はじめに
量子力学は大学で物理を学び始めた人にとって憧れの学問だと思います。物理の中でも量子力学は本によって進め方が全く異なります。本の選び方を間違ってしまうと、挫折しかねません。
この記事では、量子力学を学び始めたい初学者向けに一冊目おすすめの書籍を紹介します。
本書籍ガイドの前提
まず量子力学の本の構成は主に二種類に分かれます。
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アプローチ1
一つ目が波動関数・シュレディンガー方程式からのアプローチです。このアプローチでは井戸型ポテンシャルなどのさまざまなポテンシャルのもとでシュレディンガー方程式を解いて波動関数を求めるということから始めていくスタイルです。多くの大学の講義はこのスタイルです。このアプローチで展開する代表的な本は猪木・川合の「量子力学I・II」などです。 -
アプローチ2
二つ目が、状態ケットという抽象的なベクトルを導入して、より数理的側面から展開していく方法です。エルミート演算子が物理量に対応して、ユニタリ演算子が物理操作に対応するなどの量子力学の公理的側面からスタートして線形代数などの数学を基礎に学んでいくことになります。このアプローチで展開する有名な本はJ.J.サクライの「現代の量子力学」などです。
この二つのアプローチはあくまで便宜的なものです。どちらも学ぶものの本質は同じです。学ぶ順番がことなるだけです。例えば、一つ目のアプローチではシュレディンガー方程式がすぐに登場しがち(以下で紹介する「猪木・川合」では初登場が2章)なのに対して、二つ目のアプローチではシュレディンガー方程式の登場は遅くなりがちです(以下で紹介する谷村さんの本では初登場が9章です)。
以下ではこの二つのアプローチに分けて1冊目としておすすめな本を紹介します。
アプローチ1
前提知識:微分方程式、大学レベルの微分積分
「量子力学I・II」(猪木・川合)
- 「猪木・川合」としばしば呼ばれる本です。この本は量子力学を学ぶのであればどのアプローチで勉強を始めるにせよ、絶対に買っておくべき本です。
- Iの前半を読めば、大学の半年分の講義の内容をマスターできます。
- 一冊目の後半から二冊目の前半にかけて角運動量と対称性や摂動論などの中級レベルの内容を網羅しています。
- 二冊目の中盤くらいまで読めば、物理学科の大学院入試の量子力学も難なく解けます。
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素晴らしいところ:
- 一冊目としておすすめできる平易なイントロから、上級レベルまでの圧倒的網羅性。
- チャートのような演習書風の構成になっています。問題を解きながら理解を深めることができます。
アプローチ2
前提知識:線形代数
「量子力学10講」(谷村省吾)
- アプローチ2の一冊目としておすすめできる本です。
- 抽象的で物理的イメージが湧かず苦労しがちなアプローチ2ですが、この本の第1講「量子力学の考え方」という章は本当に素晴らしい導入で、物理的イメージをしっかりと持たせてくれます。
- 私がもっともお気に入りなのはこの本のまえがきです。素晴らしい文章なのでいくつか引用します。
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本は買って読んだ方がよい。(中略) 一つの分野を理解しようと思ったら3冊くらいは本を読んだ方が良いと思う。
--- 引用元:谷村省吾『量子力学10講』まえがき(iii,iv)
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- まえがきだけで買う価値があります。
- 量子もつれなど「猪木・川合」にはないような内容もあります。
まとめ
この一冊目に買うべき本を二つのアプローチごとに紹介しました。一冊目にはおすすめできないが、量子力学を学ぶなら絶対に買っておくべき本はまだまだたくさんあります。J.J.サクライや、清水量子力学、堀田量子力学などなど。これらの本の魅力はまた別の記事で紹介したいと思います。