WACATE '23 冬というテスト界隈の合宿イベントに参加しました! このイベントには、ポジションペーパー(ポジペ)1という「私はどういうことを考えてWACATEに今回参加するのか」を示したドキュメントを作成して提出しないと参加できません。この「ポジぺを書くこと」が参加者の熱量を引き出しやすい構造につながっているなぁと思いました。クリアするために一定のコミットを求め、それを乗り越えたひとたちだからこそ一段熱心さが高まりやすいわけで、合理的ですね。
朝は頭が回らない
一泊二日のイベント、その初日。会場に行き、自己紹介や諸注意を聞き、ポジペを使った自己紹介のセッションをやりました。最初に着いた卓で一周、次に別のチーム編成に組み替えられてそこでまた一周。チーム分けは実行委員によって事前に行われていたのでスムーズでした。
最初についたのは一番後ろの、入り口に程近い位置の卓のチームでした。就職活動を嫌というほど繰り返したこのぼく、自己紹介はお手のものです。しかも今回はポジペ付きですから、内容が迷走することもなくスムーズにおしゃべりをしました。今回のWACATEには何人も知っているひとがいましたが、この卓でもごあいさつができてよかったです。
さて、ぼくには集中すべきときに集中できなくなるという悪癖があります。このときの最初の自己紹介には、まさにこの悪癖が出ていまして、ぼんやりしていました。ポジペがあって、それを自己紹介に使えばよいからこそ、脳を使わずに会話ができていたのです。このときぼく自身は「もっとちゃんとやらないといけないが……頭が回らない」とか思っていました。朝に弱いのは困りものです。
席を移動しまして、後半の卓に移動しました。場所は部屋の一番前奥。そのチームが、この2日間のワークショップを一緒に行う仲間たちということになります。で、そのチームのところに行きまして、よっこいしょういちと座ったらですね、隣の方にこう声をかけられたのですよ。
「なんでいるんですか」
すん……っと音がしそうな冷たい目で放たれた、この冷徹なる一言で……完全にエンジンに灯が入りました。 100本のビズタイム冴えるブラック2もかくやの覚醒効果です。モチベーションの加速度を計測したら、もうちょっとで光速度に達していたでしょう。「シュタルクにフェルンが向ける冷たい目とそっけないセリフ! あれだああぁぁ!」3とひとりで悶え楽しんでいました。
うん。変なひとだと思われてもいけませんから、背景説明をしておきます。QA界隈で、ぼくはあまり「テスト」に軸を置いた立ち位置を取ってはいません。
- テスト
- 現場
- テキパキ手を動かす
よりも
- 品質
- 理屈
- ペラペラ口を動かす
というイメージの方が強いのです。
このとき、隣にいらした方のことは以前から存じていまして、ぼくの上記のイメージから「MarkがWACATEに参加しているイメージがなかった」のではないかと思います。ある意味で「イレギュラーな存在」だったのでしょう。
でも、WACATEというイベントがどういうものかを考えると、いろいろなタイプのひとが集まる方がいいのだろうなと思います。
ワークショップのカギは「協働」
WACATEという造語はWorkshops for Accelerating CApable Testing Engineers
のアクロニム(頭字語)です。話を聞くことを中心とする勉強会というよりも、手を動かし会話をして理解を深める場であり、その根幹を支えているのが有志で運営してくださっているWACATE実行委員の方たちが念入りに設計した各ワークショップなのです。ちなみにマイベストはQMファンネルを使った可視化を扱ったセッションでした。
こういう場ですから、同じ仕事をしていて同じ業務知識があるひとばかりでは、何かが創発されにくいであろうことは、想像に難くないでしょう。得意な業務ドメインもスキルもマインドセットも、ひとによって様々だからこそ、ワークショップという共通のお題を使っていろいろな考え方を相互に学び、また自分自身を顧みることにもつながるのです。実際にぼくは2日間を通して多くを学びましたし、自分の強み・弱みを再度考える機会になりました。
分科会のテーマオーナーを拝命
WACATEでは参加者から分科会のテーマオーナーを募集しています。分科会というのは、夕食のあと、任意参加で夜ワイワイおしゃべりをする時間にやるワークショップです。要は「あなたもワークショップを主催してみませんか?」ということで、やってみたいというひとへのチャンスが用意されています。すばらしいことだと思います。
