この記事は
株式会社パソナのとある本部で行われたアイデア選手権に参加した私の記録です。
普通のアイデアソンとはちょっと違う選手権で、得られることがとても多かったのでまとめてみました。
選手権の概要
- 本部の中の事業部を紅組と白組に分けての対抗戦
- スケジュールは下記の通り
- 9月中旬:アイデア申し込み開始
- 9月下旬~10月初旬:1次審査(書類審査)
- 10月下旬:2次審査(事業部長へのプレゼン)
- 11月:アイデアブラッシュアップ期間
- 12月上旬:最終審査(経営層へのプレゼン)
- 12月中旬:表彰式
一般的なアイデアソンだと1〜数日で結果が出ますが、なんと3ヶ月に渡るガチっぷり。
さらに優秀なアイデアは事業化を検討ということで、「ビジネスになりうるか」という観点が非常に重要となる選手権でした。
紅白組それぞれ所属のメンバーが各審査を通過する事にポイントが加算され、最終的に総合優勝が決まります。
また、個別に最優秀賞、優秀賞、特別賞が用意されています。
※この記事を書いている12/13日現在は表彰式の前で、まだ結果はでておりません。
今回、運営の想像を超える303件のアイデアが一次審査に集まったとのこと。
そのうち21件が二次審査に挑み、最終審査には7件が残りました。
アイデアは1人で出しても良く、グループを組んでまとめても良いのですが、プレゼン発表は1人で行いうというルールでした。
参加しようと思った理由(モチベーション)
これに関しては、いくつも理由がありました。
1. 単純に新しいアイデアが好き
やはり好きじゃないものに努力は出来ないですよね。何か困っていることがあって、「あ!これを組み合わせれば解決できるかも!」と思いつく瞬間が好きです。もともとこうした企画が立ち上がる前から、日常的にアイデアをSlackに書き溜めていましたが、ここ最近は忙しさにかまけてほとんど考えられていなかったので、思い切って参加してみました。
2. 知名度を上げねばならない(切実)
社内外向けの勉強会を開催している身として、社内の様々な人に協力を求めなければいけない立場です。何しろ人が多いので、本部の中も面識のない方ばかり。名刺代わりに「あ、あの選手権の人!」と言ってもらえるようになったら良いなと思いました。
3. もっとビジネス視点に触れたい
アイデアを考えるのが好きではあるのですが、それが世に出るということはビジネス的に成功するかという点で勝算がないといけません。私はそういう視点に欠けていると以前から思っていたので、学ぶ良いきっかけになるかなと考えました。
4. 運営が頑張っていたので
どんな企画・イベントでも運営の好感度って重要だと思います。この企画は事業部を紅白に分けることで競争心を刺激したり、応援団を結成したりと、とても良く考えられているなと思いました。
※私自身、競争心は、ちゃ〜んと刺激されました。
また、運営の告知をしているのが若手のエンジニアさんたちだったりで、こうした若手の頑張りを無視する組織に未来は無いよなと思い、応援したくなったわけであります。
5. 盛り上げ役が必要と思った
私と同じグループに、三度の飯よりハッカソンやアイデアソンが好き、という同僚がいます。この方はエンジニアの発信や勉強会にも積極的で、もともとこのアドベントカレンダーの参加も、彼女がぐいぐい引っ張ってくれていました。
その方はただいま産休・育休中ということで。「あの人がいなくなった途端、なんか盛り上がらなくなったよね」と言われるのは癪なので、その分盛り上げないとなぁという思いもあったりもしました。
結果として、想像以上に応募が集まったことを考えると余計なお世話だったかなという気もしますが、たぶん一参加者の私でも盛り上げたいなと積極的になれた雰囲気こそが、この企画の成功のポイントだったのかなという気がしています。
勉強会というイベントを開催する身としては見習うことばかりです。
目標
最終審査に、俺は残る!
