はじめに
$\mathbb{R}^n$ の凸集合については基本的な性質をまとめた記事がいくつか見つかりますが、$\mathbb{R}^n$ のアフィン集合についてはあまりまとまった記事がないように思われます。そこで本記事では凸集合と類似する定義によりアフィン集合を定め、アフィン集合が閉集合であることや、$\mathbb{R}^n$ の線形部分空間を平行移動したものとして表されることなど基本的な性質を導いていきます。
定義一覧
定義(アフィン集合(affine set))
$S \subset \mathbb{R}^n$ がアフィン集合であるとは、
$$
\forall x, y \in S, \forall t \in \mathbb{R}, ~ tx + (1-t)y \in S
$$
が成り立つことをいう。
定義(アフィン結合(affine combination))
$x_1, \dots, x_m \in \mathbb{R}^n$ とする。$y \in \mathbb{R}^n$ が $x_1, \dots, x_m$ のアフィン結合であるとは、ある $\lambda_1,\dots, \lambda_m \in \mathbb{R}$ が存在して、
$$
y = \sum_{j = 1}^m \lambda_j x_j,~~ \sum_{j=1}^m \lambda_j = 1
$$
が成り立つことをいう。
定義(アフィン包(affine hull))
$X \subset \mathbb{R}^n$ に対して、
$$
\mathrm{aff}(X) := \bigcap \{ S \mid X \subset S \subset \mathbb{R}^n ~ \mathrm{かつ} ~ S ~ \mathrm{はアフィン集合} \}
$$
とおく。$\mathrm{aff}(X)$ を $X$ のアフィン包という。
注意
アフィン包の定義において $X$ を含むアフィン集合として $\mathbb{R}^n$ を取れるので $\mathrm{aff}(X)$ は well-defined です(集合として定まります)。
アフィン集合の基本性質
命題1
$\{ S_{\lambda} \}_{\lambda \in \Lambda}$ を $\mathbb{R}^n$ のアフィン集合の族とする。このとき、$\bigcap_{\lambda \in \Lambda} S_{\lambda}$ は $\mathbb{R}^n$ のアフィン集合となる。特にアフィン包はアフィン集合である。
証明
$x, y \in \bigcap_{\lambda \in \Lambda} S_{\lambda}$ とし、$a \in \mathbb{R}$ を任意に取る。このとき、任意の$ \lambda \in \Lambda$ に対して、$S_{\lambda}$ はアフィン集合であるので、
$$
a x + (1-a)y \in S_{\lambda}
$$
である、したがって、$a x + (1-a)y \in \bigcap_{\lambda \in \Lambda} S_{\lambda}$ である。よって、$\bigcap_{\lambda \in \Lambda} S_{\lambda}$ はアフィン集合である。後半は前半から明らか。
命題2
$S \subset \mathbb{R}^n$ がアフィン集合であることと、任意の $m \in \mathbb{N}$ と $x_1, \dots, x_m \in S$ についてそのアフィン結合が $S$ に含まれることは同値。
証明
任意の $m \in \mathbb{N}$ と $x_1, \dots, x_m \in S$ についてそのアフィン結合が $S$ に含まれるとすると、$m=2, x, y \in S, t \in \mathbb{R}$ に対して $ tx + (1-t) y \in S $ であるので $S$ はアフィン集合である。逆に $S$ をアフィン集合とする。$m$ に関する帰納法により上の性質が成り立つことを示そう。$m=1$ のとき、任意の$x \in S$ に対して $1 \cdot x = x \in S$ なので成立する。次に $m$ での成立を仮定し、任意の $x_1, \dots, x_{m+1} \in S$ と $a_1, \dots, a_{m+1} \in \mathbb{R}$ で $\sum_{j=1}^{m+1} a_j = 1$ なるものを取る。いま、ある $k$ について $a_k \neq 1$ であり、
$$
\sum_{j \neq k} \frac{a_j}{1-a_k} = \frac{1-a_k}{1-a_k} = 1
$$
であるので、
$$
\sum_{j \neq k} \frac{a_j}{1-a_k} x_j \in S
$$
となる。そして、$x_k \in S$ であるので $S$ がアフィン集合であることより
$$
\sum_{j=1}^{m+1} a_j x_j = a_k x_k + (1 - a_k) \sum_{j \neq k} \frac{a_j}{1-a_k} x_j \in S
$$
となる。よって、$m+1$ でも成立する。
命題3
空でない $X \subset \mathbb{R}^n$ に対して、
$$
\mathrm{aff}(X) = \left \{ \sum_{j=1}^m a_j x_j \mid m \in \mathbb{N}, a_j \in \mathbb{R}, x_j \in X, \sum_{j=1}^m a_j = 1 \right \}
$$
が成り立つ。
証明
右辺が $S$ を含むアフィン集合であることを示す。$S$ を含むことは明らか。次に $x, y$ を右辺の元とし、$t \in \mathbb{R}$ とする。このとき、
$$
\begin{align}
&x = \sum_{j=1}^m a_j x_j, ~~ \sum_{j=1}^m a_j = 1, \\
&y = \sum_{i=1}^l b_j y_j, ~~ \sum_{j=1}^l b_j = 1,
\end{align}
$$
と表される。
$$
\sum_{j=1}^m t a_j + \sum_{i=1}^l (1-t) b_j = t \sum_{j=1}^m a_j + (1-t) \sum_{j=1}^l b_j = t + (1-t) = 1
