L^2}E - \left(\frac{mA}{L^2}\right)^2 = 0
\tag{3.2.1}

すなわち

\begin{equation}\begin{split}
\frac{1}{\kappa} &= \frac{mA}{L^2} \\
\varepsilon &= \sqrt{1 + \frac{2L^2}{mA^2}E}
\end{split}\end{equation}
\tag{3.2.2}

を導入して

\left(\frac{d}{d\theta}\frac{1}{r}\right)^2 + \left(\frac{1}{r} - \frac{1}{\kappa}\right)^2 = \left(\frac{\varepsilon}{\kappa}\right)^2
\tag{3.2.3}

に変形するのだが、この手順はとてもトリッキーで自分では決して思いつかないだろうと思った。

何かもっと直感的な方法はないのだろうか。それとも、これが唯一の方法なのだろうか。

なんと、(3.2.3)式は $r$ ではなく $\frac{1}{r}$(厳密には$\frac{1}{r}-\frac{1}{\kappa}$)の微分方程式になっているではないか!

ここで、

\xi = \frac{1}{r}-\frac{1}{\kappa}
\tag{3.2.4}

という変数を導入すると、(3.2.3)式は

\left(\frac{d\xi}{d\theta}\right)^2 + \xi^2 = \left(\frac{\epsilon}{\kappa}\right)^2
\tag{3.2.5}

になっている。
この微分方程式は簡単に解け、

\xi = \frac{\epsilon}{\kappa}\cos\theta
\tag{3.2.6}

を得る。
これを(3.2.4)式に代入して $r$ を求めると

r = \frac{\kappa}{1 + \varepsilon\cos\theta} \qquad (0 \le \theta \lt 2\pi)
\tag{3.2.7}

を得る。

Fig.1 に示すように $\theta=0$ のときの電子の位置を $\mathrm{A}_1$ とし、そのときの $r$ を $r_1$ とすると

r_1 = \frac{\kappa}{1+\varepsilon} \tag{3.2.8}

となり、点 $\mathrm{A}_1$ を近日点という。

また $\theta=\pi$ のときの電子の位置を $\mathrm{A}_2$ とし、そのときの $r$ を $r_2$ とすると

r_2 = \frac{\kappa}{1-\varepsilon} \tag{3.2.9}

となり、点 $\mathrm{A}_2$ を遠日点という。

そして、近日点 $\mathrm{A}_1$ と遠日点 $\mathrm{A}_2$ の距離 $\overline{\mathrm{A}_1 \mathrm{A}_2}$ の半分の距離

\begin{equation}\begin{split}
a \equiv \frac{1}{2} \overline{\mathrm{A}_1 \mathrm{A}_2} 
&= \frac{r_1 + r_2}{2} \\
&= \frac{1}{2} \left( \frac{\kappa}{1+\varepsilon} + \frac{\kappa}{1-\varepsilon} \right) \\
&= \frac{\kappa}{2} \frac{(1 - \varepsilon) + (1 + \varepsilon)}{1 - \varepsilon^2} \\
&= \frac{\kappa}{1 - \varepsilon^2}
\end{split}\end{equation}
\tag{3.2.10}

長半径と呼ばれる。

Fig.1 に示すように、極座標の原点は楕円軌道の一つの焦点になっており、これを $\mathrm{F}_1$ とする。一方、遠日点 $\mathrm{A}_2$ よりも距離 $r_1$ だけ原点寄りの点を $\mathrm{F}_2$ とすると、これは楕円軌道のもう一方の焦点になっている。この焦点間の距離 $\overline{\mathrm{F}_1 \mathrm{F}_2}$ を楕円の長径 $\overline{\mathrm{A}_1 \mathrm{A}_2}$ で割った比を離心率といい、

\begin{equation}\begin{split}
\frac{\overline{\mathrm{F}_1 \mathrm{F}_2}}{\overline{\mathrm{A}_1 \mathrm{A}_2}} 
&= \frac{r_2 - r_1}{2a} \\
&= \frac{1}{2a}\left( \frac{\kappa}{1 - \varepsilon} - \frac{\kappa}{1 + \varepsilon} \right) \\
&= \frac{\kappa}{2a} \frac{(1 + \varepsilon) - (1 - \varepsilon)}{1 - \varepsilon^2} \\
&= \frac{\varepsilon}{a} \frac{\kappa}{1 - \varepsilon^2} \\
&= \varepsilon
\end{split}\end{equation}
\tag{3.2.11}

となる。

3.3 楕円軌道の2つのパラメータと運動方程式の2つの保存量

こうして、電子の楕円軌道の2つのパラメータである長半径 $a$ と離心率 $\varepsilon$ が得られた。次にこれらのパラメータを運動方程式の2つの保存量であるエネルギー $E$ と角運動量 $L$ で表すことを考えよう。

まず、離心率 $\varepsilon$ はすでに(3.2.2)式でエネルギー $E$ と角運動量 $L$ で表されているが、これを変形して

1 - \varepsilon^2 = \frac{2L^2}{mA^2}(-E)
\tag{3.3.1}

としておく。
次に、(3.2.2)の第1式から

\kappa = \frac{L^2}{mA}
\tag{3.3.2}

が得られるが、これらを使うと(3.2.10)式から長半径が

a = \frac{\kappa}{1 - \varepsilon^2}
=\frac{L^2}{mA} \frac{1}{\frac{2L^2}{mA^2}(-E)}
=\frac{A}{2(-E)}
\tag{3.3.3}