ぼくは今回のWACATEに「明日の品質文化を醸成するために」という志で参加しましたが、その目的を果たすために分科会のテーマオーナーは渡りに舟を得たようなものでした。参加申込時に概要を書いたところ、やってくれと言っていただくことができました。
分科会のテーマオーナー向けに留意してほしいことが書かれたメモもあり、とても参考になりました。丸投げではなく細かいところのフォローをしてくださる実行委員の方たちの姿勢、とてもすばらしいです。
分科会のテーマオーナーをお引き受けするにあたり、本を2冊ほど読みました。
どちらも基本書ですが、前者がどちらかというと理論系、後者が実践系と思います。両方読んでおいてよかったと思います。ぼくは新しい分野のことを学ぶときに、不安なので基本書を2冊読みますが、今回もうまく当てはまりました。
ワークショップの主催は何度か経験があり、またMBAの講義はケーススタディといって、すべてケース(事例)を使ったワークショップのような形でしたから、ぼく自身馴染みはあります。ただ、WACATE実行委員がしっかりとワークショップを設計しているという話を以前ブロッコリーさんに聞いたので「下手なことはできぬな……」と少し勉強した次第です。
分科会では、ぼくは「明日の品質文化をつくる品質ナラティブ入門」というテーマで実施! とりあえずウイスキーを持ち込みました。WACATEでは夜の分科会でのみアルコールを飲んでよい、というルールになっております。「であれば!」と、ぼくが持ち込んだのは「キルホーマン サナイグ」というウイスキーです。ぼくの所属会社のウイスキーサークル公式飲料でもあります。4
大まかな流れは次の通りでした。
- 参加者の自己紹介
- ワーク1:「好きなものを語る」
- ワーク2:「品質ナラティブ入門」
当日の様子や、参加者の皆さんが何を受け取ってくださったかは、いくつかのブログに書かれているようです。こんなただの酒飲みが夜中に主催したことを覚えてくださって、皆さんには感謝しかありません。
主催した身としては、いくつも改善点があるなと思いました。
- 用意したスライドがいけてなかった
- 必ずしもやりやすいワークでなかった
- 自主性を強く(やや過剰に)打ち出した設計になっていた
- 2時間のうち移動したい方・途中参加したい方のことをまったく考慮せずに2時間拘束してしまった
- もっと飲んでもよかったが、司会とティーチングに時間を割きすぎた
しかし、多くの意見を出してくださった方や、他の方の発言をうまくつなげてくださる方、工夫を凝らして成果物を作ってくださった方など、協働を体現した、みんなで創ったワークショップでした。ぼくらの分科会が撤収時間に対して最も余裕あるタイミングで終えられたのがその証左です。
参加者の中にWACATE実行委員の方がいらっしゃって、様々なサポートをしていただきました。たいへん感謝しています。安心して取り組むことができました。
今後参加する皆さんもぜひ分科会のテーマオーナーにチャレンジしてみてください。得るものが大きいですよ。
ベストポジションペーパー賞
ポジションペーパーについては前述の通り、参加者が必ず作成して提出するドキュメントです。WACATEではポジションペーパーに3種類の賞があり、ぼくは参加者の皆さんの投票によりベストポジションペーパー賞をいただきました!
「明日の品質文化を醸成するために」と題したポジションペーパーは、デフォルトのフォントのまま装飾など微塵もない文章でした。たぶん、読みにくかったと思いますし、ぼく自身、優れたポジションペーパーが集まっている中で、そんなみっちり詰まった文章にちゃんと目を通してくださる方は数えるほどだろうと思っていました5。投票くださった方たちの書いたコメントを実行委員の方から貰いました。帰り道に読みましたが、投票くださった皆さんがしっかり読み込んだうえで高い評価をしてくださったのだなとわかり、寒空の下で心が温まりました。
イベントに何を求めるか。その軸が定まっていると、体験価値は大きくなるのだと思いました。ぼくは品質文化をつくることを旨とし、分科会でも品質文化の話をし、ワークショップでも文化の側面を交えて議論をしました。充実した2日間でした。
夏に「加速」を届ける
BPP賞の特典として、次回のWACATE無料ご招待というのがあります。もちろんそこでは1セッション登壇してね、という条件がついていますが、喜んで参加いたします。
「はてさて、なにを話そうか」と、この数日、そのことばかり考えています。この冬のBPP賞トロフィーのもたらす重さに思いを馳せつつ、今まさに加速を続けている思考と志を、次の夏に届けられたら……!