実は3年前にも名前は異なりますが同じような社内のアイデア選手権がありまして、その時は2案出して1案は2次審査に、もう1案は最終審査の3件に残ったことがありました。
今回も私のモチベーションとしては全て最終審査に残れば満たされるので、それ以上は求めていません(今も)。
正直、事業化と言われると逆にプレッシャーというか…今の仕事も好きなんだけど、どうなっちゃうの?という気もしてきます。
と、まだ挑む前からそんな不遜なことを考えていたわけですが、とりあえず自分で決めて動いたあとに起きたことはたいていどうにかなるから、とりあえず飛び込んでみよう精神で突き進むことに。
やるからには全力でやります。
戦略
とりあえず、10案出してみる
最初に10案だ!と決めました。その時点でイメージが湧いていたのは4案程度でしたが、ギリギリ10個は出せそうだなと思いました。
経験則として、「いいなこれ!」と思った1つのアイデアだけで勝負しようとすると、何か致命的な欠点があっても、そのアイデアに固執しがちです。せっかく良いものが見つかったので、捨てたくないんですよね。
その点、たくさんアイデアを用意すると、それぞれのアイデアの良さや欠点が客観的に見えるようになってきます。ある日「最高じゃん!」と思ったアイデアが、あらためて見直すと「あれ?そうでもないな」ということはよくあると思いますが、そうした時に武器が1つだけだと辛いですよね。
アイデアをいったいいくつ用意すればいいかというと、「これくらいまでは出せそうだな」のさらにもうちょっと上のギリギリを目標にすると良いと思います。
これも経験則ですが、なんとなく既に頭に浮かんでいるものというのは最高のアイデアではなくて、もう何もでないぞ…となってからひねり出したアイデアが実は一番自分に刺さったりします。
実際、私の10案も8案まではなんとか出して、残りの2案は提出締切ギリギリに考えついたものでした。この2案はどちらもとても気に入っていて、そのうちの1つが最終審査に残りました。
この考え方は「アイデア100本ノック」と似ているかと思います。自分のアイデアが枯渇してから、想像していなかったアイデアが出てくるという点は大いに参考にさせてもらいましたが、100本という数字に固執すると、アイデアの枝葉末節だけすり替えて数を稼ぐという本末転倒なことが起きてしまいがち。
なので私は、「狙いやテーマが異なる自信の持てるものを10本」と決めました。
1人でやる
3年前の選手権では、1次審査突破後に、同僚(グループ内の複数人)に協力してもらい資料をまとめました。
1次審査は純粋なアイデア勝負ですが、2次審査ではビジネスモデルやマネタイズを考える必要があります。
…ビジネスモデルやマネタイズが得意なエンジニアっているのででしょうか。
少なくとも私は、右も左もわからない状態で不安だらけだったこともあり、仲間に頼ってしまいました。
結果としてその案が最終審査に残ったので、成功事例と言えるのかもしれませんが。やはりノウハウが無いと上手く舵取りも出来ません。同僚の貴重な時間をたくさん使ってしまったことが後悔として残っています。
そんなわけで、今回は最後まで1人でやると決めていました。その方が自分の進め方には合っているなと。
グループを組んで最終審査まで残った人たちは本当に凄いな、大変だったろうなと思います。
ただ、やはりビジネスモデルやマネタイズ部分は考え方が正しいか確認したい部分もあり、今回は2次審査の前後に営業さんからのアドバイスをいただきました。後で書きますが、ここでのやり取りが本当に大きな財産だったと思います。
1次審査 〜気楽な時間でした〜
1次審査は、アンケートフォームにアイデアを記載して提出という簡単なもの。ただアイデアを出すだけなので気楽だったし、楽しい時間でした。
基本的には実現可能と思われるアイデアを出すわけですが、実際実現に向けて細かく調べてみたら無理でした、なんてこともあるかもしれませんよね。
でも、「アイデア」ですから。運営からも「面白いアイデア大歓迎!」って言われていたので、いいですよね。多少難しいことがあっても。いざとなったら「やっぱ細かく調べたら出来ませんでしたので辞退します」と言えばいいんじゃないかな。業務じゃないですしね。
くらいに考えていました。
(2次、最終と残っていくにつれ、いまさら「出来ません」とは言えない空気なんじゃないかという気がしてきて…結局実現可能性はかなり調べましたが)
