この記事は、万が一アドベントカレンダーに穴が生まれた時に備えて作っていた代原候補の記事です。せっかくなので公開します。
ちょうど先日さだまさしアドベントカレンダーに書かれていた「さだまさしの楽曲のコード遷移を整理してみた」という記事は音楽理論的にもよくまとまっていて素晴らしい記事だったと思います。
ちょうど私も、アドベントカレンダーに書くか書かないかは別として、さだまさしの楽曲のコード進行については個人的に調べていたので、ちょっと乗っかる形で記事を書きます。
もっと楽曲の対象を広げてみる
先の記事は良記事ですがいかんせん楽曲の母数が少なかったので、もう少し対象を広げる方法が無いかと思ったのですが、最近は Web サイト上にもギターのコード譜やコード進行が記載されているサイトが増えてきたので、こちらを活用します。
今回は、個人的にもよく使っているという意味で、「U-フレット」さんのデータを使ってみました。
さだまさし楽曲一覧
http://www.ufret.jp/search.php?key=%E3%81%95%E3%81%A0%E3%81%BE%E3%81%95%E3%81%97
71 曲ほど登録されているようです。
「関白宣言」や「北の国から」など、人気曲がそれなりに揃っているので良さそうですね。
コード情報を取得
このサイトは、HTML ソースを見るとわかりますが、ギターコードの TAB 譜が画像として表現されています。
例: G7 http://www.ufret.jp/chord_pc/g/g7.png
ですので、楽曲のページから、上記のようなコード譜の画像を出現順に取得していくと、楽曲のコード進行の情報が取得できます。
なお、U-フレット的に、 C1
のように 1
が付いているのは #
、B2
のように 2
が付いているのは ♭
を表すようです。
長調・短調の判定
ほんとはちゃんとやった方が良いのでしょうが、今回はゆとりな感じで、一番最初のコードがマイナースケールであれば「短調」、そうでなければ「長調」と判定するようにしています。
上記サイトの71曲のうち、以下の曲は短調と判定しました。以下に無く、U-フレットのサイトに載っている楽曲は長調と判定しています。
精霊流し
縁切寺
償い
檸檬
飛梅
まほろば
線香花火
たいせつなひと
天然色の化石
秋麗
安曇野
加速度
SUNDAY PARK
男は大きな河になれ
生生流転
舞姫
空蝉
多情仏心
転宅
一応、誤判定は無いように見えます。
normalize
「さだまさしの楽曲のコード遷移を整理してみた」でもやられていたように、長調 / 短調の楽曲のコードをそれぞれ C / Am ベースに調整します。
たとえば G Am D7 G
と進行する「北の国から」は長調なので C Dm G7 C
、短調の精霊流しは Dm Gm A7 Dm
を Am D#m F7 Am
という感じで変換します。
"c", "c#", "d", "d#", "e", "f", "f#", "g", "g#", "a", "a#", "b"
といった 12 音階のマップテーブルがあれば単純なプログラムで行えるので、サンプルは割愛。
simplize
真面目に音楽をやられている方に起こられそうですが、解析を単純化するためにセブンスコード ( G7とか ) やメジャーセブンス ( maj7 ) 、アドナインス ( add9 ) などの情報をそぎ落として、G
か Gm
だけに情報を単純化します。
実際、一般に売られている楽譜のギターコードは申し訳程度のものも多く、そこまで実際に弾かれているものと一致していないケースもあります。聴いただけでは解釈が難しいケースもあります。なので、細かいところは気にしないようにします。
以上で楽曲のコード進行情報をサイトから取得する前準備が整ったので、これから解析をしてみます。
頻出するコード進行
以前、歌詞の解析の際に単語の時系列に沿った出現パターンのうち頻度の高いものを抽出する例として N-gram
コーパスを作ってみましたが ( http://qiita.com/moaikids/items/1d8811320098e70ca98e )、それと同じような事をコード進行でも行ってみました。
一般的な流行曲は、4小節で一区切りになることが多いので、4-gram
のデータを中心に解析をしていきます。
さだまさしの曲によく登場するコード進行
長調
C
から始まるコード進行で、多く出現する順にならべてみました
"c dm g c": 183
"c f g c": 91
"c a dm g": 73
"c f c f": 61
"c f c g": 48
"c g c f": 44
"c dm c dm": 38
"c g f c": 36
"c g c dm": 36
"c g c d": 31
C Dm G C
というコード進行が圧倒的に出現数が多いです。
もう少し他の歌手とも比較をしなければいけませんが、今の時点で「さだまさしを代表するコード進行」と銘打っておきます。
というのも、個人的にギターを弾いている印象からすると、このコード進行はさだまさしの楽曲中によく出てきて、「鉄板」と呼べるコード進行になっている気がするからです。
なお、C Dm G C
というコードは、以下のリンクのような音になります。
(リンクをクリックした先の画面で、TAB 譜したの音符をクリックすると音がでます。音が出るのでご注意を。)
http://www.rittor-music.co.jp/app/shibanzukun/bloguitar/bloguitar.html?b=4&c=0xFFFFFF&m=d&x=b&s=1&p=on&v=25&n1=C&r1=5&f1=01023n&n2=Dm&r2=4&f2=1320nn&n3=G&r3=6&f3=300023&n4=C&r4=5&f4=01023n
実際の曲
C Dm G C
というコード進行が実際に使われている楽曲を見てみましょう。
北の国から
ギターのアルペジオのリフが印象的な曲ですね。
北の国からは基調が G
なので、実際のコード進行は G Am D7 G
となります。
親父の一番長い日
12分30秒もある、歌謡曲にしては例外的な長大作?です。
親父の一番長い日も、北の国からと同様に G Am D7 G
というギター進行で曲が進んでいきます。
案山子
原曲のキーは F
ですが、C
