1 ローカルエリアネットワーク (Local Area Network)
1.1 概要
1.1.1 特徴
- ネットワークは一つの組織によって所有されている
- 地理的範囲とサイト数は限られている
1.1.2 主な機能
- リソース共有とデータ通信
1.1.3 利点
- 高価な外部デバイス、ホスト、ソフトウェア、データを簡単に共有できる。一つのサイトからネットワーク全体にアクセス可能
- システムの拡張と段階的な進化が容易で、デバイスの位置を柔軟に調整・変更可能
- システムの信頼性、可用性、使いやすさが向上
1.1.4 標準
IEEE(国際電気電子技術者協会)は1980年2月にローカルエリアネットワーク標準委員会(IEEE802委員会)を設立し、
ローカルエリアネットワークの標準化に専念し、IEEE802標準を制定しました。802標準で記述されたローカルエリアネットワークの参照モデルは、
OSI参照モデルのデータリンク層と物理層のみに対応しており、データリンク層を論理リンク層(LLCサブレイヤー)とメディアアクセス制御(MACサブレイヤー)に分割しています。
- LLCサブレイヤーは上位層へのサービス提供を担当
- MACサブレイヤーの主な機能は、データフレームのカプセル化/デカプセル化、フレームのアドレス指定と識別、フレームの送受信、リンク管理、フレームのエラー制御などです。MACサブレイヤーの存在により、異なる物理リンクの種類の差異が隠蔽されます。
IEEE 802シリーズ標準一覧
-
IEEE 802.1
ローカルエリアネットワーク(LAN)のアーキテクチャ、ネットワーク相互接続、ネットワーク管理およびパフォーマンステスト -
IEEE 802.2
論理リンク制御(LLC)副層の機能とサービス -
IEEE 802.3
衝突検出付きキャリアセンス多重アクセス(CSMA/CD)バス型メディアアクセス制御副層と物理層仕様 -
IEEE 802.4
トークンバス(Token Bus)メディアアクセス制御副層と物理層仕様 -
IEEE 802.5
トークンリング(Token Ring)メディアアクセス制御副層と物理層仕様 -
IEEE 802.6
メトロポリタンエリアネットワーク(MAN)メディアアクセス制御副層と物理層仕様 -
IEEE 802.7
ブロードバンドネットワーク技術 -
IEEE 802.8
光ファイバー伝送技術 -
IEEE 802.9
統合音声・データLAN(IVD LAN)技術 -
IEEE 802.10
相互運用可能なLANセキュリティ規格(SILS) -
IEEE 802.11
無線LAN(WLAN)技術 -
IEEE 802.12
優先度要求型アクセス制御方式(Demand Priority) -
IEEE 802.13
(未使用) -
IEEE 802.14
双方向ケーブルテレビネットワーク -
IEEE 802.15
無線パーソナルエリアネットワーク(WPAN)のMAC副層と物理層仕様(代表技術: Bluetooth(ブルートゥース)) -
IEEE 802.16
広帯域無線アクセスネットワーク(WiMAX) -
IEEE 802.20
モバイルブロードバンド無線アクセスシステム(MBWA) -
IEEE 802.22
無線地域ネットワーク(WRAN: Wireless Regional Area Networks)
1.2 ネットワーク機器
主要な構成機器とその役割:
-
ルーター (Router)
ネットワーク層でのパケット転送と異なるネットワーク間接続 -
スイッチ (Switch)
データリンク層でのフレーム転送、MACアドレスベースの転送処理
→ コリジョンドメインの分割による効率向上 -
ハブ (Hub)
物理層での信号増幅・リピート(ブロードキャスト転送)
※スイッチとの違い:全ポートへのパケット転送 -
リピーター (Repeater)
信号の再生・増幅による伝送距離延長(物理層デバイス) -
ケーブル類
UTP/STPケーブル、光ファイバーケーブル、同軸ケーブルなど
1.2.1 ネットワークケーブルとインターフェース
主要ケーブル種類
種類 | 構造特徴 | 用途例 |
---|---|---|
ツイストペア | 4対のより線(UTP/STP) RJ45コネクタ採用 |
イーサネット(Cat5e/Cat6/Cat7) |
同軸ケーブル | 中心導体+絶縁体+シールド層 BNCコネクタ採用(過去の標準) |
ケーブルTV/旧式LAN |
光ファイバー | ガラス/プラスチックコア+クラッド層 SC/LC/STコネクタ採用 |
長距離/高速通信(10Gbps~) |