と求まる。ここで、原子核に束縛されている電子のエネルギー $E$ は負でなければならない($E \lt 0$)ことに注意されたい。

原子核に束縛されている電子のエネルギー $E$ は負でなければならないと書いたが、なぜそうなるのかを直感的に把握するには次のように考えればよい。電子のポテンシャルエネルギーは $$V(r) = - \frac{A}{r}$$ であるが、これは無限遠 $r = \infty$ で $0$ になる。したがって、エネルギーが正の場合はもはや電子は原子核に束縛されなくなり、楕円軌道たり得ない。

電子の描く楕円軌道の長半径 $a$ は、(3.3.3)式から、電子のエネルギー $E \lt 0$ だけで決まり、$a$ が決まったうえは、離心率 $\varepsilon$ は電子の軌道角運動量 $L$ で次のように決まることがわかる。

1 - \varepsilon^2 = \frac{\kappa}{a} = \frac{L^2}{mA} \frac{1}{a}
\tag{3.3.4}

3.4 円軌道と楕円軌道

離心率 $\varepsilon$ が $0$ の場合、(3.2.7)式から

r = \kappa = \frac{L^2}{mA}
\tag{3.4.1}

となり、電子の軌道は円軌道になる。
(3.2.2)式で $\varepsilon = 0$ になるためには

E = - \frac{mA^2}{2L^2}
\tag{3.4.2}

とならねばならないが、これが2つの保存量(エネルギー $E$ と軌道角運動量 $L$)の関係式となる。

ここで(3.4.2)式は(3.4.1)式を用いて

E = -\frac{mA}{L^2} \frac{A}{2} 
= \frac{1}{2}\left( -\frac{A}{r} \right)
\tag{3.4.3}

と変形できるが、エネルギー保存則(2.2.5)式から

\frac{1}{2}m \boldsymbol{v}^2 
= E + \frac{A}{r} 
= \frac{1}{2}\left( -\frac{A}{r} \right) + \frac{A}{r}
= \frac{1}{2} \frac{A}{r}
\tag{3.4.4}

となり、電子の運動エネルギーはポテンシャルエネルギーの大きさ $|V(r)| = \frac{A}{r}$ の半分であることが示される。

実際、(3.4.4)式から $$v^2 = \frac{A}{mr}$$ が得られるが、近日点 $\mathrm{A}_1$ にて、鉛直方向($y-$軸方向)に速さ $v$ を与えれば、その際の角運動量は $L = rmv$ となり、よって $$L^2 = r^2 m^2 v^2 = r^2 m^2 \frac{A}{mr} = mrA$$ となるので、これを $r$ について解けば(3.4.1)式が得られる。

エネルギー $E$ を与えるだけでは軌道の形は定まらないが、(3.4.4)式が成立するような運動エネルギーを与えることによって円軌道を描かせることができる、ということか。

3.5 まとめ

電子の軌道はエネルギー $E$ だけでは決まらない。軌道角運動量 $L$ を与えてはじめて決定される。この章では2つの保存量(エネルギー $E$ と軌道角運動量 $L$)から電子の楕円軌道を与える2つのパラメータ(長半径 $a$ と離心率 $\varepsilon$)を導出した。

また、電子の軌道が円軌道になる際の条件を求め、運動エネルギーがポテンシャルエネルギーの大きさの半分になっていることがわかった。

4. ボーアの原子模型

4.1 空洞輻射

プランクは、空洞をみたす熱輻射の振動数分布を理解するために、輻射と空洞の壁とは $h\nu$ という塊でエネルギーのやり取りをすると考えた。$\nu$ は輻射の振動数、$h$ は物理学にかつてなかった定数で、プランクは $$ h = 6.55 \times 10^{-27} \mathrm{ergs}$$ として作用量子 と名づけた。1900年も12月のことである。今日の値は $6.6261 \times 10^{-34} \mathrm{Js}$ で、ほとんど違わない。

という出だしで「ボーアの電子模型」は始まる(文献 1 の「2.2」)。

おなじみのプランクによる空洞輻射(黒体輻射)の理論は量子論の誕生を告げる物理理論である。物を熱すると光が出る。最初は目に見えない赤外線から出発して、温度上昇とともに赤色、黄色、そして青色、最終的には白色に光輝く。この物の温度と発する光の色の関係、つまり輻射スペクトルの理論が空洞輻射理論である。

ということは、輻射=光で、熱エネルギー(物の温度の由来)が光に変わるとき、どのような周波数成分がどのような強さで現れるかを説明する理論が空洞輻射の理論ということになる。空洞輻射は黒体輻射とも呼ばれる。黒体とは色のない物体のことであるが、この温度と光の関係は物質に依らない、すなわち、黒体とはどんな物質でもよろしいという意味である。物質に依らず、輻射のスペクトルは同じ様相を示すという普遍的な現象を意味する。つまり、そのからくりは、物体を構成する特定の原子の種類には依存しない、温度と光の普遍的な性質である。

4.2 原子の発光スペクトル

プランクは空洞の壁を共鳴振動子とみなし、輻射場と $h\nu$ という塊でエネルギーのやり取りをすると考えて空洞輻射のスペクトルを説明した。

アインシュタインは振動数が $\nu$ の光はエネルギーが $h\nu$ の塊だと考え、それを金属に照射すると、電子を金属から引き離すのに必要なエネルギー(仕事関数)$W$ を差し引いた $h\nu - W$ の運動エネルギーをもって電子は金属から飛び出すと説明した。これが光電効果の理論である。