に直すとこの曲も C Dm G C
という進行が基調になっています。
雨やどり
**「自称:まさしチルドレン」**の「湘南乃風」の若旦那が大好きな曲としても有名ですね。
https://www.youtube.com/watch?v=hqgLqfvrI8I
原曲は D
ですが、この曲も C
に直すと C Dm G C
という進行になります。
他にも、「フレディもしくは三教街」「天までとどけ」「つゆのあとさき」などの曲も、同じようなコード進行の曲になります。
短調
同様に Am
から始まるコード進行のものを、多い順にならべてみました。
"am f am f": 61
"am dm g c": 45
"am g am g": 38
"am f g am": 33
"am f g c": 32
"am d1m f am": 28
"am f am d1m": 22
"am d1m g c1": 19
"am e am dm": 17
"am d f g": 17
「縁切寺」や「加速度」などで使われている Am F Am F
という進行は、実際のキーでは Em C Em C
と進む事が多いようです。
http://www.rittor-music.co.jp/app/shibanzukun/bloguitar/bloguitar.html?b=4&c=0xFFFFFF&m=d&x=b&s=1&p=on&v=25&n1=Em&r1=6&f1=000220&n2=C&r2=5&f2=01023n&n3=Em&r3=6&f3=000220&n4=C&r4=5&f4=01023n
この辺は、長調における G Am D G
にもおなじような事が言えますが、ギターにおいて開放弦でコードを抑えた場合、「手癖」的に進みやすいコード進行という感じがします。
また、さだまさしの歌は、C ~ ひとつ上のG
の範囲でメロディが遷移する曲が多い印象があり(今回は定量的には解析しきれませんでした)、 そういうさだまさしの声の音域などとの兼ね合いもあり G
や Em
の曲が多いのかもしれません。
他の人の曲も見てみる
今回作ったプログラムは他のアーティストにも横展開可能なので、いくつか他のミュージシャンの曲についても解析してみました。
スピッツ
202 曲あるようです。
さすが若者に人気のあるミュージシャンは違う...
http://www.ufret.jp/search.php?key=%E3%82%B9%E3%83%94%E3%83%83%E3%83%84
"c f c f": 279
"c g am f": 180
"c f g c": 180
"c g c g": 127
"c g f c": 103
"c g g1m f": 101
"c am f g": 99
"c a1 f c": 70
"c g f g": 66
"c g1m f g": 65
すくなくとも、さだまさしとはだいぶ傾向が違う事が伺えます。
なお、 C G Am F
は、「チェリー」のイントロのリフをイメージするとどういう音の進行か想像がしやすいと思います。
http://www.rittor-music.co.jp/app/shibanzukun/bloguitar/bloguitar.html?b=4&c=0xFFFFFF&m=d&x=b&s=1&p=on&v=25&n1=C&r1=5&f1=01023n&n2=G&r2=6&f2=300023&n3=Am&r3=5&f3=01220n&n4=F&r4=6&f4=112331
秦基博
昨年、ドラえもんの主題歌でブレイクしましたね。アコースティックギターの弾き語りスタイルという意味でさだまさしと類似性が多少はありそうなので、ピックアップしました。
楽曲は 81 曲掲載されています。
http://www.ufret.jp/search.php?key=%E7%A7%A6%E5%9F%BA%E5%8D%9A
"c f c f": 62
"c g f c": 52
"c d g c": 50
"c g c g": 43
"c f g g1m": 36
"c g g1m g": 25
"c g am em": 23
"c am g f": 22
"c g g1m f": 21
"c f g am": 20
これまた、さだまさしとはだいぶ傾向が異なりますね。
なお、C G F C
の進行は、「ひまわりの約束」の A メロのコード進行です。
(原曲はキーが A#
で、弾き語りではカポタストを装着して演奏しています)
http://www.rittor-music.co.jp/app/shibanzukun/bloguitar/bloguitar.html?b=4&c=0xFFFFFF&m=d&x=b&s=1&p=on&v=25&n1=C&r1=5&f1=01023n&n2=G&r2=6&f2=300023&n3=F&r3=6&f3=112331&n4=C&r4=5&f4=01023n
まとめにかえて
と、いった形で、各々のミュージシャンには、それぞれのキャラクターを裏付ける特徴的なコード進行がある、というのがおぼろげながら見えてきました。
そのうち、さだまさしを代表する特徴的なコード進行は C Dm G C
です。はい、覚えましたね。
実際、たとえばギターでこの3つのコード進行を覚えておくと、さだまさしの弾き語り(のふり)は行えるかも知れません。この3つはそれほど抑えるのが難しくないので、初心者にも安心です。
これからギターを学んで見ようと思っている方は、C
Dm
G
の抑え方を覚えて、そしてさだまさしの曲を弾いてみては、いかがでしょうか。
おまけ
さだまさしの曲のメロディは、昔バイオリンの英才教育を受けていたということも影響してか、単音旋律楽器奏者特有のなめらかなメロディ(チャラララチャララーみたいな。文字で表すの難しいですね)が特徴的です。
そのためもあり、
- メロディの飛躍がそれほど多くない
- 小節ごとに音が1音づつあがる、もしくは下がる
という傾向が他のミュージシャンのメロディより顕著に感じられます。
たとえば「北の国から」、たとえば「関白宣言」など。
さだまさし氏はこれらの曲の創作秘話をステージトークなどでよく語ったりしていますが、その内容が参考になるのでは無いかと思います。
メロディの分析まで踏み込めれば良いのですが、私では音楽理論的に力不足なので、他の方に託します。