主要インターフェース
RJ45:ツイストペア用8ピン端子(イーサネット標準)
SFP+/QSFP:光ファイバー用モジュール式インターフェース
BNC:同軸ケーブル用ロック式コネクタ(現在はほぼ不使用)
ツイストペア詳細比較
タイプ | シールド構造 | ノイズ耐性 | コスト | 主な適用環境 |
---|---|---|---|---|
UTP | 無し(Unshielded) | △ | 低 | 一般オフィス/家庭 |
STP | 全体シールド+ペア単位シールド | ◎ | 高 | 工場/医療機器周辺 |
1.2.1.1 ケーブル規格(CAT1~CAT8)詳細仕様
規格進化の系統図
詳細仕様比較表
分類 | 伝送帯域 | 最大速度 | 伝送距離 | 特徴 | 規格認証 | 現状 |
---|---|---|---|---|---|---|
CAT1 | 0.4MHz | 1Mbps | - | アナログ電話回線用(ツイストペア非採用) | 廃止 (1985以前) | 完全淘汰 |
CAT2 | 1MHz | 4Mbps | 100m | IBM Token Ringネットワーク用(Type1ケーブル) | IEEE 802.5 | 1990年代淘汰 |
CAT3 | 16MHz | 10Mbps | 100m | 初のイーサネット対応(10BASE-T) | TIA/EIA-568-B | 保守ネットワーク用 |
CAT4 | 20MHz | 16Mbps | 100m | Token Ring 16Mbps/100BASE-TX対応(UTP初採用) | IEEE 802.5 | 市場未普及 |
CAT5 | 100MHz | 100Mbps | 100m | Fast Ethernet標準化(カテゴリ初の周波数規格明示) | ANSI/TIA-568-A | 旧式設備用 |
CAT5e | 100MHz | 1Gbps | 100m | 近端漏話(NEXT)改善(Enhanced版) | TIA/EIA-568-B.2 | 現行主力(コスト優位) |
CAT6 | 250MHz | 10Gbps | 55m | クロススパイン構造導入(物理的分離) | ANSI/TIA-568-C.2 | 中規模ネットワーク |
CAT6A | 500MHz | 10Gbps | 100m | 外部漏話(AXT)対策強化(Augmented版) | ISO/IEC 11801 Ed.2.2 | 基幹ネットワーク |
CAT7 | 600MHz | 10Gbps | 100m | 完全シールド構造(S/FTP)GG45コネクタ | ISO/IEC 11801 Class F | 特殊産業用 |
CAT7A | 1000MHz | 40Gbps | 50m | 広帯域対応(Class FA規格) | IEC 61156-8 | 実験環境限定 |
CAT8 | 2000MHz | 40Gbps | 30m | データセンター向け(Class I/II規格) | ANSI/TIA-568-C.2-1 | クラウド基盤用 |
技術的特徴
-
シールド進化
UTP(CAT5eまで)→ FTP(CAT6)→ S/FTP(CAT7以降)とシールド構造が強化 -
コネクタ形状
RJ45(CAT6Aまで)→ TERA/GG45(CAT7以降)→ ARJ45(CAT8)と高周波対応 -
伝送方式
ベースバンド伝送(CAT5eまで)→ マルチキャリア変調(CAT6以降)へ移行
主要適用シナリオ
- CAT5e:SOHO/中小企業向けLAN配線
- CAT6A:PoE+/HDBaseT対応AVシステム
- CAT8:25GBASE-T/40GBASE-T対応サーバーラック間接続
規格選定ガイド
| ネットワーク要件 | 推奨規格 |
|---------------------------|--------------|
| 1Gbps オフィスLAN | CAT5e/CAT6 |
| 10Gbps 基幹ネットワーク | CAT6A |
| 40Gbps データセンター | CAT8(Class I)|
| 耐ノイズ環境 | CAT7A(S/FTP)|
1.2.1.2 ケーブル配線規格とピン配列
UTPケーブル構造解析
主要配線規格比較表
規格 | ピン番号順(左→右) | 主用途 | 現状 |
---|---|---|---|
T568A | 白緑/緑/白橙/青/白青/橙/白茶/茶 | 政府機関/軍事施設 | 国際規格 |
T568B | 白橙/橙/白緑/青/白青/緑/白茶/茶 | 企業ネットワーク/家庭用 | 世界標準 |