そして、ボーアは水素原子の電子がエネルギー $E$ の状態で $h\nu$ の塊のエネルギーを光として放出してエネルギーが $E'$ の状態になるはずだと考え、観測される原子の発光スペクトル $\nu$ を説明した。すなわち

E - E' = h\nu
\tag{4.2.1}

という関係式が成立すると考えたのである。

このように振動数 $\nu$ の光が $h\nu$ のエネルギーの塊として空洞輻射、光電効果、そして原子模型に現れ、量子論は始まった。今にして思えば自然な成り行きに思われるが、当時としてはあり得ない突拍子もない考えの飛躍だったのだろう。

4.3 バルマー系列

水素原子の出す光のスペクトルとしてバルマー系列がある。

\lambda_n = \frac{n^2}{n^2 - 2^2} B \qquad (B = 3.6456 \times 10^{-7}\mathrm{m})
\tag{4.3.1}

これを波長と振動数の関係式 $\lambda = c / \nu$ を用いて振動数の式にすると

\begin{equation}\begin{split}
\nu_n &= \frac{c}{\lambda_n} \\
&= \frac{c}{B} \frac{n^2 - 2^2}{n^2} \\
&= \frac{c}{B} \left( 1 - \frac{2^2}{n^2} \right) \\
&= \frac{c \times 2^2}{B} \left( \frac{1}{2^2} - \frac{1}{n^2} \right) \\
\end{split}\end{equation}
\tag{4.3.1}

となるが、ここで

R \equiv \frac{2^2}{B} = 1.0972 \times 10^{7} \mathrm{m}^{-1}
\tag{4.3.2}

とおけば、(4.3.1)式は

\nu_n = cR \left( \frac{1}{2^2} - \frac{1}{n^2} \right), \qquad (cR = 3.2893\times 10^{16}\mathrm{s}^{-1})
\tag{4.3.3}

となる。

4.4 定常状態

(4.3.3)式の両辺にプランク定数 $h$ を掛けて左右入れ替えると

hcR \left( \frac{1}{2^2} - \frac{1}{n^2} \right) = h\nu_n, \qquad (hcR = 2.1795\times 10^{-18}\mathrm{J} = 13.603\mathrm{eV})
\tag{4.4.1}

となり、

E = E_n \equiv -\frac{hcR}{n^2} , \qquad E' = E_2 \\
\tag{4.4.2}

とおけば、ボーアの考えた公式(4.2.1)式、すなわち

E - E' = E_n - E_2 = h\nu_n \tag{4.4.3}

に一致する。

これは、水素原子の電子が(4.4.2)式で与えられる $E_n$ という整数 $n$ で指定される離散的なエネルギー状態をもち、状態 $n$ から状態 $2$ に遷移するとき振動数 $\nu_n$ の光を放出する(あるいは逆に振動数 $\nu_n$ の光を吸収して状態 $2$ から状態 $n$ に遷移する)と考えるとつじつまが合う。この整数 $n$ で指定される離散的なエネルギー状態を定常状態という。

こうして(4.3.1)式のような経験的なスペクトルの規則を示す数式に物理的な説明が与えられた。

4.5 ボーアの仮説

電子の定常状態とその間の遷移による輻射のスペクトルを説明するためにボーアはいくつかの仮説を立てた。

  1. 原子核をまわる電子は加速度運動をしているが、古典電磁気学の教えるところによれば、加速度運動をする電子は輻射を出してエネルギーを失い、やがて原子核に落ち込んで原子は潰れるはずである。しかし、そうはならないところを見ると、原子内の電子は加速度運動をしても輻射は出さず定常な状態にあると仮定した。
  2. そして、定常状態では、電子は(4.4.2)式で与えられるとびとびのエネルギーのどれかを持つと仮定した。
  3. さらに、電子はときおりより低いエネルギーの定常状態に遷移し、そのとき(4.4.3)式にしたがってエネルギー差に相当する振動数の光を輻射すると仮定した。

4.6 ボーアの量子条件

ボーアは考えた。今、原子の内部における電子の運動は、ひとまず古典力学によって候補を決めることにしよう。実現される運動は、その候補の中から初期条件によって選び出すという在来の力学のしきたりはやめにして、量子条件ともいうべき条件を探し出して、それによって候補から選び出すことにしよう。これがボーアの、さしあたり最後の仮定である。

これは古典力学的描像から原子内での電子の運動へ至るボーアの考えた道筋の記述である。古典力学では初期条件がその後の運動を決める。初期条件とは時刻 $t=0$ における位置と運動量である。位置 $\boldsymbol{r}$ によって電子のポテンシャルエネルギー $V(|\boldsymbol{r}|)= - \frac{A}{|\boldsymbol{r}|}$ が決まり、運動量 $\boldsymbol{p}$ によって電子の運動エネルギー $K = \frac{|\boldsymbol{p}|^2}{2m}$ が決まる。この両者を合算して保存量のひとつであるエネルギー $E = K + V(|\boldsymbol{r}|)$ が決まる。さらに、もう一方の保存量である軌道角運動量 $\boldsymbol{L} = \boldsymbol{r} \times \boldsymbol{p}$ も決まる。こうして2つの保存量 $E, \boldsymbol{L}$ が決まれば、楕円軌道の2つのパラメータである離心率 $\varepsilon$ と長半径 $a$ がそれぞれ(3.3.1)式と(3.3.3)式から決まる。