こんな案を出しました
この時に提出した10案をざっくりとジャンル分けすると、下記のとおりです。
- 会見・スピーチの際の炎上対策
- SNSの誹謗中傷対策
- 企業内のパワハラ対策
- 空の交通インフラを見据えてのドローンサービス
- 小中学生の登下校時の安全確保
- 企業内の知識・ノウハウのマッチング
- 災害時、従業員の位置情報確認サービス
- 屋内の震災対策をAIで判定
- 災害救助に関するサービス
- 知的財産権の取得・管理サービス
これは思いついた順、提出順になります。
基本的に、自分が興味のある社会課題がベースですが、いくつか個別のテーマを持たせています。
こうやって並べると真面目な印象ですが、ちょっと緩いアイデアにしているものもあります。
例えば1つめの炎上対策ですが、登壇者はどんな発言が炎上するのか学ばないといけないという観点から、会見時に炎上しそうな発言があれば椅子に電流が流れるというですね。
まあこれが通るわけはないと思いつつ、会見がyoutubeでLIVE配信されたりエンタメ化している昨今、もっとエンタメに振りきっちゃえばいいんじゃないかと。失言した人間がビリビリ痛がってたら、そんなに怒る気にならなくないですか?という、ちょっと深い?狙いもあります。
あとは、今すぐ実現できそうな実用的なアイデア、AIを用いたアイデアが多いであろうことから、あえてAIを用いないアイデアとか。
それから、基本的には事業化出来るかという視点が重視されるであろうことからこれも通らないと思っていましたが、「本当に貴重なアイデアというものは、社会の1歩先、2歩先を読まないといけないんじゃないか」というテーマを設定したのが4番です。これは「空飛ぶクルマ」などの空の交通インフラが主流になると想定したうえでのアイデアで、実現性はかなり低いとは思いつつ近未来のことを考えるのは楽しい時間でした。
社会課題という点では、災害対策は絶対に目を背けられないことなので複数案出しています。それと同じくらい深刻な課題がSNSを元とする誹謗中傷や炎上だと思っていて、年々、オリンピックでも応援よりも中傷のニュースが多くなっていたり、ちょっと限界を超えていると思っています。ITの力でなんとかならないものかとずっと考えているので、これらの案が通らなかったのは少し残念ではありました(が、やはり今思うとそれほど良いアイデアではなかったなと)。
また、周囲と同じようなインプットしかない場合、同じようなアイデアが生まれがちです。独自性のあるアイデアは自分の専門分野だったり、趣味などから出てくることが多いので、私も仕事でよく触れる位置情報系の案も出しました。
長年音楽を続けていたこともあり、楽譜や演奏の権利関係を考えることが多かったため、知的財産権にまつわるアイデアも出したりしています。
10案出して見えてきたもの
こうやって10案を並べてみると、それぞれの特徴が見えてきます。このうちどの案が通るかで、審査員が何を評価したのかがわかるわけですね。これが1案とか2案じゃハッキリとはわかりません。
評価ポイントがわかれば、そこを強みとしてブラッシュアップすることが出来ます。評価ポイント(直接言われたわけではないので仮定ではありますが)はその後も重要な軸となったので、この作戦は大成功だったと思います。
2次審査 〜急激に難易度が〜
どのアイデアが通ったかは、今後の展開があるので伏せさせていただきますが、無事に1案通りました。
評価ポイントを想像するに、
- 社会課題の解決というテーマの王道。誰が見ても社会課題の解決につながるアイデア
- マネタイズもある程度考えやすそう
- 既存の技術を使いつつ、アイデアは斬新
というところかと思います。
2次審査からは急激に難易度が上がります。リーンキャンバスというフレームワークを使ってビジネスモデルを可視化したうえで、どうやってマネタイズするか、市場規模はどのくらいかまで想定します。
この時点で、「騙された!もっとライトなイベントだと思っていたのに!」と思った人が多いのではないでしょうか。普段のエンジニア業務で市場規模とかを考えることはあまりありません。。
とはいえ、私は3年前に苦しんだ経験があるので。現実的なアイデアについては、だいたいどうやってマネタイズすればいいか当たりはつけていたため、思っていたよりスラスラ書けました。やはり経験が一番成長させてくれますね。
