GLOBIS Advent Calendar 2024の24日目の記事です。
『LEADING QUALITY』翻訳者の河原田政典です。界隈ではMark Wardで通っています。
『LEADING QUALITY』発売から1年が経ちました
2023年11月13日発売でしたから、今日時点でもう1年1ヶ月11日が経っています。素敵なゾロ目ですね。
この記事では2024年がどんな年だったかをふりかえります。主に『LEADING QUALITY』の発売からどんなことがあったかを特にイベントとスライドという観点です。SpeakerDeckでは未公開になっているスライドのスクショも交えています。
年間たくさんのイベント登壇と進化
書籍の内容を元に登壇したイベントが、いくつもありました。ありがたいことです。
グロービスホールでパネルディスカッション
ぼくが所属している株式会社グロービスは全社会議などに使えるホールがあります。入社以来の悲願が、実はこの 「自社のホールでイベントを開催する」 ということでした。
当社の技術広報メンバーの惜しみない協力があって、2024年4月25日にLEADING QUALITYから紐解く、QAエンジニアのキャリア展開というイベントを開催できました。
このときのゲストスピーカーとしてSRE界隈から『LEADING QUALITY』の熱烈な読者であるもりはやさんをお迎えし、興味深いお話を伺えました。「あ、この話は責任ナラティブだ」など、品質の話をしているときに「どのナラティブに属する話をしているか」を気にすることで理解が深まるというのです。品質文化を可視化するための方策である品質ナラティブをいつも意識していれば、確かに肌感覚で品質文化を感じ取れるなぁと思いました。そういえばQAチームとしてSREとのつながりも社内からしっかりつくらなければ、という気づきもありました。
夏のデブサミに初参加
2024年の技術イベントで特筆したいのは夏のデブサミ(Developers Summit 2024 Summer)です。この大イベントに登壇できたことは大きな経験になりました。セッションに加えパネルディスカッションの機会もいただいて、2日間開催で2日とも登壇となりました。とても思い出深く、感謝でいっぱいです。
こちらで登壇したセッションはソフトウェア品質というビジネス課題への組織アプローチということで、タイトルに『LEADING QUALITY』とは入っていませんが、見る人が見ればわかる、という感じでした(あぁ、まぁ、Markならそういう方向の話をするよね……と思われた方がいらっしゃったかもしれません)。話したいことをたくさん詰めすぎたせいで、終始駆け足の登壇になり、そのせいで一部参加者の方にご迷惑をおかけしてしまいました。イベント終了後のアンケートでまっすぐなフィードバックをくださった方に感謝しています。その反省は冬のDevelopers CAREER Boost 2024に反映させました。少しは改善していればいいなぁと思います。
オープンソースカンファレンスちょっとだけ行脚
また、年間を通じて日本各地で開催されるオープンソースカンファレンス(OSC)での、ブース出展とセミナーをやらせていただきました。
- 2024年1月27日:オープンソースカンファレンス大阪
- 2024年5月25日:オープンソースカンファレンス名古屋
- 2024年7月27日:オープンソースカンファレンス京都
- 2024年10月12日:オープンソースカンファレンス長岡
- 2024年11月9日:オープンソースカンファレンス山口
数えてみると5回。決して多くはありませんが、意識的に東京以外の場所で参加するようにしました。長岡では、たまたまお話をした初対面の方と同じ趣味があるということで打ち解け、すっかり仲良くなりました。今度一緒にBarでウイスキーを味わいに行きます。また、山口では当社の業務委託QAエンジニアとしてフルリモートで仕事をしてくださっている方が当地在住なので、会いに行く機会にもなりました。OSC山口でぼくのセミナーを生で見ていただけましたが、社外で活動している姿をお見せできたことは密かなよろこびです。
OSCのブースとセミナー
ブース出展は「ソフトウェアテスト&品質のお悩み相談会」と銘打って、ただテーブルとイスがあるだけの空間を「ブース」と言い張ってきました。オープンソースカンファレンスにはテストの専門の方は他に参加されないので、文字通り門外漢なわけですが、幸いにして多くの方に関心を持っていただき、意見交換をすることができました。
セミナーでは「『LEADING QUALITY』から考えるソフトウェア品質とビジネス価値」という、これまたオープンソースらしからぬ講演をずっとやらせていただいてきました。これは最初に断っておいた方がいいなと思い始め、OSC長岡からはこんなページを最初に示すようにしました。
「非テック系登壇」をOSCでやらせていただけることに感謝です。本当に大事な話だとおっしゃってくださる方もいらして「やっててよかった」という思いと「続けていこう」という勇気がわいてきます。