ただし、ここで述べたエネルギー $E$ も軌道角運動量 $\boldsymbol{L}$ も連続量である。然るに、プランクの空洞輻射の理論、アインシュタインの光電効果の理論の延長線上からボーアが考察した原子の発光スペクトルの公式(4.2.1)とそれまでに実験で得られていたバルマー系列など離散的な原子の発光スペクトル(4.3.1)式を融合した帰結である(4.4.2)式は、電子のエネルギーは古典物理学が許容するすべての軌道候補のエネルギーを許してはおらず、トビトビのエネルギーしか許さない。つまり、古典力学の世界とミクロの世界は漸近的ではあるが断絶がある。連続的なエネルギーが離散的になるという漸近的な断絶である。

これをボーアはこう考えた。すなわち、実現される運動の候補(選び出しの候補)は古典力学によって決まるが、その候補のどれになるか(選び出しの条件)は初期条件からではなく離散的な量子条件に変わる。

原子の中での電子はトビトビのエネルギーしか取り得ないらしい。しかし、水素原子の出す光のスペクトルから決めた定常状態のエネルギーは、$n$ で番号付けられ、$n$ の増大とともに間隔が詰まってくる。$n$ の増大とともに、電子の軌道は大きくなり、エネルギーがトビトビという原子内の運動の特徴は失われていくではないか。これは定常状態を選び出すという量子条件の力が弱まることだと考えられる。その力が弱まったところに初期条件が登場して、量子条件に代わるのではないか。

この発想は $n \rightarrow \infty$ の極限でミクロの世界の物理が古典力学に滑らかに接続するという対応原理に発展していく。

さて、ボーアが考えた量子条件を導出しよう。ボーアは(4.4.2)式で表されるトビトビのエネルギーを電子が原子核を中心に等速円運動をする場合に当てはめてみた。
(4.4.2)式を(3.3.3)式に代入すると

a_n = \frac{A}{2(-E_n)}
= \frac{A}{2hcR}n^2
\tag{4.6.1}

となり、円軌道の半径が $n^2$ に比例することがわかる($n=1$ の場合の半径 $a_B\equiv a_1$ をボーア半径という)。

これを量子条件としてもよいのだが、ボーアは運動方程式に並ぶ自然法則を見出だしたいと考えていたのでもっと普遍的な形を求めた。そこで、角運動量 $L$ が中心力を受ける運動に対する保存量として普遍的な重要性をもつことから、さらに、量子の世界を特徴づけるプランク定数 $h$ が角運動量の次元 $\mathrm{M}\mathrm{L}^2\mathrm{T}^{-1}$ をもつことから角運動量に注目した。

円軌道の場合、離心率 $\varepsilon = 0$ なので、(3.3.4)式から角運動量 $L$ を求めると

L_n = \sqrt{mAa_n}

となり、これに(4.6.1)式を代入すると

L_n = \sqrt{mA\frac{A}{2hcR}n^2}
= \sqrt{\frac{1}{2}A^2\frac{m}{hcR}}\cdot n
\tag{4.6.2}

となり、角運動量は $n$ に比例し、その比例定数は

\sqrt{\frac{1}{2}A^2\frac{m}{hcR}}
= \sqrt{\frac{1}{2}\left(\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0}\right)^2\frac{m}{hcR}}
\tag{4.6.3}

となる。ここで、$A=\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0}$ を用いた。

比例定数(4.6.3)式はすべて自然定数(電気素量 $e=1.602177\times10^{-19}\mathrm{C}$、円周率 $\pi$、真空中の誘電率 $\epsilon_0=8.854188\times10^{-12}\mathrm{F}\cdot\mathrm{m}^{-1}$、電子の質量 $m=9.109384\times10^{-31}\mathrm{kg}$、光速度 $c=2.997925\times10^8\mathrm{m}\cdot\mathrm{s}^{-1}$, プランク定数 $h=6.626070\times10^{-34}\mathrm{m}^2\cdot\mathrm{kg}\cdot\mathrm{s}^{-1}$、そしてリュードベリ定数 $R=1.097373\times10^7\mathrm{m}^{-1}$)で表されるので、それらを代入して計算すると

(4.6.3)式 = 1.05458\times10^{-34}\mathrm{kg}\cdot\mathrm{m}^2\cdot\mathrm{s}^{-1}

を得る。
この値は

\hbar = \frac{h}{2\pi} \equiv 1.054572\times10^{-34}\mathrm{kg}\cdot\mathrm{m}^2\cdot\mathrm{s}^{-1}
\tag{4.6.4}

によく一致している。
そこでボーアは、角運動量の大きさは

L_n = n\hbar \qquad(n = 1,2,\cdots)
\tag{4.6.5}

に限られるということを自然法則とみなし、量子条件として採用した。

(4.6.2)式から(4.6.4)式の導出は決して自明ではなく、ボーアの天才的な洞察力を見る思いである。

(4.6.3)式と(4.6.4)式を等しいとおき

\sqrt{\frac{1}{2}\left(\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0}\right)^2\frac{m}{hcR}} = \hbar

から $R$ を求めると

R = \frac{1}{4\pi} \left(\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0}\right)^2 \frac{m}{c\hbar^{3}}
\tag{4.6.6}

となる。これで、リュードベリ定数、すなわち、水素原子の電子の取り得るエネルギー(エネルギー準位)が自然定数のみで表された。素晴らしい!