結構、ここは落とし穴だと思うのですが、そもそもマネタイズが難しいアイデアは、どんなに頑張っても納得感のあるマネタイズが出来なかったりします。特にtoC向けの場合、一般ユーザーが「お金を出してでもほしい!」と思えるサービスである必要があり、これはアイデア1つで勝負するのはかなり難しいんじゃないかと考えています。
なぜなら、
- 斬新なアイデアのサービスは、それをユーザーに理解してもらうのが大変
- ユーザーにわかりやすいアイデアは既に競合がある
- 競合と勝負するには、アイデアも大事だけど品質やユーザビリティも大事…
となってくると、少なくともアイデアの良し悪しが問われる選手権では「絶対にいける!」という見せ方は難しいですよね。
なので、マネタイズを問われない1次審査の時からしっかり考えておかないと詰んでしまうこともあるわけです。
営業とエンジニアのアイデアの出し方の違い
2次審査の前後で、営業の方にマネタイズの部分を中心に意見をもらったりしました。
そこで一番興味深かったのは、「このアイデアが課題を持つ人の魔法の杖になりうるか」という問いです。
ビジネスでは「魔法の杖質問」という考え方があって、「もし魔法の杖があるとしたら、何を変えたいですか(どう未充足を満たしたいですか)?」という問いから、クライアントの本当の課題を導き出すという手法です。
なるほど、そりゃビジネス目線で考えたら、クライアントの課題にダイレクトにぶつかることが最重要ですよね。
この営業のアイデアの出し方は、エンジニアのアイデアとは根本的に異なるということに気づきました。
※「営業」「エンジニア」と大きな言葉になってしまっていますが、もちろんいろんなアイデアの出し方はあると思います。
「魔法の杖」を営業のアイデアの出し方とすると、課題解決という点は絶対にブレない一方で、解決できるアイデアは、実績のあるアイデアをいかに使うかという方向になるのではないかと思います。斬新なアイデアというのは生まれづらいだろうなと。
一方で、エンジニアは(アンテナを張っていれば)最新の技術の近いところにいます。それはまだ社会でどのように実用化されるのか定まっていないものも。だからこそ、斬新なアイデアが生まれやすいだろうと思います。ただし、それは斬新だからこそ、誰のどんな課題解決になるのか未知数だったりします。
どちらも一長一短あるからこそ、双方の視点でアイデアを育てていくのがベストなのかもしれません。
もしかしたらそれを出来るのが、このアイデア選手権なのかもしれないと思いました。
なんか凄いことになってきましたね・・!
最終審査 〜そのアイデアに、個性が見える〜
無事に2次審査も通り、いよいよ最終審査です。2次審査、最終審査の前に運営から発表すべき内容が示されるのですが、最終審査は2次審査よりもさらにボリュームが増えます。
しかし、発表時間は7分しかありません!(2次審査は5分)
全てを説明することは出来ず、取捨選択することになりますが、アイデア次第で強調すべきことは変わります。
私のアイデアの場合は、社会の課題解決に繋がるアイデアであることは誰の目にも明らかなので、その部分の説明は思い切って全て外しました。
その代わり、斬新なアイデアであるからこそ、それがちゃんと伝わらないと評価されないので、サービスの説明は丁寧に。
ここでもやはり、自分のアイデアの強みなどを客観的にどう捉えられているかが重要だと思いました。
最終審査は私含めて7人。アイデアももちろんですが、発表の仕方も含めて本当に全員個性的で素晴らしいものでした。この中の1人として発表できた事自体が本当に光栄です。
また、最終審査の審査員は社長や役員の皆様でしたが、落とすための審査ではなく「いかに具体的にビジネスにできるか」を1案1案、真剣に考えてくださって感動につぐ感動でした。
他の人の発表を聞いて、自分の目線では完璧だなと思っていても、経営者の目線で見るとまだ課題が見つかったり。こうした気づきを得られただけでも大変有意義でした。
まとめ
アイデアは自分の中で温めているうちは、それ以上発展がないこと、鍛えなければいけないし、その過程で多くの気づきや成長がある、ということを学べた3ヶ月間でした!
アイデアソンやハッカソンに参加したことのない方は、ぜひ飛び込んでみてください!