はじめに
エンジニアリング現場での生産性や個人の成長を引き出すためには、「コーチング」という手法が非常に効果的です。
この記事では、コーチングの概念だけでなく、具体的な実践方法や課題解決のための応用例、さらにはコーチングをエンジニアリング現場で最大限活用するためのヒントを紹介します。
コーチングの本質とは？
1. ティーチングとの違い
ティーチングは、「解決方法を教える」ことが中心ですが、コーチングは「相手の中に既にある答えを引き出す」ことを目的とします。
例：
- ティーチング：「このエラーはこうすれば解決できるよ。」
- コーチング：「このエラーを解決するために、どのようなアプローチが考えられますか？」
この違いにより、コーチングは以下のようなメリットを生み出します：
- 自律的な問題解決能力の向上
- 新たな視点の発見
- 内発的動機（本人が動きたいと思う意欲）の引き出し
コーチングに必要な5つのスキル
-
アクティブリスニング（積極的傾聴）
- 相手が話す内容を深く聞き取り、言葉の裏にある意図や感情を汲み取ります。
- 技術的な議論だけでなく、相手のストレスやモチベーションにも目を向けます。
実践例：
- 「この機能を担当するのが不安だ」と言われた場合、単に解決策を提案するのではなく、「どの部分に不安を感じていますか？」と問いかけて深掘りします。
-
オープンクエスチョン
- 相手の思考を促す質問をします。
- 「なぜそう考えたのですか？」「他にどんな方法がありますか？」のように、答えを限定しない質問を心がけます。
-
エンパシー（共感）
- 相手の感情に寄り添い、理解を示すことで信頼関係を構築します。
- 「その気持ちはわかります」と共感しつつ、「次はどのように進めたいですか？」と建設的な方向に誘導します。
-
観察力
- 言葉以外の情報（表情や態度）を観察し、相手が本当に伝えたいことを読み取ります。
-
フィードバック
- 具体的かつ行動を促すフィードバックを行います。
- 「この部分は非常に良かったですね。次はこう改善するとさらに効果的です。」
コーチングのプロセスを深掘り
1. ゴール設定
コーチングはゴールを明確にすることから始まります。ゴールが曖昧な場合、SMARTフレームワークを使うと良いでしょう。
- Specific（具体的に）：何を達成したいのか？
- Measurable（測定可能）：どのように成果を測るのか？
- Achievable（達成可能）：現実的か？
- Relevant（関連性）：プロジェクトや個人の成長と関連しているか？
- Time-bound（期限あり）：いつまでに達成するのか？
例：
「新しいフレームワークを1か月以内に習得し、プロジェクトに導入する」という具体的な目標。
2. 状況の把握
現状の課題や問題点を整理し、目標達成に必要なステップを明らかにします。
質問例：
- 「今、何が最も困難だと感じていますか？」
- 「理想の状態と比べて、今はどれくらいの位置にいますか？」
3. 解決策の引き出し
直接的な解決策を提供するのではなく、相手が自ら考えるプロセスを支援します。
質問例：
- 「他にどのような選択肢がありますか？」
- 「リスクを考えると、どの方法が最も現実的だと思いますか？」
4. 実行とフォローアップ
行動計画を立て、進捗を追いながら改善をサポートします。
実践例：
- 定期的に1on1を実施し、目標達成の進捗を確認。
- 行動後に振り返りの場を設け、「何がうまくいったか」「次回はどう改善するか」を一緒に考えます。
現場での応用例：エンジニア向けケーススタディ
ケース1：モチベーションが低下したエンジニア
状況：
- メンバーAが「最近、やる気が出ない」と相談してきた。
アプローチ：
- 傾聴：「最近、何が原因でそう感じているのか、詳しく聞かせてください。」
- 質問：「どんな状態なら、もっと楽しく働けると思いますか？」
- フィードバック：「そのアイデア、素晴らしいですね。どう実現するか一緒に考えてみましょう。」
ケース2：新しい技術を導入したいが自信がない
状況：
- メンバーBが「新しいライブラリを試してみたいけど、失敗したらどうしよう」と悩んでいる。
アプローチ：
- 共感：「新しいことに挑戦するのは勇気がいりますよね。」
- 質問：「そのライブラリを導入することで、プロジェクトにどんなメリットがありますか？」
- フィードバック：「良い考えだと思います。まず小さな範囲で試してみるのはどうでしょう？」
コーチングの課題と対策
課題1：相手が答えを出さない場合
- 対策：質問の質を見直し、「もっと具体的に」「もっと広い視点で」などの方向性を調整します。
課題2：時間がかかる
- 対策：日々の1on1やデイリースタンドアップで短時間のコーチングを取り入れ、小さなステップで進めます。
まとめと次のステップ
コーチングは即効性のあるスキルではありませんが、エンジニア個人やチーム全体の成長を促進する強力な手段です。
今日から以下のステップを始めてみましょう：
- 次回の1on1で「質問」に重点を置いてみる。
- 小さな成功体験を積み重ねる。
- コーチングスキルを高めるために書籍やセミナーで学び続ける。
あなたも、エンジニアとして、マネージャーとして、コーチングの力を活用してみませんか？