(4.6.1)式に(4.6.6)式を代入すると、$A=\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0}$ を考慮すれば

\begin{equation}\begin{split}
a_n &= \frac{A}{2hcR} n^2 \\
&= \frac{A}{2hc\frac{1}{4\pi} A^2 \frac{m}{c\hbar^3}}n^2 \\
&= \frac{\hbar^2}{mA} n^2 \\
&= \frac{4\pi\epsilon_0}{e^2}\frac{\hbar^2}{m} n^2
\end{split}\end{equation}
\tag{4.6.7}

となる。

(4.6.5)式を用いると(4.6.7)式は $$a_n = \frac{{L_n}^2}{mA}$$ となる。一方、(3.3.4)式は $$a = \frac{1}{1-\varepsilon^2}\frac{L^2}{mA}$$ となり、ファクター $\frac{1}{1-\varepsilon^2}$ の分だけ余分である。これは一体どうしたことであろうか?いやいや案ずることはない。そもそも(4.6.5)式は円軌道の場合(離心率 $\varepsilon=0$)に成立する角運動量であった。楕円軌道の角運動量 $L$ は(4.6.5)式の導出過程から察するに $$L = \sqrt{1-\varepsilon^2}n\hbar = \sqrt{1-\varepsilon^2}L_n$$ になると思われ、これを使えば $L_n = \frac{L}{\sqrt{1-\varepsilon^2}}$ であるから $$a_n = \frac{{L_n}^2}{mA} \rightarrow a = \frac{1}{1-\varepsilon^2}\frac{L^2}{mA}$$ となり、(3.3.4)式を再現できる。これは、楕円軌道の軌道角運動量 $L$ は円軌道時の軌道角運動量 $L_n = n\hbar$ よりも小さいことを意味する。

また、エネルギー順位の(4.4.2)式に(4.6.6)式で求めたリュードベリ定数 $R$ を代入すれば

E_n = -\frac{hcR}{n^2}
= -\frac{hc}{n^2} \cdot \frac{1}{4\pi} \left(\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0}\right)^2 \frac{m}{c\hbar^{3}}
= - \left(\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0}\right)^2 \frac{m}{2 \hbar^2}\cdot\frac{1}{n^2}
\tag{4.6.8}

となる。

(4.6.7)式の $a_n$ と(4.6.8)式の $E_n$ の関係は、(4.6.1)式から

E_n = - A \frac{1}{2 a_n} = - \left(\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0}\right) \frac{1}{2 a_n}
\tag{4.6.9}

であることが分かる。


ミクロの世界では初期条件に代わって量子条件が軌道の候補を決定することに関連して、不確定性原理との関連にも言及しておきたい。不確定性原理は、ボーアが原子モデルを考察していた時期よりもかなり後になってハイゼンベルクが発見したものであるが、これによれば位置 $r$ と運動量 $p$ は同時に決定できない。$\Delta r \cdot \Delta p \ge \frac{1}{2}\hbar$ という不確定性があるというものである。この不確定性のためにミクロの世界では初期条件を厳密に与えることができない。ミクロの世界では、初期条件ではなく量子条件が軌道の候補の選び出しの条件となるのは、この不確定性原理の現れであるのかもしれない。

4.7 ド・ブロイの量子条件

前節で見たように、ボーアは水素原子の発光スペクトルを説明するバルマー系列などの経験則とクーロン力を受けて原子核のまわりを周回する電子という水素原子の古典的な惑星モデルを組み合わせて軌道角運動量はプランク定数 $\hbar$ の整数倍でなければならないという量子条件を見出だした。この制約によって水素原子核をまわる電子には定常状態がもたらされた。

一方、ド・ブロイは、光が波長 $\lambda$ と角振動数 $\omega$ をもって干渉するという波動性を示す一方、実験条件によっては、コンプトン効果におけるように、運動量 $p=\frac{2\pi\hbar}{\lambda}$、エネルギー $E = \hbar\omega$ の塊として振舞うことから、電子もまた波動性を示すのではないかと考えた。

実際、電子が半径 $a$ で速さが $v$ の等速円運動をしているなら、遠心力とクーロン力の釣り合いの式から

\frac{mv^2}{a} = \frac{e^2}{4\pi\epsilon_0}\frac{1}{a^2}
\tag{4.7.1}

が成り立ち、これから電子の運動量は

p = mv = m \sqrt{\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0}\frac{1}{ma}}
= \left( \frac{e^2}{4\pi\epsilon_0}\frac{m}{a} \right)^{1/2}
\tag{4.7.2}

と求めることができ、これを使うと、半径 $a$ の円軌道上に電子波の波長 $\lambda = 2\pi\hbar/p$ は

\begin{equation}\begin{split}
\frac{2\pi a}{\lambda} &= \frac{2\pi a}{2\pi\hbar/p} = \frac{ap}{\hbar}
= \frac{a}{\hbar} \left( \frac{e^2}{4\pi\epsilon_0}\frac{m}{a} \right)^{1/2} \\
&= \left( \frac{e^2}{4\pi\epsilon_0}\frac{m}{\hbar^2} a \right)^{1/2}
\end{split}\end{equation}
\tag{4.7.3}

個できることになる。
(4.7.3)式の $a$ に(4.6.7)式で求めた水素原子の半径 $a_n$ を代入すると

\left( \frac{e^2}{4\pi\epsilon_0}\frac{m}{\hbar^2} a_n \right)^{1/2}
= \left( \frac{e^2}{4\pi\epsilon_0}\frac{m}{\hbar^2} \cdot \frac{4\pi\epsilon_0}{e^2}\frac{\hbar^2}{m} n^2 \right)^{1/2} = n