USOC8 | 白茶/緑/白橙/青/白青/橙/白緑/茶 | 旧式PBXシステム | ほぼ廃止 |
USOC6 | 未接続/白緑/白橙/青/白青/橙/緑/未接続 | アナログ電話(4芯使用) | 特殊用途 |
技術的ポイント
-
より線対の保持
ケーブル末端処理時はより線のツイスト長を13mm以下に保持(ANSI/TIA-568規格) -
シールド処理
STPケーブルでは金属シールド層をコネクタ筐体と接地接続必須 -
伝送モード
ピン番号 信号方向 1,2 TX+/- 3,6 RX+/- 4,5 電話用(PoE非対応時) 7,8 予備/POE供給
ケーブルタイプ別用途
| タイプ | 接続方法 | 使用例 |
|--------------|-----------------------|----------------------------|
| ストレート | 両端T568B | 端末-スイッチ接続 |
| クロス | 片端T568A/片端T568B | スイッチ間接続(旧式機器) |
| ロールオーバー| 全ピン逆接続 | コンソール接続(Cisco等) |
品質管理基準
-
インピーダンス
100Ω±15%(1-100MHz範囲) -
減衰量
CAT6A:24dB/100m(250MHz時) -
NEXT損失
CAT5e:30.1dB(100MHz時)
1.2.1.3 光ファイバとインターフェース
ツイストペア線ピン定義表(T568B規格)
ピン番号 | 信号タイプ | 10BASE-T | 100BASE-TX | 1000BASE-T | 線色ペア |
---|---|---|---|---|---|
1 | TX+ | 送信データ+ | 送信データ+ | BI_DA+ | 白橙 |
2 | TX- | 送信データ- | 送信データ- | BI_DA- | 橙 |
3 | RX+ | 受信データ+ | 受信データ+ | BI_DB+ | 白緑 |
4 | BI_D3+ | 未使用 | 未使用 | BI_DC+ | 青 |
5 | BI_D3- | 未使用 | 未使用 | BI_DC- | 白青 |
6 | RX- | 受信データ- | 受信データ- | BI_DB- | 緑 |
7 | BI_D4+ | 未使用 | 未使用 | BI_DD+ | 白茶 |
8 | BI_D4- | 未使用 | 未使用 | BI_DD- | 茶 |
ケーブルタイプ性能対応表
ケーブル種別 | 最大帯域幅 | 対応規格 | 線対使用 | 主用途 |
---|---|---|---|---|
Cat3 | 16MHz | 10BASE-T | 2対(1,2,3,6) | アナログ電話システム |
Cat5 | 100MHz | 100BASE-TX | 2対(1,2,3,6) | オフィスLAN配線 |
Cat5e | 100MHz | 1000BASE-T | 4対全二重 | ギガビットイーサネット |
Cat6 | 250MHz | 10GBASE-T(55m以内) | 4対全二重 | データセンター配線 |
光伝送規格分類図
光伝送方式比較表
規格名称 | 波長 | 使用ファイバ | 最大距離 | 主な用途 |
---|---|---|---|---|
1000BASE-SX | 850nm | マルチモード | 550m | データセンター内接続 |
1000BASE-LX/LH | 1310nm | シングルモード | 10km | 都市間ネットワーク接続 |
1000BASE-ZX | 1550nm | シングルモード | 70-120km | 広域ネットワークバックボーン |
光信号特性
| パラメータ | 1000BASE-SX | 1000BASE-LX | 1000BASE-ZX |
|------------------|-------------|-------------|-------------|
| 送信出力 | -9.5~-4 dBm | -13~-3 dBm | -5~0 dBm |
| 受信感度 | -17 dBm | -19 dBm | -24 dBm |
| 光損失許容範囲 | 3.0 dB | 4.5 dB | 10.0 dB |
実装上の注意点
-
コネクタ清掃
光コネクタは定期的に専用クリーナーで清掃必須(汚れによる損失増加を防止) -
曲率半径制限
ケーブル弯曲半径は外径の20倍以上を保持(例:外径3mmの場合60mm以上) -
波長分散補正
長距離伝送ではDCM(Dispersion Compensation Module)の使用が必要