登壇と思索とフィードバックを通じた進化
夏のデブサミやOSCで話したことは、時間の違いはありますが「だいたい同じ」テーマです。ですが、全く同じではなく、この2つのイベント以外にも様々な場で登壇の機会をいただいて思索とフィードバックを繰り返したことで、少しずつ進化していきました。ここでは進化したポイントを2つ紹介します。
品質文化醸成のサイクル
1つ目は品質文化醸成のサイクルです。
この図は、実は1月のオープンソースカンファレンス大阪では未完成でした。そのときのスライドがこちらです。
はじめは「品質の話をするときにテストや責任の話ばかりでなく、価値ナラティブにももっと注目しようぜ、」という主張に力点を置いていましたが、いつの頃からでしょうか、さらに進化しそうだと気がついて、2024年5月16日のNihonbashi Test Talkで初めて「品質文化醸成のサイクル」として発表したのでした。
見た目がごちゃごちゃしすぎてしまうのをどう整理したらいいか四苦八苦した結果が「グリーンのサイクルとピンクのサイクル」という表現です。
ゴールデン・サークル(Mark改)
2つ目がゴールデン・サークル(Mark改)です。
こちらは「品質とは何か」という説明が浅かったところに、グロービスのP^3 Quality (ピーキューブ・クオリティ)と、ログラス社の品質富士山を加えてみたところ、どうもこれらのモデルには共通点がありそうだと思って、検討していたものです。
「ゴールデン・サークル」自体はサイモン・シネック(Simon Sinek)がTED動画How great leaders inspire actionや書籍『WHYから始めよ!(原題Start with Why)』(日本経済新聞出版・新版2012・栗木さつき[訳])で語っているものです。Why・How・Whatの3段階で捉える思考フレームワークです。
2つの品質モデルを、拡張したゴールデン・サークルで捉えなおしてみたのが次のスライドです。
2024年12月24日現在、このページを含む資料は公開していません。ぼくがスライド公開を怠っているためです。本当にすみません。
先の通り、もともとのゴールデン・サークルはWhy・How・Whatの3段階です。しかし、ぼくが見聞きする限り、どうもHowというと、Whatの下の「やり方」を指すことも多いようでした。Why-What-Howという順番ですね。これでは、WhyとWhatの間のHow(本来のHow)が過小評価されているような気がします。本来のHowが意味する「方針・路線」が確認されていなければ、どんなWhatもWhyの意向に沿っていることが保証されないと思ったのです。
そこで「やり方」のHowは、How-to(ハウツー)としてWhatの下におくべきではないかと考えて、Why・How・What・How-toの4段階に拡張しました。セミナーでも「今日のおしゃべりで一つだけ選ぶなら、HowとHow-toの違いだけは持ち帰ってください」とお話をしています。これを「ゴールデン・サークル(Mark改)」としてお示しできたのは、たくさんの講演を通じて、ぼく自身の学びが深まったからだと思います。それが正しいかどうかはわかりませんが、少しはお役に立つのではないでしょうか。
ちなみに、How-toの下にWhoが追加されています。これは品質文化をつくる「ピープル品質」を指すのに適切な疑問詞がWhoだったためです。ぼくとしてはHowとHow-toの違いこそが譲れない重要なポイントであって、その下にはWho・Where・Whenなど、どんな疑問詞が来ても良いと思っています。何が重要かはコンテキスト次第、といったところでしょうか。
2025年はどうするか
2024年は寸分の狂いもなく『LEADING QUALITY』と共に駆け抜けた1年でした。出会いに恵まれましたし、講演機会もたくさんいただきました。あらためてたくさんの方に読んでいただいていることに感謝します。一人でも多くの方のお役に立てていればと思います。
さて、2025年、来年どうするかを考えています。どうしましょうね。
円安の影響と貯金の少なさを考えると、まだまだ海外カンファレンスには行けないでしょう、たぶん。一方で、30人規模のQAチームをリードしていく本業はもちろん、記事執筆・翻訳・講演・品質アドバイザーのお仕事をしっかり進めていきたいです。社外勉強会での登壇は細く長く継続することにし、オープンソースカンファレンス行脚は続けていこうと思っていますが、全体的に外に出る機会は減るかもしれません(いや、まぁ、増えるかもしれません)。スタートアップにも品質的・技術的な側面から関わっていきます。そうそう、グロービスの講師という道にも興味があって、そちらにもコミットしたいのです。
あれ、なんかもう、やることがたくさんあるな。なぜだ。
心身の調子を整えながら、人生を一歩ずつ懸けて駆けていけたら、と思っています。
では、皆さまどうぞよいお年を。