となり、電子の軌道の上に波長の整数倍の定常波がのる ということが示せた。これをド・ブロイの量子条件といい、ボーアの量子条件(4.6.5)式と等価なものである。

(4.7.3)式は、電子が円軌道の場合について考えたが、これを楕円軌道に適用すると

\oint \frac{ds}{\lambda} = n \qquad (n=1,2,\cdots)
\tag{4.7.4}

となる。両辺に $2\pi\hbar$ をかけて、$p = \frac{2\pi\hbar}{\lambda}$ を使えば、これは

\oint p ds = (2\pi\hbar)n \qquad (n=1,2,\cdots)
\tag{4.7.5}

となる。これは、運動量 $p$ と軌道素片 $ds$ を掛けたものを軌道に沿って1周積分したものがプランク定数の整数倍になると主張している。

Fig2.jpg
Fig.2 軌道素片 $ds$ と電子の角運動量の大きさ $r\cdot p \sin\theta$

Fig.2より

\frac{r d\theta}{ds} = \sin \varphi

であるから、軌道素片は

ds = \frac{1}{\sin\varphi} r d\theta

のように表すことができる。
また、動径 $r$ と運動量 $p$ のなす角は $\varphi + d\theta \thickapprox \varphi$ なので、電子の角運動量の大きさ $L$ は

L = |\boldsymbol{r}\times\boldsymbol{p}| = r\cdot p \sin\varphi

と表すことができる。この式から $\sin\varphi = \frac{L}{rp}$ が得られ、これを軌道素片の式に代入すると

ds =  \frac{r^2p}{L} d\theta

が得られるので、ド・ブロイの量子条件である(4.7.4)式は

\oint pds = \int_0^{2\pi} \frac{p^2 r^2}{L} d\theta = 2\pi\hbar n
\tag{4.7.6}

になる。

エネルギーの保存則である(2.2.5)式は、運動量 $p = mv$ と $A = \frac{e^2}{4\pi\epsilon_0}$ を使えば

\frac{1}{2m} p^2 - \frac{e^2}{4\pi\epsilon_0}\frac{1}{r} = E
\tag{4.7.7}

となるが、これを $p^2$ について解くと

p^2 = 2m \left(E + \frac{e^2}{4\pi\epsilon_0}\frac{1}{r} \right)

が得られるので、これを(4.7.6)式に代入すると

\begin{equation}\begin{split}
\int_0^{2\pi} \frac{p^2 r^2}{L}d\theta &=
\frac{2m}{L}\int_0^{2\pi} \left(E + \frac{e^2}{4\pi\epsilon_0}\frac{1}{r} \right) r^2 d\theta \\
&= \frac{2m}{L}  \left( E \int_0^{2\pi} r^2 d\theta + \frac{e^2}{4\pi\epsilon_0} \int_0^{2\pi} r d\theta \right) \\
&= 2\pi\hbar n
\end{split}\end{equation}
\tag{4.7.8}

となる。

(3.2.7)式より

r = \frac{\kappa}{1 + \varepsilon \cos\theta}

であるから、

\begin{equation}\begin{split}
J_1 &\equiv \int_0^{2\pi} r d\theta = \kappa \int_0^{2\pi} \frac{d\theta}{1 + \varepsilon \cos\theta} \\
J_2 &\equiv \int_0^{2\pi} r^2 d\theta = \kappa^2 \int_0^{2\pi} \frac{d\theta}{(1 + \varepsilon \cos\theta)^2} \\
\end{split}\end{equation}
\tag{4.7.9}

となる。この定積分を計算して(4.7.8)式に代入すればよい。
すなわち

\frac{2m}{L}  \left( E J_2 + \frac{e^2}{4\pi\epsilon_0} J_1 \right) = 2\pi\hbar n
\tag{4.7.10}

が求める関係式である。

(4.7.9)式のような $\cos\theta$ を含む有理式の定積分を計算するには、一般に

\tan\frac{\theta}{2} = t

なる変数変換を行なえばよい。
両辺を微分すると

\frac{d\theta}{2} \sec^2\frac{\theta}{2}  = dt

となるが、

\sec^2\frac{\theta}{2} = 1 + \tan^2\frac{\theta}{2} = 1 + t^2

を用いると、

d\theta = \frac{2dt}{\sec^2\frac{\theta}{2}} = \frac{2dt}{1 + t^2}
\tag{4.7.11}

という関係式が得られる。
さらに、三角関数の公式から

\begin{equation}\begin{split}
\cos\theta &= \cos^2\frac{\theta}{2} - \sin^2\frac{\theta}{2} \\
&= \cos^2\frac{\theta}{2}(1 - \tan^2\frac{\theta}{2}) \\
&= \frac{1 - \tan^2\frac{\theta}{2}}{\sec^2\frac{\theta}{2}} \\
&= \frac{1 - t^2}{1 + t^2}
\end{split}\end{equation}
\tag{4.7.12}

