##はじめに
海外のデータにまつわる事例に目を向けてみると、2017年前後からデータガバナンスの事例報告が増えています。
その一方で、国内では2020年頃よりデータガバナンスに関するお客様からの問合せが増えています。
海外と日本のデータにまつわるトレンドには数年レベルのズレがあるとも聞きますし、LINE株式会社の個人情報保護に関するデータガバナンスのニュースが2021年に世間を賑わせたことからも、今、日本にデータガバナンスの波が来ているのを感じます。
そこで本日は、先日の記事「難しい言葉を使わずにデータマネジメントについて語ってみる」の続編として、難しい専門用語を使わずにデータガバナンスについて解説してみたいと思います。
##データガバナンスとは何か?
まず皆さんは、ガバナンスと聞いてどんな活動をイメージしますか?
統制、制約、ルール、監査など、なんとなく厳しい、セキュリティなどのような面倒くさいものをイメージされる方が多いのではないでしょうか。
ちなみに、データマネジメントのバイブルであるDMBOKの世界では、以下のように表現されてます。
(DAMA Japan : https://www.dama-japan.org/Introduction.html より引用)
データマネジメントの知識領域を定義する「DAMAホイール図」があり、その中心にデータガバナンスが配置されています。
データガバナンスは、データマネジメントの各要素を制御・統括する存在のように描かれています。
そこで私は、データガバナンスについて、以下のように伝えるようにしています。
データガバナンスとは、企業レベルで、データマネジメントされた(イイ感じの)状態を恒常的に維持していくこと
データガバナンスのゴールとは、「全社規模でデータからビジネス上の価値を恒常的に得続けること」
※データマネジメントされた状態がどういう状態かわからない方は、前回の記事をご参考いただければ幸いです。
この考え方は、データに関するガバナンスが必要ない例、について考えてみるとわかりやすいです。
例えば、多くの企業の中で既に、一部のデータサイエンティストやアナリストによるデータ分析が行われ、一定の価値を得ていると思います。
その中では、データの抽出やデータウェアハウスの利用、分析結果のアクセス権限コントロールなど、データマネジメントに分類される活動が小さくとも行われています。
しかし、これら活動の中でデータガバナンスが必ずしも必要かと言うと、そうではありません。
もし月次の役員報告に使用しているデータに問題があったとしても、データ連携を実装したエンジニアに電話するだけで解決できてしまいます。
また、内容がセンシティブなこの分析レポートをどこまでの人間が見ているのか、仮に役員が不安に思ったとしても数人に質問すれば把握はできてしまいます。
一部の人だけの部分的な活動においては、細かなルールや役割を決めて制御しなくても、関係者が少なく大抵の問題は簡単なコミュニケーションで解決できます。
従って、以下の活動においては、データガバナンスがあまり必要とされないのです。
(データガバナンスが必要のないケース)
企業内の一部の人又はチームで、データマネジメント活動を一過性のプロジェクトとして行うこと
一方、同じレベルの活動を全社規模、数百人又は数千人の関係者がいる中で実施した場合にはどうなるのでしょうか。
次の章では、とあるユースケースを通して、データガバナンスについて更に踏み込んで考えてみたいと思います。
##データガバナンスのユースケース「全社規模で恒常的にデータカタログ(メタデータ管理)に取り組む」
企業全体のデータ利活用を促進するために、全社規模でデータカタログを整備することに取り組みについて考えてみましょう。
データカタログは、企業内の誰もが分析に使いたい又は使われているデータについて、簡単に検索・理解することができるツールです。
しかし、この便利なデータカタログ、全社に展開して長期的に運用していくのは簡単ではありません。
以下のようなシステムに関するデータを説明するデータ(=メタデータ)のみであれば、データカタログツールが自動で整備をしてくれます。
Oracle上のHERMESデータベースにあるcustomerテーブルは、customer_idとfull_nameとgenderとphoneのデータを持ち、customer_idは11桁の文字列である。
しかし、実際に人々が使いたいのはこのようなカタログではありません。
データの業務用語や意味定義、活用例やノウハウなどのデータを説明するビジネス的なメタデータが登録されているカタログです。
これを実現するためには、ビジネスに関するメタデータを人が整備しなければならず、以下のような取り組みが必要です。
- ビジネス・メタデータを整備する組織を見つけ、整備を依頼する
- どのデータの何の種類のメタデータを整備することに役割を持ってもらうかを、定義し合意する
- どのようなタイミングでメタデータを更新するべきか、作業を実施するためのプロセスも定義する
但し、これだけで必要なビジネスメタデータが将来に渡り、イイ感じに整備されるかというとそうではありません。
役割をアサインされた人がこの整備作業を忘れてしまうかもしれないし、組織変更によってアサインされた人がいなくなる可能性もあります。
また、どれだけ便利なデータカタログが整備されていたとしても、そもそも使われなければ何の意味もありません。
そこで、データカタログの中身であるメタデータが継続的に維持され、且つ、利活用を促進するような仕組みが必要です。
そのためには、追加で以下の取り組みも必要でしょう。
- 組織横断的にメタデータの登録運用に問題が発生してないかの役割を持った組織を新たに組閣する
- 誰かが陳腐化したメタデータを発見した時に問題報告するためのプロセスも整備する
- データカタログのLOBやデータサイエンティストのいる部門の人たちにデータカタログの研修を行ったりするような、データカタログの利活用推進とリテラシーを向上する活動を実施する
これらの活動が、メタデータ管理(データカタログ)を全社規模で恒常的な取り組みとするためのデータガバナンスの活動です。
データガバナンス課題と施策まとめ
以上のユースケースのように、何かしらのデータマネジメント活動を全社規模で恒常的な取り組みにしようとした場合、以下のデータガバナンスの取り組みが必要となります。
- データ利活用推進とリテラシー
- データ組織と役割
具体的にどのようなデータマネジメント活動が関係するかというと、DMBOKをもう少し大きなレベルでカテゴライズした以下の課題例が参考になります。
この薄オレンジ色のデータマネジメントの活動のいずれかに取り組む場合、データガバナンスをセットで取り組んでいく必要があると言えるでしょう。
まとめ
以上が、データガバナンスとして行われるべき活動の概要となります。
なるべく平易な言葉や例で説明してみましたが、何となくイメージできましたでしょうか。
今、あらゆる業種のあらゆる企業が、DXと言う名のもとに、データドリブンなビジネス変革に取り組んでいるかと思います。
その取り組みの全てが、一部の人の一過性の取り組みではなく、全社をあげて将来に渡って恒常的に取り組んでいくデータガバナンスの取り組みと言えます。
また、データガバナンスとはデータ利活用にまつわる企業全体の文化を変えていく活動とも言えます。
そのため、せっかくならば、多くの人が前向きにデータガバナンスに取り組んでいただければ嬉しいと私は思っています。
今回の記事が、そのようなポジティブなデータガバナンスに取り組むきっかけとなれば幸いです。
(おまけ)データガバナンスソリューションと名言集
データガバナンスの連載シリーズとして、残りのAdvent Calendarでデータガバナンスソリューションと、各事例で耳にしたデータガバナンス名言集をご紹介していきたいと思っています。
(インフォマティカのデータガバナンスソリューション、Axon)
これらの記事も、この後にセットで読んでいただければ幸いです。