$$
であるので、
$$
t x + (1-t) y = \sum_{j=1}^m t a_j x_j + \sum_{i=1}^l (1-t)b_j y_j \in \mathrm{右辺}
$$
である。よって、右辺はアフィン集合である。このことから、$\mathrm{aff}(X) \subset \mathrm{右辺}$ が分かる。逆に、$X$ を含むアフィン集合 $S$ を任意に取ると、命題2より $X$ の元の任意のアフィン結合は $S$ に含まれる。よって、$\mathrm{aff}(X) \supset \mathrm{右辺}$ となる。
命題4
$0$ を含むアフィン集合は線形部分空間である。
証明
$S \subset \mathbb{R}^n$ を $0$ を含むアフィン集合とする。このとき、任意の $x \in S$ と $a \in \mathbb{R}$ に対して、
$$
ax = ax + (1-a) 0 \in S
$$
となるのでスカラー倍について $S$ は閉じている。このことから 任意の$x, y \in S$ に対して、
$$
x + y = 2 ( \frac{1}{2} x + \frac{1}{2} y) \in S
$$
となり、和についても $S$ は閉じている。よって、$S$ は線形部分空間である。
命題5
$0 \in S$ なる $S \subset \mathbb{R}^n$ について $\mathrm{aff}(S) = \mathrm{span}(S)$ となる。ここで、$\mathrm{span}(S)$ は $S$ の線形包($S$ を包む最小の $\mathbb{R}^n$ の線形部分空間)である。
証明
まず、$S \subset \mathrm{span}(S)$ であり、線形部分空間はアフィン集合でもあるので $\mathrm{aff}(S) \subset \mathrm{span}(S)$ となる。逆に命題4より $\mathrm{aff}(S)$ は線形部分空間であり、$S \subset \mathrm{aff}(S)$ であるので、$\mathrm{span}(S) \subset \mathrm{aff}(S)$ となる。以上から $\mathrm{aff}(S) = \mathrm{span}(S)$ である。
命題6
空でない $S \subset \mathbb{R}^n$ について以下は同値。
(1) $S$ はアフィン集合である。
(2) ある $x \in S$ と 線形部分空間$V \subset \mathbb{R}^n$ が存在して、$S = x + V$ となる。
証明
(1)⇒(2): $x \in S$ を任意に取り、$V = S - x = \{ y - x \mid y \in S \}$ とおく。明らかに $V$ は $0$ を含むアフィン集合であるので命題4より $V$ は線形部分空間である。そして、$S = x + V$ である。
(2)⇒(1): $y, z \in S$ とし $a \in \mathbb{R}$ とする。$y = x + v, z = x + w$ なる $v, w \in V$ が取れる。このとき、
$$
a y + (1-a)z = ax + av + (1-a)x + (1-a)w = x + (av + (1-a)w) \in x + V = S
$$
となる。
命題7
任意のアフィン集合は閉集合である。
証明
$S$ をアフィン集合とする。$S = \emptyset$ ならば $S$ は閉集合となるので $S \neq \emptyset$ とする。命題6により $x \in S$ と 線形部分空間 $V \subset \mathbb{R}^n$ により $S = x + V$ と表される。ノルム空間の有限次元部分空間は閉であるので $V$ は閉集合である。したがって、点列 $\{ z_n \}_{n \in \mathbb{N}} \subset S$ が $z \in \mathbb{R}^n$ に収束するとすると、点列 $\{ z_n - x \}_{n \in \mathbb{N}} \subset V$ は $z - x$ に収束し、$z-x \in V$、つまり、$z \in x + V = S$ が得られる。これは $S$ が閉であることを示す。
命題8
任意の $X \subset \mathbb{R}^n$ に対して、$\mathrm{aff}(X) = \mathrm{aff}(\mathrm{cl}(X))$ となる。
証明
$X = \emptyset$ のときは明らかに成り立つので $X \neq \emptyset$ とする。$X \subset \mathrm{cl}(X) \subset \mathrm{aff}(\mathrm{cl}(X))$ であり、$\mathrm{aff}(\mathrm{cl}(X))$ はアフィン集合であるので、$\mathrm{aff}(X) \subset \mathrm{aff}(\mathrm{cl}(X))$ となる。一方、$z \in \mathrm{aff}(\mathrm{cl}(X))$ とすると、命題3より、ある $m \in \mathbb{N}$ と $y_1, \dots, y_m \in \mathrm{cl}(X)$ および $a_1, \dots, a_m \in \mathbb{R}$ が存在して、
$$
z = \sum_{j=1}^m a_j y_j , \quad \sum_{j=1}^m a_j = 1
$$
となる。いま、各 $j$ について $y_j \in \mathrm{cl}(X)$ であるので、ある点列 $\{ x_j^{(k)} \}_{k \in \mathbb{N}} \subset X$ が存在して $ x_j^{(k)} \rightarrow y_j ~~ (k \rightarrow \infty)$ となる。各 $k$ について
$$
z_k = \sum_{j=1}^m a_j x_j^{(k)}
$$
とおくと再び命題3より $z_k \in \mathrm{aff}(X)$ であり、$z_k \rightarrow z ~~ (k \rightarrow \infty)$ となる。命題7より $\mathrm{aff}(X)$ は閉集合なので以上より $z \in \mathrm{aff}(X)$ を得る。