が導かれる。

(4.7.11)式、(4.7.12)式を(4.7.9)式に代入すると

\begin{equation}\begin{split}
J_1 &= \kappa \int_0^{2\pi} \frac{d\theta}{1 + \varepsilon \cos\theta} 
= 2 \kappa \int_0^{\pi} \frac{d\theta}{1 + \varepsilon \cos\theta} \\
&= 2 \kappa \int_0^{\infty} \frac{\frac{2dt}{1 + t^2}}{1 + \varepsilon \frac{1 - t^2}{1 + t^2}} 
= 2 \kappa \int_0^{\infty} \frac{2dt}{1 + t^2 + \varepsilon (1 - t^2)} \\
&= 2 \kappa \int_0^{\infty} \frac{2dt}{1 + \varepsilon + (1 - \varepsilon) t^2} 
= \frac{4 \kappa}{1 - \varepsilon} \int_0^{\infty} \frac{dt}{\frac{1 + \varepsilon}{1 - \varepsilon} + t^2} \\


J_2 &= \kappa^2 \int_0^{2\pi} \frac{d\theta}{(1 + \varepsilon \cos\theta)^2} 
= 2 \kappa^2 \int_0^{\pi} \frac{d\theta}{(1 + \varepsilon \cos\theta)^2} \\
&= 2 \kappa^2 \int_0^{\pi} \frac{\frac{2dt}{1 + t^2}}{\left(1 + \varepsilon \frac{1 - t^2}{1 + t^2}\right)^2} 
= 2 \kappa^2 \int_0^{\infty} \frac{2(1 + t^2)dt}{\lbrace 1 + t^2 + \varepsilon (1 - t^2)\rbrace^2} \\
&= 2 \kappa^2 \int_0^{\infty} \frac{2(1 + t^2)dt}{\lbrace 1 + \varepsilon + (1 - \varepsilon) t^2\rbrace^2} 
= \frac{4 \kappa^2}{(1 - \varepsilon)^2} \int_0^{\infty} \frac{(1 + t^2)dt}{\left( \frac{1 + \varepsilon}{1 - \varepsilon} + t^2\right)^2} \\

\end{split}\end{equation}
\tag{4.7.13}

となる。ここで、$\cos\theta$ は $\theta=\pi$ に関して対称で、$\theta=0\sim\pi$ のとき $t = \tan\frac{\theta}{2}=0\sim\infty$ であることを利用した。

次に、

t = \sqrt{\frac{1+\varepsilon}{1-\varepsilon}}\tan\phi

という変数変換を導入する。
両辺を微分すると

dt = \sqrt{\frac{1+\varepsilon}{1-\varepsilon}}\sec^2\phi d\phi

なので、これらを(4.7.13)式に代入すると、$t$ が $0$ から $\infty$ に変化するとき $\phi$ は $0$ から $\frac{\pi}{2}$ に変化することを考えると

\begin{equation}\begin{split}
J_1 &= \frac{4 \kappa}{1 - \varepsilon} \int_0^{\frac{\pi}{2}} \frac{\sqrt{\frac{1+\varepsilon}{1-\varepsilon}}\sec^2\phi d\phi}{\frac{1 + \varepsilon}{1 - \varepsilon} + \frac{1 + \varepsilon}{1 - \varepsilon}\tan^2\phi} \\
&= \frac{4 \kappa}{1 + \varepsilon} \sqrt{\frac{1+\varepsilon}{1-\varepsilon}} \int_0^{\frac{\pi}{2}} \frac{\sec^2\phi d\phi}{1 + \tan^2\phi} \\
&= \frac{4 \kappa}{\sqrt{1 - \varepsilon^2}} \int_0^{\frac{\pi}{2}} d\phi \\
&= \frac{2 \pi \kappa}{(1 - \varepsilon^2)^{\frac{1}{2}}} \\

J_2 &= \frac{4 \kappa^2}{(1 - \varepsilon)^2} \int_0^{\frac{\pi}{2}} \frac{\left(1 + \frac{1 + \varepsilon}{1 - \varepsilon} \tan^2\phi\right)\sqrt{\frac{1+\varepsilon}{1-\varepsilon}}\sec^2\phi d\phi}{\left( \frac{1 + \varepsilon}{1 - \varepsilon} + \frac{1 + \varepsilon}{1 - \varepsilon} \tan^2\phi \right)^2} \\
&= \frac{4 \kappa^2}{(1 + \varepsilon)^2} \sqrt{\frac{1+\varepsilon}{1-\varepsilon}} \int_0^{\frac{\pi}{2}} \frac{\left(1 + \frac{1 + \varepsilon}{1 - \varepsilon} \tan^2\phi\right) \sec^2\phi d\phi}{\left( 1 + \tan^2\phi \right)^2} \\
&= \frac{4 \kappa^2}{(1 + \varepsilon)\sqrt{1 - \varepsilon^2}} \int_0^{\frac{\pi}{2}} \frac{\left( 1 + \frac{1 + \varepsilon}{1 - \varepsilon} \tan^2\phi\right) d\phi}{\sec^2\phi} \\
&= \frac{4 \kappa^2}{(1 - \varepsilon^2)\sqrt{1 - \varepsilon^2}} \int_0^{\frac{\pi}{2}} \frac{\left[ 1 - \varepsilon + (1 + \varepsilon) \tan^2\phi\right] d\phi}{\sec^2\phi} \\
&= \frac{4 \kappa^2}{(1 - \varepsilon^2)^{\frac{3}{2}}} \int_0^{\frac{\pi}{2}} \left[ (1 - \varepsilon)\cos^2\phi + (1 + \varepsilon) \sin^2\phi \right] d\phi \\
&= \frac{4 \kappa^2}{(1 - \varepsilon^2)^{\frac{3}{2}}} \int_0^{\frac{\pi}{2}} \left[ \cos^2\phi + \sin^2\phi - \varepsilon(\cos^2\phi - \sin^2\phi) \right] d\phi \\
&= \frac{4 \kappa^2}{(1 - \varepsilon^2)^{\frac{3}{2}}} \int_0^{\frac{\pi}{2}} \left( 1 - \varepsilon\cos 2\phi \right) d\phi \\
&= \frac{4 \kappa^2}{(1 - \varepsilon^2)^{\frac{3}{2}}} \left| \phi - \frac{\varepsilon}{2}\sin 2\phi \right|_{0}^{\frac{\pi}{2}} \\
&= \frac{2 \pi \kappa^2}{(1 - \varepsilon^2)^{\frac{3}{2}}}

\end{split}\end{equation}
\tag{4.7.14}

(4.7.10)式に(4.7.14)式で求めた $J_1, J_2$ を代入すると

\frac{2m}{L}  \left[ E \frac{2 \pi \kappa^2}{(1 - \varepsilon^2)^{\frac{3}{2}}} + \frac{e^2}{4\pi\epsilon_0} \frac{2 \pi \kappa}{(1 - \varepsilon^2)^{\frac{1}{2}}} \right] = 2\pi\hbar n

となるが、これを整理すると

\frac{2m}{L} \frac{\kappa}{\sqrt{1 - \varepsilon^2}}  \left[ \frac{E \kappa}{1 - \varepsilon^2} + \frac{e^2}{4\pi\epsilon_0} \right] = \hbar n
\tag{4.7.15}

を得る。

(3.2.2)式より

\begin{equation}\begin{split}
\kappa &= \frac{L^2}{mA} = \frac{4\pi\epsilon_0}{e^2}\frac{L^2}{m}\\
1 - \varepsilon^2 &= - \frac{2L^2}{mA^2}E = - \left( \frac{4\pi\epsilon_0}{e^2} \right)^2 \frac{2L^2}{m}E
\end{split}\end{equation}

だから、これを(4.7.15)式に代入すると

\frac{2m}{L} \frac{\frac{L^2}{mA}}{\sqrt{- \frac{2L^2}{mA^2}E}}  \left[ \frac{E \frac{L^2}{mA}}{- \frac{2L^2}{mA^2}E} + \frac{e^2}{4\pi\epsilon_0} \right] = \hbar n

となり、整理すると

\frac{2L}{A} \left( - \frac{1}{2}A + \frac{e^2}{4\pi\epsilon_0} \right)
= \hbar n \sqrt{- \frac{2L^2}{mA^2}E}

となり、$A = \frac{e^2}{4\pi\epsilon_0}$ を考慮すると

L = \hbar n \sqrt{- \frac{2L^2}{mA^2}E}

となり、辺々二乗すると

L^2 = - \frac{2L^2}{mA^2}E (\hbar n)^2

が得られ、これを $E$ について解けば

E = - \frac{m A^2}{2}\cdot\frac{1}{(\hbar n)^2}
= - \left(\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0}\right)^2 \frac{m}{2\hbar^2}\cdot\frac{1}{n^2}
\tag{4.7.16}

となり、(4.6.8)式が再現できた。

こうして角運動量の大きさはプランク定数 $\hbar$ の整数倍になるというボーアの量子条件(4.6.5)式と電子の軌道の上に波長の整数倍の定常波がのるというド・ブロイの量子条件(4.7.4)式は等価であることが示された。

4.8 まとめ

ミクロの世界では古典力学が通用しないとよく言われるが、通用しないというよりも限定されるといった方が適切であるように思えた。つまり、原子内での電子の軌道の候補は相変わらず古典力学によって定められ、数ある候補の中から実際に選択される軌道が、位置と運動量によって与えられる初期条件ではなく、量子条件によって決まってくるというのが量子論である。

その量子条件は、ボーアの洞察力によって、角運動量がプランク定数 $\hbar$ の整数倍になると導かれた。すなわち角運動量は自然にとって本質的なものであって、連続的ではあり得ず、プランク定数 $\hbar$ という最小の塊が存在するということである。不連続なのはエネルギーではなく角運動量なのだ。

この点で私はこれまで明確に理解できていなかった。光電効果などでは、光の塊は $E = h\nu$ という不連続なエネルギーを持つと説明されるが、振動数 $\nu$ は連続量足り得るのでそれにプランク定数 $h$ を乗じたエネルギーは決して不連続ではない。では、量子の特徴的な不連続性はどこにあるのか?それが角運動量にあったわけである。

しかし、ボーアが角運動量の離散性を導いた流れはトリッキーであった。角運動量を計算して、その値が $\hbar$ の整数倍によく似ているという理由で $L=\hbar n$ という量子条件を導いたのだから。私だったら絶対にその結論には至らなかっただろう。

それに比べてド・ブロイの量子条件は非常に明確で計算上のトリッキーな要素は一つもない。ただし、電子に波動性があるという発想があったればこその結論なので、その着想が凄い。電子の波動性など今でこそ何の違和感もない概念であるが、当時は誰も思いつかなかったし、発表しても誰にも相手にされなかったのだから。

角運動量の量子化というボーアの洞察力、電子の波動性というド・ブロイの着想、これらを礎にして、その後、ハイゼンベルクやシュレディンガーが量子力学を体系化していく。このダイナミックな流れを追わずして何の量子力学の醍醐味か!

参考文献

  1. 江沢洋・上條隆志:江沢洋選集Ⅲ「量子力学的世界像」. 日本評論社, 2019.
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